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04無断欠勤のリカバリーは骨折り損が多い



「どうなってるか、教えて欲しいんですけど」


 アーチとランティスを見れば、気まずそうに目を逸らした。


 集合時間には寛容な方だとはいえ、昼前に呼ばれて昼を過ぎ、結局私たち3人だけで出発と相なったわけですけど、なんで?

 何一つ理解はできないが、病院の方を待たせておくわけにもいかず、とりあえず出発することになった。

 

「聖女様」

「あ、時枝(ときえ)って呼んでください。トキでもなんでも。その聖女様ってなんだか紛らわしくて」


「あ、はい。ではトキ様」

「いい、いい、様とか柄じゃないし」


 そう言うと、2人は少し眉間に皺を寄せて眉を顰めたが、「わかりました」と頷くと、私をトキと呼ぶことにしたらしい。


「昼を超えてしまったので、道中何か食べましょう。病院までに店があるはずです」


「そうだな。そこにソシスが売ってる店がある。少し待っていてくれ」


 ランティスはそれだけ言うと、レストランのような店の入り口に入って行ったかと思うと、両手に何か持って帰ってきた。


「トキ、ソシスです。熱いうちにどうぞ」

「ありがとう、ソシスって……ソーセージ?」

「ほーへーひ??」



 ランティスが買って来てくれたものは、かなり大きめのソーセージで、荒目にミンチした肉が棒状に伸ばされて紙袋の中に入っていた。


 すでに齧り付いていたアーチは「へー、トキの国ではそう呼んでるんだね」と大きな口でガブリとそれに食らいついた。


 ここ数日、監禁されていた部屋では、一応食事は用意してくれていたのだが、どうにも味が淡白すぎて味気なく、結局お茶だったりお菓子だったりパンだったり果物だったりしか食べていなかった。

 

 香草の匂いに、ジューシーな肉汁。期待を込めて噛みつけば、シンプルながらもなかなか美味しくいただけた。

 でもどうやらこの国の食事、いや、料理はあまり進歩していないのかもしれない。


 しかしこの数日で分かったことを思い出すと、しっかり食べておかないと大変なことは分かりきっていたので、しっかり完食した。


「このソーセージの中にチーズ入れたらすごく、すっごく美味しいってお店の人に言っておいて」


「チーズ?」


「うん。めちゃくちゃ美味しいんだから。あとお酒にめちゃくちゃ合う」


「うわ!僕もそれ食べたいなー!それは早く言っておかないと!」

 

 想像しただけで美味しくなったのか、ニコニコとし始めたアーチに、ついなのかランティスもうんうんと頷いた。


「また帰りに寄って作ってもらえるか聞いてみましょう」

「はい!うわぁ、楽しみだなぁ」

「トキは料理に詳しいんだな」


 感心したようにランティスが言うと、アーチも頷いた。その反応につい、ほけっとしてしまう。

 こっちにくる前は当たり前のように自分で料理もしていたし、それなりに色々知っているし作ってきたのだ。


「今度ご馳走してあげてもよろしくってよ」


 そう言えば、キラキラと目を輝かせてバッとこちらを見てきたので、ふふ、とつい吹き出してしまった。


 なんだか子供ができた気分である。 





「つ、疲れた……ご飯を、ご飯をください……ご飯10人前……」



 疲れすぎてゾンビとなった私を抱えて歩く2人は、咄嗟に懐にあった携帯食なるものを私の口に突っ込むが、何にも回復の兆しがない。

 あかん。これ不味すぎるんや……。



 何を隠そう、足を怪我してしまって入院していて、もう足を動かすことを諦めたお兄さんや、病にかかって薬も効かなくなってしまったお姉さん、不慮の事故で大火傷を負ってしまったお姉様など、数人ではあるが今のこの国の医療では助ける事のできない人の治療を、奇跡の聖女の力を使って癒したのである。


 しかしながら、こんなに一気に力を使ったのは初めてで、かなり気持ちが悪い。

 この気持ちが悪いと言うのは、体調が悪いと言うことだ。風邪をひく前に感じるあの悪寒。そして油断したらぶっ倒れる気配がすぐ背後まで来ている。


 もう不穏な気配がすぐそこまで来ている。


 こんな時は何をするか。

 エネルギードリンクを飲む?否!栄養ドリンク?それも良し。

 こんな時は美味しくて栄養のあるものをお腹いっぱい食べるのだ。




「トキってこんなに食べるの?」

「俺に聞くな」


「いやー、ごめんごめん。これ、力使ってて気がついたんだけど、聖女の力ってやつを使うと物凄く体力って言うのかな……生きる力みたいなのを使うみたいで。私にとって生きる力って美味しいご飯だったみたいで。必ず弁償するから」



 病院からの帰りにフラフラで死にそうな私を連れてソシスを買ったあの店に入ることにしたのだ。


 そこで私が言っていたチーズ入りソシスを大量に作ってもらってなんとか命を繋いだわけである。しっかりアーチもランティスも食べていたわけだが。美味しいものって良いよね。それだけで幸せになれるんだから。



「ちょっと、私考えたんだけど」


「はい?」


「2人がさ、協力してくれない?多分絶対この国のためになると思うのよ」


「?……はぁ」


 ちょいちょいと手招きすると、2人が大きな体を曲げて耳を差し出してくる。

 コソコソ言う必要もなければ別に秘密でもなんでもないのでこんなことしなくても良いといえば良いのだが、何事も形から入ることが大事である。


 手を添えてこそっと考えを言うと、2人は、「は?」と見事なハモリを見せた。


「そのためにまずはバイト、紹介してね!」


「「は、はぁ!?」」



 憂鬱で仕方なかった毎日が、ほんの少し楽しくなりそうだ。こんな事、別に起こってほしくなかったし、なんなら今すぐにでも帰りたいけど、せっかくなら楽しまなくては勿体無い。ついでに役に立つなら最高だ。

数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


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