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【番外編】メーデーメーデー、こちら現場。声聞こえます?【アーチ】2

 他の世界から『聖女』がやってきたらしい。

 突然僕の前に現れて意味のわからない事を言う少女。幼少期に読んだ伝記の中で読んだ内容は確か、この世界を救う存在だとかなんとか書いてあった。このふわふわとした女の子が?


「はじめまして! アーチね、ふふ大丈夫よ! 私が癒してあげる!」

「え?はぁ……?」


 思わず開いた口が塞がらなかった。誰だよ僕の名前を教えたやつ。癒す、と言われて頭に重いものを感じた。僕の生い立ちを知っているのか、僕の仕事の一つが耳に入ったのか。どちらにしてもいい気はしなかった。


 次に会ったのは、騎士の一人であるランティスもたまたま一緒に居た時の事だ。突如近くの浅い池に『聖女』様が自ら飛び込んだ。


「えっえっ! 大丈夫ですか聖女様!」

「……知ってる言葉じゃない……!!」


 恐ろしいほど歪んだ顔が僕を見た。信じられない物でも見たかのような態度に、びくりと体が硬直する。伸ばした手が虚しく空中を彷徨う。


 なんだ、あれ。

 聖女ってなんだ。

 罰として護衛にしてあげないと叫ぶ聖女と、僕を睨む彼女の護衛達。なんだこの状況。

 はは、と漏れ出した声に、近くで見ていたランティスは「あれが聖女かよ」と吐き捨てるように呟くのが聞こえた。


「あはは、ダメですよ、聖女様の事そんな風に言っちゃ、さー、僕たちも仕事ですよ〜行きましょうか」


 あれが聖女なのかよ。

 

 


 最初に来た聖女の補填で呼ばれたらしい新しい聖女はまた違った珍妙さがあった。

 奇しくも、ランティスと一緒にトキという聖女の護衛にあたることとなったわけだが。


 これがまた、毎日毎日騒々しい事この上ない。その上勝手に料理のコンテスト、騎士の私的利用。さらに訓練指揮まで。

 聖女の力というのは凄まじく、こんな小さな体で次々に物事を解決していく。


 何故だろう。トキと過ごす時間は存外悪くない。冷たくなった体がぽわりと息を吹き返すような気さえする。

 どうしてだろうか。

 毎日がこんなに楽しかった事はあっただろうか。予測できない事に対処するので精一杯。意識して笑顔を作らなくて良いのはいつぶりなんだろう。一緒にとる食事が美味しく感じたのはいつぶりだろう。そこにはいつだってトキの姿がある。


 彼女の『帰れるなら帰る』という言葉にずきりと痛む胸も『元の世界に帰れない』と悩む姿に安堵する気持ちも、何もかもが、今までと違う。


 その気持ちを自覚すると、突然自分の手が汚いものに感じてきた。国のために排除する自分。

 国のために物を作り出す彼女。

 眩しすぎて目が潰れてしまいそうだ。


 僕のやってる仕事を知ったらどう思うだろうか、なんて仄暗い気持ちが湧き立ってくる。

 知って欲しい。

 知らないでいて欲しい。

 言う必要なんてないけど。わざわざ、グロテスクな世界なんて見せる必要もない。


———僕じゃなくてよくない?


 そんな事はない。彼女の見る未来のために手が汚れるくらいなんて事ない。彼女が来てからグッと減った重罪人。トキは僕を救ってるなんて知らないだろうな。


 最近の僕が少し変な理由を自覚すると、途端に頑張れる気がした。





 アーチの色素の薄い髪に手を伸ばせば、くしゃりと手が髪の毛の中に沈んだ。アーチは一瞬体が強張ったように固まったが、ハッとしたようにすぐに私が触りやすいように屈んでくれる。


 そのまま両手で掻き回してやれば、ギョッとして戸惑ったような声を上げる。それでも屈んだ体勢をキープしてくれる優しさに思わずふふ、と笑みが溢れた。


「えぇぇ!? なんですなんです!? うわっ」


「さみしい顔してるから、撫でられたかったのかなーって……あ! ごめんごめん! ランティスからが良かったんじゃない?」

「おい、嫌だぞ。なんで俺が野郎の頭撫でなきゃなんねーんだよ」

「僕も嫌ですよ!?ランティスの手に撫でられたら頭潰されちゃいます!」

「ほぉ……?」


 ゴキン、とランティスの組んだ指が鳴り、アーチがひゃーと声をあげる。





「ごめんねランティス」

「なんだ?」

「へへ、やっぱり僕、トキの事好きだなぁって思いまして」

「……知ってるけど」

「ええっ」

「作った笑いじゃなくなったろ」

「……もしかしてランティス、僕のこと好きです?あっうそ! うそうそ!」



 本当は、外で遊び回っている子供が羨ましかった。

 良い食べ物やいい教育じゃなくて、双子達みたいに両親に抱きしめられたかった。姉達に本を読んでもらいたかった。頭を撫でて、頑張ったねって言って欲しかった。仲間に入れて欲しかった。


 全部をくれるトキの側から離れるなんて。

 僕の欲しかった暖かな物をくれる君の言葉に、行動に胸が震えるのを止める事はできそうにない。軽口なんかで抑えられそうにもない。




アーチを掘り下げ回です。

一応ゲームの攻略対象者としてアーチがいる設定ですので、少々重い過去持ちです。全て投げ出した負目を感じて汚れ役率先してやってしまう自己犠牲闇落ちタイプです。


可愛がってやってください。



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