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夏のホラー2023『帰り道』

通り魔

作者: 家紋 武範
掲載日:2023/07/26

 誰でもいい。誰でも良かったんですよ刑事さん。

 世間の奴らはみんな私をバカにしてやがるんですから。だから私は出刃包丁をカバンに入れてね、駅で待ったんです。

 殺しやすい獲物を──。


 それは力の弱いものなら子供でも赤ん坊でも良かったんです。でもね、その時間は退勤時でね、回りには家へと帰る大人しかいなかったんですよ。

 だからその女に目標を定めたんです。


 女は電車を待って、ベンチに座る私に背を向けておりました。幸いにも、あの女の回りには人がおりませんでした。誰も私を邪魔するものはいなかったんですよ。こいつはラッキーだと思いました。


 女は左手の腕時計を見て時刻を確認していました。まさか今から起きることなどなにも知らなかったでしょうね。クックック。


 私はね、今だと思いましたね。時計を見てる今のうちに女の背中に包丁を突き立ててやろう。そしたらそれを抜いて、次は少し離れたところにいる男の首に、その次は──。


 そんな作戦を立てて、すぐにベンチを立ち上がりました。そしてカバンから包丁を出して女の背中に向けて駆けたのです。


「キャーー!!」


 とけたたましく叫ぶ女の声が聞こえました。私の包丁に夕日が反射して気付いたものがいたのでしょう。

 しかし、もうバレてもよかったのです。この女を刺したら、次は男を、次はその叫んだ女を──。




 そう思った時ですよ。ご存じの通り私の身体は宙を舞っておりました。

 飛んだ空中から、駅にいる大勢の人々を見下ろせるほど高かったのです。


 そしてあの女──。


 あれはニヤリと笑って人混みに消えましたよ。そして私は地面に衝突してこうしてこの病院にいるわけですから。


 私の包丁。根本から折れているはずです。調べてみてください。私はね、あの時確かに女を刺したのです。


 でもね、鉄にぶち当たったのかと思いましたよ。そしたら空中でしょ?

 どうやったかなんて知りませんよ。


 刑事さん。私は確かに人殺しをしようと思いましたよ。


 でもね、この日常には得体の知れないものがおります。そんな奴らを野放しにしていていいんですか?


 え? 刑事さんのその目……。まるであの時の女の……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 様々な方向へ想像できる自由度が堪りません! 「メン・イン・ブラック」みたいにも続けられるし、ターミネーターが暴漢に刺されて「何?」って顔するシーンも思い出しました。 無粋かもしれないけれど…
[良い点] これは怖いというか、凄いというか、、、 そういえば、人間の基本スペック以上の人間って時折出てきますよね。 そういう人って混じっているのかもな。 某有名陰陽師も母親がそうだし。
[良い点] 得体の知れない奴らでも通り魔より遙かにマシ、悪を駆逐してくれるならいてくれた方が良いですね。
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