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The Providence ー遭遇ー  作者: hisaragi
Chapter 1
13/28

asteroid

 Unknown One Task Forceから小惑星が再出現したと連絡を受けた日本政府は、NASAを始めとするG7各国の宇宙機関と協議した結果、Unknown Oneを公表する事に決定した。月の三分の一という巨大さに加え、地球から150万kmは宇宙空間にすれば極短い距離だ。地球と月との距離の約5倍ほどしかない。ちょっと高価な天体望遠鏡が有ればアマチュア天文家でも容易に観測出来る。


 政府としては、Unknown Oneを隠蔽し続け、政府以外から公表、リークがあった場合に、国民との信頼関係が崩れそれ以後の行動に多大な影響が出ると考えられたからだった。


 しかし、ボイジャー1号が搭載していた、地球外知的生命体に向けたメッセージの内容がそのまま送信された事、それと、数日間姿を消した後、突如地球から150万㎞の宙域に出現した事は伏せられた。


 NASAジェット推進研究所は、初の恒星間天体として認められたオウムアムアと同様、別の恒星系から飛来した大き目の小惑星(・・・・・・・)と言う事で、PHA(潜在的に危険小惑星)に指定したが、現在のところ地球に衝突、または何らかの影響が出るかどうかは全くの不明であると発表した。


 TVの特番に出演していた天文学者は、『これほどまでの近距離にあって、月の三分の一もある巨大な小惑星が地球に及ぼす影響を、NASAや政府が分からない筈は無い。それにもっと前から探知していた可能性があり、他にも隠している情報があるのでは?』とコメントしている。


 メディアやSNS、アマチュア天文家から様々な流言飛語が飛び交い、世界中は必要以上の不安に包まれていた。


 日本国内ではそれほど緊迫した状況にはなっていないが、海外の反応はもっと重大な事象と捉えられ、終末論思想のカルト団体などがあちこちで集会を開き、世界の終末が近づいていると信者達を先導し暴徒と化したり、集団自決する団体も現れた。また、政府が小惑星に関する重大な事を隠蔽していると信じ、暴動や略奪をする国もあり、アメリカの一部の州では戒厳令が出され、州兵が治安維持のために派遣される事態になっていた。



――――


首相官邸

危機管理センター


 物部総理は、佐々木ディレクターからUnknown Oneの報告を受けていた。


「総理、現在Unknown Oneは完全に停止しています。これが、NASAやJAXAからのデータを元に解析した3Dモデルです。ほぼ球体で、色は光を反射しない程の黒色。表面はS型小惑星(ケイ素が主成分)M型小惑星(鉄とニッケルが主成分)の混合型です。直径約1160kmで、内部の構造については全く解析できません。専門家の予想では、小惑星の内部を加工して宇宙船として改造したのではと分析しています。恒星間航行をするには理想的な宇宙船とも‥‥‥。それと、人類には不可能な強大なエネルギーを、一瞬のうちに発生させられる事しか分かっていません」


 佐々木は、航空自自衛隊の制服姿。しっかりアイロンが掛けられた深い紺色のズボン、半袖の3種制服は糊が効いて皺ひとつついていない、それと、短靴は映り込むほど磨き上げられている。満足な睡眠を取れていない筈だが、頭からつま先まで生気が漲っているのが分かった。


 物部総理は会議室の椅子に深く腰掛け、モニターに映し出されているUnknown Oneの画像を見た。


「それで、この小惑星の脅威はどの程度か分かりますか?何か武装があるとか‥‥‥」


「申し訳ありません。どこから来て、何のためにこの太陽系に現れたのかも分かりません。武装らしい物も今のところ判別できません。それに知的生命体またはAIに相当するものが乗っているのかも不明です。各国が交信を試みようとあらゆる手段を講じておりますが、向こうからの返信は未だありませんので‥‥‥。それに、どうやって現在の宙域に出現できたのかも、人類の科学力では皆目見当がつかないのです。今の状況を見てアレがそのまま地球に衝突するような事は無いと思います‥‥‥いえ、そう思いたいと言うのが本音です‥‥‥」


 佐々木は総理の問いに対する答えを持ち合わせていなかった。世界中を探しても答えられる人間はいない。


 総理は長い溜息をついた。

「分かりました。人類としては、相手の出方を待つ以外出来る事はないという事ですね。そして、Unknown Oneには時間的制限もなく、我々には10か月の猶予も無くなったと‥‥‥」


「はっきり申し上げて、その通りです‥‥‥」


「引き続き得られたデータの精査とUnknown Oneの調査と監視をお願いします」


「了解しました」


 佐々木が会議室から出て行くと、物部総理はテーブルに肘をついて額を撫でながら深い溜息をついた。

(地球と月の距離の僅か5倍ほどの距離に居る小惑星にすら、人類は辿り着くことが出来ない。一体あれは何なんだ‥‥‥)


――――


防衛省

陸上自衛隊情報本部


 柳川3佐は制服ではなく、スラックスにポロシャツ姿。その方が色々と動き易い(・・・・)からだ。


「立花陸将。先日お伝えした|UFORG《未確認飛行物体研究グループ》に関する件です。まだ詳細は分かりませんが、調査の段階で特殊な単語が幾つか出てきました」


 報告書が入ったフォルダを立花に差し出した。


「何か分かったのか!?」


「それが、かなりガードが固くて、意味までは分かりませんが、ドゥム、ディンギル、サンクトゥスレガトゥスという単語が頻繁に出てきます。ただ、ドゥムとディンギルに関しては、現在使われている言語のどれとも合致していませんが、サンクトゥスレガトゥスはラテン語で『聖なる使者』という造語だと分かりました。それで、UFORGの戦闘部隊TSETがサンクトゥスレガトゥスと交戦していると情報を掴みましたが理由までは分かりません」


「『聖なる使者』?UFORGが敵なのか、『聖なる使者』が敵か‥‥‥。どちらにせよ、小惑星の出現と、UFO研究組織の戦闘部隊の活発化は無関係と思えん。それと、謎の老人‥‥‥。我々の味方はどれか、見極めねばならない。もう、10か月の時間的猶予も消えた。柳川3佐、情報収集を急いで欲しい。それと私の所に非公式でCIAから接触があった。日本国内で動きのある武装テロ組織の情報を欲しいという事だ。多分、アメリカは何かを掴んでいると思って良い」


「CIAですか?」


「そうだ。今更、中核派や革マル派の情報が欲しいとも思えん。それに、モサドやPLOの特殊保安部も動きだして中東もきな臭い」


 柳川は予想していなかった諜報組織の名が出たことで、脅威は小惑星だけでない無く、人類にも存在する可能性が有る事を感じ取った。

「宗教絡み‥‥‥ですかね?それらも含め情報を集めてみます。それと、ART(小惑星調査班)の編成は済んでいますので、何かあればすぐにでも対処できます」


「分かった。総理には報告しておく。兎に角注意して事に臨め。宜しく頼む」


「了解しました!!」



――――


 TVはどのチャンネルも小惑星についての特集を、朝から放送していた。しかし、大した情報は無い。小惑星が発見されて直ぐに、民間や教育機関での小惑星探査望遠鏡や衛星の使用を制限していたので、民間が持っている情報は150万kmに現てからしかない。今のところ中国もロシアも気付いているだろうが情報を漏らしていなかった。G7以外でUnknown Oneの真実を知っている筈のヴァチカンも、まだ何の動きも見せていなかった。


 しかし、それも時間の問題だ――。



「ボッチ―、本当に今日から学校へ行くの?昨日起きたばっかりじゃん」

 莉子は育ちざかりらしく、トースト2枚、ハムエッグ、大き目のリンゴ1個を平らげていた。蒼は朝からよく食べると向いの席で見ていた。


「うん、あまり時間を空けたくないから。それに、小惑星のドサクサに紛れて良いと思うし‥‥‥」

 蒼は本調子がなっていないのか、コーヒーでは無くオレンジジュースとヨーグルトだけで朝食を済ませた。


「まぁ、ユヅキさんが一緒だから大丈夫だとは思うけど」


「うん、そうだよ。彼女が居るから、多分大丈夫‥‥‥」

 でも、本当は鳩尾の辺りがもぞもぞとして、行くのを止めたくて仕方なかった。しかし、このまま人から避けられる人生を歩むら、どこかで乗り越えて行かなくてはならない壁。蒼はそう考えた。


「じゃ、あたしは先に行くから。ユヅキさんとおっ幸せに!」

 莉子はリュックを掴むと、ニヤリと笑って風のように家から出て行った!


「うっせ!!」

(ったく‥‥‥ムッチーが!!何がお幸せにだ!!)


 時計を見ると7時45分。時間に正確な花宗がインタホーンを押す時刻だ。

 

ピンポーン


(あ‥‥‥来たか)


「は、はーい!」


「おはよう!」

「おはよう‥‥‥」


「蒼、本当に大丈夫?もうしばらく休んだ方が良いんじゃない?」


「いや、大丈夫。この先を考えると、勇気を出さないといけない気がするんだ‥‥‥」

 蒼はリュックを背負った。そしてグッと腹に力を入れた。

「そう、分かった。安心して私は蒼の味方だから」


「うん、ありがとう。じゃ、行こうか」


「う、うん、そうだけど。取り合えず、制服に着替えたら?」


「あ!!寝巻だ‥‥‥」


――――



「アハハハハハ!蒼、本当に大丈夫?それともさっきは寝ぼけていただけなのかな?」

 意地悪そうな笑いをする花宗に、顔を赤くする蒼。


「そ、ちょっと、ボケてただけだから!」


「でも寝巻にリュック背負って出かけようとした時は吹き出しっちゃった」

 思い出して楽しそうに笑う花宗に、何故この女の子は自分にこうも良くしてくれるのか、蒼は分からないでいた。


(花宗さんはなんで僕なんかと一緒に居るのだろう‥‥‥)



 学校が近づくにつれ生徒の数が増えていく。それに比例して、蒼の心臓は『逃げだそう!』と言っているかのように、激しく脈打った。


 しかし、ここで戻ってしまっては、いつも後ろを向いて生きていくしかなくなる。それに、花宗さんも蒼の為に尽力してくれているのだ。


 今は独りじゃない!そう思いながらゆっくりとだが、蒼は一歩一歩前に進んでいた――。




 校舎が見え、入り口が近づいていく。周囲の生徒からの視線が容赦なく蒼に突き刺さる。

 蒼は歯を食いしばり、前だけを見て歩いていた。


「大丈夫?」

 花宗は心配そうに蒼の顔を覗き込む。


「う、うん。多分、まだ大丈夫」

 

『あれ、大キモじゃね?復活か!』

『大キモが小惑星と共に来襲!!なんつって!』


『大キモじゃね?隣は花宗さんか~。カワイコちゃんなのに、急にキレなきゃいいのになぁ』

『おまっ!カワイコちゃんって、昭和かよ!ギャハハハハ』


『お前見たんだろ!?花宗さんがキレた時さ!?』

『そそ、突然大キモを庇って、周りはドン引きだったよ』

『マジか!見たかったなぁ。動画ないのかよ!』


『大キモとキレ女。顔は良いのに勿体ないよな』

『なんだよお前、花宗が好みかよ?切れ気味に告って見れば?』

『イヤイヤ、無理無理。俺、気が強い女駄目だもん!ハハハハ!』


「ユ、ユヅキさん‥‥‥。何が有ったの?俺のせいで‥‥‥本当にごめん」

 昨夜、沢原 亜紀が言っていた、『蒼を庇って周りから良く思われていない』と言う意味が何となく分かった。


「大丈夫!問題ないわ。さ、前を向いて、胸を張って学校へ行きましょう」


「正直、怖いけど。でも今はユヅキさんが言うように、胸を張って行くよ。一緒に居てくれてありがとう」


 ゆっくりと、確実に、2人は前へ進んで行った――。

お読みいただきありがとうございます!

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