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The Providence ー遭遇ー  作者: hisaragi
Chapter 1
5/28

脈動

2024年8月

東京都 市ヶ谷


 柳川3等陸佐は、報告のため立花陸将の執務室に居た。


「では、老人に関しては何も分からないという事だな?」


「申し訳ありません。あの通話記録を精査しても、回線への侵入方法は皆目見当が付きません。それに、老人が言う『守護者』についても調べましたが、神話や伝承の類ばかりで、現在活動する団体や組織的なものと繋がる事は発見できません」


 立花は椅子に座りながら手を頭の後ろで組み、背もたれに寄り掛かった。

「そうか‥‥‥。君が調べても分からないとなると‥‥‥」


 柳川は報告書を立花に手渡した。

「それと、関係あるか分かりませんが、これを見てください」


「これは?」

 立花は渡された報告書に目を落とした。


「老人とは関係ないと思いますが。1か月前、カナダ西部の都市で奇妙な事件が発生しました。ある廃墟のビルが突然爆発を起こしたのですが、地元警察の発表では、ホームレスが起こした爆発事故をとして処理されました‥‥‥ただ‥‥‥」


「ただ?」


「その爆発事故の直前に、武装した集団が建物に侵入し銃撃戦があったそうです。それに爆発自体が奇妙で、建物の2階と3階、それに隣接する建物の一部が抉り取られるように消滅したと言うのです。そして、その後が問題なんですが、その爆発があった時刻に、アメリカのLIGO(レーザー干渉計重力波観測所)で重力波が検出されました。日本の同様の研究施設KAGRAでも僅かに重力波を検出したそうです」

 

 報告書には抉り取られた建物の現場の画像が何枚かあった。立花は報告書を机に置いて、コーヒーが入ったマグカップに手を伸ばした。


「どう言う事だ?レーザー干渉重力波観測所は、中性子星や超新星爆発などから重力波放出を検出する施設だと認識しているが、それが地上で起きたと言うのか?」


「正直、ハッキリとは分かりません‥‥‥。かなり大きな力で情報操作されているので、その可能性が有るらしいとしか‥‥‥。それと、その武装集団なのですが、どうもアメリカのAATIP(先端航空宇宙脅威特定プログラム)の研究を引き継いだ、国際石油資本セブンシスターズの一つ、『アメリカン オイル』のCEOストーンフェザーが設立した、非公然組織|『UFORG』《未確認飛行物体研究グループ》の警備部隊、TSET(脅威捜索排除チーム)が北米での動きを活発化させているようです」


「UFORG?その組織の資料は以前読んだことがあるが、只のUFO信者の研究組織ではないのか?」


「それが、まだ調査途中なので、ウラが取れているわけでは無いのですが、そのUFORGに、情報を提供している特殊な情報提供者(・・・・・・・・)の存在が過激な行動を顕著にさせた原因があるらしいのです」


特殊な情報提供者(・・・・・・・・)?何者だ?」


「それが、相当高度なセキュリティーに守られていまして、完全に隠蔽されています」


「そうか‥‥‥。では、TSETの敵は?」


「現在調査中です。詳細が分かり次第、報告書を提出します」


「そうか。分かった、ではUFORGに関して引き続き調査を頼む」


「了解しました」


 柳川3佐は立花の執務室を後にした。


 立花は窓から東京を見下ろしていた。乱立するビルの隙間から迎賓館赤坂離宮、皇居、新宿御苑が見えた。

 (一体何が起こっているというのか‥‥‥UFO調査研究組織と重力波を伴う爆発か‥‥‥。それに巨大な小惑星‥‥‥)


この街もあと11か月後に消滅してしまうのかもしれない‥‥‥


――――――――――――――――


2024年8月下旬

神奈川県相模川市


 汗が額から鼻筋を通って滴り落ち、アスファルトに出来た染みは2秒持たなく蒸発した。

 

 少年はまだ夏を体全体で感じる事ができる残暑の中を、黙々と地面を凝視していた。傍から見ると何かを落としてしまい、それを探しているとしか見えない。実際、少年は何度も『落とし物かい?』と、すれ違うオバちゃんに声を掛けられたことがあった。


 では、彼はこの炎天下の中何をしているのだろうか?


 それは彼の趣味でもあり部活でもある、表採と呼ばれる、田畑や土木工事などで掘り返された地中から、再び地表に現れた古代の遺物である、石器や土器を採集する事に熱中しているのだった。


 非常に地味な作業である。


 勝手に田畑に入って掘り返す事は出来ないため、掘り返されて隅に捨てやられた石の山などから石器を目視で探し出す。たまに、農作業中の人に許可を貰って堂々と中に入って探す事もあるが、出来るだけ他人と接触せず地道に探すのがいつものスタイルだった。


 この趣味の良いところは、自分に都合が良い時に一年を通していつでもできる事、お金が掛からない事、何と言っても独りだけで出来る事だった。


 彼は別に独りを好んでいる訳ではない。いつしか、自分の意志とは関係なく独りで行動する事が常になってしまった。小学校時代は、よく友達とゲームや、空き地や学校でゴムボール野球、それにサッカーをする事があった。しかし、中学生になってから少しづつ、友人から距離を置かれてしまうようになった。


それは、何故なのか?


 彼の性格の悪さや不潔だったり、下品だったり、嘘つきや盗み癖、口が悪い‥‥‥と言う訳ではなく、彼自身が原因となってそうなった訳では無いのだが、それを彼がいくら考えても原因となる事は思いつかなかった。


 彼からクラスメイトに話し掛けると、相手は困った顔や、異質なモノを見るように眉間に皺を寄せ、距離を置いてしまう。だけど、苛めを受けている訳ではなく、事務的な接触、例えば係や委員会の連絡などは普通にして貰えるので、殆ど学校生活で困る事は無かった。


 高校に行けば変わる筈だ。彼はそう思っていた。意気揚々と進学し新しい生活を始めたが、やはり友達と呼べる存在は彼には出来なかった。


 そういう事もあり、部活は独りでも活動出来る考古学研究部に入部し、暇さえあれば石器探しに夢中になっていたのだ。この部活は先輩が一人、同級生が一人の、彼を入れて3人しか居ない。そのためか、皆で集まって石器探しに行くような、盛んな部で無い事も彼にとっては好都合だった。


 しかし、一つ謎があった。それは同級生の沢原 亜紀が普通に彼に話掛けて来るのだった。彼女は、いかにも女子高生の様な洒落っ気は無く、黒縁眼鏡、肩口までの黒髪で、ぱっと見はお世辞にも可愛らしいとは言えない、少し暗めの女子だった。彼が、採集した古代の遺物を保管、整理する為に部室に行くと、採集した物の年代の説明や、採集場所を楽しそうに尋ねて来るのだった。ただ単に博物学が好きな少し変わった女子高生と言うのが、彼の感想だった。


(それにしても暑い‥‥‥土器片や黒曜石の破片があるからポイント的には問題ないと思うけど‥‥‥)


 表採をするにはいくつかポイントがある。それは南向きの緩い斜面や平地で近くに古くから川があり、更に神社があるところの近辺を探す。それと、古墳があるところなら可能性はグンと上がる。


 しかし、今日のポイントではまだ見つかっていなかった。


(流石にこのままだと熱中症になるかも‥‥‥そろそろ帰るか)


 彼は、空振りに終わったポイントを後にした。多分掘ることが出来れば必ず見つかるはずだが、あくまでも地表に現れた物だけを探すので、見つからない時もままある。


 彼は少しふらつきながら自宅に向かってトボトボと独りで歩いていた。


(あぁ、明日から新学期か‥‥‥)


 全く面白くもない学校へ行くのは彼には億劫であった。成績が良い訳ではないが悪い訳でも無い。中の上程度なので学業には問題は無い。

ただ、同級生[沢原除く]から、避けられる度に、彼の内にある何かが削られていくのだった‥‥‥。



「ただいま‥‥‥」


 彼がリビングに行くと妹の莉子がソファにゴロリと横になり海外ドラマを見てた。

些細な罪に問われた100人の少年少女が、宇宙ステーションから荒廃した地球の調査の為に送られるというドラマだった。これは、毎回が映画の様なクオリティーと予算が掛けられており、日本のドラマが遠く霞んで殆ど見えなくなるようなレベルの差があった。


「お、ボッチのご帰還か」

 莉子は彼の方を見ることなく、いつもの様に小馬鹿にした物言いで彼の帰宅を迎えた。


「うっせ!」


 莉子は彼から二つ年下の中学2年生だ。小さい頃の彼女はいつも兄の背中を追うように、どこにでもくっ付いて行くほど兄を慕っていたのだが、ある事件が切っ掛けになり、兄である彼を見下すようになったのである。


 それは、ほんの些末な事で、普通の生活をしていれば一度は体験する事だが、彼女には大きな出来事だったのかもしれない‥‥‥。


 3年前のある日‥‥‥。


 彼は学校からの帰宅途中に激しい腹痛に襲われた。それは誰にでも突発的に起こる生理現象で、時と場所を選ばずある日突然やって来る。


 幸いな事に、もう少しで家に到着する。


 彼は神に祈っていた。『神様!後生です‥‥‥何とかこの痛みを和らげて、無事に家に着きますように!お願いいたします!二度と距離を置くクラウスメイトを呪ったりしませんから!!』


 その願いが神に届いたのかは分からない。しかし、ギリギリ、非常に危うい状態(少し顔が出ている)で何とか自宅の、彼が熱望する心の安寧を約束する、サンクチュアリに辿り着き、制服のズボンを素早く脱ぎ捨て、いつもの便座に座る事が出来た。


(あっぶねー!!危うく漏らすところだった!神様ありがとう!!)


 しかし、漏らすという定義はどういう事なのだろうか?確かに、パンツを汚すことは無かったかもしれない。しかし、顔を覗かせていたのだ。僅かでも肛門から這い出てきた段階で、漏らしたとは言えないだろうか?


 皆も考えて欲しい、顔を覗かせた物体に、未知の力が働き、コロリと体から切り離されたとしたら、それは漏らしたといえる。しかし、この場合は落下せず、ギリギリ身体から解き放たれていは居なかった。これは漏らしてはいないと言えるのか?


 凄くどうでもいい事である。


 しかし、問題はこの事では無かった。今までの緊張感は、この後に起こる事に比べれば非常に些末な事で、心底どうでもいい事である。


 それは突然やって来た‥‥‥。


 ガチャリ‥‥‥。


「!」


「あ!蒼兄ちゃんゴ、ゴメン!!‥‥‥え!、ちょっとお兄ちゃん、それって‥‥‥座る向き逆じゃね?」


「え!」


 得てして、恐怖や絶望と言うのは、人類の傍でしたり顔でじっと時を待っている。そして、地獄に引きずり込む鬼の様に、絶対的な力を誇示しようとするのだ‥‥‥。


 この事件以来、妹は彼を小ばかにした態度を取る事になったのだ――。

お読みいただきありがとうございます。やっと高校生が登場しましたが、すこし下品なエピソードになってしまいました。今後この様な事が無い様に気を付けてまいります。

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