第6話
「それじゃあ、このビンに魔力を込める感じで……。」
ということで俺はセルス家にお邪魔していた。
今は約束していた魔力提供の最中だ。
「こうか?」
「そうそう。そんな感じであと3分ぐらい力を込めてもらって。」
これ結構きついな。
普通に力を込めるのだけでも疲れるのに魔力を体外に出しているせいでどんどん力が奪われていく気がする。
このあと俺の魔力の中に含まれている空間魔法の因子を取り出すらしい。
有効活用されることを祈ろう。
「よしできたぞ。」
「うん、完璧だ。 ありがとう。」
「礼なんかいらないさ。 それよりお父さんと会わせてくれよ。」
「わかった。 ちょっとまっててくれ。」
「親父〜、降りてこい。 例のガスト君が待ってる。」
「わかったわかった。 そんな大声出すなって。」
しばらくすると、ドタドタと足音が聞こえてライトの父親であり宮廷魔法使いのダグラス・セルスさんが2階から降りてきた。
「はじめまして、君がガストくんだね。 貴重な魔力を提供してもらって感謝するよ。」
ダグラスさんは細身で高身長だが、胸板が厚く、かなり鍛えられているのがわかる。
顔はメガネを掛けていていかにも学者さんといった感じだ。
「ええ。こちらこそ王国一の宮廷魔法使いのダグラスさんとお会いできて光栄です。」
「はは。 そんなに畏まらないでくれ。 それで、私と話したいこととは?」
「ずばり、特殊スキルの改造についてです。」
ダグラスさんの目が大きく見開かれた。
特殊スキルの改造というのは文字通り特殊スキルを変形、強化する技術のことだ。
原作の最後の方にでてきていたが、やり方は明記されておらず、原作知識だけでは再現できないので原作でこの技術を作ったダグラスさんに聞いてみたということだ。
「なぜ君がそれを?」
ダグラスさんの空気が一変した。
そりゃ極秘の研究内容を俺が知っていたら警戒もするわなぁ。
「ちょっとしたつて(原作)から情報を得まして。」
「私の研究は少数の人間しか知らないはずだが。」
ここで『大勢の人にばらすぞ』と脅すこともできるが、こちらとしても仲良くやっていきたいので協力してもらえるように頼む。
空間魔法も提供したし無下むげにされることはないだろう。
「どこからバレたかはお話することができないのですが、どうか一緒に研究させていただけないでしょうか?」
「……断る。と言ったら?」
「もちろん何もありませんよ。復讐などもってのほかです。」
「……君と一緒に研究することのメリットは?」
「空間魔法をいつでも提供させていただくのに加えて私のもっている知識であればいくらでも提供させていただきます。」
「君のもっている知識に私の役に立つものがあるのか?」
「例えば魔法の因子の構成についてとかなら教えられますけど。」
この情報は現時点でのダグラスさんならもっていないはずだ。
「なに!? ぜ、ぜひ教えてくれ。わかった。 一緒に研究させてもらうことにするよ。君とやると研究も捗りそうだ。」
やっぱりダグラスさんは目の色を変えて飛びついてきた。
心のなかでニヤリと笑う。
「ありがとうございます。交渉成立ですね。」
よしっ。うまく商談できたな。
それにしても因子の構成のことがそんなに重要だと思わなかったな。
全クリしたユーザーへのファンブック全部読んどいてよかったぁ。
因子核の周りを凝縮された魔力が覆っているという構造で、構造自体は単純なんだけど、凝縮された魔力が硬すぎてなかなか加工できないといった説明だったはずだ。
まさかこんなところで役に立つとは思わなかったけど。
「では、時間も時間ですしそろそろ帰らせていただきますね。 ライト君もまた学園で。」
「ああ、気を付けて。」
「お邪魔しました。」
ふう、緊張した〜。
態度には出さないようにしてたけどめちゃめちゃ緊張したな。
疲れた疲れた。さっさと寮に帰ってシャワーでも浴びて寝よっと。
「キャッ!」
ん?
今誰かの声が聞こえたような気が。
裏路地のほうか?
一応覗いてみるか。
っ!?
あれはクラスメイトのレイア・クラン!?
レイアは『剣と魔法のアルカナ』の第二ヒロインでキャラ人気投票でもかなりの票を集めていたキャラだ。
剣に優れていて適正魔法は剣舞。
とにかく剣を使っていればすべてのステータスが強化される魔法で、極めれば空間に穴を開けて俺の持つ空間魔法まがいの事もできるそうだ。
それにしてもなぜこんなところに?
複数の男に囲まれているようだが…。
どう見ても平穏な状況じゃないよな。
待てよ、よく考えたらこの状況、レイアと主人公との間に起こるイベントと似てるぞ。
というかそっくりそのまんまな気がする。
俺は原作を何周もしているから自然に覚えてしまったが、襲ってる男やレイアの格好とか周りの建物の色とか全部が一致している。
それがなぜ俺の前で行われているんだ?
疑問は残るが、とにかく俺は助けに入ることにした。