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メモリーループ番外編 第一章 禁書はBL本

 そこに平伏するのは、王宮の大図書館で働く一部の司書達。

 そしてその前に、堂々と仁王立ちするのは。


「それで――どうして、(わたくし)が命じた通りに動かなかったのですか?」


 着衣はもちろんセクシーボンテージドレス。

 深い谷間も、白い大ぶりの白桃が作り出す山も。

 そして白く華奢な肩と艶めかしい太股も。

 それどころか、形良い美尻さえも。


 堂々とした露出っぷりの元に晒されている。

 といっても、モロだしではなく、寸での所でチラリズムを意識したそれは、四割隠して六割露出という素晴らしい比率だったりする。

 むしろ半分以上露出するというその神経の図太さが素晴らしい。


 更に、ほっそりとした足を包み込むガーターベルトとピンヒールが更なる刺激を煽る。


 もはやそこに居るのは凪国王宮侍女長ではない。

 至らぬ奴隷達に愛と言う名のお仕置きを与えてくれる女王様だ。


「うわあぁぁぁぁあっ!俺のお姫様があぁぁぁっ!」

「明燐ちゃん、とっても素敵よ」


 かたや実の兄。

 かたや、その兄の妻にて義姉たる少女。


 現実を今も受け止められない夫とは違い、明燐が義姉と慕う涼雪は朗らかに笑った。


 というか、こんな事は凪国が建国する前からの事ではないか。

 更に美しさに磨きがかかり、滴る様な色香は濃度を増してはいるが。


 基本的な部分は何も変わらない。


 そんな過激すぎる――到底外なんぞ歩けない衣装に身を包んだ凪国宰相の妹姫である明燐は、自分の前で土下座する者達へと鞭をくれた。


「お~ほほほほほほ!自分の愚かさに悶え苦しむが良いわ!」


 奴隷達からアァ~ンとかモットォォとかモットモットブッテクダサイ!!とか懇願の声が聞える。


「紫蘭が此処に居なくて良かったわね」

「あそこで寝なかったら強制的に寝かせてたよ、ボク」


 現在紫蘭は別の部屋でぐっすりと就寝中。

 もちろん、この部屋自体も外に音が漏れない造りとなっているが、念には念を入れなければ。


 あのぶっ飛んだ方の紫蘭ならまだしも、昔の、普通の、まともな紫蘭の方ならばこんな現実には耐えられない。


 いや、明燐の女王様っぷりは知っているかもしれないが、あの頃に比べて更に磨きがかかりすぎた。


 どうして、そうどうでも良い所を磨きまくったのかさっぱり分からない。


 ただただ、明燐の命を受けながらも紫蘭を送り届けなかった大図書館の司書達に哀れみの視線を向ける。

 いや、もしかしたらこんな視線すら彼らは快楽を覚えるかもしれない。


 そしてそんな部下達に、上の位に属する司書達は両手で顔を覆っていた。

 部下達の不手際を謝罪する為に来ただけなのに、来てみれば●●な光景を見させられる、この理不尽さ。


 たぶん今夜は悪夢だろう。

 興奮する?ないない。

 体が熱くなる?むしろ冷えるわ。


 確かに興奮したり熱くなる者もいるかもしれない。

 その夜は更なる熱い夜を過ごす者もいるかもしれない。


 しかし、茨戯と朱詩はおろか、そこに居た上層部は熱くなるどころか萎えた。


 一方、明燐は一通り奴隷達を打ち据えると、それはそれは清々しい笑顔を浮かべて鞭を仕舞い込む。

 もちろん、最初に胸元から出したそれは、再び深い胸の谷間へと消えていった。

 お前の胸はどうなっているのかとツッコみたい。


 けれど以前突っ込んだ果竪が「それなら自分の目で確かめてくださいな」と言われて強制的に胸に顔を埋められた挙げ句に泣きじゃくっていた事を思い出せば、断固拒否させてもらう。


 というか、女同士でもセクハラって成立するんだな。


 おかげで一時期、果竪は胸の大きな女性が苦手になった。

 男からすればなんたる贅沢な悩み――と思われるかもしれないが、基本的に朱詩達も「胸の大きい女性の方が良い」なんていうものはない。

 愛する相手の胸が大きいのならそれで良いし、小さくてもむしろ構わない。


 まあ――凪国上層部の女性陣の大半は、素晴らしく蠱惑的な曲線が描く肢体をしてはいるが。


「けど、君も本当に不幸だねぇ」

「そうね、きっと不憫の星の下に生まれてきたのね、アンタ」


 朱詩と茨戯の同情を一心に受けた相手は、壁に突っ伏していた。

 それは不幸にも、いや、ある目的を持って此処に来た可哀想な子羊。


 といっても、見た目は凛々しく静観な美男子だが、彼の心はもはや瀕死寸前の子羊そのものだった。


「こ、これは」

「うちの女王様の奴隷のお仕置き現場」

「うちの王宮ではごく日常」

「日常なのかよっ!」


 いつもは礼儀正しく言葉遣いも丁寧な雲仙から思わず飛び出た素の口調。

 そう――それだけ、雲仙を困惑させる出来事がそこでは繰り広げられていた。


「おかしいだろっ!あれっ」

「確かに常識で言えばおかしいけど」

「ってかアンタ知ってたんでしょう?海国大将軍側近の『左』を勤めてんだから。ってか、情報屋の頭なんだからこの位の情報は当然取ってると思ったんだけど」


 いや、取っていた。

 取っていたが、それでも実際に目にするのはしないのとでは大きな違いがある。


 炎水界に遍く美姫達。

 それも、男の娘ではなく、正真正銘女の美姫達。

 その中でも、明燐は泉国の王の妹――泉王王妹と並ぶ美女である。

 炎水界の五大美姫に入る美女である。

 もしかしたら、いや、三大美姫にすら入る。


 それは美貌だけでなく、教養の高さ、博識、聡明さとあらゆる面で判断される。

 いわば、美姫の中の美姫が、五大美姫に選ばれるのだ。


 そこに堂々と名を連ね、今も泉王王妹と共にその地位を守り続けている彼女が。

 明燐が。

 明燐姫が。


「お~ほほほほほほほほ!」


 女王様だなんて!!


「嘘だあぁぁぁぁぁあっ!」


 絶叫する雲仙に、朱詩と茨戯は顔を見合わせる。


「そうか……普通はここまで嘆くもんなんだね」

「そうね~、確かに普通はあり得ないもんね~、アタシ達には普通だけど」


 常識はあれど、長らくそれと接してた為か、彼らの明燐に対する常識は大いに歪んでいた事を思い知る。

 しかし思い知った所で今更。

 止める勇気もなければ、止められる自信もない。

 だから、諦める。


 ああ、諦めるってなんて素敵な言葉だろう。


 最後まで諦めるな

 絶対に諦めるな


 その言葉の大切さを、果竪を失う闘いで思い知った凪国上層部は明燐限定で「諦める」という言葉の大切さを熟知していたのだった。


「あ~けど明燐、ちょっと落ち着きなよ」

「まあこの私に口答えですの?その今まで何神の男達を銜え込んだか分からない、そして今も男を誘い続けるイヤらしい美尻に鞭が欲しいんですの?」

「ふふ、じゃあ今日は明燐を誘ってあげようかなぁ?ああ、もちろん、後ろじゃなくって前で可愛がってあげるけど」

「うふふふふ、ゴメン被りますわ、このイヤらしい尻振り雌犬風情が」

「あははははは」

「うふふふふふ」


 始まった大乱闘に、雲仙は再び絶叫した。


「ちょっ!朱詩様と明燐姫様がっ」

「ああ、気にしないでいいから。それと様いらないから」

「いつもの事だしねぇ」

「気にするだけ無駄だよ」

「え?本気の殺し合い?ああ、あれただドツキあって、違うか。イチャ――これも違う。なんていうか、ちょっとした交流を深めているだけだから。ほら、友達同士がわ~ってドツキあうあれだよ」

「尻振り雌犬風情は言い過ぎだろ?大丈夫。もっと凄い事を普段言い合ってるし。それに、他の奴に言われたら殺すけど、言ってるの明燐だし。え?誰が言ったら殺すって?そりゃあもちろん、俺達を拉致監禁した挙げ句に女として扱ってきた変態達だけど」


 ――と、全く無問題と言い切る、ここに居る一部の上層部(男の娘)連中は雲仙の危惧も心配もからからと笑って右から左に受け流してくれた。


「というか、一々反応してたら疲れるわよ」


 茨戯の言葉に、男の娘達は全員が頷いた。

 それで良いのかと思うものの、ツッコむ勇気は雲仙には無かった。


「まあアンタには――確かに色々と衝撃的過ぎたわね」


 ふっと小さな笑みを一つ。

 濡れた赤い唇を緩め笑う茨戯に雲仙が魅入られた時だった。


「そんな知り過ぎに死を」


 ドンッと床に叩き付けられたかと思うと、その頭を茨戯に踏みつけられる。


「ぐっ」

「アンタも運がないわね?気づいても、気づかないふりをしていれば良かったのに。いいえ、ここに来なければ良かったのに。なのに馬鹿正直に来て、そして聞いてしまった」


 茨戯の言葉の意味を正確に取った雲仙は、頭を圧迫されながらも言葉を絞り出した。


「あ、あの、舞手、は」

「そうよ。聞いたでしょう?」


 宮に忍び込んだ雲仙がそっと扉に耳を宛てた。

 そして、聞えてきた声。

 耳にした、内容。


「紫蘭に、王妃としての記憶がある。いえ、正確にはあの忌まわしき記憶がない。それを外部の者に知られるわけには行かないの」


 ニコリと艶やかに微笑み、ギリギリと雲仙の頭を踏みつけていく。

 本気で自分の頭を踏みつぶそうとしているのだと気づくが、その殺気に体が動かない。


 手足は自由だ。

 なのに、術一つすら上手く繰れない。

 この圧倒的な威圧感を持つ存在の前に、雲仙は指一本すら動かせない。


 他の上層部は何も言わない。

 ただどこまでも冷たい瞳が、雲仙へと向けられている。

 時折、クスクスという笑い声が聞えてきた。


 しかしそれも、頭を踏みつけられる痛みの前にどうでも良くなる。


 痛い、痛い、痛い――。


 息苦しさに喘ぐ。


 けれど、同時にどこか恍惚感も感じていた。


 それは決して苛められるのが好きとかではなく。

 自分を殺すのが、あの茨戯だという事だ。


 そう――影達の属するその手の世界では、茨戯の名を知らぬ者は居ない。

 いや、正確には凪王直属の影――『海影』の名を知らぬ者達が居ないのだ。


 中でも海影の長は、伝説の存在として影や裏の仕事を受け持つ者達に刻まれており、その名を聞くだけで震え上がる者達も多い。


 それは雲仙も同じだった。

 震え上がる。

 その能力の高さに。

 その影としての完璧さに。


 茨戯が行なう仕事は完璧だった。

 いっその事、ある種の美しささえ感じた。


 雲仙にとって茨戯は憧れだった。

 いや、憧れだなんて言葉では言い尽くせない。


 そう、心酔。

 敬愛を通り越し、心酔を覚えている。


 もちろん、そんな事は口には出さないし、悟らせもしない。

 しかし、凪国の国王が水の列強十ヵ国の『王』ならば、茨戯は水の列強十ヵ国の、いや、炎水界にある各国の影達の『王』である。


 彼にならば殺されても良いと望む者達は多い。


 そう、殺されても構わない。

 いや、むしろその牙にかかって死にたい。


 雲仙の中に暗く歪んだ願いがあふれ出す。


 そんな雲仙を我に返らせたのは、茨戯の蹴りだった。


「がはっ!」


 壁に蹴りつけられ、そのまま床に崩れ落ちる。


「ナニ呆けてんのかしら?このクズ」

「……」

「もう一度言うからきちんと聞くのよ?そう、外部に知られると困るのよ。それこそ、口封じしないといけないぐらい。ただし、その場合は面倒だから紅藍姫と藍英も殺っちゃうかもしれないわねぇ」

「……な、なんで」


 ギョッと目を見開く雲仙に、茨戯は気づかれないように息を吐く。


「でも、外部じゃなければいいのよ。そう、最近また神手不足なのよね~。ふふ、馬車馬のように働いてくれる馬が欲しかったの」


 そうして、茨戯は冷酷な眼差しで雲仙を見下ろす。


「取り込まれる?それとも」


 王者の眼差し。

 悪魔の様な囁き。

 傾国の美姫の誘惑。


 雲仙に抗う術はなかった。


 一瞬、全ての立場を忘れて頷いた雲仙が我に返った時には、その契約は成されていた。


「ふふ、じゃあこれでアンタはアタシの下僕。もちろん、期間限定のだけど」


 むしろ永遠の下僕にして下さい――という言葉が口を突いて出かけたが、声にする事は出来なかった。


 と、それまで冷え冷えとしていた空気が、少しだけ和らいだ。


「で、どうすんの?馬車馬のように働かせる相手がこんなボロボロだとすぐ潰れるよ?」


 朱詩の楽しそうな声に、茨戯はフッと蠱惑的な笑みを一つ零す。

 それに魅入られた雲仙は、次の瞬間自分の体が温かな風に包まれるのを感じた。


 あっ――そう言葉にした時には、痛めつけられた体から痛みが全て消えていた。


「い、茨戯、様?」


 それは治癒の術の一つだ。

 それを発動の瞬間さえ感じさせず、あっという間に雲仙の体を治療してしまった。

 恐ろしい程の神力である。

 そして、術の完成度であった。


「という事で、明燐」

「何ですの?」


 優雅な立ち姿でこちらを見る明燐に、雲仙は気づいた。


 そういえば、先程朱詩と明燐は取っ組み合いの大げんかをしていた。

 にも関わらず、いつの間にか何事もなかったようにそこに在る二神。


 切り替えの速さ?

 いや、それとも。


「とりあえずお仕置きも済んだんでしょうから、そろそろ次の工程に移ったら?」

「あら!まだお仕置きは――はいはい、分かりましたわ。全く茨戯ったらお仕置きの美も分からぬオカマなのだから」

「オカマは関係ないと思うけど」

「女の姿をしているくせに、女心も分からぬ愚物と言いたいだけですわ」

「……本当に可愛くないわね」

「可愛くなくて結構ですわ。ふふ、私達上層部の女性陣で可愛いのは、涼雪ぐらいじゃないかしら?」


 と、その言葉にやはりこの場に居て事の成り行きを見守っていた医務室長が声を上げる。


 すなわち、自分の愛する百合亜も可愛いと。


 しかし――。


「百合亜は可愛いではなく綺麗なのです」

「綺麗だけど可愛いもあるよ!!ってか百合亜か世界一可愛い!涼雪はその次っ!で、明燐は全く可愛くないけどね」

「まあ素敵な褒め言葉。むしろ可愛いと言われたら虫ずが走りましてよ?それで果竪は何番目に可愛いのかしら?」

「あれは別格。ってか一緒にすんな」


 果竪が可愛いのはデフォルト、むしろ今更可愛いもなにもないのだと喚く医務室長にうんうんと頷く上層部。


 愛されてるな、凪国王妃様。

 でも過去に仕入れた情報では、そんな上層部の重たすぎる愛に疲れ果てていたという情報もあった。


 確かに重たい。


「果竪はね~可愛いんだよ、すっごく」


 あの医務室長が頬を赤らめている。

 ってか、それは愛しい男相手にする表情だろう。


「何処が可愛いかって言うと、もうそれは一日二日では語り尽くせないんだけど」


 ああ、重たいという意味が分かった、うん。


 むしろ圧死する。


「でも果竪ってば良く逃げ回ってさぁ!もうもう、このボクがこんなに果竪を大切にしてるのに」

「修羅の事がイヤだからだろ?ボクならそんな風に逃げられた事ないし」

「あ?お前ケンカ売ってんの?」

「それは君の方だろう?ってか、死ね、今すぐクタバッテ」


 第二の乱闘開始寸前。

 しかし二神揃って茨戯に殴られていた。


「話が進まないから黙ってなさいこのガキドモ!」


 ガキと言うが、どちらも二十歳を、とっくに成神してるし。


「で、なんだって明燐の命令に従わなかったの?」


 どうやら茨戯が場を進めていくらしい。


「そ、それは」


 明燐のお仕置きに恍惚となっていた者達の一神が、茨戯の視線を受けて我に返る。

 そして恐る恐る口にしたその内容に、雲仙は魂が飛びかけた。



 その後凄まじい勢いで大図書館に辿り着いた、一同。



 時間も時間だったから、そこは既に閉館になっていた。

 いや、実際には二十四時間開いているのだが年末という事で閉まっていた。

 が、すぐさま命じて扉を開けさせて中に入った彼らは問題の一画に辿り着いて一言。


「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁああっ!」


 確か。

 そこは。

 普通の一般書物があった筈。

 確かに物語系とかそういうのだった。


 しかしそこは今、天井から床まで全て『ぼ~いずらぶ同神誌』置き場に変わっていた。

 びっしりと、本棚の数にしておよそ十個分。


 確かに――今までにも同神誌は置かれていた事はあった。

 そして、禁止しているのに置きやがった事もあった。


 そして完全に禁止出来なければ、せめて置く場所を限定して、神目に付かない場所にした。


 にも関わらず、完全に神目に付く場所に、しかも前よりも大量に置かれている同神誌。

 しかもそれだけではなく、ぼ~いずらぶ市場では有名なBL小説、BL漫画、BLのDVDその他諸々がそこに鎮座していた。

 しかもBLなDVD置き場は更に本棚で三つ分は軽くある。


「いつの間にこうなったぁぁ!」

「え、えっと、それが監視カメラのビデオを見たら、紫蘭様がここでナニかゴソゴソしてたのが映ってて」

「いつよ!」

「一週間ほど前ですが」

「一週間も気づかなかったのかテメェら!」


 明睡の怒声に、職員達が恐怖に戦く。

 確かに職務怠慢だが、紫蘭を知る者達からすればむしろ一週間で気づいた方が優秀だと思う。


 しかし、こうも目に付く場所を勝手にぼ~いずらぶエリアにされるのは絶対に許容出来ない。


 因みにあの時、命を受けた司書達が紫蘭を追い掛けられなかったのは、よりにもよってこんな風に勝手に本棚の中身を変えられているのをあの時に発見してワタワタしていたからである。

 ただし驚きなのは、実はその時見付けたぼ~いずらぶエリアは別の場所であり、他にもこういうエリアがあちこちに作られていたという。


 そしてここは、彼らが苦労の末に元に戻した中で、まだ戻し切れていなかった最後のエリアだとか。


 うん、確かに紫蘭を追い掛けるどころの話ではない。


「あいつはこの大図書館を一体どうしたいんだ!」

「炎水界一のぼ~いずらぶ大図書館として発展させ、多くの腐女子達の聖地にしたいと常々」

「なんでお前がんな事知ってんだよ!」


 そこで「実は私もぼ~いずらぶを」、とそっと同神誌を懐から取り出した大図書館の副司書長に夫の大図書館長が泣いた。

 なぜなら、妻が取り出したその同神誌での『受け』が自分だったから。

 しかも、若い姿で描かれている。


「私としては、是非とも夫とこのカップリングを」

「やめて、やめるのじゃあぁぁぁ!ワシを穢すなあぁぁぁっ」


 紫蘭の影響でぼ~いずらぶに目覚めてしまった副司書長。

 でも、それは何も紫蘭だけのせいではない。


 老いた姿をしてもなお、その絶世の男の娘姿を軽く想像出来るその美貌が悪いのだ。

 そしてそれがイヤだから、たいてい成神後は若い姿で留まる神でありながら、わざと外見年齢を進めたのだ。


 とはいえ、今も美老神として襲われている大図書館長。


 無駄だから、若い姿に戻れば良いとも思う。


 因みに、年は進めることも出来るが、若返る事も出来るのが神だった。


「つぅ~か、自分の夫が攻められてる同神誌を大切そうに持ってるものなのか?」

「お話だから大丈夫です。現実にされたら赦しませんが」


 にっこりと微笑む副司書長に、それまで床に突っ伏していた夫が顔を上げる。


「妻?」

「だって、夫は私だけのものですから」


 妻もまた、夫に会わせて老女の姿になっていた。

 しかしその瞬間、夫は二十代の若返った姿になり――。


「愛してるぞお前えぇぇぇ!」


 自分だけでなく、妻も強制的に十代に若返らせて押し倒す大図書館長。

 いや、この歩く公共猥褻物。


「ってか、今はそれよりもする事があるだろ?あぁ?」


 大図書館長を足蹴にする明睡に他の上層部は溜め息をつく。


「も、申し訳ない。ワシの職務怠慢じゃ」

「怠慢で済むと思うのか?てめぇ」

「明睡様、夫も決して仕事をさぼっていたわけじゃ」

「甘いな副司書長!どうせこいつの事だから、仕事と称してお前ウォッチングでもしてたんだろ!この妻大好き男め!」


 ぐりぐりと踏んづけられる大図書館長から、「ぁん」とか「あぁんっ」とか呻き声が聞える。

 それがとっても色っぽくて下半身が疼きかけるが。


 今あげる様な声ではないな。


 とりあえず一緒に此処まで来た雲仙は思った。

 というか、ぼ~いずらぶの書物がぎっしり詰まった本棚って。


 実は雲仙も現在の紫蘭のぼ~いずらぶ好きっぷりは知っていた。

 むしろ『腐女帝』と呼ばれている事も。

 知りたくはないが、知ってしまっていた。

 でもあえて知らなかった事にしていた。


 関わると面倒な事になると本能が警告していたから。


 眼力だけで凪国上層部の服を自ら脱がせかけようとした事も。


『そんな脱ぎ方があるかぁぁ!』


 と、眼力に負けて脱ぎかけた上層部や元寵姫組の服を掴み破り捨てた事も知っている。

 何でも、服の脱ぎ方が色っぽく過ぎて――それも女性としての脱ぎ方だったのがお気に召さなかったらしい。


 そして見事に服を破り捨てられたウン十神。

 騒ぎを聞き付けてやってきた他の上層部と元寵姫組がその場を目にした時には、破り捨てられた服が散乱する中で、しくしくと泣きながら眩しい白い裸体を晒す男の娘達と、服の脱ぎ方について講義する紫蘭の姿があったとか。


 なんて恐ろしい腐女子、いや、もはや痴女だろ!!


 と、弟の阿蘭と共に、いや、海国の上層部男性陣と共に震え上がった思い出がある。


『むしろ男なら自ら脱ぎ捨てる気概を見せるべきです!』


 そんな風に眼力と共に言い放った紫蘭に逆らえなくて。


『筋肉が服を破り捨てるぐらいの筋力がなくてどうするんです!』


 かなり現実から程遠い要求をされ。


『そんな脱ぎ方をしているようでは、真の露出狂とは言えませんね』


 と、気づけば変態の道に進ませられかけていたその時の被害者達。


『貴方達が悩殺するのは男の娘好きの男達じゃない!普通の男性が好きな女の子を、いえ、妻を魅了するんです!全てを受け入れ男の娘でも良いと言ってくれる妻に、自らの男という新たな一面を、隠された真の男を見せつけなくてどうするんです!!』


 そんな色々と間違った応援に。

 なぜだか奮起したらしい――その時の被害者達は。


 でも、やっぱり脱ぎ方は、女性すら足下に及ばない間違った方面での魅力度百二十パーセントだったらしいが。


「ん?」


 ふと雲仙の視界が、一冊の本を捉えた。

 何かが気になってそれを手にした雲仙は。


 バタン


「うわっ!雲仙倒れたぞ!」

「げっ!それは海王+海国宰相×雲仙+阿蘭の本だろ!しかも、めっちゃハードコアのっ!」


 それもイヤンな変態趣味全開な本。

 ありとあらゆる物を使用して責められるそれに、雲仙は中身を見ただけで気絶した。

 せめて小説だったなら良かった。

 でも実は漫画で、しかも絵師が超プロ級だったから不幸だった。


 それはそれは美麗な画力で書かれた絵は、一瞬にして雲仙の脳裏にそれを認識させ、そして海国の猛者を倒したのだった。


オマケの小話【バレンタインデー】期間限定 2/14~2/15



「もちろんバレンタインデーの贈り物は男の娘が披露する裸リボンでしょう!!」


 黙れこの18禁指定物。

 歩く公共猥褻ブツ。


 その場に居た上層部と元寵姫組は、胸を張って裸リボンを勧めてくる紫蘭を全力で罵った――心の中だけで。


「きっと恋神や奥方も絶叫してくれます!」


 そうだろう。

 変態と罵られて終わるに違いない。

 それどころか離婚を求められたらどうしてくれる。


 いや、そもそもだ。


 裸リボン?

 男の裸にリボンを巻いて何が楽しいんだ。


 ただし、男の娘愛好家――というか、彼らを常に付け狙う者達からすれば、むしろそれはご褒美以外の何物でもないだろう。


 いや、リボンすら必要ない。

 その白く艶めかしい肢体を前に、邪魔な布など存在してはならないのだ。


「って事で、脱げ」

「脱げじゃねぇよ!」

「どこの露出狂だよ!」

「大丈夫です!露出狂は六ヶ月継続しないと露出狂じゃないんですからっ」

「お前の頭が大丈夫じゃねぇよ!」


 そんなバレンタインデーは、後にブラックバレンタインデーと呼ばれる。



 そして翌年――



「チョコレートを渡せば良いんじゃないんですか?」


 おかしく――いや、元がおかしいのでまともに戻った、というか記憶の一部を吹っ飛ばしたアフター紫蘭はそうのたまった。


「だってバレンタインデーですし――え?男がチョコを渡しても良いのかって?構わないと思いますけど」


 なんだろう、このまともすぎる紫蘭は。

 あのビフォー紫蘭はどこにいった。

 いや、どこかにいったからビフォーなのだろう。


「あ、それとこれどうぞ」

「何これ」

「チョコレートです。いつもとてもお世話になってますので」

「お世話……」

「大丈夫です。義理チョコですし、皆様のお相手の方々には渡すことは伝えてますから」


 ってか、こいつ誰!


 嬉しいけれど、なんだか調子が狂う。

 そんな凪国上層部と元寵姫組だった。


終わり

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