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07代替案はご用意出来ておりますか?




「ユナ様、お足元をお気をつけ下さい」

「ありがとう〜、もう!ユナで良いって言ってるじゃない!人間同士でしょう?平等にならなくちゃ!」


 年若い騎士に手を支えられ、機嫌良さそうににこりと微笑んだ少女は、あっという間に今度はプリプリと怒り始めた。コロコロと変わる表情は豊かで、声は鈴が転がる様に賑やかだ。

 しかし、歳もかなり若い女性、しかもまだ少女と言える歳の子供に怒られて、ムッと表情を曇らすかと思えば、目の前の男は、愛しむ様に笑顔を見せた。


「ユナ様……いや、ユナ。君はなんて優しい心を持っているんだ……」


「うふふ、やだウレックス様ったら」

 そんな2人の仲睦まじそうな様子に横からすい、と間を割る様に違う人物が入ってきた。


 騎士団の隊長も務める、文武両道とはまさにこの人を指すと言われる魔道士のハウが眼鏡をクイ、と指で押し上げて、彼女の手を大事そうに握る。


「もし転んでしまいそうになったら私をお呼びください。貴方に(まじな)いをかけましょう。聖女殿のお力には敵わぬだろうが、私も貴方を守ることはできる」

「ありがとう〜、ハウ様!」


 この二人の騎士に連れられる様に数歩進んだ先には美しい花が目一杯咲き誇る花壇があり、そこにも体の大きな、屈強な体つきの男が花を一輪持って立っていた。その大きな体には似合わない、小さな黄色い花がゆらりと風で揺れる。

 大きな斧で巨大な魔物も一刀両断する様な力を持つ斧使いの騎士ダトー、彼もまた、騎士団で隊長を任される一人だ。


「……」

「わぁー!素敵なお花!ダトー様もありがとう……これ、私の世界にもあったんだぁ、思い出すな〜」

 

 物憂げな表情で、ポツリと少女が口にした言葉に、どこかしんみりとした空気が漂い始めた。

 少女の悲しげな呟きに物申すことは誰もできない。

 そんな彼女の寂しさに寄り添う様に、皆が彼女を囲い、「ユナ、悲しまないで」「憂う気持ちに寄り添うしかできないが」「何か出来ることがあれば言ってくれ」など、口々に慰めている。


「おいおい、なにをしんみりしておる、お前達。ユナ、頼まれていた服やアクセサリーを買いに行かないか?」


「え!」

 パァと途端に華やいだ少女の顔に、端正な顔立ちの青年が映った。彼はこの国の第一王子のフロルドである。

 一際派手な容姿で、誰もが目を引く様な燃えるような赤い髪を持っている。髪の色も相まって自信に満ちている。

 彼の登場により機嫌を良くしたユナに、集まっていた三人は険しい表情を隠す様子もない。


 大きな体の男に囲まれた中からするりと抜け出しフロルドに駆け寄ると、ユナは王子の広げた手の中にスポリと収まって止まった。

 それを見送るウレックスとハウ、そしてダトーの三人は苦しそうに、そして悔しそうに眉を顰めた。表情には仄暗い影が潜んでいる。

 


「で……でも、フロルド、王子様だから、忙しいんじゃない?」

「なに、遠慮?」

「……当たり前でしょ? だって……皆忙しいし、それに」

「? ……それに?」

「モテるから、心配なの!」


「ふふ、俺はユナの為ならなんだってするよ」

「……! きゃ、やだ、フロルド……!」

 フロルドは腕の中のユナの髪を掻き分け、サラリと艶やかな髪を耳にかけてやる。そして安心させる様に、まるで挨拶をする様な気軽さで彼女の瞼にキスを落とした。

 ユナはそれをまるで、当たり前の様に受け入れた。嬉しそうに破顔し、花も綻ぶ様な笑顔で微笑みかける。


 その顔が、置いてけぼりであった三人の男達にも向けられた瞬間、憂鬱そうな表情が、途端に無に帰る。

 そしてすぐに、柔らかな笑みを浮かべた。

 まるで、ユナの笑みに引っ張られた様に。

 まるで、ユナの笑みに釣られた様に。

 彼らの瞳の中で、何かがモヤリと這い回った。


 ユナの手からぽろりと落ちてしまった花が、足元に落ちる。黄色いユリが、粉々に床に散った。

 誰の目も、そこには向いていなかった。





「あー……なにあれ」


 やば。

 砂吐くかと思った。

 最悪気絶するかと思ったわ。

 なにあの会話。あのサークル。部活動?サークル活動?オタサーの姫なの?


「さぁ」

「僕達の事、見えてないのかなぁ」


 ランティスとアーチと一緒に首だけで、会話をしている仲良しホワホワ空間へ目を向ける。


 アーチもだが、特にランティスは大きな体なのに気が付かないなんて……。すごい神経してるわ。

 

 先を行った我がバイト部隊は慣れ切ってしまったのか、興味すらなくなったのか見向きもすることは無い。今彼らの頭を占めているのは、退治した魔物の金額……ではなく、その肉を食せるか食せないか。美味いか美味くないかだ。


 ご覧ください。

 前方一軍が構えておりますのは、大きな防具や盾ではなく、まごう事なき中華鍋。

 耳をすませば聞こえてくる会話は、道中一緒に考える保存食のプレゼンが聞こえてくる。最近はこの様に現役騎士団メンバーから情報を得ることによって保存食の向上を目指している。いつだったかアーチに貰った保存食は不味かった。あれじゃあ私の力は一ミリも回復しなかったよ。

 前回出た案はしっかり採用して今回私が作って持ってきている。

 これで好評なら国王に許可を取って大量生産に予定だ。ふふふ。これは売れるぞ……。


 まぁしかし、うんうん。素晴らしい成長である。我が子の様に嬉しいぞ!

 子供いた事ないけど。



「ちょっと異常ですね〜。聖女ユナ、皆あの娘に執着している様ですが、どうもおかしくて仕方ありませんよ。現聖騎士に、天才魔導士、王子に、最強の斧使い、多分相当腕鈍ってますね」


「だな。俺全員倒せそうな気がする。聖騎士なっちまおうかな」


「それ良いね、ランティス。多分いけるよ」


「よし行け、許す! どこの会社も据え置き空気で決まる役職は無能が多いって決まってんの。厳重な審査と抗議と武力で制圧しないと上層部だけが私腹を肥やすブラック企業の誕生なんだからね!」


「なんか、トキ……時々大人みたいな事言いますね、おばあちゃんみたいです」

「どちらかと言うとおっさんだな。うちの親父とか」



「うるせー! 中身と体年齢違うんだから仕方ないでしょーが!」

「「え」」


 好き放題言いやがって、てやんでぃ!

 こっちは別に好きで若返ったんじゃないやい!


「ちょ、じゃあ一体いくつなんです……?」

「レディに年齢を聞くなんてクソ失礼よね。いくつだと思うか当てたら教えてやるわ。はい、ランティス」


「45」

「はいぶー!」

 思い切り目の前で罰を作って拒否する。45だと。お前の父は45歳だな、覚えたぞ。


「はいはい!」

「よし、アーチ!」

「おばあちゃんみたいなんで、60!」


「……お前達は女と話した事はあるのか?」

 トキさんブチギレですけど?

 世辞でもいいからちったぁよいしょしろよォォ!


 30代じゃ、と叫べば、「あー」と二人が納得した様に頷いた。この童貞ども。合コンでもして気遣いを覚えてこいよな。「じゃあ、あと15年したら会えるんですかね、本当のトキに」とアーチがワクワクした様に答えるので、「まーね。こっちにそれまで居たらね」と答えた。そうすると、アーチがなんだか傷付いた表情を浮かべた。拗ねている、に近い表情かもしれない。


「……帰りたい、のか?」

「まぁね、って私ずっと言ってるでしょ?この国の基盤ができて自衛がしっかり出来る様に鍛えたら、帰る方法見つけてやるんだから。そんで絶対聖女召喚の儀式ができるキットかなんか知らないけどそれぶっ壊すからね」

「……そうか」


 いや、だからなんでランティスが傷付いた顔するの!?



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[良い点] ユナちゃん、オタサーの姫(笑)言い得て妙!しっくりきました!
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