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The Providence ー遭遇ー  作者: hisaragi
Chapter 2
24/28

rain

軽井沢南部


 ぽつりと水滴が肌に触れた。


 気温は22℃。空は一面に雨雲が広がり、今にも本格的に降り出しそうだった。


タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!


 城隅が羽犬塚に肩を貸して前に進む。

「ウグッ‥‥‥痛っ!ふーっ!ふーっ!」

 羽犬塚は脇腹に貫通銃創を負っていた。出血量からも動脈は傷ついていないが、動くたびに眉間に皺を寄せ、ちいさく呻き声をあげていた。

「頑張れ!羽犬塚!もう少し行けば休めるぞ!」

「す、すいません‥‥‥城‥‥‥隅1尉‥‥‥」


『50m先の茂みまで行くぞ!エコー援護しろ!』

『了解!!』

タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!

 ゴルフコースにミニミ軽機関銃の連射音が響く。


シヒュン!!シヒュン!!


 そして敵の弾がが頭上を掠め、空気を切り裂く音が鼓膜を震わせた。


『リロード!』

 矢留が叫んだ!ミニミの弾丸を撃ち尽くした。すぐにその場に伏せ、箱型の弾倉を交換する。


 すかさず遠山と神崎が矢留を援護する。


『エコーそのまま這ってください!』


 タパン!タパン! タタン! タタン! タタン!タパン!!


 神崎の言葉で、矢留はフェアウェイの芝を掴みながら、完全に顔を伏せた第4匍匐でみんなが居る茂みまで移動する。矢留の頭をかすめた弾丸は土煙を上げて芝を吹き飛ばした!何とか茂みに辿り着き直ぐに木の陰に転がるように身を潜める。


「はぁー!はぁー!ミニミは最後の弾倉です!はぁー!はぁー!‥‥‥死ぬかと思ったわ!ユヅキちゃん!」

「大丈夫ですか!!」

 矢留は肩で息をしていたが、花宗を見てニヤリと笑った。

「ユヅキちゃん小銃は撃てるよね?」

「え、ええ使えますよ」

「じゃ、これ、弾は入っているから」

「了解です」

 矢留から小銃と弾倉を受け取ると、チャージングハンドルを引いて弾丸を装填した。


「了解、弾は節約してくれよ!‥‥‥3人は大丈夫か?」

 柳川が蒼達に声を掛けた。

「は、はい!大丈夫ですが、沢原さんがちょっと辛いみたいです」

「大‥‥‥丈夫‥‥‥まだ、大丈‥‥‥夫、はぁー!はぁー!はぁー!‥‥‥」

 沢原はかなり辛そうで顔色が悪い。

「もう少しだ。ホテルに入れば少しは休める。何とか頑張ってくれ!」

「は、はい‥‥‥分かり‥‥‥まひた」


 神崎は本隊から少し離れたところで腹ばいになり、スコープを覗く。そして、ゆっくりとトリガーに指を掛けた。

 

 スコープのクロスヘアに目標の頭部が重なる。


 呼吸に合わせ、トリガーを絞った。タパン!!


 スコープの向こうに居る目標の頭部から血液と脳の一部が飛び散った。


 撃ち終わってもトリガーは完全に戻さない。戻しきる寸前のところでカチリと指先に振動が来る。そこで止めて次の獲物に照準を合わせた。こうすると、戻しきるよりも軽くトリガーを落とせるのだ。


 神崎は呼吸を整えゆっくりとトリガーを絞る。タパン!!


 2人目は右肩を掠めた!

「チッ!」

『一人倒して、一人軽傷。残り4』

『良いぞ!フォックストロット!全員無駄玉は撃つなよ!』

『了解!!』


「沢原さん大丈夫?あと200mもないはず」

「え、ええ‥‥‥まだいけます!はぁー、はぁー‥‥‥」

「取り合えず、水を一口飲んで。ほら」

「あ、ありがとう、大溝君‥‥‥」

「莉子‥‥‥は、大丈夫そうだな!」

「は?妹にはちょっと雑じゃね?」

「ほら、元気そうじゃん」

 莉子はほっぺを膨らませていた

 それを見て、沢原は少し笑顔を見せた。


 まだ雲は我慢していたが、それも時間の問題だ。 



「柳川3佐」

「なんだ?」

「ちょっとおかしくないですか?こちらは負傷者と子供連れとはいえ、相手はたった4人でしつこく付いてくる。敵は弾薬が尽きれば何も出来ないなず、それとも補給が来るのか‥‥‥。武装も小火器だけだし、連携も出来ていない事から、何も考えていないのか‥‥‥。敵の落としどころが分かりませんね」

「俺もそこは解せない。馬鹿な狂信者か、はたまた時間稼ぎか‥‥‥?」

「時間稼ぎ?では増援か補給か?」

「分からんね。こっちは基山が来れば補給できるが‥‥‥。とにかくホテルまで子供達と羽犬塚を連れて行くしかない。遠山1曹は羽犬塚を頼む。あとちょっとだ」

「了解です!」


『全員聞いてくれ!残り200も無い。エコーとフォックストロットで援護してくれ。残りは一気に建物に入るぞ』

『了解!!』


『前へ!!』


 矢留がミニミで牽制射撃をしている間に、神崎がスコープを覗く。


 その間に蒼と莉子は沢原の手を引いて走った。



『よし!2人は後退しろ!』

『了解!』

 矢留と神崎は射撃位置から匍匐で移動し、柳川と花宗の援護射撃で後退する。それを繰り返す。


 敵の攻撃も極端に減って来た。弾薬が少ないのだろう。


 羽犬塚も相当に辛いはずだが、自分が進まなくては仲間が道連になってしまう。そう考えると、今感じている痛みを気にしている場合じゃなかった。


『アルファ!全員建物に到達!』

『了解!!』


バン!!


 従業員用の金属製のドアを勢いよく開けた。建物は鉄筋コンクリート製で窓やドアに近付かない限り弾が貫通する心配はなかった。


 建物内は照明が消え人の気配はない。事務所や更衣室を通り過ぎ、医務室と書かれた部屋を見つけるとドアを開けて、羽犬塚をベッドに寝かせた。

 沢原も力尽き、地べたにペタリと座り込んだ。


 遠山はスマホを取り出して基山に現在地を送った。


「莉子ちゃん、拳銃を渡しておくわ。今度は実弾だから、確実に敵と分かるまで向けるのも駄目!良い?」

「わ、分かりました親方!!」

(親方?)

 実弾と聞いて緊張しているのか、震える手で拳銃を受け取った。

「お、おい、大丈夫か?」

 しかし、ニヤリと笑って構えて見せた。

「ボッチ―!任せて!みんなを守るのは私‥‥‥!」

(あぶねーヤツだな‥‥‥)


「ユヅキさんは?」

「私は遠山1曹と建物内の確認と、柳川さん達の様子を見てくる!」

「わ、分かった!気を付けて!!」

「花宗さん、じゃあ行こうか」

「はい」

 花宗は小銃の残弾を確認し、部屋を飛び出して行った。


 医務室と書かれていたが、6畳ほどの部屋に寝台と市販の薬が置かれている程度で、羽犬塚の治療を出来る設備はない。従業員がちょっとした怪我や病気の時に利用していたのだろう。


 城隅は消毒薬とガーゼ、包帯を薬品棚から探し出し、寝台の傍の椅子に座った。


「莉子ちゃん厨房に行って砂糖を取って来てくれないか?レストランでもカフェでもいいから」

「へ?砂糖ですか?」

「そうだ。砂糖には塩並みの殺菌力が有るらしい。悪いけど頼む」

「了解です!任務遂行してきます!」

 そう言うと、莉子は敬礼をして走って行った。しかし、残念なのは敬礼が左手だった事だ。


「羽犬塚、消毒するぞ。覚悟しろ!蒼!羽犬塚の身体を押さえててくれ!」

「は、はい!分かりました」

「ま、マジですか‥‥‥?遠慮するのはアリですかね?ハハハハハ」

「無理だな!諦めろ」

「了解‥‥‥です」

 羽犬塚は脂汗を掻き、顔は白く血色が悪い。城隅は包帯の封を開けて、羽犬塚の口に突っ込んだ。

「包帯を噛んどけ!」

 羽犬塚は頷いた。

 城隅は花宗がTシャツで作った包帯をハサミで切り、赤黒く変色したタオルを取り除くとアルコールで銃創の周りに付着した血液を拭き取った。血液は止まらず筋肉の動きに合わせて少しずつ溢れ出てきた。

 アルコールを傷口に垂らし、直ぐに清潔なガーゼを押し付ける。

「ぐふっ!!ぐががががががががーーーーーーー!ひぃー!ひぃー! ひぃー! ‥‥‥」

 蒼は羽犬塚に圧し掛かるよ様にして身体を押さえた。涙目になる羽犬塚は眉間に皺を寄せ城隅を見て頷いた。

 城隅と蒼は羽犬塚を俯せにして銃創の出口にもアルコールを振りかけた。そしてガーゼの束で傷口を圧迫する。

「ふ‥‥‥ががががががぁぁぁぁぁあ、ちゅふーーーぐ、あああああぁぁぁ痛いっすーーーー!!」

「よく頑張った!!終わりだ!」

 ちょうど莉子が任務を遂行して戻って来た。

「グラニュー糖ですが大丈ですかね?」

「大丈夫!ありがとう!」

 城隅はガーゼにグラニュー糖をまぶすと傷口に押し当てた。それから包帯でグルグル巻きにして、その上からガムテープを巻いた。

 羽犬塚の反応が無い。呼吸はしているので、激痛で気を失ったのだろう。


 銃声は殆ど聞こえなくなった。敵が撃ち尽くしたのか、全員倒したのかは分からない。


 蒼は立ち上がり、部屋の隅に有った毛布を手に取り、羽犬塚と沢原に掛けてやった。

「蒼、ありがとう」

 それを見て城隅は例を言った。

「いえ、こちらこそ僕の為に羽犬塚さんが‥‥‥」

「俺達は自衛官だ。君が何者かなんて俺にはわからんが、命令が有れば何だってやる。それは羽犬塚だって同じだ。別に恨んだりしないよ」

「は、はい。ありがとうございます」


 複数の足音が聞こえた。城隅と莉子は拳銃を構える。


「私だ入るぞ」

 柳川の声だった。その後ろには矢留と神崎の姿も見えた。

 

 その直ぐ後に、花宗と遠山も帰って来た。みんな汗と泥にまみれ、膝や肘から血が滲んでいた。蒼も右膝から血が滲んでいたが、アドレナリンのせいで気付いていなかった。


 花宗は担架を調達してきていた。

「これが有れば羽犬塚さんの移動も楽でしょ?」

「ユヅキさんすまないね」


「いえ、それで、状況はどうなんです?」


「敵はまだいるが、弾が無いのか作戦なのか分からんが、包囲しているだけだ。何を考えているのかは分からんね」


「そうですか。基山には連絡しました。多分直接ここに来る筈です」


「了解。城隅、羽犬塚の容態は?」

「傷口を消毒して、ガーゼを交換しました。今は気を失っています」

「そうか。しばらく休ませよう。ここには莉子ちゃんと沢原さんを残して、あとは付いて来い。防御陣地を作るぞ!」

「了解!!」


 柳川達はエントランスからの侵入を防ぐために椅子やテーブルなどを掻き集めてバリケードを作った。それから医務室に通じる通路にも同様のバリケードで塞いだ。それと消火器を集めて目に付くところに置いていく。


「医務室に通じる通路とエントランス、裏口に見張りについてくれ。もしも敵が侵入したら、近くにある消火器を狙って撃て。多少は効果があるだろう。無駄弾をへらせるし」


「なるほど」


「ただ、辺りが粉まみれになるけどな」


 そこでやっと皆に笑顔が出た。負傷者は出てしまったが、ヘリの墜落からここまで誰も失っていない。


「俺は食料とか漁ってきます。何か必要なものが有れば探してきますけど」

「お!神崎気が利くな。じゃ俺はバーボンとビーフジャーキー頼むわ!」

「おやっさん、酒は皆神山に着いていからにしてくださいよ」

「やっぱ、ダメか‥‥‥」

 遠山はそう言うと、外人の様に手の平を上に向けて肩を竦めて見せた。


「神崎、甘い物とかスポーツドリンクが有れば探してくれ。ひょっとしたら、自販機が災害モードになっていて押せば出て来るかもしれん」

「なるほど。そういやぁそう言うのもありましたね。さすが柳川3佐。了解しました!!」

「じゃ、僕も行ってきます。荷物持ちになるでしょう?」

「蒼、悪いね頼むよ」


 周囲をコンクリートで遮蔽されているのは心強い。みんなに余裕が出て来ていた――。

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