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14提案は事実確認後にお願いします



「言い分はなんだったって?」


「そ、それは、ああ、そうだ……ユナの服を部屋に忍び込んで切り刻んだだろう!」


 殿下がビシと指した先には、ビリビリに破けた制服のような布切れ。聖女ユナが大事そうに抱えているそれは私がやった事らしい。しかし私の答えは否だ。


「いいえ、やってません」

「嘘をつけ! 貴様が部屋から出てきたのを見たとメイドが言っていたそうだ! そうだろう、ユナ」

「そ、そうよ! 酷いわ! 私の大事な物なのに!」

「いやいや。そもそも私貴女の部屋も知らないし、その服だって見た事ないのよ?どうやってやるのよ」

「め、メイドが……! 貴女を見たと」


「そのメイド、出てきなさい」

「……」


「居ないの?貴女の言うメイドは誰? 連れてきて」

「……それは……」



「わかった、では次ね。毒入りお菓子だったかな? それは?」

「そのメイドが持ってきたのだろう! おい、メイドそうだろう!?」


 そうフロルド殿下から大声をかけられて、シェリルがもぞりと立ち上がる。縛られているため、立ち上がるのに苦労していたが、それでもしっかり自分の足で立ち上がった。そして真っ直ぐに聖女ユナを見据える。


「シェリルと申します。確かに私がお菓子をお部屋にお運びいたしました」

「ほら見ろ!!」

「お言葉ですが、聖女ユナ様に菓子を持ってくるように指示されました。どうしてもトキ様のおつくりになられたものをとおっしゃいましたが、その時はありませんでしたので、城下で今人気の菓子をご用意しました。お召し上がりになられたのはそれです」


「な、に? そうなのかユナ……? 市販のもの? いや! しかしお前が持ってきた事には変わりがないだろう!」


 聖女ユナはどんどん顔色が悪くなり、フロルド殿下は段々と険しくなる表情と共に口調も荒々しい物になっていく。唾を撒き散らし、喚くように叫んだ。


「ですが、」

「そんなことで罪からは逃れられんぞ!」


「——では、何か証拠は?」

「——へ?」


 シェリルの意見を聞いておいて、はなから聞き出したい言葉しか聞いてないなこの王子は。強引な話の運び方には賛成しかねる。

 そう、逃げられないと言うのであれば、証拠は必要だ。



「殿下、そうまでおっしゃるなら、その時の菓子から出た毒の種類は? 入手経路は? どんな症状が? お医者様はお呼びになったんですよね?」

「それ、は」


「無いのですか? 何も?」


「……」


 だろうね。


 ブルブルと震え出したユナがいい証拠だ。

 そんなことは考えもしないでちょっと倒れたふりをして毒だなんだと騒いだのだろう。

 権力社会ならば騒いだ方の勝ちだとでも思っている幼さが手に取るようにわかる。

 小説の読み過ぎでは?


「おっお前がどうせユナに嫉妬したんだろう!!」


「はぁ……嫉妬?」


「ユナが優秀だから、国の民に感謝されているのが気に入らないんだ! そうだろう!! メイドを操りユナを殺そうとするとは……!それだけでなく貴様は直接聖女を階段から突き落としたそうではないか!!」


「……嫉妬? 私が?」


 同じことを二回も言ってしまった。

 そうだ、そうに決まっているとなんの根拠も示さないままに、まるで鬼の首をとったかの様な責め方だ。1ミリも抱いたことのない言葉に、思わず口から漏れ出てしまった。それを図星と取ったのか、わっと勢いよく聖女ユナが身を乗り出して大声を出した。


「そ、そうよ! 私を殺そうとしたのよ! だから、貴女なんてこの国を出ていくべきなんだわ!」



 カタカタと足が、震えた。

 思わず震える手で口を押さえつける。


「———はは、やはりな。やっぱりそうなんだろ……卑怯な手でユナを殺そうと考える奸賊(かんぞく)め……!」



「———あはっあははは!」


「なっ何を笑って」


「訳わからないわ、なにそれ、私がこの聖女を殺してどうするの? 何に嫉妬してるって言うの?」


「そ、それは! 自分一人の手柄にして、国を乗っ取ろうとか! あ! そう、それよ! 国を乗っ取る気なんだわ!」


 頬を流れていた大粒の涙はどこへ消えてしまったのか、髪を振り乱して金切り声で私の悪事を訴える聖女は、まるで自らの罪を告白する罪人の様な必死さがある。これではどちらが断罪されているのかわかった物ではない。

 それでも、いまだに周囲の目は冷たく、私を見る目は聖女ユナを殺そうとしてる悪の組織の親玉とでも言わんばかりだ。疑いと戸惑いの目が私に降りかかっている。証拠に、殿下やダトー、ウレックス、ハウも口々に「そうだ」「悪女」「魔女」と顔をくしゃくしゃに歪めながら口汚く罵りはじめると、ザワザワと周りの使用人までもが同じ様に囁き始めた。



「ほら! ね? この女が偽聖女なのよ! 早く、早く追い出してっ!」


「偽? 貴女の尻拭いをさせられ続けてた私が?」


「なっ」


 ぎろりと睨むと、威勢よく唸っていた聖女ユナはピクっと震えると、口を閉じた。


 いやはや。ちゃんちゃらおかしいんだが。

 どうやら口にはしていないが尻拭いさせてるって自覚はあったのか、モゴモゴと口の中で何か言っている様だが、それは呑み込んだらしい。


 私は自分で自分を聖女なんで、なんて言ったこともないし。なんなら先輩はお前だろうが。

 後輩教育も満足にしないで先輩づらとかマジ勘弁してほしいわ。

 私が犠牲者である事をお忘れなの……?

 バカなの?

 

「ユナは……お前が料理人を集めて遊んでいる間も訓練でできた私達の傷や病を癒してくれていたんだぞ……!お前よりも慈悲深く、それに」


「あ……! あのイチャイチャイチャイチャ訓練場で遊んでいたやつね! 殿下や騎士達がお怪我されたり風邪をひかれたり、ってやつですか?」


「それはっ……!」


「で? 私はその何十倍も重病人治して、治療薬作って、村の豊作のために御祈祷して、薬作って寝る間もなく国のために働いてましたけど? 討伐に行って怪我して戻ってきた兵士ガン無視して取り巻きを治しまくってたやつのこと? バカなの? なんなの?」


 どこをどう取ったらそれが慈悲深いの?まぁね、自分のためじゃなくて、人のために施せるって言うのは美談だよ。間違いなく素晴らしい。でも、漫画やゲームの世界ではあるまいし、本当に治療の必要な人間は無視して好きな人に好きなタイミングだけなんて、そんな行動をとられたら誰だって不信感は募る。ここはそんなところでは無い。人はちゃんと生きているし、会話もするし、感情もある。いくら聖女といえど、慈悲を選ぶのでは、支持は得られない。私の騎士達は彼女に対して全然同情的ではないし、彼女には冷たい視線を送っている。周りをよく見れば良い。これが良い例だ。



「うるさい! うるっさい!!お前がユナを殺そうとしただろう!食事に毒を入れたり、服を引き裂いたり、わざと予定を伝えなかったり、それだけでも大罪だぞ!! 今回の国王の同行も本当は聖女様がいく予定だったのにお前が邪魔をしたんだ!」


「話が戻っています。ですが、今回の国王様の……というと?」



「……隣国への訪問だ! ユナから聞いたぞ……! ユナは父上から連れていくと約束をしていたのに突然話が無くなったと言うではないか! お前が何か仕組んだのだろう!」


「……」


「ほら、やはりな! はは、無礼者共め、貴様ら全員追放してやるからな……!」


 ちらり、と私達を囲む周囲に目を向ける。


 まだか……。


 すぐ目の前まで近づいてきた殿下が、唯一、『王子』と言う身分のために騎士による拘束が無いのを良い事に、乱暴に私の胸ぐらを掴んだ。布が引っ張り上げられ、自然と顔が上を向く。反動でガクガクと首がしなったが、咄嗟に体を聖女パワーで強化したためにさほど首にダメージはなかった。



 この10代の身体ならムチウチなんてならないだろうが、中身が30代なもんでヒヤヒヤする!女の子には優しく!やさしく!

 額がぶつかりそうなほどまで近づいた顔は、まさに鬼の様な形相。

 

 そこには憎悪としてやってやったと言う優越感と快楽が滲み出ている。それは果たして王子自身のものか、操っている人間の心情かはわからない。


 口元は耳まで釣り上がり、瞳に怪しい光を宿す人間達は全員同様の顔つきになっている。


 ダトーも、ウレックスも、ハウも、殿下も。そして聖女ユナも、ギラギラと鋭く目が吊り上がり、普段の穏やかな様子では無い。


 理解できないわけでも無い。

 自分の敵をよってたかって排除する時ってこんな感じだ。


 あれは小学生の頃、いじめる側、いじめられる側どちらになる事もあった。学校にシャーペン持ってきてる、悪い、悪く無い。なんて。集団で、我こそは正義だと言う側について争う。よくある光景。よくある排除の場面だ。自分の気に入らないものは省く。ヒートアップすると、もはや話し合いの余地はない。理性など、冷静さなどそこには存在しない。


 胸元を引っ張り上げられ、顔の前で怒鳴られ、喚かれ、口汚い言葉と一緒に顔に唾がかかる。


 この異様な空気の中、私は思う。


 獲物を追い詰める時ってこんな表情になってるんだろうな、って。




「聖女ユナに危害を加え、国王を謀った……これは国家反逆の罪だ! 大罪だ!今すぐに国外追放とする! どこへなりと出ていくが良い!!」


 勢いよく、殿下の手が私を突き飛ばす。

 聖女パワーのおかげで少しよろけるだけで済んだが、これが見た目通りのか弱い10代女子ならトラウマものだ。

 私が大人でよかったな。感謝しろ。

 心の中で毒づくと、気に障ったのか殿下は眉間に皺を寄せた。


 誰もが固唾を呑んでその様子を見守っている。

 

 静まり返った部屋の中で、どこからかカツカツと床を靴底が叩く音が響いた。

 


 ハッと息を呑む音が耳に入る。

 ざわりと、扉の方から聞こえ始め、どんどんとそのざわめきが近寄ってくる———




「誰が、誰を謀ったって?」





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