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The Providence ー遭遇ー  作者: hisaragi
Chapter 2
23/28

ground and clouds

 R/A(電波高度計)が表示限界の1500ftを越えると、パタリとOFFフラグが出現した。そして、アナログ高度計の針はCW(時計方向)にグングン回転していたが、短針は2を指したまま止まり、長針も0の辺りを行ったり来たりする程度で、それ以上回り始める事は無かった。

 現在、高度は約2000ft(600m)、立川駐屯地を離陸したUH-60 JAは北上し、|マルチファンクションディスプレイ《MFDS》のマップモードでは、5分もしないうちに機体が埼玉県上空に差し掛かっているのを示していた。


「個人用携帯無線機のコールサインを言ってなかったな。階級順にフォネティックコードで、4人はユヅキ、蒼、沢原、莉子の順にG(ゴルフ)H(ホテル)I(インディオ)J(ジュリエット)だ。実名を波に乗せるなよ」


「はい、分かりました」

 蒼がそう言うと、3人が頷いた。


 蒼は窓から外を見ていた。東側はそれ程でもないが、西方の山間部には厚い雲が垂れこめていた。そして、地上を見ると建物と道路などがミニチュアの様に広がり、社会活動を停止した街のビルが太陽光を反射してキラキラ光っていた。

 機内は相変わらず甲高い高周波音とエンジン音が響き、実包が装填された、キャビンの台座上のM2ブローニング重機関銃の存在感と、パイロット席のすぐ後ろのガナー席に設置された、M249ミニミ軽機関銃の鈍色の輝きが、これから向かう所が戦場であると告げていた。


 機内は2機のガスタービンエンジンやトランスミッションが頭上にある割に、暑くなく過ごし易い。それに、機体も大きく揺れることなく予想以上に乗り心地は良い機体だった。


「15時方向、同高度ヘリ‥‥‥ですね」


「了解」


 神崎や矢留が窓から見える他の機体の位置をパイロットに告げている。ヘリコプターは基本的に有視界飛行だ。そのため、パイロットでも視認できない機体を伝える事で、空中衝突を防ぐのが目的だった。これは同乗する者のマナーのようだ。


「柳川3佐、WXR(ウェザーレーダー)で見ても山間部の上空は真っ赤です。シーリングが低いので谷間に沿ってNOEします」


「了解、城隅1尉。仕方あるまい。慎重にな」

「了解」


 柳川はゴクリと唾をのんだ。前方から迫る雨雲が、この一行の将来を暗示する暗雲に見えたからだ。


 航空機はドクターヘリ、救助、消火、緊急着陸などの特殊な場合を除いては、法律で地上から150m以下を飛行してはいけないと定められている。特に山間部は乱気流や送電線などが張り巡らしてあるため、超低空のNOE(匍匐飛行)をするのは危険だった。


 機体は少し左旋回し、山間部へ侵入しようとしていた。群馬県に入り1時方向に榛名山が見え、その左奥に浅間山が見える筈だが今は雲が隠していた。


 徐々に靄が多くなり、雲の粒が風貌に当たり雨粒に変化していった。機体のすぐ上は分厚い雲の層があるが、ヘリや小型機は雲を避けて飛ばなくてはならない。雲の中は平衡感覚に狂いが生じて、空間識失調に陥り最悪は墜落してしまう。それに、雷や乱気流などの危険もある。


「柳川3佐、淺間山に向かって、信越本線に沿って小諸に抜けます。雲を避け高度が下がるので、全員で見張りをお願いします」

「了解した。敵にしたら絶好の場所だな」


 機内は今までと違い緊張した空気が流れた。敵も蒼の大体の位置を把握しているはずだ。それに天候から目的地までの移動経路の予想もつくはず。


 離陸してから20分程が経過した。今のところ順調に飛行しているが、どこかでサンクトゥスレガトゥス協会の攻撃が有る筈だ。全員で窓から外を覗く。


 山間部に入り標高が徐々に高くなって来ると、電波高度計が動き出した。対地高度が約450m以下という事だ。送電線も増えて来たので、避けながら飛行すると、今までより機体が上下左右に振られ始めた。


 パイロットは狼狽えることなく、冷静にコレクティブレバーやサイクリックスティックを操作して山の起伏に沿って機体を操作していた。

 眼下は緑が広がるのに比例して、人家の数が減り、国道と小さな河川が見えるだけになった。

 

 莉子も沢原もさっきまでは寝ていたが、今は目を覚ましグレーのパイプにしがみ付きながら窓から外を覗いていた。段々と揺れが大きくなり、フワッと高度が上がると次の瞬間にはフリーフォールの様に一気に下がる、その度に胃が上下に動き気持ち悪くなった。この数分間はそれを繰り返していた。


 それでも花宗は凛とした表情で前方の景色を見ている。蒼は額に汗を滲ませ、顔を青くしながら花宗をチラリと見ると、彼女も気付いてニコリと笑った。この揺れにも動じていなかった。

(ユヅキさんは改造人間か何かか??)


 ヘッドセットに音の高さが違うビープ音が交互に聞こえた。一気に機内に緊張と焦りが生じ、自衛官達は機体の両脇の窓から陸地を覗き見た。

「ロックオンされた!」

 城隅の声がヘッドセットから聞こえた。


(え?ロックオン?ロッキンオンじゃなくて?ロックオン?それってヤバくね!?)


 流石に莉子も沢原も事の重大さに気付いた。2人は泣きそうな顔で蒼を見ると頭を抱えて顔を伏せた。


「全員掴まれ!!」

 羽犬塚の怒鳴り声が聞こえた!


 更にRWR(レーダ警報装置)は、ロックオンしているミサイルが次の段階に移った事を知らせた。ビープ音の鳴動が早くなったのだ。

「フレア射出!!」


「来るぞ!!腹に(ちから)を入れろ!!」


 機体後部に設置してある、チャフ・フレアディスペンサから光る熱源が多数射出された。更に機体は前方の送電線を飛び越え一気に高度を下げた。


「ひえーーーーーーーー!!」


 後方で爆発音が聞こえ機体に激しい振動が伝わった。ミサイルは送電線の鉄塔で爆発し、間一髪直撃は逃れられたが無数の破片がUH-60JAのテールローターを襲った。


 コックピットのコーションアドバイザリパネルが幾つか点灯し、機体に損傷が発生した事を知らせる。UH-60JAは100kt以上の速度が有ればテールローターが脱落しても飛行できるように設計させれている。|バーチカルスタビライザー《垂直尾翼》が反トルクを抑制するからだ。そして、出来るだけ被害が出ない場所まで飛行し、墜落または着陸する。乗員を救うのではなく、周囲の被害を抑える為だった。


「TAIL RTR CHIP、TAIL RTR XMSN OIL PRESS、#1TAIIL RTR SERVO、STABILATOR点灯。マスターアラームオフ。テールローターとホリゾンタルスタビ損傷、増槽投下、全員緊急着陸に備えろ!」

 城隅の声が響いた。パイロットは直ぐ様着陸地点を探し、人家を避け出来るだけ開けた場所を選択する。


「メーデー!メーデー!ジュリエットアルファ43317、テールローターダウン、ブレイク、軽井沢東から西に飛行中!」


「エンジンカット!オートローテーション!」

 ローターブレードのピッチをフラットにし、滑空状態で機体は下降していく。


「前方のゴルフ場に着陸する。足を抱えて座れ!!」


 キャビンの全員が体育座りや胡坐の状態で椅子にしがみ付く。

「着陸後は武器を持って、速やかに機体から離脱しろ!!」

 柳川の声が聞こえ、機体がグンと一瞬上に上がった。

「フレアー!」

 パイロットはコレクティブレバーを一気に引きあげ、減速動作を行ったのだ。

 その直後に降着装置がゴルフ場のフェアウェイををとらえた。

 機体は直ぐには止まらず、上下に揺れながら滑っていく。

「城隅1尉良いランディングだ!」

「はい!ありがとうございます!みんな異常は?」

「大丈夫‥‥‥です」

 機体が停止すると、羽犬塚が天井にあるローターブレーキレバーを動かす。徐々にメインローターの速度が落ちてきた。


「よし!全員降りろ、全周警戒!体勢を低くし、左の林に移動するぞ。全員の個人用携帯無線機をオンにしろ!離脱後、機体を爆破する!」


 神崎はミニミ軽機関銃を台座から取り外し、外を警戒しながらドアを開けた。

「行け!行け!行け!」

 蒼達4人は自分の荷物を引っ掴むとフェアウェイに飛び降りた。


 鉄鉢を被り直し、体勢を低くして指示を待つ。機体を見ると、テールローターやトランスミッションから煙が出ていた。


 全員が降りると一気に林に向かって走り出した。


 林に入り木々の間に身を潜めた。

「全員異状ないか?神崎、基山 に現在地を送ってくれ。軽井沢南部だ」

 柳川に言われ神崎はスマホを取り出した。

「了解です。お、まだ携帯が使える」

 テキストを送信すると、直ぐに返事が来た。

「1時間30分から2時間後到着予定だそうです」


「了解。敵も馬鹿じゃない。落着予想地点に部隊を配置しているはずだ。ヘリの場所はバレている、直ぐに追手が来ると思ってくれ」


「了解!!」


 ボン!ドン!!‥‥‥パン!!


 ヘリに仕掛けられた爆薬が炸裂し、閃光と共に破片が四方に飛び散り無線機類が破壊された。


「速やかに移動する。南に向かうぞ!2㎞くらいの所に、確かデカいホテルが有ったはずだ。そこで基山を待つ」


「了解です!」


 蒼は天を仰いだ。雨雲が出ているがまだ降り出していない。しかし、それもいつまで持つか分からなかった。


「ユヅキさん拳銃は渡しておく。1丁は空砲じゃなく実弾が撃てるようにしてあるからそのつもりで」

 柳川は背嚢から拳銃を取り出すと花宗に渡した。

「はい、ありがとうございます」

 花宗はスライドを引きチャンバーに弾丸を送り込むと、ホルスターにしまった。もう一丁はリュックに放り込んだ。


 蒼はポケットから隕鉄で作られた円筒印章を取り出すと握りしめた。まだ使う事はできないが、握っているだけで安心できた。


「莉子、沢原さん大丈夫?」

「う、うん。凄く怖いけど、大丈夫。大溝君は?」

「僕も怖いよ。でも、揺れるヘリから降りられて良かったよ」

 蒼はそう言ってニコリと笑って親指を上に向けた。精一杯の強がりだった。こういう時は嘘でも笑った方が気が楽になる。

「何?ボッチ―カッコつけてんの?」

「うっせ!!」


「神崎先頭に行ってくれ」

「了解です」

 神崎はミニミ軽機関銃を矢留に渡し、64スナイパーライフルを構えた。7.62㎜64式小銃をベースにピカティニーレールや可動式ストックなどを装備した試作スナイパーライフルだ。矢留は小銃を背負い、ニヤリと笑ってミニミ軽機関銃の負い紐を首に掛けた。

(うわ‥‥‥何だろう、この不穏な笑い方は‥‥‥)

 矢留のニヤついた顔を見た蒼は、背筋に冷たい物を感じた。


 柳川は小型赤外線スコープで周囲を確認する。

「よし、前進しろ。攻撃されるまで此方からは撃つなよ。民間人かもしれんからな」

 全員が頷いた。


 この辺りは都市部と違い、警察や自衛隊の規制が万全ではない。ゴルフ場の外の道には、車や徒歩で移動する人も見えた。


 蒼達4人は遠山の後ろにピッタリと付いて行った。


 出来るだけ木々のある所を移動する。時折、柳川が赤外線スコープで周囲を確認した。


 シヒュン! シヒュン! シヒュン!ガバっ!!

 突然風切り音がした。そして木片が蒼の顔に降りかかった!

「うわっ!!」

「1時方向敵襲!散開しろ!」


 フェアウェイを挟んで100mくらい離れた茂みから閃光が見えた。


「蒼達は伏せて動くなよ!!」

 遠山はそう言うと、木を盾に射撃を開始した。

「は、はい!!」

 蒼と沢原、莉子は木の陰に隠れ伏せていた。


 タパン!タパン!!タパン!タパン!!

 花宗は蒼の傍から拳銃を撃っていた。 銃口から弾丸が発射される度に、ガツンッ!と蒼達の脳が衝撃波で揺れる。

「3人は顔を出さないで!合図したら移動して!」

「りょ、了解!!」


『敵は3人!後方も警戒しろ!それと、空に()が付いてる、神崎やってくれ』

 柳川の声が無線機から聞こえた。

『了解!!』

 そう言うと、神崎は上空を飛ぶドローンをスナイパーライフルで撃ち落とした。


 莉子も沢原も銃弾が近くを通り過ぎる度に小さく悲鳴を上げた。

「キャッ!!」


『1人倒しました!残り2!』

 神崎の声が無線機から聞こえた。

 

 シヒュン! タパン!!シヒュン!シヒュン!タパン!!


『よし!移動するぞ!前進!!前進!!そろそろ増援が来るかもしれない、全周警戒を厳にせよ!』

 柳川の声で、矢留がミニミ軽機関銃をぶっ放す!

『援護する!前進!ヒャッハー!!!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!!』

 ミニミの弾幕で全員が移動する。

「や、矢留2曹‥‥‥!」

 鬼人のような矢留を見た蒼は恐怖を感じていた。


「蒼!行くよ!」

「OK!!」

 蒼は莉子と沢原の手を引きながら、体勢を低くして走った。

「全員止まらず茂みを走れ!」

 蒼には誰の声か分からなかったが、とにかく走った。


 シヒュン!シヒュン!シヒュン!


「全員止まれ!異常は?」

 柳川の声で全員が走るのを止め、異常の有無を報告した。


「あと1㎞くらいだ。距離を詰められるなよ。矢留援護してくれ。バンカーまで移動するぞ!」

「了解!!」

 矢留が木の又にミニミを固定し、立射で射撃を開始した。

 タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!


「前進!前進!!」


 深いバンカーに身体を滑り込ませ、柳川と遠山の援護で矢留が走って来た。

「ふー!敵もしつこいな!!」


 莉子はつんのめって砂に頭から突っ込んでいた。

「ぶっは!!」


「柳川3佐、先に行ってください。援護しますから」

 羽犬塚はそう言うと自分の脇腹を指差した。パイロット服が赤黒く染まっていた。

「お、お前。弾はどうだ!?」

「大丈夫、抜けています‥‥‥が、もう走るのはキツイですね。ヘリも無くなったんで自分の役目も終わりました」

「バカ!何言ってんだ。先ずはホテルまで行くぞ!出血量からもまだ間に合う!ユヅキさん、タオルをここに突っ込んでくれ!」

「は、はい!!」

 花宗はリュックからタオルを取り出すと、傷口に押し当てた。それからTシャツを引き裂くと、包帯を作ってきつく縛った。

「うぐっ!!グッは!撃たれると結構痛いっすね!ハハハ‥‥‥」

「当たり前だ!!皆も絶対撃たれるんじゃないぞ!これは命令だ!!」

「りょ、了解‥‥‥」


『敵の位置を捕捉。90m前方‥‥‥あーマズイですね‥‥‥』

 神崎の声が無線機から聞こえた。いつの間にか敵の側面に移動していた。


『どうしたフォックストロット?』

『案の定、増援が来ています。3‥‥‥いや4人増えて6名です』

 タパン!!

『いや、5名になりました』


『分かった、エコーの援護で前進するぞ!』

『了解』


 ホテルまで約900m。敵数は5。基山が到着するまであと約1時間。ディビジョンが地球に到達するまで12時間を切っていた――。

お読みいただきありがとうございます!残念ながらヘリは落ちてしまいましたが、自衛隊にはまだ沢山の機種がありますから‥‥‥。

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