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推しが輝いて見えなくなった日

作者: 宮野ひの

 推しが、自分で自分のことを褒めた。


「僕は昔から困っている人を見過ごせないんですよ」


 にっこりと優しい笑みを浮かべた。さすがアイドルだ。


 トーク番組に出演した推しにスポットライトが当たり、最後の締めに自ら言った言葉だった。


 私も最初は「素敵」「かっこいい」と手を組んでうっとりとした。しかし、心に抱いた違和感は消せなかった。


 私の推しはミステリアスだ。趣味がマジックだということしかわからない。アイドルグループでも端っこの方にいる。


 目立たないものの、繊細な振る舞いと、切長の目に胸を射抜かれて、気づいたら推しになっていた。


 推しはSNSをしないタイプかと思いきや、事務所の方針でアカウントだけは作成されていた。しかし、個人的なつぶやきは一切投稿しなかった。ただただグループに関連したトピックを宣伝するだけで、私生活が見えないところも気に入っていた。


 推しがトーク番組に出演すると決まった日、嬉しさ反面、戸惑った。どんなことを話してくれるのだろう。とはいえ、録画準備はバッチリ。放送日を今か今かと待ち侘びた。


 当日。推しが一人で出演するのかと思いきや、隣の席には、同じグループのヤンチャ系のメンバーが座っていた。


 トークテーマは最近あった嬉しいこと。推しは、駅で辺りをキョロキョロしていた人に声をかけて感謝された話をした。そして最後に「僕は昔から困っている人を見過ごせないんですよ」と締めた。


 フォローを入れるようにヤンチャ系のメンバーが、「って、自分で言うなよ〜」と軽く流した。女性のお笑い芸人が、ワイプで顔を抜かれていて、乙女の表情を浮かべていた。


 良かったね。けど、あれ? なんか、ちょっと……。


 私の戸惑いをよそに、次はママタレントの一人にスポットライトが当たった。推しのトークは過去のものになる。


 推しが、自分のことを話してくれたのは嬉しかった。優しい人であることを知れたのも良かった。だけど、自分を良く言う時の表情は、ナルシストそのものだった。


 推しが好きなのはファンでも(いるかわからない)彼女でもなく、紛れもない自分なのではないか。


 こういう僕って優しいでしょ? 素敵でしょ? もっと僕を見てほしい。だけど、さり気なくアピールさせて、視聴者がそれに気づいてほしい。と。


 私は推しの気持ちを勝手に推測していた。


 いつもはアイドルとして素敵な姿を見せてくれるけど、ひょんなことから人間味が顔を出すことがある。誰だって嬉しいことがあれば喜ぶし、自信がない時ほど露骨にアピールもしたくなる。


 SNSで推しの名前を検索してみた。「トーク番組見れた! ビジュアル良」「もっと話聞きたかった〜」などと絶賛コメントが多かった。


 そんな大多数の意見を目にしたら、私が感じた違和感はさらに曖昧なものになった。煙の先のように、形として掴めない。同意見の人がいないことは、こんなにも心細い。


 その時、妹が階段から降りてきた。リビングでテレビを見ていた私に向かって、「ねぇちゃん聞いて。マナトくんにLINEで告られちゃったー」と嬉しそうに報告した。


「美羽はさー、ダイキくんが好きじゃーん? どうしたら良いと思う? このまま断ったら傷つけちゃうよねん」


 ニヤニヤした顔で妹は話を続けた。私ってすごいという気持ちが透けて見えてくる。


 あぁ、私は推しに自己愛を隠していて欲しかったんだなと気づいた。他人の自己愛は愛せない。


 私は「美羽、モテモテじゃーん」と明るい声で返した。このリアクションは正解だろうか。間違いだろうか。

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― 新着の感想 ―
自分が思っていた人と違う!ってちょっとがっかりですよね(;^_^A 主人公さんは見抜く力に長けてる感じですね。
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