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3-2

 料理が美しく盛りつけられた大皿を受け取って、素早くバイキングスペースに並べる。


「あ! 茄子、新しいの来たよ! お母さん、好きだよね? 新しいの、いる?」


 男の子がそれに気づいて、はしゃいだ声を上げる。


「ボク、取ってきてあげようか?」


「このお皿の上のものを食べ終わってからね。前に取ったものが残っているのに、さらに新しいものを取りに行くのはお行儀が悪いよ」


 母親が嗜めるも――男の子は母親のために料理を取ってあげたくて仕方がないらしい。バイキングスペースを見ながらソワソワしている。そうだね、わかるよ。バイキングって楽しいよな。


 あのご婦人も、ほかのお客さまも、男の子の天真爛漫な様子に楽しげに頬を緩めている。


 美味しい料理と人の笑顔にほっこりと心が温かくなる――贅沢な時間。


 本当に、この店は最高だな。


 僕もまた小さく笑いながら、さらなる補充のためにダイドコに向かった。




 

          ◇*◇




 

「榊木」


 うちの大学が誇る――まるでパルテノン神殿のような外観の最新鋭図書館。

 夏休み中なのもあり、利用者はいつもにくらべると少ない。シンと静まり返った三階の北側の閲覧スペースで資料を広げていた僕は、名前を呼ぶ密やかな声に顔を上げた。


「え……? あ、長瀬さん」


 四ノ宮さんの先輩で、間違いなく『想いの人』でもある。先日、一陽さんのおかげで、無事『思い出のおばあちゃんの煮物』にたどり着くことができた長瀬さんだった。


 今日も爽やかで、イケメンだ。涼しげな淡いブルーのシャツがよく似合っている。

 その後ろには、長瀬さんの友人だろうか? 黒のパンキッシュなTシャツにGパン姿の目つきがかなり悪い青年が。なんだかひどく不機嫌そうに、ムッツリしている。


「偉いなぁ、お前。夏休みまで、図書館通いかよ」


「たまたまですよ。そういう長瀬さんだって、ここに来てるじゃないですか」


「ゼミの夏休みの課題だよ。結構厄介なのが出てさ、ネットじゃ太刀打ちできねぇの」


「僕もですよ」


 おそらく、夏休みにここに来ている学生の大半がそうだと思う。読みたかった専門書の大半(貸出不可)が見当たらなかったからな。誰か使ってるんだろう。


「でも、ちょうどよかった。俺、榊木に訊きたいことがあったんだよね」


「え?」 


 意外な言葉に、僕は目を丸くした。え? 僕に?

 長瀬さんとは、四ノ宮さんがお店に連れてきたあの時が初対面だ。もちろん交流なんてあるわけがない。それは今も同じ。あの時も、とくに連絡先とか交換しなかったし。


「もしかして、また料理関係で何か?」


「いや、料理は……」


 長瀬さんが首を横に振って――しかし、すぐに思い直したように「あ、いや、まったく関係ないってわけじゃないか……」と言って、背後の友人(だよな?)をチラリと見た。


 え? ちょっと待て。そっちのお友達さんも僕に用があるのか? そちらさんは完全に初対面なんだけど?


「なぁ、好きなもの奢るし、カフェに移動しないか? 話を聞いてほしいんだけど」


「構いませんけど……」


 いったいなんなんだろうと首を捻りつつも僕は資料本を閉じて、荷物を手早く片付けて立ち上がった。


「助かる。ありがとう!」


 長瀬さんが手を合わせて、爽やかに笑う。


 周りにはほぼ誰もいないけれど、図書館で長々とおしゃべりをするのはあまりよくない。長瀬さんとともに、図書館併設のカフェに移動する。


 誰もがよく知る、大手珈琲チェーンの大学内店舗。飴色のテーブルが並ぶ、ウッディで落ち着いた雰囲気の店内は半分ほどの席が埋まっていた。

 けれど、これを賑わっていると表現するのは、ちょっと違う気がする。みんな、一様に本やらタブレットやらノートパソコンやらを覗き込んで『作業中』だ。


 静かに流れる音楽がやけに耳につく。――これ、話なんかして大丈夫か?


 でも、カフェ内は死語禁止というわけじゃない。話すこと自体は問題ないだろう。話がほかの人に筒抜けになってもいいならば。


「榊木、何を注文する?」


「一番大きいサイズの水出しアイスコーヒーとホットドック、あとたっぷり玉子サンド」


「……よく食うな。お前」


「好きなもの奢ってくださるそうなんで」


 バイト終わってすぐ図書館ここに直行したんで、お腹減ってるんですよ。


 出てきた商品を受け取って、三人で店内唯一のソファー席へ行く。

 並んで座る長瀬さんとお友達さんの向かいに腰を下ろして、しっかり両手を合わせると、僕はホットドックへと手を伸ばした。


「あの、さ……まずは……四ノ宮のことなんだけど」


「……!」


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