古の神々
数億年前、人類の祖先である哺乳類が誕生した頃、10体の地球外知的生命体が地球に現れた。
彼らがどこから来て、何の為に来たのかは分からない。
彼らは哺乳類の遺伝子を改竄して、卓越した知能を持つ生物が誕生出来るような因子を書き込んだ。
それから数億年と言う長い時間を経て人類が誕生すると、彼等は人類の繁栄のため、自然の摂理を操作した。時には、様々な生命を誕生させ、雨や風を起こし、大地を動かした。そうやって人類が繁栄するのを、人知れず助けていたのだ。
ある時、地球外知的生命体のうちの5人は、人類が地球の至る所に進出し、人口が増えたのを確認すると、シュメールに住む人々の中から数百人を選び、その前に姿を現した。彼らに自らをアブアマと名乗り、選んだ人々にウテガと名付けた。
そして、彼等に人類の生い立ちを理解させイデュという組織を作らせた。アブアマはイデュにメを授け、管理するように命じ、ウテガはメの一部の力を使えるように遺伝子を書き換えられた。
メとはこの地球の全ての自然や物理法則を自在に操作できる力の事で、アブアマ達が持つ技術の一つである。アブアマはそれを使って、生命に介入し、人類を誕生させることが出来た。
アブアマは、地球が深刻な危機に直面した時、メを力として使える5人の人間カラグが誕生出来るように、人類の遺伝子の使われていない部分に特殊なコードを書き込んだ。
もし、地球に危機が発生した場合、人類だけで乗り越えられるようにするためだった。
それから、暫くして、アブアマは地球から去って行った。どこに行ったのかも、何故居なくなったのかも分からない――。
それから数千年の間、イデュのウテガは世界中に散らばり、いつ来るかも分からない地球の危機に備え、アブアマの命令の通り子孫に語り継いでいた。そして、ウテガは、ありとあらゆる分野に浸透していた。各国政府、軍、研究機関、企業などに――。
それは、カラグが誕生した時、迅速に見つけ出し、保護する事が出来るようにする為だった。
ウテガは、イデュの事もメの事も、他の人類に知られない様に、厳格に秘匿し続けた。万が一悪用されないようにするためと、人類に対して畏怖の存在にならないためである。
◇
2024年7月 NASAは太陽から約245億㎞離れた太陽系外を飛行する、ボイジャー1号からの異常なデータを受信した。しかし、その24時間後、ボイジャーからの通信が完全に途絶えてしまった。
NASAはボイジャー1号と通信が出来なくなったのは、小惑星と衝突した可能性が高いと発表したが、最後の受信データについては発表されなかった。
ボイジャーには地球外知的生命体に向けたメッセージを銅製レコードに記録した物が搭載されていたのだが、信じられない事に、そのレコードの内容が、そのまま送信されていたのだ。
世界中の挨拶、音楽、美しい風景など、50年ほど前に人類が未だ見ぬ地球外知的生命体に向けて記録した内容を、遥彼方の太陽系外から何者かによって送り返された。それは、高度な知能を持った生命体か人工物か分からないが、何かの意図を持っているのは確かだった。受信周波数1420.356MHz、レコードに記録された内容を3回繰り返しそれ以上のデータは送信されなかった。
この周波数は、1977年一度だけ太陽系外からの信号を受信したとされる、通称『WOW!シグナル』と呼ばれる周波数と同じものだった。
アメリカ政府は、この事象を国の最高機密に指定。地上と軌道上にある電波望遠鏡の民間や教育機関の使用を制限した。そして、G7の首脳と非公式の会談を行い、情報の共有と今後の対応について話し合いが行われたが、ブルッキングレポートを基準にして、一切の情報を開示しない事が決定された。
ブルッキング・レポートとは、地球外生命体の発見が、世界中の様々な人種、宗教、社会に甚大な影響を与えると予想された報告書である。
それから1週間後、ボイジャー1号が消息を絶った付近で、巨大で極低温の小惑星が発見された。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線画像には、低温のため円形の黒い点の様に写されていた。 大きさは月の三分の一程と見られているが、特異なのは大きさだけではない。その移動速度と進行方向だった。その巨大な小惑星は、時速280万㎞という途方もない速度で、地球に向かっていた。しかも、他の惑星の引力などに左右されず、まっすぐ地球に向かって――。
その小惑星にはA/2025 UK1(“Unknown One”)の仮符号が与えられ、最重要監視対象になった。
軌道計算の結果、約1年後地球に衝突すると計算された――。