君と一緒に
「現代版小話ー紅茶ー」
ある休日。香しさから目が覚めると、ベランダには既に目覚めて朝日を浴びてる彼女の姿があった。香りの正体は、手に持っている紅茶だろう。紅茶派と豪語するだけあり、一緒に暮らしてから戸棚の一部はちょっとした紅茶バーのようになっている。ベッドから起き上がると、デスクにあったタバコを掴んでベランダに出た。彼女はまったり空を眺めて、優雅な朝のティータイムを楽しんでいるようだ。
「おはよう。」
そういって彼女の背中に身を寄せた。じんわりと彼女の熱を感じて心地よくなる。おはよう、と返されて紅茶ならまだあるよと言われたが、わたしはこれがあるからとタバコを見せた。すると彼女は眉間に皺を寄せ、
「ちょっと、また新しいの買ったの?前にまとめ買いしたのまだ1ダースくらいある気がするんだけど……。」
しまった。寝ぼけて昨日コンビニでつい買ってしまったのがバレてしまった。はぐらかすように笑いながら横に移動して火をつける。触れ合った肩越しにため息を感じた。だが、強いお咎めはないようで煙と一緒にほっと安心を吐く。
タバコが短くなり、眠気が覚めてきところで2人でキッチンへ向かう。朝食はリクエストのサンドイッチだ。冷蔵庫とにらめっこをしているわたしの横で、彼女はおかわりのティーパックを品定め中だ。その戸棚の上を見ると、1セットのカップが目に入る。
紅茶といえばティーカップだと思って、同棲の記念に買ってきた日のことをふと思い出した。彼女の祖父の国だと結婚祝いにティーカップセットをもらうことが多い。そう知ったのは後日、留学から帰ってきた友人からたまたま耳にした時だった。
渡した時の彼女の反応がなんともいえない様子だったのは、本場を知ってる彼女のセンスと合わず気に入らないからなどではなく、照れ隠しとかが入っていたのかとそのときやっと腑に落ちた記憶がある。
彼女もその視線の先に気がついたようで、今日はこれを使おうと提案してきた。もちろん断るはずはない。だがその前に腹ぺこの自分たちのサンドイッチを仕上げねばいけないので、手元の作業に戻る。
「それにしても、フェイがこのティーカップ持ってきた時は驚いたなあ。」
彼女もあの時のことを思い出してたようで、くつくつと笑いながらカップをなでる。
「だってさ、同棲決まったときわたしもお揃いのもの欲しいけど何がいいかなーって考えててさ。でも、お店に行った時にペアのマグカップなんてちょっと重くない?あと割れると縁起悪いし〜とかお客さんの女の子が言ってて……だから別のにしよって家に帰ったら、ガッツリしたティーカップセットおいてあるんだも……ん……」
自分が思っているよりも素直に口から出てしまったみたいで、彼女の顔がだんだん赤くなっていた。
そうか、なんか深い意味で捉えられてしまってーいや、それでも問題ないんだけどーのことかと思ったら、1年越しにまさかの真実だった。なんか、こう、かわいらしい理由だったんだなと思って肩を震わせながらサンドイッチを運ぶ。彼女は目を合わそうとしない。サンドイッチを置くと、ぐう、とタイミングよく彼女の虫の音が鳴った。耐えられなくなって声を上げて笑うと、つられて彼女も笑い出す。そしてわたしは、1つ彼女に提案したのだった。
その日、もう1つおそろいが増えた。