通り魔
誰でもいい。誰でも良かったんですよ刑事さん。
世間の奴らはみんな私をバカにしてやがるんですから。だから私は出刃包丁をカバンに入れてね、駅で待ったんです。
殺しやすい獲物を──。
それは力の弱いものなら子供でも赤ん坊でも良かったんです。でもね、その時間は退勤時でね、回りには家へと帰る大人しかいなかったんですよ。
だからその女に目標を定めたんです。
女は電車を待って、ベンチに座る私に背を向けておりました。幸いにも、あの女の回りには人がおりませんでした。誰も私を邪魔するものはいなかったんですよ。こいつはラッキーだと思いました。
女は左手の腕時計を見て時刻を確認していました。まさか今から起きることなどなにも知らなかったでしょうね。クックック。
私はね、今だと思いましたね。時計を見てる今のうちに女の背中に包丁を突き立ててやろう。そしたらそれを抜いて、次は少し離れたところにいる男の首に、その次は──。
そんな作戦を立てて、すぐにベンチを立ち上がりました。そしてカバンから包丁を出して女の背中に向けて駆けたのです。
「キャーー!!」
とけたたましく叫ぶ女の声が聞こえました。私の包丁に夕日が反射して気付いたものがいたのでしょう。
しかし、もうバレてもよかったのです。この女を刺したら、次は男を、次はその叫んだ女を──。
そう思った時ですよ。ご存じの通り私の身体は宙を舞っておりました。
飛んだ空中から、駅にいる大勢の人々を見下ろせるほど高かったのです。
そしてあの女──。
あれはニヤリと笑って人混みに消えましたよ。そして私は地面に衝突してこうしてこの病院にいるわけですから。
私の包丁。根本から折れているはずです。調べてみてください。私はね、あの時確かに女を刺したのです。
でもね、鉄にぶち当たったのかと思いましたよ。そしたら空中でしょ?
どうやったかなんて知りませんよ。
刑事さん。私は確かに人殺しをしようと思いましたよ。
でもね、この日常には得体の知れないものがおります。そんな奴らを野放しにしていていいんですか?
え? 刑事さんのその目……。まるであの時の女の……。




