蓮璋&果竪
お餅のお供といえば、小豆にきなこに醤油にお味噌。
けれど、ここではもう一つあった。
「からみ餅~~といえば大根~~」
果竪の大好物のからみ餅。
それをつくるべく、果竪は畑へと向かう――蓮璋を引き連れて。
「ふっ!この日の為に計算に計算を重ねて絶好の収穫時となるべく植えた大根でつくるからみ餅は最高よっ!」
勉強は残念ながらお得意ではなく、数学はその最たるもの。
宰相や茨戯にスパルタ教育を受けながらも一番最後のテストの点数は『45点』。
しかし、大根の収穫時期の計算だけは問題ナッシング。
緻密で綿密な計算の元、完璧な植え時期とそれにともなう収穫時期をはじき出した。
「蓮璋にも美味しいお餅食べさせてあけるからね」
「はぁ……」
そのお餅という単語がどうも大根に聞こえてならない。
とうとう耳までやばい事になってきたらしい。
そうして辿り着いた畑。
そこには、白くほっそりとした大根が収穫の時をいまかいまかと待ち構えていた。
「きゃぁぁん!もうバッチリじゃない!待ってて今抜いてあげるわっ!」
ボク達を受け止めてぇぇ、と言う声でも聞こえているかのように、馬鹿広い畑に大量に生えている大根を収穫にかかる果竪。呆然と立ち尽くせば、果竪からせかす声が聞こえた。
「蓮璋っ!収穫は時間との勝負なのよっ!」
一分一秒の差で味と鮮度が変わってしまうと叫ぶ果竪に、蓮璋は上官に追い立てられる部下の如く慌てて畑へと飛び込んだ。
茶色い土から現れる白い体躯。
その真珠の如き白き輝きはどんな闇の中でも輝きを失わない強さを見せる。
「流石だわ」
うっとりとした眼差しで見つめながら、その滑らかな身体をなで上げる。
なんだその嫌らしい手つきは。
大根とはプラトニックな恋愛じゃなかったのか?
まるで男をその気にさせるような妖しく淫らな手つきに蓮璋は思わず持っていた大根を折りかけた。
「こんな大降りな大根になってくれて……」
溢れんばかりに注いだ愛情に見合う大根となってくれている。
あまりの感激に思わず目頭を押えた。
「完璧だわ」
大根一つにここまで感激できる果竪はどんな農家の人でさえも叶わない。
まるで大切な子供を扱うような姿は、いつもは大根に否定的な気持ちを持つ蓮璋でさえ思わず動きを止めて見入ってしまうほど。
大切な大切な大根
愛しい我が子のように大切に収穫された大根は――
ジョリジョリジョリ
「果竪、実は大根嫌いでしょ」
「んなっ?!何を言うの蓮璋っ」
隣に山積みにした大根の一本を手に取りもの凄い速さで大根おろしをつくっていく果竪に蓮璋は冷静につっこんだ。
「蓮璋の言葉でも流石に聞き捨てならないわっ」
「だって普通愛してたらそんな酷い事しません」
普通の女性は愛する男性をおろしたりはしない。
というかやったら史上最大の事件である。
「ふっ!甘いわね蓮璋っ!大根は見てよし作ってよし飾って愛してよしっ!更には食べてもよしの超万能さんなのよっ」
更にの使い方が間違っている。
何で飾って愛するの後に食べるがくるんだ。
普通は食べるが一番先だろう。
「そんな大根は料理では脇役にも主役にもなれる、オールラウンドなみんなのアイドルっ」
「アイドルすり下ろすんですか」
「そうよっ!」
「目立たなくなりますね」
「そんな事ないわっ!」
果竪は力強く言った。
「愛しい大根はお餅と絡み合う事で新たなる食の世界を私達に提供するべく、自ら脇役となってくれようとしてるのよっ」
「ならザクザク切って横に添えときゃいいです」
「何を言うの?!大根おろしにした方がより餅と見事なコラボレーションを引き起こしてくれるじゃない!」
果竪は熱く語った。
大根と餅の見事なコラボレーションについて。
その二つが出会う事により、餅の見事な食感をさらにひきたて、餅の世界に新革命を引き起こしたのだと。
「そう、大根こそ全てなのよっ!」
おい、大根は脇役じゃなかったのか。
大根が主役になって餅の存在が否定されてるぞ。
だが、確かに果竪の作ったからみ餅は最高に美味しかった。
そしてそんな果竪の影響か、凪国ではからみ餅の売り上げが急上昇しているという――
次は、大根(女)&果竪です♪