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The Providence ー遭遇ー  作者: hisaragi
Chapter 3
28/28

ancient memory “ambiguous wry smile”

 羽犬塚は一トン半の金属製の冷たい床の上に、担架とホテルから持って来た毛布や枕を敷いて、その上で横になっていた。一トン半が揺れる度に、歯を食いしばって痛みに耐えている。


「羽犬塚、近くの病院に向かっているから。もうちょっと頑張れよ!」

 城隅は顔色が悪くなってきている羽犬塚に声を掛けると目を合わせ頷くだけだった。


 ホテルの医務室に有った市販のアスピリン程度では貫通銃創の痛みは楽にならない。モルヒネが必要になる。

 

しかし、相当強い痛みが有る筈だが、それを表に出さず身体の中に封じ込めている、羽犬塚の精神力はかなりの物だ。


 一トン半は軽井沢の中心街に向かって片側一車線の県道を走っていた。その間、民間人を乗せた自衛隊の三トン半大型トラックや高機動車の一団とすれ違った。


 後部荷台は、前方に旧式のA3陸上無線機が架台に載せられ床面にボルト付けされており、両サイドには長い木製のベンチが設置されていて横向きに座るようになっている。ベンチにはシートベルトもクッションも無いので、タイヤの振動がそのままベンチを通して尾てい骨に響く。段差が有ると体が浮く事も間々あるし、急なブレーキを掛けると、乗員や荷物が前に滑ってしまう。隣に綺麗な女性が乗っていれば、そういうアクシデントも有りなのだが、訓練帰りの汗と草や泥が混じった臭いのオッサンだと、シッカリと踏ん張って慣性力から逃れようとするはずだ。


 蒼は荷台を覆っている幌を少しめくり、後ろの景色を見ていた。道や木々かグングンと遠ざかってゆく。空を見ると、雨は次第に強くなって、強風と分厚い雨雲がこれから起こる危機を暗示しているよう感じていた。


 ゴルフコースエリアから離れると、少しずつ人家の数が増えて来た。コンビニやスーパーなどは営業しており、水や食料品、生活必需品を買いに来た人が長い列を作っていた。

 それでも、都市部に比べてこの辺りはそれ程混乱していない。首相の記者会見で車両での移動は厳禁と宣言されていたが、警察や自衛隊の車両に交じって一般車両も走っていた。

 

 脅威とされる小惑星もディビジョンも見ていない国民の殆どは、現実的と捉えるのは難しい。北朝鮮のミサイルの様に実害が無ければ大した事無いと考えている者もいる。

 しかし、それも数時間後には世界のどこかに、ディビジョンの第一陣が飛来してくる。そうなれば、尻に火が付き慌てて避難をする事になるだろう。


「ユヅキさん、ちょっと聞いていいかな?」

「ええ、いいわよ」

イデュ(管理する者)の仲間はどこに居るの?その‥‥‥このあいだ亡くなった方の他に居ないのかと思って」

 蒼は莉子を助けてセーフハウスで絶命した男性の事を思い出していた。それ以外にも協力者がいると聞いていたが、花宗と同じように戦える人は居ないのかと考えていた。


 一トン半の幌の隙間から冷たく湿った風が入って来る。腰の辺りが冷えて来ていた。羽犬塚も体温が下がらないように毛布が掛けてあるとはいえかなり冷えているはずだ。沢原と莉子を見ると肩を竦めて両肩に手を当てている。


「あの時は、部屋に居た男性以外にも犠牲者が出ていたの。それに、前も言ったかもしれないけど、私みたいに戦える人は大勢いるわけでは無いのよ。他の仲間は聖域で蒼を待っていて、カラグ(守護する者)(ちから)を授ける為に準備をしているわ」

 花宗はそう言いながら耳元の髪を掻き上げた。


 遠山と矢留、神崎の3人は自分達の小銃と回収した敵のガリル自動小銃の動作点検と残弾数の確認をしていた。


「なるほど‥‥‥。そこに行ったら何か儀式的な事とか有るのかな?痛いとかないよね?ハハハ」

 小心者の蒼は古代の神の聖域と聞いて怪しい儀式が行われるのではないかと心配していた。


「私も実際見た訳ではないので分からない事もあるけど、古代文明みたいな生贄とかそういうイメージの儀式とは違うし、痛みとかも無いはずよ。パソコンにプログラムをインストールする感じかな?」


「インストール?へ、へぇ‥‥‥何だが凄い。どんな感じがするんだろう」

 蒼は人間に何かをインストールすると聞いて、曖昧な苦笑いと納得した様な微妙な顔をしていた。既に蒼の想像の上を行っていたからだ。


「その時は今ある疑問が全て解け、アブアマの記憶(・・)が蒼に受け継がれる。そして、(ちから)の使い方も理解できるようになるわ」 

 花宗は凄く簡単な事と言わんばかりにケロリと言う。パソコンがプログラムをインストールする事によって、出来る事が増える様なものなのだろう。睡眠学習が現実的なものとなった。しかも、自然の(ことわり)を操作できる人間を作り出せる睡眠学習があれば、世界の軍事バランスは大きく崩れるだろう。


「ゴメン、なんだか想像できないよ。僕にそんな可能性が有るなんて‥‥‥」


「そうよね。普通の人は蒼と同じ反応するのは尤もな事だわ」


 一トン半は少し斜面を登ると減速した。蒼は幌を少しずらして外を見ると、『軽井沢総合病院』の看板を通り過ぎる所だった。


「病院に着いたみたいだよ」


 エントランスの前で停車すると、神崎が一トン半の後板(こうばん)の両サイドのロックを外し、「下ろしますよ!」と言うと、ガタンと音がして勢いよく開いた。

 そして、飛び降りると矢留と一緒に羽犬塚の担架を慎重に受け取った。すると、先に病院に入っていた柳川と城隅が看護師と一緒にストレッチャーを押して出てきた。

 担架ごとストレッチャーに乗せると、4人が柳川の掛け声で羽犬塚を少しだけ持ち上る。

「上げるよーい、上ーげ!!」

 その隙に城隅が担架を引き抜いた。


 柳川、城隅、遠山の3人は看護師と一緒にストレッチャーを押して病院に入って行った。すぐに矢留と神崎、基山は一トン半の周りに立ち、小銃を携えて周囲を警戒している。


 矢留は単眼鏡を取り出して周囲を見ながら4人に声を掛けた。

「みんな、車両から離れないで。敵は一般人にも紛れているかもしれないからね!」


 蒼達は「了解です」と言ったが、羽犬塚さんの事や疲労などでとても離れる気は起きない。



 入口のガラス製の自動ドアには外来の診療は中止という張り紙がしてあり、院内の待合室や受付の照明も消されていて看護師や医者が忙しそうに走り回っているのが見える。入院患者を非難させるために、病院のスタッフは混乱しているのだ。そして同じような事が日本中で起きているはずだった。


 蒼達と花宗は一トン半から降りて、雨を避けてエントランスの屋根の下に入った。2人は病院に入って行った羽犬塚を心配そうに見ていた。


「大丈夫かな?」

 莉子は暗く落ち込んだ顔をして呟いた。蒼はそれを聞いて荷台にひょっこりと顔を覗かせた。

「だ、大丈夫だよ!病院に着いたんだから、治療なり手術なり出来るんだから!」

 蒼は莉子の為もそう言ったが、本当は自分の為でもあった。もし、羽犬塚が死んでしまったりしたら‥‥‥そう考えると、不安で仕方なかった。沢原は莉子の隣に座り手を握っている。


 暫くして遠山が病院から出てきた。

「羽犬塚は大丈夫みたいだよ。出血量も大した事ないし、臓器の損傷も無さそうだ。念のため一通りの検査はして貰えるから皆も安心して欲しい」


「そ、そうです!良かった‥‥‥本当に良かった‥‥‥」

 蒼は嬉しさのあまり膝の(ちから)が抜け、地べたに座り込んでしまった。遠山の最高に良い報告を聞いてみんなも笑顔になって顔を見合わせていた。


 遠山は後部荷台を覗いた。

「それで、沢原さん、莉子ちゃん、大丈夫かい?もし降りるならここに残って貰っても構わない。あとで、別の隊員を手配してご家族の元へ送る事ようにするよ」


 2人は疲れた顔をしていたが、キッと覚悟を決めた軍人の様に、目をギラリと光らせ激しく首を横に振った。さっきまで銃撃戦の中に居て、人生で最も怖い体験をしたというのに、それでも、2人の決意は固く、諦めようとは微塵も思っていなかった。何が2人をそこまで奮い立たせているのかは、本人達にしか分からない。その事は、遠山も含めここに居る者達全員が不思議に思っていたが、2人の表情を見てそれ以上説得しようとは誰も思わなかった。


「そ、そうか‥‥‥分かった」


 蒼は莉子を心配そうに見た。ずっと薄暗い荷台で俯いて座っている莉子に話し掛けようと近づくと、口角を少し上げてニヤついていたのだ。(な、なんだコイツ!?笑ってやがる‥‥‥ひぇ)


 莉子はホルスターから拳銃を抜いていて、太腿の上で弾倉を抜いたり入れたりしながら、色々な角度から銃を見ていたのだ。

(コイツちょっとアブねー奴なんじゃ‥‥‥)


「おい!莉子!銃は玩具じゃないんだから!暴発したらどうすんだよ!」


「うっさいなー!ボッチ―は!チャンバーに装填していないから大丈夫だよ!ったく、これだからボッチ―は!」

 とても普通の女子中学生が言う言葉ではないが、それを凄く当たり前のように言い放った。


「何!!ユヅキさんだって、常に装填されていると思って扱うようにって言っていたじゃん!遠山さんからも何か言って下さいよぉー!」


 急に話を振られた遠山は少し困った顔をしていた。

「お、おお!莉子ちゃん、確かに弾倉を入れた状態でいじくるのは勧められないな。せめて弾を完全に出して銃の点検とかするなら良いけどね。自分だけじゃなく他人を怪我させる可能性もあるんだから」


 遠山に窘められて、莉子は口を尖らせて渋々ホルスターにしまった。

「はぁい。分かりました‥‥‥」


「ったく、調子に乗った中学生ほど面倒臭い物はないよ」

 蒼がブツブツ言っている後ろにニヤリと笑った矢留が近づいて来た。

「まぁまぁ、蒼もピリピリしないで、あたしからも後で言っておくからっ!!」

 

 ズボッ!!


「ぎえーーーー!!!!!」

 

 矢留の2本の人差し指は第二関節まで蒼のピンホールに埋まっていた。

 

 ドン引きして遠目で見ている沢原。


「お!ご褒美かよ!!」

 意味不明な言葉を発する神崎‥‥‥。


 あまりにも衝撃的な出来事に言葉を無くす花宗。


 そして、ピンホールを押さえて膝から崩れ落ちる蒼‥‥‥。


「な、何をするんですか‥‥‥?へ、下手したら肛×門×裂傷‥‥‥し‥‥‥ますよ‥‥‥」


「隙があったから。ゴメンね!‥‥‥てへっ!」



「『てへっ!』じゃねーーー!!(ぜってーサイコパスだ!矢留さんは‥‥‥サイコパスだよ‥‥‥)」




 柳川と城隅が病院から出てきた。

「お、どうした?何かあったか?」


 矢留は直立不動で綺麗な挙手の敬礼をした。

「人員武器装備異状なし!!」


(矢留さん‥‥‥あんたは鬼だ‥‥‥鬼女だ‥‥‥)

 蒼は一トン半の陰で涙を流していた‥‥‥。花宗が心配そうに歩み寄って来た。



「そ、そうか‥‥‥なら良いけどな。羽犬塚は大丈夫だ。内臓を損傷してなかったから敗血症の心配も無さそうだ。症状が安定したら自衛隊中央病院に移送するようになっている」


「そうですか。本当に良かったです!!(お尻は痛いですが‥‥‥)」



「では、速やかに移動するぞ。途中で防寒着をどこかの洋品店で手に入れよう。Tシャツじゃ寒いだろう?」


「そ、そうですね。雨が無ければ良いんですが。そうしてもらえるとありがたいです‥‥‥(お尻から血とか出てないよな‥‥‥)」

 蒼はカーゴパンツの上から割れ目に手を当てた。感触的には濡れていない。

(た、多分大丈夫だよな‥‥‥まさか痔主に‥‥‥)


「よし!全員乗車!」


 柳川の一声で全員が車両に乗り込み、皆神山を目指して一トン半は動き出した‥‥‥。





――――――――――――――――


城山基地 地下100m

Unknown One Task Force


 神奈川県西部。人造湖の地下100mにある現在の日本の中枢的施設。


 ここでは関係各国と連携して、Unknown Oneと地球に向かっているディビジョンの監視を行っていた。


 アシスタンの女性自衛官は、WAFの技術陸曹だ。彼女達の所にはJAXAやNASA、それと協力国からの情報がリアルタイムで送られて来る。

「ディレクター!JAXAとNORADからデータを受信しました!ディビジョンの第一陣が、MEO(中軌道)に入りました!推定50機!速度は減速していますが、1時間以内に大気圏に突入する可能性ありです!」



「了解した。正確な到達地点が、分かり次第教えてくれ!それと、内閣府調整官はすぐに危機管理センターに連絡!幕僚監部にも報告してくれ!」

  


 人類史上最大の脅威は神なのか侵略者なのか――――。その答えはすぐそこにある‥‥‥。




 

お読み頂きありがとうございます!

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