秘めた思い
ーー暗い部屋で一人、虚ろな目をして爪を噛む蓮。
「やはり聞くべきじゃなかった。あの男のことか...私なら全てを捧げられるのに」
そして導かれるように鼻歌混じりにひなたがシャワーバスタブにフラフラと近づいた。
そしてドアを外で聞き耳を立てる。
「楽しげな歌声ですね」
そう呟き 狂気じみた目で拳を強くにぎりしめた。
「あんな奴に取られるくらいなら、私にできることがある」
そう呟くと同時に、ドアの隙間からひなたの姿を覗き込み唾を飲む。
「無邪気な姿…でも、その無垢さが私を狂わせるんだ。奪い返すしかない、何をしてでも…」
「くそつ、どうしてこうなった(涙ぐみながら)私だけを見てくれ、他の誰かなんて捨ててしまえばいいのに!!」
「その歌声が憎い!私の気持ちに気づかないなんて…いや、気づいてるはずだ、わざと知らないふりをしている」
「その瞳は誰のために輝いているのか…私ならもっと幸せにできる。さあ、準備を始めなくちゃ……」
シャワーを終えたひなたがドライヤーで髪を乾かし始める
「あの男に触れる前に…私が先に全てを奪ってやる。もう後がない、行動に移さなきゃ」
そして、ドライヤーが止まる音がした。
「来た。いつものように振る舞わなきゃ。大丈夫、私なら上手くやれる、絶対に失敗しない」
服を着替え終えたひまりがバスルームのドアを開けると、そこには 薄暗い廊下で待ち構える蓮の姿があった。
「お風呂上がりですね。お茶でもいかがですか?」
「あら、蓮…まだ起きてたの?大丈夫?」
そういうと彼は優しく微笑んだ
「お嬢様こそ、こんな時間まで」
蓮がひなたにお茶を差し出す。
「どうぞ、リラックスしてください。私がいれば安心ですよね?」
そういう彼の目は鋭く光っていた
「う…うん、貴方はずっと私を今まで支えてくれていたものね」
そう言うと蓮は満足げに頷いた。
「当然です」
そして突然真剣な表情になり、ひなたに手を伸ばし始める。
「お嬢様、実はお話したいことが…………」
だが途中言いかけてその手を止めた。
「いや、また今度にしましょう」
「いえ、大したことじゃありません…少し疲れただけで…」
「そう?ゆっくり休んでね……あ、そうそう。明日彼を連れてきていいかしら?彼がうちに来たいっていってるの」
「......もちろん、構いません。歓迎の準備をしなくちゃいけませんね」
そういうと連の表情は凍りつき、不自然なほど明るい声でこういった。
「ありがとう、明日が楽しみだわ」
「よかったですね……楽しみといえば…私にも別の意味で楽しみができたってわけだ」
彼はまた独り言のように低く呟く
「ん?…違う意味?」
「いえ、なんでもありません。ただの独り言です」
彼は満面の笑みでそう答える。
「蓮…疲れてるわよね?ごめんね。私も寝るから、連も早く休んで?」
「わかりました。おやすみなさい、良い夢を…」
そして1人取り残された蓮は独り言のように呟く
「今夜は長い夜になりそうだ」