ぼくたちぬいぐるみ応援団!~青いカエルを君に見せたくて~
小学校高学年以上の読者さん向けです。
「痩せないなぁ」
このセリフ、一体何度目だろう?
和音ちゃん、そういいつつ、もうお菓子に手を伸ばしている。
「いいなぁ、ぴょん吉はお腹すかなくて」
和音ちゃんは、そういってぽすっと僕のお腹に顔をうずめた。
「あ~あ。太っていても私を好きになってくれる人いないかなぁ」
和音ちゃん、彼氏が欲しいのは分かるけれど、痩せていても太っていても和音ちゃんは和音ちゃんだよ?
僕は動かない手を一生懸命動かそうとして、開かない口を一生懸命開こうとして、やっぱりどうしてもできないことを日に何度も知る。
でも、すぐにできないこと忘れちゃうのか、また動かそうとする。
和音ちゃんの体温をこんなに感じるのに、どうして僕は動けないのかな?
ポテチをほおばりながら、僕を膝の上に乗せて、
「どうして食べ物ってこんなに美味しいの?罪だわ~」
と幸せそうに言う和音ちゃんを僕は心底かわいいと思う。
「あっ、ぴょん吉。腕のところ、ほつれている」
目ざとく見つけて、すぐ針と糸で僕をちくちく修理。
和音ちゃんは、ぬいぐるみ作家なんだ。
だから、今も部屋の中はぬいぐるみでいっぱいだし、修理を頼まれた子もいるから、いつもここはにぎやかだ。
「和音ちゃん、やっぱりぴょん吉ちゃんが特別なのね」
そう言ったのは、ウサギのぬいぐるみ。
明日、隣町へもらわれていく。
和音ちゃんは心を込めて、ぬいぐるみをつくる。
だから、和音ちゃんの作ったぬいぐるみには心が宿る。
みんな、優しい心を持ったものばかりだ。
「どうしてさ?」
僕は首を傾げた。
「だって、和音ちゃんの膝の上に乗せてもらえるし、修理もすぐにしてもらえる」
「俺たちは売り物で、ぴょん吉だけがいつも和音ちゃんの側にいられる」
「ぴょん吉だけ、ポテチで汚れた手でも触っても、ごめんでおわり。心許している証拠だ」
僕は慌てていった。
「ポテチで汚れた手で触られるのはさすがに嫌だけど、あとで洗濯してくれるからごめんですむんだよ」
「じゃぁ、どうしてぴょん吉さんだけ和音ちゃんは側に置いておくの?」
「それは……」
この子たちは、作られたばかりだから、何も知らないんだな。
話そうか話さまいか迷ったけれど、今日は特別和音ちゃんがポテチの次にポッキーを食べ始めたから話すことにした。
ポッキーはご機嫌な日や元気を出したい時にだけたべるからね。
あれはね。僕がまだターコイズと呼ぼれる色の広い布だったころ。
僕は優斗くんという子が、レジャーシートの代わりに幼稚園に持って行った布だったの。
優斗くんは、僕を好きじゃなかった。
だってみんな人気のキャラクターやきれいな模様が描かれているレジャーシートなのに、優斗くんだけターコイズの無地一色の布だったんだ。
優斗くんは、つまらなそうに恥ずかしそうに、隅っこで一人ぼっちで草の上に僕を敷いた。
「優斗くん、一人ぼっちなの?」
その時、和音ちゃんが心配そうに優斗くんに尋ねた。
「いいから。あっち行って」
優斗くんは、ぷいっと和音ちゃんに背を向ける。
「みんなあっちにいるよ」
「べつにいいよ、ひとりだって」
「あっ!カエル!!」
「え?!カエル!?」
優斗くんは、生き物が大好き。特にカエルは、家でもかっているほど好きだった。
「和音ちゃん、どこどこ?」
「そのきれいな布に、カエルがみえる」
「えっ!布にカエル?どこどこ?」
「そうじゃなくって、その布の中にカエルがいる」
「布の中に?えっと……」
「優斗くん、その布私のレジャーシートと交換して」
和音ちゃんのレジャーシートは、黄色くて四角い模様が入っていた。
「えっいいの?いいけど、和音ちゃん、お母さんから怒られない?」
「だいじょうぶ。うわぁ、カエルのぴょん吉が見える~♡」
優斗くんは首をかしげながらも、興味を持った。
「和音ちゃん、お弁当を一緒に食べよう。そのカエルのぴょん吉?の話、聞きたいんだけれど」
「うん!いいよ!ぴょん吉はね~、青いカエルですっごくきれいな目をしているんだ~」
「この布と関係があるの?」
「うん。その布をちくちくして、ぴょん吉を作るんだよ!私やっとこの間、チクチクするのおぼえたんだ~。まだまだお母さんに手伝ってもらわなきゃだけどね」
「すごい!ぬいぐるみを作るってことでしょう?僕もカエルのぬいぐるみ、見てみたい!」
「これくらいの広さなら、2つ作れるから、優斗くんにも作ろうか?」
「いいの?ありがとう」
「じゃぁ、僕は和音ちゃんに青いカエルを見せてあげる」
「え?緑じゃなくって?」
「うん。青いカエル。僕も見てみたいから」
「分かった。約束ね」
「「うん!指切りげんまん~うそついたらはりせんぼんの~ます。ゆびきったっ!」」
「和音ちゃん、お弁当の前にポッキー食べる?」
「いいの?ありがとう」
和音ちゃんは、嬉しそうに笑った。
そして、僕ができたんだ。
僕の目は、虹色のぼたん。
そして、もう一つのカエル、ぴょん子は青い体に白い貝殻のボタンで目が作られている。
僕ら二匹は、和音ちゃんと優斗くんの約束の証となった。
そこまで話すと、アライグマやクマを中心にみんな色々次々に質問してきた。
「ぴょん吉さんは、和音ちゃんの初めての作品なの?」
「うん」
「ぴょん子さんは今どうしているの?」
「分からない。優斗くんのお家は転勤が多くて、あちこちに引っ越して、その内和音ちゃんも引っ越して連絡がとれなくなっちゃったんだ」
「子供のころのぬいぐるみを大切にしている人の方が少ないから、心配だなぁ」
「うん」
僕は、和音ちゃんをそっと見た。
ポッキーをちょっとずつかじって、スマホの画面を見ている。
(和音ちゃん。優斗くんのこと、今でも好きなんだろうなぁ)
和音ちゃんは、彼氏が欲しいわりに、告白されても付き合わない。
そして、そんな日は、僕をみてため息をつく。
和音ちゃんに18歳になるまで彼氏ができなかったら、僕はあることを決意していた。
明日は、和音ちゃんの18歳の誕生日。
和音ちゃんは優斗くんの話を決してしない。
それは、和音ちゃんが優斗くんを今でも思っているから、口にすると会いたくなって、会えない悲しみが胸に湧き上がるから敢えて口にしないのだと思う。
18歳は、人間界では大人の仲間入りを意味する。
それに和音ちゃんは、ぬいぐるみ作家として立派に自立している。
今の和音ちゃんなら、ぴょん子がどうなっているか、優斗くんがどうしているか、受け止められる気がするんだ。
それに和音ちゃんが前に進むためにも知っておいた方がいい。
僕は、決意して周りの子たちに話をすることにした。
「ねぇ、みんな。協力してほしいことがあるんだ。ぼくたちでぴょん子と優斗くんを探さない?」
「ぴょん子さんと優斗くんを?どうやって?」
「そうだよ。ぴょん子がその優斗くんに大切にされてなくって、もしゴミにでも出されていたら……和音ちゃん、けっこうショックだと思うぞ?」
「だからこそ探すんだ!和音ちゃんが事実を知る前に、僕らで把握しておこう。僕らにだってできることはあるはずだ」
「分かった。和音ちゃんのためだもんな」
「で、どうやるの?」
「方法はーーーー伝言だ」
「伝言?」
「和音ちゃんに作られたぬいぐるみ同士は話すことができる。そして今や和音ちゃんは顔と本名は知られていないけれど、売れっ子のぬいぐるみ作家だ。いろいろな所に僕らの仲間はいる。この部屋にいるぬいぐるみだけだって30こはある。だから、どこかですれ違った時に情報交換するんだ。そして、僕に最後に情報が流れるようにする」
「うまくいくかな?」
「分からない。でも、僕らに今できるのはこの方法しかない」
「そうだね」
みんなの目が燃えていた。
みんな、和音ちゃんが大好きなんだ。
そうこうしている内に、話していたアライグマとクマのぬいぐるみの修理が終わって、届けられることになった。
「帰っても心は一緒よ。必ずぴょん子さんと優斗くんを探し出そうね」
アライグマの家は、大きなお屋敷だ。
そこのお家のお孫さんは、和音ちゃんのぬいぐるみを気に入って、たくさん飾ってあるんだ。
アライグマは、さっそく仲間に優斗くんとぴょん子のことを伝えたらしい。
お孫さんは、色々な所へアライグマやぬいぐるみを連れていくから、期待できる。
クマの家は、普通のお宅だけれど、机のわきに置かれているから、インターネットやテレビが見られるという。
「もしかしたら、優斗くんが有名人になって出演するかもしれないじゃん?」とクマは笑った。
それから1週間たって、別の子が修理に出されて、やってきた。
ネコのぬいぐるみだ。
「ぴょん吉さん、聞いたわよ、ぴょん子さんのこと」
そういって、ネコは驚くべき情報を告げた。
古びた青いカエルのぬいぐるみを持っていた高校生の男の子の話を、ネコのうちのお兄ちゃんが「珍しい」と話していたという内容。
そして、アライグマと同じ家のヤギのぬいぐるみが教えてくれたのだが、近くの図書館で高校生くらいの男の子がカエルの本を大量に借りていったという。
どちらも高校生。
年齢的には優斗くんと同じだし、カエルが好きだという共通点があるが、優斗くんだという保証はない。
僕はさらなる情報を待った。
すると、和音ちゃんが「できた!」と新しい子を作り上げた。
小さな子猫と子リスのぬいぐるみは、なんと図書館に置かれるものだった!
みんながいろめきたつ。
子猫と子リスは、「わたしたち、優斗くんという名前の子がいるかどうか探ればいいのね」と話が早い。
図書館には、定期的にアライグマを連れてお孫さんが行くから、情報は入る。
僕はドキドキした。
もしかしたら、もしかしたら。
和音ちゃんは、もくもくと針を動かしている。
和音ちゃん、優斗くんはもしかしたら近くにいるかもしれないよ。
図書館では、子猫は子供の本のコーナーに、子リスはカウンターの横に置かれた。
子猫が子供たちのはしゃぐ声をニコニコしながら眺めていると、カエルの本を大量に持った男の子がやってきて、子猫に向かって「かわいいな」と言ったという。
そして、驚くことに
「どことなくうちのやつに雰囲気が似ているなぁ」とつぶやいたというんだ。
家のやつ?
家のやつってもしかしてぴょん子さん?
子猫はそのつぶやきを聞き逃さなかった。
急いで子リスに「その子の名前、チェックして!」と伝え、子リスがパソコンに写しだされた名前をチェックして、「青柳優斗、優斗くんだ!」と叫んだ。
これもあれもあとから僕に入ってきた情報だ。
でも確実に僕ら、ううん、和音ちゃんは運にも恵まれていたんだね。
だって、広い世界の中で、こんな近くに会いたい人がいたんだもの。
ぴょん子についての情報は、あまり入ってこない。
多分、優斗くんがあまり連れてあるかないのだろう。
でも、僕らの情報網は確かに優斗くんをキャッチした。
僕たちは、優斗くんが図書館に来る日が、月曜日が多いことに気づいた。
なんとか月曜日に図書館に和音ちゃんを連れていけないか、みんなで話し合った。
子猫は
「私がどこかほつれればいいのかも」
といってくれたとアライグマの同じ家の青虫が教えてくれたが、なかなか図書館でぬいぐるみを振り回す子供はいないらしくて、実現しなかった。
いつもは店なんかに作ったぬいぐるみの様子を見に行く和音ちゃんだけど、ここずっと忙しく、出かける暇もない。
それに、和音ちゃんは本が苦手だ。
活字を見ると、眠くなるタイプ。
自分から好き好んで図書館に行くなんてことはしないだろう。
こんなに優斗くんに近づいているのに……!
僕らは、くやしがった。
そんなもやもやが続いていたある日、クマの持ち主がクマを連れて、和音ちゃんちに遊びに来た。
クマの持ち主は、和音ちゃんの幼稚園からの同級生なんだ。
これもクマに後から聞いたんだけれど、友達が優斗くんのブログを見つけたかもしれないということだった。
青いカエルのぬいぐるみを和音ちゃんが大切にしているから、その友達は青いカエルで検索して、何か和音ちゃんに贈ろうと思ったら、面白いブログを見つけたらしい。
クマがその続きを話してくれたけれど、そのブログの題名は「青いカエルを君に見せたくて」だったそうだ。
「それがさ。プロフィール写真が青いカエルのぬいぐるみで、目が白い貝殻のボタンだったんだよ」
「えぇっ」
「おれは、ぴょん子の顔を知らない。だから100パーセント優斗くんだとは言えないけれど、確率は高いだろう?」
「うん、そうだな」
「それで、おれ飼い犬のレオにメンチきってケンカふっかけたんだ。で、左手を負傷して、こうして修理に来させたわけ」
「クマ~~~(泣)」
「うまくブログの話になればいいんだけれどな」
クマの持ち主である友人と和音ちゃんは、ときどき大笑いしながら色々話をしている。
青いカエルのぬいぐるみは、ここではぼくだけ。
僕は精一杯愛想よく、友達に視線を合わせる。
視線ってさ、不思議なことに感じるんだよね。
友達は僕を見返しながら「そういえばさー。そのぬいぐるみとそっくりの写真を使って、ブログ書いている人いたよ~。カエルのブログでさ~。あのカエルももしかして、和音の作品なの?」
「「よっしゃーーーー!!」」
僕とクマは、心の中でガッツポーズをした。
「えっ?ぴょん吉とそっくりのカエル?」
「そう。カエルの雑学を面白おかしく書いてあるブログでね。確か『青いカエルを君に見せたくて』って題名だったかな。誰かに対してメッセージっぽいよね。カエルだけれど、ロマンチックだわ」
和音ちゃんは、ただ面白いカエルのブログがあることを知っただけだ。
だけど……絶対気になるよね。
題名が題名なだけに。
プロフィール写真がプロフィール写真なだけに。
友人とクマが帰った後、和音ちゃんはパソコンの電源をオンにした。
どきどき。
和音ちゃんの心臓がどっくんどっくん波打っている。
「ぴょん吉。期待してがっかりするのが怖い」
和音ちゃんは、僕のお腹にぽすっと頭をうずめる。
僕は必死で和音ちゃんの頭をなでようとしたけれど、できない。
でも……これはみんなの思いを受けて、僕の役目。だからやり遂げたい!
和音ちゃん、がんばって!僕らはこのためにがんばったんだ。
そうしたら……。
手が動いた!動いたんだよ。
和音ちゃんを僕が優しく撫でる。
うわぁ、僕も柔らかいけれど、和音ちゃんも柔らかい。
僕は精一杯思いを込めたよ。
勇気を出さないと、一生会えないよ!ずっと会いたかったんでしょう?
和音ちゃんは驚いて、僕をじっと見て、手を握って、自分の胸に当てた。
「不思議ね。ぴょん吉に撫でられた気がする」
気がするんじゃないよ、撫でたの。奇跡が起こったの。
和音ちゃんは、その目を潤ませながら、ぼくにちゅっとキスをして、キーボードの前に座った。
キーボードを打つ手が震えている。
「青いカエルを君に見せたくて」と入力して、エンターをぽちっ。
一番上に出てきた「青いカエルを君に見せたくて」の青い文字。
「本当にあった……」
和音ちゃんにドキドキは最高潮だ。
和音ちゃん、がんばれ!!
和音ちゃんは、深呼吸してからクリックした。
プロフィール画面には、ぴょん子が愛嬌のある顔をして映っている。
「ぴょん吉~~~!!!ぴょん子だ~~~~!!!」
和音ちゃんは、ぽろぽろ涙を流して、ぼくをぎゅっと抱きしめた。
和音ちゃん、優斗くんとぴょん子に会いに行くときは、僕も一緒に行くから。
和音ちゃんは緊張しいだからね。
優斗くん、ずっとずっと和音ちゃんとの約束、覚えていてくれたんだね。
和音ちゃん、早速ブログを読んで、コメントを書いたみたい。
良かったね、これで会えるね。
優斗くんが会える距離ににいるなんて、和音ちゃん、びっくりするだろうなぁ。
僕も妹のぴょん子に会えるのが楽しみだな。
でもさ、和音ちゃん。
きっと優斗くんに会うまでにお菓子を断ってダイエットするんだろうけれど、今のままで和音ちゃんは十分かわいいから、大丈夫だよ。
ねぇ、みんな。
「「「「「「「「「「「「「「「うん!」」」」」」」」」」」」」」
おしまい
お読みくださり、ありがとうございました!
ご感想などいただけましたら、大変嬉しいです。