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「えっ!? さ、榊木、くん……?」


 僕はびっくりして、女性をまじまじと見つめた。


 歳は僕と同じぐらいだろうか? 目尻が少し下がった大きな目に、同じくやや下がった困り眉。肩までの髪は、少しだけ赤みがかったブルネット。

 全体的に小づくりというか、小さくて華奢だ。シンプルなブラウスに、ひらりと揺れるシフォンスカート。一陽さんが言っていた厚手のカーディガンは夏らしい淡い青で、今は膝の上にあった。


 地味――と言ったら言葉が悪いけれど、同年代にしては落ち着きがあって、はんなりと可憐な子だった。


「え? なんで僕の名前……。あれ? どこかでお会いしましたっけ?」


「え? いえ……あの、その……」


 女性がさっと居住いを正して、なんだか恐縮した様子で頭を下げる。


「実は私、同じ大学でして。四ノ宮千瀬(ちせ)と言います。文学部所属の二回生です」


 マジか。


「ご、ごめん。知らなくて……」


「あ、いえ、謝らないでください。お、同じ大学の同じ学部ってだけなので、榊木くんが私を知らないのは当然なんです」


 思わず謝ってしまった僕に、女性――四ノ宮さんが慌てて両手を振る。


「だって、その検索条件だと八百人以上がヒットしちゃうわけですから。私も、たまたま榊木くんのことは知っていただけで、知人と言える人はごくわずかですし。ええと……」


 四ノ宮さんがオロオロしながら、ひどく申し訳なさそうに言う。

 僕はふと眉を寄せて、その傍らに膝をついた。


「四ノ宮さん? 顔が真っ赤なんだけど、暑い?」


 さっきまで完全に色を失っていた顔が、今度は真っ赤だ。熱でもあるのだろうか?

 クロは心配ないみたいなことを言っていたけれど、でもこれは。


「え? あ、いえ、違います。ちょっと……その……興奮してしまって」


「興奮?」


「は、はい。ものすごく、お美しいお部屋だと思って……」


 思いがけない言葉に、思わず目を丸くする。


「この部屋が、美しいから?」


「はい! 昔ながらの竿縁天井も、真鍮で装飾されたレトロなガラスのランプも、繊細な透かし欄間も、襖も、その引き手も、もう全部が素敵で! 柱や窓枠……廊下なんかも、飴色になって黒ずんで、その風合いが本当に素晴らしいです! たしかな歴史が刻まれた物って、どうしてこうときめくんでしょうね! たまらないです!」


 ――なるほど。クロの言葉の意味がわかった。たしかにこの子、僕によく似てる。


「総二階の京町家なのかなって思ったんですけど……」


 四ノ宮さんが「でも、向こうに」と足もとのほうの襖を指差す。


「あの襖の向こうに、斜めになった天井の一部と手すりが見えるんですよね。もしかして、あちらは吹き抜けなんじゃないかって思ったりして……」


「ああ、そうですけど、見ます?」


「いいいいいいいいいんですか!?」


 僕に喰らいつかんばかりの勢いで、四ノ宮さんが身を乗り出す。僕は思わず苦笑した。ああ、わかるよ。その気持ち。


「その前に、体調を確認させてくれる? 四ノ宮さん、うちの店の前で倒れたんだけど、わかってる?」


 瞬間、四ノ宮さんがビクッと身を弾かせ、わたわたと頭を下げる。


「あ……! そ、そうでした! すみません! ご迷惑をおかけして」


「いや、謝らなくていいから。今は、体調はどう? 大丈夫?」


「……あー……はい。ちょっと、スッキリしました。眠れたからでしょうか?」


 その答えに、内心肩をすくめる。これは、ほとんど体調よくなってないな?


「眩暈や吐き気は?」


「ないです」


「熱っぽさは?」


「それもないです」


「首筋を触って確かめてもいい?」


「え? あ、はい」


 四ノ宮さんが頷く。僕は「じゃあ、失礼して」と言って、手の甲を四ノ宮さんの首筋に当てた。


「――うん。顔は赤いけど、熱があるわけじゃないみたいだね。ついでに、手もいい?」


「手、ですか? いいですけど」


「うん。ちょっと失礼」


 不思議そうにしている四ノ宮さんの手を取って、その爪を見る。

 白っぽく、つやがなくなっていて、アーチがほとんどないうえに薄い。――間違いない。完全に鉄欠乏だ。


 僕は小さく息をついて、彼女の顔をじっと見つめた。


「でも、常に倦怠感がある。そのせいか、少しのことで息切れする。とにかく疲れやすい。しっかり寝ても疲れが取れず、寝起きは最悪。そして日中どうしても眠くなる。そのくせ、夜は寝入るまでに時間がかかる」


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