煉獄狐の現世探訪記
・地獄で生まれた狐娘が現世を旅する話。
持ち物は調理器具と寝具、一時的に保存している食べ物(それらはバックパックで持ち運ぶ)
道中で狩りをするために地獄の鬼たちがこさえた長さが異なる二振りの野太刀とそれを握るための籠手(それらは燃える尾の中にしまってある)
暖房や調理用の火は自身の炎尾で賄える
地獄育ちなので暑い、熱いのはもっぱら平気
昔々、國と言う國を自らの美貌で堕落させ、滅亡させた妲己という悪女がおった。
其奴はその地で粗方堕とした後、名を玉藻前に変え、海を越えた先日ノ本へと移っていった。
そこでも当然目的は変わらず、各地の國へ訪れてはその美貌で数多の男を魅了し堕落させ、滅亡まで誘っていた。
それから数年、玉藻前はとある國の妃となった。理由はもちろん、その夫である男を堕落させ傀儡にするためであった。
しかし事はそう運ぶことはなかった。子を作ることになった妲己は彼の者とまぐわうと、途端に力が抜けていくのを感じた。
焦りと怒りを露にする玉藻前を彼の者は嘲け笑う。ここで終いだ、と。
こうして玉藻前は一人の男によって長きに渡る悪行に終止符を打たれることとなった。
玉藻前は地獄に落ち、閻魔の前に跪く。お前は数々の罪を重ねた業深き者。この地獄で永遠の苦しみを味わい、己の行いに悔い改めよ。閻魔は淡々と述べた。
ただし。と閻魔は玉藻前の腹を指して言った。その身に宿る命に罪は無し。ここで産み育てた後、現世へ送り届けよう。
こうして生まれた玉藻前の子、名は煉と言い、地獄で働く鬼達に育てられました。
「今日の湯釜はちと温くないかえ?」
「そうは言っても姐さん、他の人を考えてくだせぇよ」
「そうですよ九尾の姉御。あんたの温度に合わせちゃ他の罪人が苦痛を味わう前に湯立っちまって贖罪にならないんすよ」
小鬼たちが困った声を上げながら地獄釜の火に風を送っている。
「ま、常人にはこれくらいがちょうどいいんかね」
玉藻前はため息混じりに茹だった赤い溶岩を掬い上げる。
「おーい!」
「お、この声は」
小鬼が振り返ると小さな子供が駆け寄って来た。
「母上、今日の修行が終わったぞ! 遊んでいいか!?」
「ああ。いいさ。好きにお行き」
「」
「ほう! "地獄"は弱者の溜まり場と聞いておったが真だったな! このような強者に出会うとは恐悦至極!」