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10裁判官!異議あり!



「は? ちょっとごめん、聞こえなかった」

「ひんっごめんなさい、トキ様!」



 あっ違う違う〜、別に責めたいわけじゃないのだよシェリルちゃん。あまりにもそんな事ないだろうがよって内容だったんでつい。


 珍しく焦った様子で訓練場に駆け込んできたメイドのシェリルちゃんは、今日も可愛い。

 震えるシェリルちゃんの頭をなでなでしてあげれば気持ちよさそうに、「はわー」といいながらすり寄ってきた。わしゃわしゃと掻き回してもお咎めはなかった。可愛いぞ、シェリルちゃん!なんかこう、昔小学校で飼ってたウサギを思い出すよ。そう言えば、「へー、食べるために飼ってたんですか?1匹じゃ足りなくないですか?」という質問がアーチから飛んできた。


 何その考えこわ……。

 

 そうね。食べる国もあるもんね。ましてやここは異世界。なんでも食べるもんねこの国の人。日本人なんて目じゃないわ。人型以外は魔物も食べちゃうもんな、わかる。この前Aランクの討伐で大量の大型の魔物のラッド倒して食べたけど美味かったもん。動物の話聞いたら美味しそうってなるよね、わかるわかる。私も水族館行ったら美味しそーって思ってたもん。うんうん……ってやべ。完全に馴染んでるわこれ。こっちの人になってる。なんでも食べる人になってるわ…仕方ないね。美味しいんだもの。

 

「トキ」

「ああ、ランティスお疲れ様〜お願いしてたレシピの選考は上手く行って……何?」

「ん」

「ありがと! 何?」

「ん」


 ピロンと渡された用紙には、隊員の選んだ保存食のランキングが書かれており、晴れて一位になったレシピもそこに書かれていた。それを持ってきてくれたランティスは何故か戻らない。そして紙から手を離さない。

 むしろ一歩ずつこちらに近寄ってくるではないか。


「おい、そっちのメイドにはやるのに俺にはしないのか?」

「シェリルちゃん? ランティスちゃんって呼ばれたいわけ?」

「違う……それだ、頭」


「それ?」


 ランティスが顎でクイ、と指したのはシェリルちゃんの頭に乗った私の手。

 なんだと。 

 このムキムキ魔人は撫でられたい、だと?


「俺も主人のために働いたんだ、ご褒美貰っても良いだろ?」

「……なでなでが?」


 こくり、と頷いたランティスが「ん」と頭を下げた。背はそこまで低くないつもりだが、巨人のような大きさのランティスの頭は屈んでもらわないと手が届かない。

 下げられた頭、その髪に指を差し込めばぴくり、とその体がかすかに上下したが、それだけで抵抗する様子はない。おそらく動きやすさだけで切られた髪なんだろう。ちょっぴり枝毛を発見した。触り心地は悪くはない。少しだけゴワゴワした手触りに、髪の毛が太いんだなぁと思った。


「これでいい?」

「……ああ、存外悪くないな」

「私じゃなくて、恋人にやってもらってね。これじゃ飼い主と犬よ」

「ん」


 わかったのかわかってないのか微妙に判断のつかない返事にどっちやねんと思わなくもないが、撫でる方も気持ちがいいのがなでなでである。

 結果私も調子に乗ってなでなでしてしまうのだ。


 随分と気持ちのいい顔してからに。

 これでは本当に犬のようだ。


「トキ様ぁ……」


「あっそうだった、ごめんごめん」

 はっとしてシェリルちゃんの方に向き直すと、見事に膨れっ面を披露していた。

 あかーん。美少女のあられもないお顔が隊員全員に晒されてしまう。


「うーん、私にはなんにも覚えがないのよね」

「私もそう思います。なんだか様子がおかしかったんです。聖女ユナ様付きのメイドなんですけど、信じて疑っていないようでした」

「ふーん」


 ふーんとしか言いようがない。

 どうやら、私の部屋を掃除しにきていたシェリルちゃんの元にわざわざもう一人の聖女のユナ付きのメイドが数人でやってきて、『部屋が荒らされている』と訴えてきたらしい。


「私はそんな事をトキ様がするとは思えないんです。トキ様は意味のないことはお好きでは無いと伝えたんです」


「わ、シェリルちゃん……めっちゃ私のこと理解してるじゃん」


「えへへ」


 照れたように頬を赤るしぇりるちゃんかわいいい!


「ふん、当たり前だな」


 ふんぞりかえる筋肉は可愛くないな。何故便乗したんだろう。


「それで、その後なんですが、入れ替わるように王子殿下が来られまして、また同じようなお話をされていました。それで、妬むのをやめろ、とおっしゃっていましたが」


「妬む?」


 恨む、ならまぁわかるけど妬むはよくわからない。そりゃあ、あんたさえしっかりしてくれていれば私はこんな場所に来ることも無かった訳だし、ちゃんと聖女やれよと怨念こそあれど羨んだ事は無いぞ。


 首を捻っていたら、アーチがハイハイ!と元気よく手を上げた。


「それって、なんかまた企んでいるぽく無いですか?」


「どの辺が?」

 アーチが顎に手を当ててうーん、と唸ると、例えば、と口を開いた。


「今日は確か、本当ならトキ様が病院の訪問に行く予定だったじゃ無いですか、それを急に自分が行くと言ってウレックスとハウとダトーを連れて訪問に向かわれたじゃないですか。今までサボりまくっておられたのに、それが急に!」


「た、確かに」


「ねぇ、シェリル、メイドは何も持ってなかったですか?」


「えっと……何か、ですか?——あっ!持ってました。でもよくあるお菓子が入ったバスケットですよ?」


「それ、なんか変なもんが入ったお菓子だったかもしれないよ。誰もいなかったら置いて行こうとしてたんじゃない?自分は訪問に行ってるからアリバイもあるし。それを食べたトキが怒るのを待ってるんですよ!で、言い掛かりつけられたとかなんとか言うんじゃないですか?」

「えっやだ。陰湿!」


 ゾッとした。

 そんな発想なかった。

 そもそもそんなことされるほど接点ないんですけど。あいつ一緒に行くの断固拒否だし全部ドタキャンだし。


「トキ、一人にならないほうが良いだろうな、何されるかわかんないぞ」


「いやいや、お忘れなんですかね?ランティスとアーチがいつでも両サイド挟んでるから絶対大丈夫じゃん。めちゃくちゃ自由ないよ、私」


「いや、これはもう部屋の中でも見張っておいた方がいいんじゃないか?ベッドはキングサイズだろ?俺が一緒に寝てやるよ」


「おい、セクハラをやめろ!」


 貴様、中身が大人だと知ってからそこそこの頻度でセクハラしやがって。

 アーチも笑顔で『僕も僕も』じゃねーのよ!

 なんでお前らが部屋の中に入ってくるんだよ!外を見張れ!中には敵は居ないんだよっ!









「きゃあ!」


「……え?」


 ドン、と床に何かが叩きつけられる音がした。

 今日の晩御飯なんだろうなぁなんて、ぼんやり部屋までの長い階段を歩いていたら、急に目の前で悲鳴が聞こえてきた。なんの衝撃も、なんの接触も無いのにだ。

 え?と思い、顔を上げると、そこには階段の下で倒れているもう一人の聖女の姿。


 途端に慌ただしくバタバタと忙しない音を立てて聖女ユナの元に騎士達が駆けつけてきた。


 瞬間、ぶわり、と重い空気があたりに充満し、息がし辛くなる。

 ぐんと体が重くなる中、床に倒れた聖女は無事かと視線を向けると、突き刺すような視線と、轟々と燃え盛るような強い殺気が一直線に私に襲いかかった。


「貴様ぁ……!」


 重苦しく、ドスの利いた低い声が、地を震わせる。ピリピリと空気が痛い。

 金の髪がゆらりと動いた。


 その隙間から見えた聖女の瞳は、黒く艶のある瞳がぬらぬらと煌めき、溢れる涙はまるで宝石のようだった。儚く散る花のような少女が、そこにいた。パチリと視線が合う。くい、と勝ち誇ったかのように小さな薔薇の蕾のような唇が釣り上がった。



数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。

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楽しんでいただけましたら幸いでございます!

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