27 引き継ぎ作業はしっかり期間を設けないと精神的に終わる、これ覚えといて
「ねえ、ちょっとごめんね」
ずんずんと元気よく進む我が騎士達を少しばかり引き留める。本日の目的地は国境の近く。しかも魔の国に近い場所だ。そこは境目ゆえにはぐれ魔物も多く、季節の境目になると多くの魔物が迷い込む。しかしどれもそれほど強い個体ではない為討伐は比較的に簡単なのである。しかし、魔の国に程近い場所の為、何かあるといけないと、平騎士ではなく、騎士隊長陣がほぼ、というか全員ついてくるという最強の布陣で攻めてるわけだが、少し気になることがある。このパーティーが贅沢すぎるという話ではない。
「はい? なんでしょうかトキ様」
ザシュ、と斧が振り下ろされ、ダトーが変な歩行するキノコを真っ二つにする。ぶしゅう、と空気が抜けて小さなキノコに変わったところをハウがカバンに放り込んだ。それを見届けて、返事をしたウレックスに向き直る。
彼は彼で、木の上にいた卵のようなお尻をくっつけた蜘蛛を剣を振って叩き落とし、とどめを刺していた。たった三秒ほどの出来事である。カチカチと足をジタバタさせていた蜘蛛はあっという間にチリになった。
私は私で、背後からきた、集団になった大型の犬ほどある大きなアリを追い払う。アーチとランティスがこちらに襲いかかる前に叩き斬るので、それを見て逃げたと言ってもいい。
「この森を抜けてしばらく進めば孤児院に着くのよね」
「はい、そう聞いております」
そう答えながら、ウレックスは息も切らすことなく、ザシュ、と動き回る樹木を削ぎ切った。こいつも魔物だったのか。
「この森、前に他の騎士達と来たけど、こんなにたくさんの魔物には会わなかった……少し多くない?」
「そうですねぇ、後ろから見てましたが、徐々に数と強さが上がっている気がします。ね、ランティス」
「だな。隊長格が何人もいるからスムーズに進めているが、徐々に強くなってるな、そのうち言葉を話す奴が出て来たりしてな」
「えっ!」
言葉、話すの!?
今のところ「グルルル」とか「ガオー」とかしか聞いてないから、まさかお話可能な魔物がいるとは。それって……人間の夢叶っちゃうやつでは……?ペット(違う)と仲良く(違う)お話を?
はるか昔の記憶が蘇る。
幼い頃見たアニメでは犬が喋り、鳥が歌い、ウサギが話していた。
きびだんごのように携帯食でお友達になれないものかしら?きっともふもふのキツネさんだったり、クマさんだったりするのかしら?ネコ?えっやだ、もしかして鳥とか?オウムみたいな感じ?やだ、見つけたら連れて帰ろう……!
「……よし、いきましょう!」
「あ、ちょっとトキ、持って帰ろうとしてますね? 魔物を討伐依頼が来ている理由知ってますか? 交配して増えると困るからなんですけど!? 危険なんですけど!?」
「アーチ、卑猥なこと言うのやめて」
「だってよ、アーチ」
「ひ、ひどいです! 僕正論しか言ってないのに!」
◇
「あーあ……残念」
「へこんでますねぇ」
「疲れたし、喋る魔物は居ないし」
「トキ様、このウレックスの背中にお乗りください」
「あ、結構でーす」
この男、キラッキラの笑顔でボディの接触を求めて来やがる。元々このイケメン、天然で親切で優しいんだけど、こう、なんだか距離が……近い。
「?」
「? じゃない。離れろよ」
「あー! ウレックス〜、君急に距離詰めるのやめてくれません?トキ離れて離れて」
ラメでも散らしてるかのようなキラッキラのオーラを纏ったウレックスはニコニコしながら首を捻った。なんだろう……顔が良いね。
疲れているからかな、アーチもランティスもやけにくっつくじゃないか。なんだよ、顔が良いな。
「離れなさい、ウレックス」
周囲をキョロキョロと見回しながら、怪訝そうに私たちの元に来たのはハウだ。むすりとした表情ではあるが、顔が良い。
その後ろに、ダトーが空を見上げているのが見えた。おい、顔がいいな。
どいつもこいつも顔が良くて大変ですね。
改めて私の騎士達の顔の良さを再確認した。聖女ユナの言っていたゲームの世界というのが嫌でもわかる顔面の良さ。それを肴に携帯食モリモリ食べれるわ。今なら昔のクソ不味い携帯食も美味しく平らげられる。うんうん。
「なんだいハウ、ちょ、君そんなに力が強かっ」
「退がれ! ウレックス! ダトー、アーチ、ランティス! トキ様を守れ!!」
突然ハウが声を荒げたかと思うと、途端に空は黒い雲が押し寄せて地面を黒く染めていく。
「な、なに? あれ」
一筋の風が頬を撫でて、その冷たさにブルリと体が震える。風が強く吹いた方向を見れば、ポッカリと巨大な黒く渦巻いた穴が空間に浮かんでいた。