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【番外編】どうして企画書にない話をするんですか?【本編後小話】



「これで一旦落ち着いたのかしら?」

「そうですね〜この二年間でよくここまで。拍手モノです」

「形になって良かった! 食事も美味しくなったし満足だわ!」


 アーチが書類一つ一つを確認し、大事に木箱に仕舞う。その手つきは手慣れたモノで、下手な事務作業員よりもよっぽど頼りになっている。二年も私の護衛兼秘書紛いのことをしていたらそうなるか。


「トキだからな、上手くいくだろうと思ってた」

「嘘だ! いつもすごい目で見てたくせに!」

「はっ」

 

 鼻で笑ったが私知ってる。あれは「あれ、こいつ変なやつだな」って目だった。しっかり「何を言っているかわからないのだが」って顔してたぜ!覚えてるんだからな。


 ランティスも、ずらりとテーブルに並べられた試作品や国外輸出品をアーチと同じく木箱詰めていく。食事の進歩レベルは非常に低いこの世界でも、さすがはゲームの世界というか、ご都合主義の長期保存の技術は生きていたようで、材料さえ揃えば缶詰なんかも作れるようだった。


 この国では手に入りづらい物も、魔の国では多く取れるなど、同盟を結んだ両国では貿易が盛んに行われている。

 今では美味しいソースも、新鮮な豆も、お菓子なんかも缶詰に入れたり、随分と工夫がされている。

 私の投資はバッチリ木となり実となったわけだ。ふふふ。私の騎士達がめちゃくちゃ強くなって討伐任務や力仕事などなど、しっかり稼いできてくれたおかげで給料も上げられたし、その賞金で街の出入り口に直売所を建てれた。これにより、私は今後不労所得を得るのだ。


 ふふふ。

 騎士達も自分で開発した



 何事も、続けていくことが大事。

 これは誰もが聞いたことのある話だ。

 学校の授業、部活、仕事。

 何にしても最初が肝心。そして何よりも重視すべきは『継続』である。

 文字を書くためには毎日毎日反復して覚えていく。歩き方、道、電車の乗り方、計算の仕方。形変われど全てが一発でできるようなものでは無い。


 もちろん、それは政治や国づくりも。

 

 人間には、物事の変化に伴って否定、抵抗、試み、受容と段階があり、うまく吸収していかなければマネジメントの失敗となる。

 運がいいことに、実に上手く計画通りにトントントンと物事が進んで現状とてもいい状況だ。


 私の運がいいのか、はたまた聖女様脳の酸素停止状態が肝だったのか。

 なんにしてもスタートがど底辺の甘ちゃんどもの巣窟だったのが功を制し、現状二年経った今は実にポジティブに事柄が進んでいる。

 まぁ、それぞれのやる気と元気と栄養がしっかり行き渡ったのだと信じている。


 さて、今は急激な変化の後のゆっくりとした上昇の中に居るわけで、この時期というのは実は1番気をつけなくてはいけないのである。


 例えば、無知であるとか。

 

 会社で言えば、成長過程の状態は変化による内部の反発、それにより引き起こされる情報の漏洩、優秀な人材の引き抜き、などである。



 何はともあれ、ひと段落ついた、と言うやつだ。一本の企画が終わり、一つの事業が落ち着いた。その功績は誰のものか、それはおそらく国民のものなのだ。


 もう私がやるべきことはない。

 万能な力は生活する上では脳死の原因だ。


 あとはひっそり聖女の存在なんか忘れてもらって、私は隠居生活をするのよ……!


 





「ふ、2人きり……だな……」


 私の自室である部屋で、か細く所在なさげな声がポツリと溢れた。

 テーブルの上に置かれた茶菓子と紅茶に手を伸ばそうとして、やめた。

 手を膝の上に戻して、この茶菓子を用意させた声の主を見る。


「……何言ってんですかフロルド殿下、すぐそこにアーチもランティスも居るじゃないですか」


「へ、あ、そ、おい! なんで室内にいるんだよ」


「お気にせずどうぞ」

「右に同じく」


 二年が経って、聖女なんてもん忘れて行こうやってのを目標に動いているのだが、未だ私の護衛の任務を解いてもらえない可哀想なランティスとアーチ。そりゃそんな死んだ顔もしちゃうよね。


 この部屋唯一の出入り口である扉の前でアーチとランティスの二人はドアマンのごとく立っている。唯一というのは語弊がある。数メートルという距離をものともしないというなら窓も出入り口にカウントされるが、今この部屋にいるメンバーでは無傷かつ死なずに脱出脱走は難しい。外から侵入したとしても、窓のガラス自体は強度の高いものかつ、城の周囲は騎士達が見回りをしているので侵入するのはこれまた難しい。


 ごちゃごちゃ言ったが、要するに、あの護衛の二人が見張っている対象は私なので、守るのは扉で十分という話だ。


 そんな2人に嫌そうな視線をおくるフロルド殿下は、気を取り直したのか咳払いをして私の方を向いた。


 さすが生まれながらの王子。

 あっという間に二人を空気のように無視することに成功している。これが王族か。

 私にはとてもとても。

 無理だわ。

 王子越しにチラチラ見えるとどうしても気になっちゃうからなぁ。二年経っても見張られるの無理だわ。王族大変だなぁ。


 しかしなんだろう。

 私が見た事あるフロルド殿下はこう……傲慢で卑屈で高飛車な感じがしてたんだが、それがかけらもないな……。


「な、なんだ」

「……いえべつに」


 少し見ない間に幼さが抜け落ち、にょきりと伸びた背に、大きくなった体。

 少年のようなあどけなさは無くなり、ヒョロリとしていた体は青年らしく逞しく成長している。


 それなのに何故顔を赤らめてモジモジと少女のような表情を……?

 そのアンバランスな様子に、これは留学先でもさぞモテモテだっただろうと察する。

 なんせ顔がいい。

 

 この王子に対してさほど記憶もなければ思い出もないので、なんでこんな挙動不審かは不明だな。でもいいよ、顔がいいから。そんなことを考えながら、紅茶を飲む。あ、良い香り。


「あ、そ……れは、気に入ったか?」

「はい、とっても。甘い香りで好きです」

「すっす、す……すきっ……! そうか、良かった」

「? はい」

 

 何故モジモジ。

 女子(おなご)をちぎっては投げちぎっては投げと食い荒らしたに違いない見た目でこのモジモジはどうしたもんかと思いますがいかがでしょうか。


 そんな疑問を込めて王子越しにアーチとランティスを見るが、それはそれは鬼のような形相で王子を睨んでいた。そうだね。顔がいい奴らが鬼になっても顔がいいのはわかった。



「それで、いかがしましたか?」

「ああ、いや『ただいま』と言いたくて……だな」

 いくら待っても始まりそうにないので痺れを切らして声をかけてみればなんだか可愛い答えが返ってきて驚いた。


「ただいま……ですか? 前日帰国パーティーしたじゃないですか。そこで挨拶しましたよね?」


 おいおい私はちゃんと覚えてるんですよ、という意を込めて首を(かし)げると、王子はムッと顔を歪めた。


「あの時は随分と遠かった。私は壇上にいて、トキは出口で拍手していただけだろう」

「あー……」


 はいはいはいそういえば、確かに。私はどちらかと言うと壇上ではなく出口の近くに配置されている軽食に目が行っていたな。存外見られていたようだ。

 いや、だって上司の歓迎会ってみんなで祝うもんじゃん?お世話にもなってないし、部署違うしどちらかと言うとライバル部署かつ、顔も最近知ったのでね。みんなで乾杯したら任務終了かと……。すまんな。どちらかと言うと私の騎士達の考案した携帯食なんかの評判のが気になっていたわ。

 


「帰国したら、言いたいことが……あってだな」

「はぁ……」


 

 モジモジがマックスに達していてかなり不審だが、私も適当な態度をとった負目があるので無言でそれを見つめ、彼の言葉を待つ。


 なんだろう。

 また『追放だー』とかじゃないよな。少しだけ身構えると、フロルド王子はグッと唇を噛み締め、意を決したように私を睨め上げた。

 いや、見ようによってはかなり鋭利な上目遣いとも言える。


 フロルド王子の緊張がこちらにまで伝わり私まで息を呑む。


「責任をとって私を幸せにしてくれ」



「あ?」


 私の声じゃない、血を這うような声とバキン、と何かが砕けたような音がどこかで鳴る。


「責任、ですか?」


「あっ……ちが」


 急速に顔を真っ赤にして、目を見開くフロルド殿下は「あ、あ、ぁ」とそんな声どこから出たのと疑うような掠れた情けない声を出したかと思うと、カタカタと震え始めた。カチカチとティーカップがソーサーにぶつかって音を立てる。

 皿の上に乗せられた焼き菓子がころりと転げ落ちポテ、とテーブルに着地した。それを見届けたあと、フロルド殿下に視線を戻す。


 

「……あの、フロルド殿下?」


 頭から湯気でも出そうなほどに真っ赤になった殿下の顔が、今度は違う色に変わったりしないか心配になってきた。

 顔の前で手を振ってみる。反応はない。

 目が白黒して、硬直している。


 フロルド殿下でチラつくアーチとランティスも心配になったのか近くまで来ていた。


 ん?あれ違うな。めちゃくちゃ瞳孔開いてるな。


 これは声をかけなければ!


 そう思い、手を伸ばす。

 あと少しでフロルド殿下の肩に手が触れる、そこまで来た時、突然立ち上がったフロルド殿下によって大きな音を立てて椅子が倒れた。


「殿下?」


 目が合う。

 殿下が立ち上がり、私は座ったままなので、自然と殿下は見下ろし、私が見上げる形に収まった。


「……!」


 一瞬間固まったかと思うと、殿下は部屋を飛び出して行った。


 まさに脱兎の如く。

 昔見たアニメのネズミと猫の追いかけっこを連想する逃げっぷりだった。


 なんだったの?





「責任をとって私を幸せにしてくれ」


 あ。

 間違えたー!

 逆!逆!「責任をとって私が一生をかけて君を幸せにしたい」だろうが! だろうが〜〜!


 は?みたいな顔されてしまったじゃないか。

 そりゃそうだ。

 顔から火が出そうだ。

 何言ってんだ私は。

 責任とってってなんだ。

 あの時殴られた事引きずってる奴と思われただろうか……。もう二年も前のことだぞ……。


 あの時は衝撃だった。星が飛び、目が覚めるという経験は初めてで、もう一回やってほし……じゃなくて!


 違う違う!

 そうじゃなくて!

 そうだけどそうじゃなくて!


 クソクソ。


 せっかく国に戻ってきて、彼女の好きなもの(手紙で聞いた)もたくさん用意して、それで、それで……友人からでも始められないかと思っていたのに……!


 あ〜〜〜! 間違えた……!





小話でした。

殿下はトキの事を離れた地で思いすぎて拗らせました。

目を覚ましてくれた女神に見えております。

ヘタレ王子爆誕。

ご感想ありましたらばぜひ

何卒よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいやご謙遜を! 面白すぎて一気読みしちゃいましたよ ヒロイン(ヒロイン? ゲーム知識の子)私はどうなるんだー首チョンパかーとヒヤヒヤしてみてましたけど、ちゃんと魔王が(魔王が!!笑)…
[一言] 続編でませんか? え、結構(切実)
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