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06論点違い?解釈の違いですね



「おいおいおいおい、何やってんだ聖女殿」

「敬語どこいったんですかね、国王様」

「すまぬ、何をやっておられる聖女殿、これは……一体。まさか国家転覆を企んでいるわけではあるまいな……?」


 ぼーっとスケジュール帳という名の巻物を片手に本日の予定を見る。先週書いた物だ。

 ずらりと書かれた訪問場所にため息が出るが、我がプランのためにはこの慈善事業も必要不可欠事項。


 気持ちよく金を出させるためには好かれなくてはならない。これは必須だ。

 どの時代、どこの世界でも慈善事業は節税効果も絶大。さらには好感度アップには最適かつ最上である。

 どこぞのセレブだってこぞってどこかの誰かに億単位で寄付してる。

 聖女パワー、ここで使わなければどこで使う?

 

 まぁ、そもそも誰に好かれるか?


 無論、権力者である。


 媚び売るんかよ、って思ったそこのあなた!売るわ!売れるもん全部売っとけ!こちとら異世界飛んで年齢も飛んで、腹も減って、大事な時間使ってんだわ。ムサイ筋肉とヘラい魔人に見張られて精神苦痛を味わってまずいご飯食ってんだから媚びくらい売らせろ。



 そこまで考えたところで、鍛錬場に突然顔を出した、この国の国王を見上げる。

 そんなふらっと現れていい物なのか国王。

 まさか影武者か……?


「死んだ魚の目……、ハワイかよって服、ダルそうな顔……ああ、国王様ね」

「お前も敬語どこに行ったんだよ聖女殿」


 ハワイってなんだ、とダルそうに呟くこの男は間違いなく国王様で、今日もどうやら王冠を忘れん坊したらしい。威厳もどこかへ忘れやった様子に本当脱力する。


 まぁ、社長って社員と感覚違うからさ。

 私とはシャキッとする場所違うんだろうけども。この国王が何代目の国王なのかによる。

 大体家族経営、2、3代目継いだ息子娘は色々やらかすって相場は決まってるのでそれはどの世界に行っても変わらんだろうな、と踏んでいる。息子にドンパチやらせて強いやつ次の王な!ってやってるなら話は別だが。こいつはおそらく前者だろう。


 ともあれ、今別にお呼びじゃねえから、と白けた視線を送ると、国王は「はぁ」と一つため息をついた。


 目の前ではせっせと鍛錬を積む男達。

 かなり厳しい訓練をさせている自覚はある。

 美味いものを条件に、この人材を育成し、私を守る軍隊を作ろうと計画中だ。

 これだけ聞けば国家転覆罪に問われそうだが、私の目的はそこでは無い。

 

「もう1人の聖女殿は、うちの優秀な騎士をあちらこちらへ連れ回してうちの倅までも骨抜きにしておられる様子。貴女ときたら、これだ。聖女ユナ殿の教育は如何した?私が貴女に期待した事とは随分違う事をされている様だが……聖女トキエ殿」


 ジロリ、と鋭い眼光に射抜かれて、ドキリ……なんてするわけもなく、同じ様に睨んでやった。

 勝手に『召喚☆』とかやっておいてどの口が言うんじゃ。雇い主が全部正義ってわけじゃねぇんだからな。


「知ったこっちゃありませんよ。というか、勝手に期待して聖女だから聖女だからってなんでも脳死で頼るのやめてもらえます???」


「な、脳死……!?」


「そうじゃないですか。やれ聖女をなんとかしろ、国を救ってくれって。聖女の前にご自分でどうぞ」


「ぐ」


「そもそも仕事をする気がない奴をだらだら待ってたって時間の無駄です。全部仕事は私が賄っています。ほんっとに疲れるんですから。あ、今日はなんか騎士引き連れて孤児院行ってるそうですよ。私は一緒に行くのを断られましたが。貴女の息子殿に。はぁ……もう少し待ってくださいね。これが終わったらすぐにでもギッタギタ……違った……ボッコボコに教育するんで」


 だから文句言うんじゃねぇ。

 そんな意思を込めてにこりと微笑んだ。

 息子を手玉に取られてそれをなんとかしてくれと言いたいんだろうが、喧しい。

 しばし待たれよ。


「ふむ……しかしねぇ……これはどう言う事だ?」


 納得がいかない様に、訓練場に広がる光景を見る国王様は首を傾げて口を尖らせた。


 視線の先には、走る騎士達。

 壁を登る騎士達。

 石を運ぶ騎士達。

 そして薪を割る騎士達。

 訓練場内部で野菜を育てている者もいる。


「ふふふ、教えてあげましょうか?私、お金を稼ぐんです!私の騎士達を使ってね」


「は?」


「あら、わかりません?」


「全然わからん……」

「ふぅ〜ん、わかりませんか?良いでしょう良いでしょう。教えて差し上げますね。まず、私はあの騎士達を貰ったんです」

「もら……?」

「はい。もらいました。隊長から見捨てられた可哀想なクビまっしぐらの騎士達を貰ったんです。あら、ご存知ありませんでしたか?」


「……」


「そうですか。それは怠慢ですね。聖女ユナについてる騎士達の」


「……」


「ああ、貴方の息子様もですね。で。養う代わりに、私と一緒に魔物退治に行って、報酬を稼いでもらってます」


「……えっ、稼いで!?もう着手を!?」


「そうです。それを報酬に、料理大会を開いているんです。ほら、ご覧ください」


 ペロリと、先週、聖女の仕事ついでに街に配布したチラシを見せると、国王様は息子の話題でムスっとしていた顔がみるみるうちにギョッとした様に目を白黒させている。


 おいおい、思い立ったが吉日という言葉を知らんのかね。


「もう着手を!?」


 当たり前でしょうが。

 思い立ったら即行動。

 計画、実行。大事。


「申し上げ難いのですけど、正直に言いますね……この国の料理はマズイ……!」


 国王様は、ぐ、とたじろいだ様に眉を顰めるも、小さく頷いた。


「た、確かに……聖女様の国はいろんな食材で溢れていると聖女ユナ殿から聞いた、それに比べれば、うむ。少々淡白かもしれんな」


「私にとってはその少々は命取りなの!」


 なんといってももう1人の聖女が働かないモンだから……!私は美味しいもので体力の回復ができる仕様なので、それがなければ……死ぬ!

 自己分析は大事だと思い知った。

 日本でならなんとかなる。

 優秀な医者と薬局とインターネットがあるから。しかしここは異世界。自分の体は自分で知っておかないと、即死亡の危機だ。

 金があったらなんとかなるなんて、豊かな国だけだ。金があっても知恵がなければ死!

 


「という事で、美味しく良心的な価格、そして魅力的ななレシピを開発した者には賞金をお渡しして、開業資金や仕入れ金にしていただいてます。本日見にいらしたのも、最近市場が活気付いているのに薄々気がついたのでは?」


「む」


 ぎくりと肩をびくつかせる国王様は、聞かなくとも図星と言わんばかりの表情なので実にわかりやすい。

 

「ふふふふ、これが『肉体爆烈強化計画』! 国家転覆どころか、聖女のために用意されたピッカピカの新品騎士を魔物も倒せて私を守って国まで守る兵士に教育し、『美味い』を作れば国民はお金が貰えて潤う。さらに美味しい物を食べれば、国民は元気に活気付く! 国力は爆上がりよ! しっかり栄養のあるものを食べ、生活が豊かになれば、病気で倒れる者も減るし、餓死する国民も居なくなる。出生率も上がり、生産力も上がる!」



 グッと拳を握り、国王に熱くプレゼンすると、訓練場で各々鍛えていた騎士達が「オオオオォォォ!」と合いの手を入れてくる。

 ふふふ。

 よく鍛えられた戦士達よ。

 後で美味い飯を作ってやろうぞ。


「最終的に、国民の中から豊かな者が手を差し伸べられる国になれば最強だわ……」


「た、確かに」


「……聖女の力なんて必要なくなる! そしてゆくゆく———私の仕事は減る!」


 そんな事で……?と国王は驚いた様に呟いたが、そんなもクソもあるか。どこの世界でも最終目標はファイア、不労所得の確保でしょうが。

 私の仕事が減れば、聖女なんてもん必要ないってなるだろうが!


「よし!今日もじゃんじゃん狩りに行くわよ私の騎士(ナイト)達!!」



 私が叫ぶと、「うぉぉぉぉ!」と大きな雄叫びがこだまする。


 虫もろくに殺せませんと言った貧弱だった体つきは何処へやら。

 嘘の様に屈強な戦士に変わった男達は今ややる気に満ち溢れ、私の一言一言にびくつく様子は無い。


 うんうん。

 上出来よ。


 私の計画は一つ、しっかりと実ってる。

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[一言] 一言? 最高に決まってるわ
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