指輪
清掃の為と、ひなたの寝室に入った蓮は、あるものを見つける。
それは小さなダイヤがついた彼女が彼から貰ったと言っていた あの指輪が机の上に置かれていた。
「お嬢様。大切な指輪を……」
そして机の上に置かれた指輪を じっと見つめて手に取った。
「こんな小さな宝石ごときに……私の方がずっと相応しいのに」
憎しみを込めて指輪を握りしめ にやりと口角を釣り上げた。
ーーー18時頃…青ざめた顔でひなたが屋敷に帰ってきた。
ひなたが帰宅したのを気づき、素早く玄関に駆け寄る蓮。
「お帰りなさいませ、随分とお早いお帰りですね。何かあったのでしょうか?」
「指輪みなかった?どこかに忘れてきたみたいなの。」
青ざめるひなたが蓮に詰め寄る。
一瞬 蓮の表情が凍りついたがすぐに笑顔に戻った。
「指輪ですか…確か机の上に置いてあったはずです」
それを聞いたひなたは すぐに明るい顔色に戻り 自身の部屋にかけつけた。
「やっと気づいたか……愚か者め……」
部屋のドアが閉まる一瞬彼は冷たく呟やく。
ひなたの寝室に蓮がノックをし ドアノブを回す。
そしてどこか冷淡な声で呟いた。
「大切なものを置き忘れるなんて、お嬢様らしくありませんね」
「あはは……つい浮かれちゃってたな私……でも ホントにあって良かったー」
ひなたは苦笑いをしほっと胸を撫で下ろす。
そういうと蓮は指輪を見つめながら拳を握りしめ突然強い口調で呟いた。
「そうですね 。大切なものは手放さないでください。私も含めて」
「うん?蓮?」
その言葉に違和感を覚えて、蓮に聞き返す
「いえ、なんでもありません。お茶を淹れましょうか?」
すると彼はすぐいつもの笑顔に戻りこう言った。
「ええ、お茶入れて欲しいわ」
それに安心したひなたもそう答える。
優雅に茶器を用意する蓮。
「承知いたしました。今日のブレンドは特別です。お嬢様の好み通りに仕上げますから」
だがその目はどこか冷たいものだった
「いい香り……」
そんな彼の視線に気づかずに紅茶に口をつける。
「お口に合いましたか?お嬢様、もし指輪を失くしたら、どうなるかわかりますよね?」
すると今まで静かに見守っていた彼の口調が強くなりこんな事を言った。その声もどこか低く感じる。
「え……どうって……どういう事?」
ひなたは驚き目を丸くしてこう告げた。
そんな彼女に彼はどこか不気味な笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「冗談です。失礼いたしました」
「私おっちょこちょいだから……あはは。まさか家に置いてきちゃうなんで……でもこの指輪はもう絶対なくさない!」
私は決意を固めてそう告げた……が
「そう簡単に済ませられません!」
怒鳴りつけた彼が 睨みつけながらテーブルを軽く叩く
「私にとっては人生最大の過ちです。二度と同じ過ちは許されません」
その剣幕にひなたは驚きを隠せなかった。
「……え、あの……ごめんなさい。私何か気に触るようなことしちゃった?……」
そう告げるとまた彼は笑顔に戻り、深々と頭を下げた。
「いえ、何もございません。ただ、お嬢様の安全が第一ですから」
「そっか、嬉しいよ。いつも私の事考えてくれて……」(あまり彼の話をするのは控えた方がいいかしら……蓮も夜遅くまで執事の仕事で疲れてるのよね)
そんなやり取りをしている中、ひなたのスマホに彼からの着信が鳴る。
(あ、チャンスだ……。私が居ない間 蓮にも休息をしっかりとってもらおう)
「あ、ごめんね、急用みたい!ちょっとまた出かけてくるから!」
そう言い残し 急いで屋敷を後にした。
ーーしんと静まり返った部屋の中。
冷たい目で彼は独り言のように呟く。
「お気をつけて。遅くなりすぎないように。私以外の人間と過ごす時間は最小限に」