revelation
花宗は小型の無線機の電源を入れた。
「イプシロンこちら1862158、現在ブラボー。VIPは無事。他2名同行」
「了解1862158。回収部隊を手配する。場所と時間は追って指示する。交信終了」
そして、コンテナボックスから、4人分のベージュ色のカーゴパンツやカーキ色のTシャツ、黒いウェストバッグ、それとスマホを4つ取りだした。
「短時間ならシャワーを使っても良いわ。みな汗かいているだろうし。下着なども新品が有るから。それと3人ともこの服に着替えて。サイズは一番近いのを選んで。制服よりから動き易い筈。それと、これからはこの携帯電話を使って」
花宗はそう言うと畳の上に取り出した物を広げ、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを4本持ってきた。
今日は色々な事があって興奮しているのか、喉が渇いている事すら忘れていた。張り付く喉に水を流し込む。ゴクゴクと音を立て、半分ほど一気に飲んだ。
――――
シャワーから出ると、花宗に渡された服に着替えた。すると緊張の糸がプツリと切れたのか、沢原は落涙し、激しく嗚咽を吐いた。暫く止まるようなものではなかった。それにつられるように莉子もまた激しく泣き出した。
日常から一変し、銃を向けられ、人が殺され、その死体もどこかに消えた。中学生や高校生の女の子が耐えられる状況ではなかった。
花宗は莉子の背中を優しく撫で、沢原をギュッと抱きしめた。
2人の嗚咽は止まらなかったが、それでもかなり落ち着きを取り戻すと、蒼はずっと聞きたかった事を花宗にぶつけた。
「もういい加減説明して!一体何が起こっているの!?」
花宗は床に直接置かれた23インチの液晶TVを点けた。そしてチャンネルを変えると、全ての局が同じ場所を映している事に気付いた。テロップには、首相緊急記者会見とあった。
「総理大臣から国民に向けて会見が開かれる。多分、世界中で同じような放送がされるはず」
画面には首相官邸の記者会見室が映し出されていた。
『えー、首相官邸の記者会見室からお伝えします。あと数分で物部総理大臣から臨時の記者会見が開かれるとして、急遽報道関係者が集められました。会見の内容に関しては知らされておりませんが、小惑星に関する事ではないかと思われます。えー今、橘田 早智子官房長官がお見えになりました』
カメラのフラッシュが一斉に焚かれる中、橘田官房長官映し出された。彼女は、グレーのパンツスーツで現れた。メイクで胡麻化しているが目の下には隈ができ、少し疲れているように見える。
『物部総理から、国民の皆様へ重要な事をお伝えすべく、報道関係者に急遽集まって頂きました。全ての地上波、衛星放送、ラジオ、政府の公式ネットで同時に放送されます。出来るだけ、全ての国民の皆様に聞いて頂けるよう、ご家族、職場、友人の方にもお声を掛けて、放送をお聞きになる様にご協力お願いいたします』
「これが僕達とどう関係するの!?」
莉子と沢原はもう嗚咽も止まり涙も流していない。しかし、目を真っ赤に腫らし、疲れからかずっと暗い表情のまま黙って座っていた。
「先ずは総理の会見を聞いて欲しいの、それから不足しているところは説明するわ」
「ユヅキさんは、総理大臣が話す内容を知っているって事?なんで?」
「内容を知っているのではなく、こうなる事を予想していたと言った方が合っていると思う」
「予想!?サッパリ分からないよ!どうい‥‥‥」
「しっ!今から始まる」
物部総理大臣が画面に現れた。彼の表情は暗く、なにか思い詰めているように見えた。ネクタイはしておらず、官房長官と同様に酷く疲れているのが分かった。そして、会見場をぐるりと見渡すと、ゆっくりと優しく語りかけるように話始めた。
総理が顔を上げる度に液晶画面から光が溢れ出るようにカメラのフラッシュが焚かれた。
『国民の皆さん。これから非常に重要な事をお伝えいたします。最後まで落ち着いて聞いて下さい。そして、聞き終わってもどうかパニックにならず、迅速かつ効率的に避難が出来るようにご協力をお願いします‥‥‥それから、政府を信じてもらいたい』
避難という単語が出ると記者たちは落ち着きなくざわつき、物部首相は記者たちに向かって手を上げてそれを制した。
莉子は眉間に皺を寄せ、花宗と蒼に問いただした。
「ちょっと!避難てどういう事?ユヅキさんと蒼兄は何か知っているの!?」
(避難?小惑星が地球に衝突するのか?)
「僕は知らないよ!でも小惑星が衝突するなら‥‥‥」
蒼はそこで言葉を止めた。もしあの小惑星が地球に衝突するなら、どこへ逃げても同じだ。死ぬ時間が多少変わる程度。そんなことを妹たちに言いたくはなかった。
『小惑星については先日お話いたしました。コードネームはUnknown One。現在は地球から僅か150万kmの位置で停止しています。しかし、その小惑星から無数の小さな物体が出てきたのが確認されました』
記者会見場は騒然とした。
『総理!すいません!それは小惑星が分裂しているという事でしょうか?』
『地球への危険は!?』
『小惑星があの位置で完全に停止しているというのは、考えられないと専門家が分析していますが‥‥‥!』
一人の記者が口を開くと我慢できずに声を上げる記者がいた。直感的に深刻な事態が起きていると感じたのだ。
『皆さん、落ち着いて下さい。皆さんの問に答えられるから分かりませんが。今、我々が知っている事を全てお話いたします』
物部総理は溜息をつき、会場が静かになるのを待ってから口を開いた。
『皆さんも不安だと思います。先ずは正しい情報を得て、それから節度ある行動をとって下さい‥‥‥。地球に向かっている物体がどういった物質で作られているか、そして、どういった意図があるのか、生命体なのか人工知能なのか、それすら分かっておりません。今分かっているのは、直径300m前後の球体が約200個ほど地球に真っすぐ向かっています。我々はディビジョンと呼称していますが。それが、地球に到達するには僅か2日しかありません‥‥‥。先ずは国民の皆様が避難できるように、自衛隊、警察、消防などと協力して、輸送準備を進めております。日本は山国です。その為、日本中に沢山のトンネルがあります。これは公になっておりませんが、トンネルには大小の簡易シェルターが設置されている箇所が沢山あります。ホテルの様な設備は有りませんが、暫く生存できる最低限の物はそろっております。そして、ここからが重要ですが、絶対に車両で移動する事は止めて頂きたい。自家用車で移動する者、または避難を妨げる者は逮捕・拘束します。現時点を持って全ての公共機関は政府の管理下に置かれます航空機、バス、鉄道、船舶などを活用して、病気などで動けない方や老人、子供を優先して避難させます。避難計画は逐次発表しますので、TVや政府の公式サイトで確認してください。それから‥‥‥』
花宗はTVを消した。
蒼と莉子、それに沢原は互いに顔を見合わせた。すぐには言葉が出なかった。
「ユヅキさんどういう事なんですか?異星人が地球に向かっているって事!?」
「蒼も莉子ちゃんも沢原さんも落ち着いて聞いて。多分直ぐには信じられない事が起きているの。総理が言っていた通り、地球外文明からの宇宙船が地球に向かっている事がその証拠よ。今回の出来事は数億年前の太古の地球が関係しているの」
「え?ユヅキさん、言っている事が分からない‥‥‥。数億年前の事と今回が繋がっている?」
「そうなの。先ずは話を聞いて。その‥‥‥地球に生命と呼ばれるものが誕生した頃、10人の地球外生命体が地球を訪れた。彼らは遥遠くの恒星系に存在する2つの星からそれぞれ5人が同じ宇宙船で地球に来たの。彼らは地球の生命に介入して、我々の様な知的生命体が誕生するように遺伝子を操作した。でも、目的は分からない。そして、彼等は人類が繁栄するように、地球の自然‥‥‥理を操作し、人類の進化を促し、徐々に文明の基盤となるテクノロジーを教えていた。しかし、彼等は地球を去らなくてはならなかった。それで、人類が長らく繁栄出来るように、地球に天変地異などの危機や、侵略者が迫った時、それらから地球や人類を守る事が出来る守護者が誕生するように、遺伝子を操作した。そして私たちの組織イデュは、カラグを見つけ導く事が使命なの。そのカラグの一人が大溝 蒼、貴方なのよ‥‥‥」
まさに開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう。見事に3人ともポカーンとしている。
「ちょ、ちょっと、まさかこのボッチ―が救世主とでもいうの?ユヅキさん、それは大きな勘違いですよ!このナチュラル ボーン ボッチ―がそんな大それた存在の訳ないですよ!ねぇ!沢原さん!?」
「え?あぁ、うん、どうなんだろう‥‥‥。はぁ‥‥‥痛っ‥‥‥」
莉子から急に振られた沢原は言葉に窮したが、その前に何か辛そうに見えた。
「沢原さんどうしたの?まさか、どこか怪我してる!?」
花宗が心配そうに沢原に近づいた。
「い、いや、そう言う訳じゃないのだけど‥‥‥その、お借りした下着が‥‥‥その、ちょっとキツクて‥‥‥」
急速に部屋の気圧が下がった。多分930hPa以下になっているかもしれない。そして花宗の顔色が悪くなった。
(な、なに!と、という事は、沢原さんがUnknown Oneでユヅキさんがディビジョ!!!痛!!痛!!」
ニョキリと伸びた手が、蒼のほっぺたを抓上げる!!
「ボッチー‥‥‥途中から声に出てるって‥‥‥」
「ま、まぁ良いわ‥‥‥、話を元に戻すわ。すぐに理解できなくて当然よ。さっき、学校で刺客と戦った時、私の手からオレンジ色の光が見えたでしょう?あれは、イデュのウテガが持つ力なの。それにはこのクリスタルの円筒印章を使う。けど、これを使えるのは、代々ウテガの遺伝子を持つ者だけなのよ」
花宗はポケットから手に収まる大きさの、文字通り円筒形のクリスタルを取り出した。側面にはぐるりと何かの絵や楔形文字が浮き出るように施されていた。
「うん、確かにオレンジ色の光が弧を描いて、男を吹っ飛ばしたのは見た‥‥‥」
「蒼兄見たの?と言うか刺客が来たって本当?」
「う、うん。突然の事で何が起きたのか理解できなかったけど、銃を持った男が教室に入ってきた。そして、銃を向けられたけど、ユヅキさんが助けてくれたんだ」
「あ、あの、カラグとかイデュ、ウテガってシュメール語?シュメールの神々の力を引き継いでいるの?」
「さすが沢原さん。と言ってもイデュのウテガ達が持つ力は大きな力ではないの、ちょっとした防御や攻撃が出来る程度。でも、カラグが本当の力を得た時は、莫大なエネルギーで自然の理を操作する事が出来る」
いくら説明されてもすぐに『なるほど、分かりました!』とはならない。情報量が多すぎるのだ。
「で、いま地球に来ている宇宙船には誰が乗っているか知っているの?目的は?」
「さっき、10人の生命体が来たって言ったでしょ。そのうちの5人はアブアマと名乗ってイデュを作ったの。そして、あとの5人は自らをディンギルと名乗って、人類を支配する為にイデュとは対極の組織を作った、それがサンクトゥスレガトゥス協会。協会はディンギルが再び地球に訪れると信じていた。そして、その時が来たの‥‥‥」
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