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メモリーループ番外編 第一章 宴と舞

 

 夕空が藤色に変わる。

 幾つもの洋灯に明りが灯り、神秘的に舞台を彩る。

 三方を神殿宮に囲まれた舞台。

 最奧に、王の座する大神殿が設けられ、その露台となる部分には凪王とかの君に侍る様に上層部達が並ぶ。


 左の宮の露台には凪国の貴族達が、右の宮の露台には、各国の使者達がそれぞれが並び腰を下ろす。

 宮の無い南側には、数段下がった所に一般の観客達が設けられた席に腰を下ろす。

 それだけでも足りず、立ち見客達も居る。

 その数、およそ千名にも及ぶ。

 これでも入場制限した方で、ここで直接見られない観客達は特別に解放された近隣の宮にて舞台の様子が映し出されるスクリーンで見物する。


 また王都の方にも映像は通じており、各地に設けられた会場のスクリーンでこの様子は実況される事となっていた。

 その為、内部情報が分かる様なものは撤去されるなど、準備はよりおおがかりなものとなったが、それを知るのは凪国側のものぐらいだ。


 年末の忙しい時期に仕事の合間に行なった事もあり、中心となって進めてきた官吏達は殆ど徹夜続きだった。


 そうして苦労して造り上げられた舞台は、始まる前から賑わいを見せていた。

 特別に増やされた警備の者達ですら、その賑わいに飲まれないように自制するのが大変なぐらいに。


 今年一年の納めとなる催し物。

 その中で、最も大きく重要とされる『年末神楽』。

 凪国だけでなく、各国からも舞や歌、楽を奉納する。


 もちろん、それに選ばれるという事は名誉であり、この度選ばれた者達も厳しい審査を通り抜けてきた者達である。

 

 皆舞台裏で準備をしながら、緊張に体を震わせていた。

 ガチガチと歯のなる音、緊張のあまり上手く歩けない者まで居る。


 成功すれば更なる名誉が。

 失敗すれば、二度とその世界では生きていけない。


 ゆえに、彼らが生み出す緊迫した空気は研ぎに研ぎ澄まされ、厳粛な空気をより濃厚なものへと変えていく。

 それは少しずつ会場へと蔓延し、いつしかあれほど賑わっていた場が静まり返っていった。


 呼吸する事すら、罪深いと感じる。

 痛いほどの静寂が、場を支配する。


 民も、貴族も、そして他国の者達すらもその空気の前には従わざるを得ない。


 ただし、彼らだけはいつも通りだった。

 凪王、そして凪国上層部だけは。


 というか、若干一名は今それどころでは無かった。


「それで――どうして我が国からは涼雪義姉様が出ないのですか?」


 そう――明燐からすれば、どうして彼女が認める涼雪が今回の神楽に出ないのかが理解出来ない。

 むしろ参加するとずっと信じていたのに。

 やっぱりリストには名前が無い。


 以前その事を問えば、名前の記載漏れとか言った奴、出てこい。


 妹の冷ややかな視線に、兄――明睡は冷や汗をかいた。


「涼雪姉様は我が国でも名高い」

「明燐」


 明睡はそっと妹の両肩に手を置いた。


「確かに涼雪は名高い名手。その調べはどんな者だろうと虜にするだろう」

「もちろんですわ、お兄さま。それこそ凪国の権威を高めるには格好の」

「で、他の奴らに目を付けられたらどうすんのって言ってんだよ、明睡は」


 ヒョコンと兄妹の間に現われた朱詩の指摘に、明睡はぶんぶんと首を縦に振った。


「その通りだ!」

「まあお兄さま!たとえどんな男が来ようとも、お兄さまと比べたらクズ同然。涼雪義姉様が相手にする筈がございませんわ!!」

「分からないわよ?涼雪のお神好しはかなりのもんだから」

「本神の意志を無視しての略奪とか」

「そうですわねお兄さま、やはり涼雪義姉様には辞退して頂きましょう」


 あっさりと意思を翻した妹。

 義妹として、義姉の素晴らしさを自慢したいという思いはあるが、それで兄から逃げられたり奪われたらたまったものではない。


「という事で、涼雪義姉様、今回は宰相夫神に徹して下さいませね」

「え、うん――って、はい?」


 自分の知らない所で勝手に舞台に出されかけ、そして出場を見合わせる事になった涼雪は――少しだけ考えた末にとりあえず頷いた。


 下手に反論した所で、結局はこの義妹には敵わないのだから。


 ただ、それでも思う事は色々とある。

 それも根本的な部分で――そう、涼雪がこの様な大祭で琴を披露する事事態が本来ならあり得ない、という部分でだ。


 涼雪は確かに琴を演奏するのは好きだが、それは趣味の域から出るものではない。

 そもそも今回の宴で舞や歌、楽を披露する者達は、それはそれは厳しい選考をくぐり抜けてきた者達ばかりである。

 それを宰相の妻だからといって、無試験で涼雪が同じ立場に並んで良いものではない筈だ。


 それでもどうしても並ぶと言うのであれば、むしろ誰もが認める上層部こそが出るべきである。


 明燐はもとより、上層部は男女関係なく舞も歌も楽も際だった名手揃いである。

 涼雪の夫である明睡も、その友神である朱詩や茨戯、そして他の者達も皆全財産と引き替えにしても良い程の腕前であった。


 彼らならば誰も文句は付けないし、むしろ出てくれと懇願すらするだろう。


 たとえその代償が命だろうとも。


「そもそも、私の演奏など、明らかに場違いだと思うんですが」


 小さな呟きを漏らす。

 ここに今は無き凪国の王妃が居れば、きっと心の底から同意してくれただろう。


「果竪……」


 彼女もまた、歌が好きで良く歌っていた。

 それは趣味という類いだったが、心に染み入る歌声はずっと聞いていたいほどに美しかった。

 しかも年齢よりも幼い姿とのギャップが凄まじかった。


 幼い王妃様。

 年齢は決して幼くはないのに、見た目は殆ど成長しない。

 けれど涼雪には何となく分かっていた。


 成長出来ないのではない。

 成長しない。

 そう、あれは――。


 そんな彼女が歌う時だけは、本来の年齢に沿ったものであり、だからこそ生まれたギャップはそれすらも一つの魅力として形作られていた。


 涼雪は思う。

 そんなギャップが激しい者達は、今までにも多く居た。

 中でも――。


「……」


 遠い記憶の中に浮かぶ一神の少女。


 他のどの妃達よりも自由だった彼女。

 真の意味では自由でなくとも、他国にまで足を伸ばす事が出来た存在。

 使者としてで、それこそ片手で数える程だったが――。


 涼雪はそっとそちらの方角を見る。

 既に報告は受けていた。


「紫蘭様……」


 まだ涼雪が最初の夫と結婚する前――。

 使者として凪国を訪れた、彼女。


 元寵姫組すらも知らない。

 いや、知るはずがない。


 既に元寵姫組達は凪国に居たけれど、彼女の訪れは本当に静かなものだった。


『愛しているの、それでも――』


 彼女にとって悲しみと苦しみしかもたらさない国だった。

 豊かで繁栄と栄華を誇る国だった。

 治める王は賢君であり、上層部もまた優秀な者達揃いだった。


 でも、それだけだった。


 それは在る意味凪国も同じだった。

 けれど凪国は新しい道を進み始めている。

 過去から学び、そして今がある。


 滅びかける以前よりも、更に繁栄したこの国がそれを証明する。


 最後の訪れの時に、涼雪は見た。

 まだ嫁ぐ前の海国王妃や――達も居た。


 かき鳴らされる琴。

 優雅に響く笛。

 幽玄たる二胡の音。


 その中で流れる歌声にあわせて靡く領巾。


「本当に……」


 ポツリと落ちた涼雪の呟きは、同時に沸き立つ場と歓声によって消されていった。



 そのバスが環状線であればまだ良かった。

 いや、せめて終点まで乗っていれば良かった。

 しかし見た事の無い場所を進むバスに不安を覚えた紫蘭は、よりにもよって途中で降りてしまった。


 既に乗ったバス停は見えるはずもなく、かといってこの先に何があるのか分からない。


 バスに再び乗ろうにも今乗っていたバスは紫蘭が呆然としている間に走り去り、次のバスを待つとしても今何時なのか分からなければどうにもならない。


 とりあえず待っていれば良いのだろうか?


 いや、それよりは近くの建物に向った方が良いかもしれない。

 不幸な事に道を歩く者達は居ないが、建物は近くにある。

 そこには誰かが居るだろう。


「そういえば、ここは何て言う所なのかしら?」


 それすらも知らない紫蘭は、とりあえずバス停を見た。

 何か手がかりがあるかもしれない。

 というか、人間界ではバス停には近くの建物や地名が書かれていたと聞いた事がある。


「……祭殿、通り?」


 と、その時遠くから歓声が聞えてた。

 向こうに、大勢の気配がある。

 紫蘭の足がそれに導かれるように、一歩ずつ歩き出した。


 果たしてそれは偶然か、それとも運命か。


 観客達の波が途切れ、神気の少なくなった祭殿区域の入り口前でのんびりと過ごしていた警備兵達が紫蘭の姿を認めて駆け寄ってきた。


「紫蘭か?」


 そこに居たのは、下級武官ではなく、上層部のお抱えと呼ばれる者達だった。

 各国の使者達が一堂に会する場であるから、当然それなりの者達が集められる。


 上層部のすぐ傍で控えている者達も居るが、残りはこうして門の前を警備したり、周囲を見回ったりとできる限り死角となる部分を潰す警備体制を敷いていた。


 最初に声をかけたのは、来雅だった。

 悧按と共に外側の警備を任された彼は、当然ながら紫蘭の顔を見知っている。


 そして、紫蘭の現在の様子も、ここに居る他の者達同様に聞かされている。


「どうしました?紫蘭様」

「あ、えっと」


 戸惑う紫蘭に、聡い来雅はすぐに気づき頭を垂れた。


「私の名は来雅と申します」

「来雅、さん?」

「どうぞ呼び捨てで」


 蕩ける様な微笑みを一つ投げかければ、紫蘭はほんのりと頬を赤く染める。

 それはよくある反応だった。

 しかしそれからどうするわけでもなく、紫蘭はキョロキョロと辺りを窺っていた。


「どうかされましたか?」

「えっと、ここは……あの、私、迷ってしまって」


 大図書館から此処まで来た経緯を聞き、来雅は苦笑した。


「申し訳ありません、考え無しでした」


 大丈夫と高をくくった結果がこれだ。

 紫蘭は猛反省した。


「いえ、誰にでもありますから。大切なのは次に同じ事をしない事です」


 と、来雅はそこまで言ってハッとした。

 ついいつも通りの口調に戻ってしまったが、今の紫蘭は来雅の知るいつもの彼女ではない。

 そもそも紫蘭は、凪国王宮の下女として働いているが、その真の姿は浩国の王妃という尊い御身だ。

 今は偽りの姿に身をやつしているが、それが一時的な仮初めである事は来雅も重々承知していた。


 いつかは、終わる時間。


 そのいつかが来たわけではないが、今の紫蘭はある意味似た様な状況である。


 そう――今の紫蘭は、下女だった紫蘭ではない。

 彼女は下女として働いていた、いや、凪国に居た時の記憶がない状況である。


 あるのは、浩国王妃としての記憶。

 眠る前まで王妃の間に居り、そして気づけば凪国王宮の自室で目覚めた。


 その間の記憶はぽっかりと無い。


 つまり、今の紫蘭は浩国王妃なのである。


 そんな相手にこの様な気安い口調を聞くなど、愚物としか言えない行為だ。

 すぐさま謝罪しようとした来雅に、紫蘭は目を見開く。


「あの、どうかしました?」

「申し訳ありません、紫蘭様っ!取るに足らない身でありながら、この様な無礼を働き」


 さらりと結った髪が流れる。

 ハッとする程整った傾国の(かんばせ)が、憂いと苦痛の表情に彩られた。

 身に纏うのは男物の衣装だが、それが逆に背徳的な色香を漂わす。

 

 激しい庇護欲と加虐心という相反する心が、かきたつ。

 彼を見た相手は、そうしてその汚れた魔手を伸ばした。


 しかし、そっと来雅に触れた手はそのどれとも違った。

 肩に触れた手が、傅く来雅をそっと立たせる。


「紫蘭、様?」

「どうか立って下さい、来雅さん」

「紫蘭様」

「様はいらないですから。それに、今の私は下女として身を隠しているんですよね?」

「え、それは」

「では、これから私は来雅様と」


 ギョッとした来雅が声を上げようとして、周囲の者達に押さえつけられた。

 ここで騒ぐことは出来ない。

 それよりも早く、紫蘭をここから離れさせなければ。


 他の所ならまだしも、ここだけは今近づけてはならない。

 しかし、そんな彼らの思いとは裏腹に騒ぎは起きる。




 全部で十二ある演目のうち、ようやく第九演目にまで達した頃――。

 場がほどよく沸き立ち、少しの声音ではかき消されるほどとなった所で、彼はゆっくりと口を開いた。


「それで、紫蘭は今どこに居るの?」

「大図書館に置いてきました。今頃は自室に戻っている頃でしょう」


 明燐の説明に、朱詩は面白そうに笑う。


「ふぅ~ん、こことは正反対の場所だねぇ」

「にしても、好きに出歩いて良いなんて凄い事言うわね」


 ニヤニヤとした茨戯に明燐は扇で口元を隠しと微笑んだ。


「王宮内という制限はつけましたわ。それに、現在浩国関係者が来てますが、絶対に近づいてはならないとも」

「紅葉にも?」

「ええ、特に近づいてはならないと申し上げましたら、素直に頷かれていましたもの」

「ふふ、紅葉も可哀想に」


 心底同情した様な声音だが、顔は笑っている朱詩に茨戯は苦笑した。


「顔、どうにかしなさいよ」

「へっへ~んだ!だって紅葉、生意気なんだもん」

「仕方ないでしょう?向こうは必死なんだから」


 茨戯はさりげなく、各国の使者達が居る宮の露台へと目を向けた。

 広い露台の、凪国王側に近い上座の方に彼女達は居た。


 レイオル、八雲。

 その後ろに、ヴェールで顔を隠した紅葉。

 しかしその所作と匂い立つ色香が、他の国の者達の好奇心をかき立てる。


 どこの姫君かと噂し合い、そして顔は見えないにも関わらずときめく者達を生み出していた。


 まあ、あれ程の美女は中々居ない。

 浩国でも名高い女傑は、一流の貴婦神としてもその名を馳せていたのだから。


 それこそ、王の妃として立ってもなんら不思議はない教養と能力の高さは隠しても隠しきれるものではなく、聡い者であれば何となくでも気づかれてしまう。


「それにしても、侍女か何かで出席すると思っていたんだけどね、アタシ」

「それは無理ですわ、茨戯。紅葉が浩国側で姿を見せれば、すぐさま周囲の視線を釘付けとしてしまいますもの。そうなれば、きっと周囲はとても騒々しくなる事でしょう」

「周囲の視線を釘付けにするというのも、時としては考えものね」


 だからこそ、紅葉が紫蘭の傍に付くとなった時、凪国上層部は嫌がった。

 よりにもよって、あの女傑。

 自分がどれだけ周囲の視線を釘付けにするか分かっているのか。


 記憶があるならまだしも、何も覚えていない紫蘭を守る為にあえて下女として潜り込ませた。

 なのに紅葉ほどの女が傍に居れば、どこからか紫蘭の素性を嗅ぎ付ける者が出てこないとも限らない。


 しかしそれを押しとどめるだけの力は、当時凪国にはなかった。

 そして今も、これ以上の圧迫は浩国の暴発を生み出す。


「民達を仲間に引き込むとは、本当に口惜しい事」


 明燐が遠くの紅葉を見て忌々しげに眉を顰める。


「やったのは紅葉じゃないわよ」

「分かっていますわ」


 実行したのは、浩国上層部と国王である。

 もともと、他国の王妃達とは比べて外に出る機会が比較的多かった紫蘭。

 凪国を始め、幾つかの国にも何度か訪問した事さえある。


 そんな紫蘭の功績と神柄を巧みに操作し、浩国は王宮に居ない王妃の居場所が消されない様に操作した。


 元々、浩国王妃が凪国に保護された事、そして真の理由を知る者達は少ない。

 各国の上層部級ぐらいであり、民達は当然知らされていない。

 

 そして世界をまたげば、その事実すら知らない者達ばかりである。

 所詮は、炎水界の一部で起きた出来事。

 その世界で起きた事は、その世界が処理するべきである。


 そんな考えの元だから、ある意味他の十二世界の国々が来ている時の方が紫蘭の身はより安全だった。


 今回来ている星世界のとある国なども、浩国という国はしっていても、その王妃が凪国に居るとは知らないのだから。

 そしてたぶん、顔も知らないだろう。


 だから問題は、この世界の国々。

 特に、浩国である。


「まあ、問題は無いでしょう。紅葉も今はレイオル達に付きっきりですもの」

「だねぇ~。本当に運が良いのか悪いのか……ただし、気づかれたら終わりだよ」

「レイオルと八雲はアタシ達並のロクデナシだけど、政治家としては超一流ですものね」


 年末と正月の催し物で浩国関係者が来てくれた事で、紅葉は紫蘭から離れている。

 けれど、紫蘭の事が気づかれれば、王の代理とも言うべきレイオル達が奪取に動き出す。


 そうなれば、凪国側はかなりの苦労を強いられるだろう。


 このままでは紫蘭が壊れるとして、強行に保護した。

 しかしその時の記憶が無く、ましてや王妃としての記憶がある紫蘭が存在しているとなれば。


 何の問題も無いとして、その哀しい事実を無かった事にして彼らは奪い返しにかかるだろう。


 一方、凪国側も大義名分が崩され、返さざるを得なくなる。


「それを今の紫蘭に説明する事など出来ませんからね」


 あの哀しい事実を教えるなど出来ない。

 しかし、浩国王妃としての記憶を持つ今の紫蘭に、「あの国に近づいては駄目」と言うにはその理由を説明しなければならない。


 そうなれば本末転倒である。


「まあそれで言えば、今回は本当に運が良かったって事だね」


 襲撃者うんぬんの話も、真実を知る紅葉が居ないからこそ出来た話だ。

 そして襲撃者が捕まったが、自国で騒動が起きているからまだ帰れないという偽りも――紅葉が居ないから、成立した。


 しかし、今回の様な各国からの使者達も来る大規模な催し物でもなければ、紅葉を引き離す事は出来ない。


「タイムリミットは、浩国関係者が自国に帰るまでか」

「そうね……正月の宴を終えてから、準備して帰るとしても引き延ばせて年明け一週間って所ね」

「それまでに紫蘭が元に戻れば良いんだけど」


 しかしその確証はない。

 メモリーループしている紫蘭が、あれから何年経っても思い出す事が無かったように。

 いや、思い出そうとする度にループし続けるように。


「とにかく、詳しい事は今日の宴が終わった後だね」

「そうね――」


 朱詩の言うとおりだ。

 これさえ終われば、少なくとも上層部の一部は短時間と言えど自由な時間を得る。

 その時に、再び話し合えばいい。


 今は、この宴に集中し、何事もなく宴を終わらせなければ。


 と、その時だった。

 カランと乾いた音が鳴り、沸き立っていた場が静まり返った。


 

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