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01 スキル【温泉郷】

 指導者スキル。それは領主として民を率いる者に与えられる、天からの授かりもの。


 あるものは戦を有利にし、あるものは民を救い、あるものは歴史の針を進める。

 領主とは民あっての領主。と同時に、民を守るだけのスキルあっての領主とさえ言われるほどだ。


 そして今日、俺はバルネア辺境伯国の新たな領主としてスキルを授かることになっている。

 その会場、王都大聖堂につくと、大陸最大の同盟である「四国同盟」に所属する領主たちが俺を出迎えた。


「アンリ君! 遅かったじゃないか! 俺はまた敵対同盟に妨害されたのかと心配したよ!」


 金髪の美青年はアミー家当主のランド公爵。同盟最強とも呼ばれる【大軍勢】のスキルを持ち、一声で一万を超す兵を動かせる戦場のカリスマだ。


「やあアンリ坊、元気にしておったか。お父上のことは残念じゃったのぅ」


 白髪の老人はプラダクト家当主のマス公爵。【超生産】のスキルにより同盟の兵站を支える古株だ。


「アンリさん、本日は素晴らしいスキルを授かられるよう祈っておりますわ」


 聖女姿の女性はリキト教会領の実質的な領主、マリー大司教。物静かな見た目とは裏腹に、【熱狂十字軍】のスキルで教会権力を一挙に拡大させた凄い人だ。


「皆様お久しぶりです。これまで父がお世話になりました。亡き父に代わり、これからは俺が当主となります。よろしくおねがいいたします」


 俺は深々と頭を下げる。バルネア家は四国同盟の中では最も小国。けして対等ではない。

 それでも大国の一員としてやってこれたのは、ひとえに代々伝わるスキルの系統が強力だったからだ。特に親父の【士気高揚】は、兵たちを活気づかせ、数的不利な戦を幾度となく覆してきたことで有名だ。


「俺も素晴らしいスキルを授かり、四国同盟に貢献したい所存です! どうか本日は見守っていてください!」


「ああ、期待しているぜ」


「ほっほ……そう気張るでない。仮にスキルがなくともバルネア家は古い盟友、安心なされよ」


「神さまはいつでも行いを見ています。あなたならきっと大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


 俺はもう一度頭を下げる。温かい言葉は嬉しいが、もちろん彼らの言葉を信じ切るわけにはいかない。四国同盟は軍事力に長けるスキルあってのもの。もし戦向きでないスキルを引けば、バルネア家の立場は危うくなる。


 ……そのためにも、何が何でも良スキルを引くことだ。


「バルネア伯、そろそろお時間です」


 神官に従い、俺は祭壇に立つ。ステンドグラスから差し込む光の中、神官は俺に向け手をかざす。


「古より伝わる盟約にしたがい、この者に民を導く力を授けたまえ!」


 俺の体が輝き、おおっというざわめきが聖堂に満ちた。見えない力が全身を駆け抜け、俺はスキルを得たことを理解した。


「頭の中で"スキル"と念じてみてください。授けられた力がわかるでしょう」


 神官の言葉どおり、俺はスキルと脳内で念じた。すると、


―――――――――――――――――――――――――


スキル名:【温泉郷】


―――――――――――――――――――――――――


「……は?」


 思わず声が出た。なんだこれ。【士気高揚】は? なんで温泉……?


「アンリ君、どんなスキルだったんだい?」


 ランド公に尋ねられ、脳がフリーズしていた俺は思わず答えてしまった。


「【温泉郷】らしいんですが……」


 言ってからしまったと思っても、もう遅い。四国同盟の面々の表情が凍りつく。


「温泉……? 温泉って、あの温泉か!? ふざけないでくれ! 冗談じゃないのか!?」


「なんじゃそれは、戦にどう役に立つ?」


「おお、神よ……」


 まずい、このままじゃ大変なことになる。俺は慌てて弁明する。


「待ってください! 効果を見れば、きっと役に立つものだとわかります!」


 俺は再度スキルと念じる。今度はその効果も表示するように。

 そして、


―――――――――――――――――――――――――


スキル名:【温泉郷】


説明:場所を問わず温泉を出現させる。色、香りも自由自在。


―――――――――――――――――――――――――


 ダメだ。完全に終わった。


 俺の様子を見て四国同盟の皆も、俺が授けられたスキルが戦には全く役に立たないものだったことを察したらしい。

 先程見せた優しい表情は一変、下民を見る目、人を見下す嫌悪と失望の眼差しを俺に向けてきた。


「アンリ君」


「は、はい……」


「この大陸の平和が保たれているのはなぜだと思う?」


「え、ええっと、四国同盟の軍事力があるからです……」


 ランド公が頷く。


「君のバルネア家が代々同盟に入れたのは、兵を鼓舞するスキルが強力だったからだ。でも本当はね、バルネア家なんて田舎貴族が同盟の仲間面しているのには、皆心底うんざりしていたんだよ」


「え……?」


 ランド公が俺の胸ぐらをつかむ。マス公も、神に仕えるはずのマリー大司教もそれを止めない。


「ぐっ……」


「アンリ・バルネア辺境伯に告げる。今日この時を持ってバルネア家を四国同盟より追放する。マス公爵、マリー大司教、異存はありませんね?」


「無論だとも」

「ええ、異存ありません」


「がはっ……」


 俺は聖堂の床に投げ飛ばされた。神官も、衛兵も、誰も俺を助けようとはしない。彼らの中で、俺はもう貴族ではないのだ。


「バルネア家も終わりだな……」

「まさかこんなガキのせいで……」

「先代も墓の下で泣いてるよ……」


 ヒソヒソという囁き声。さらに四国同盟、いや、今や三国同盟の領主たちはひと目もはばからず話し合いを続ける。


「ところでバルネアの領地ですが、どのように分割しましょうか?」


「儂は西の鉱山がほしいのう」


「私は北の交易ルートを頂きたいですね」


「そうか、なら俺は農耕地帯ですね。ところで出兵する兵の内訳ですが……」


 なんだ、何の話し合いをしてるんだ……?

 分割? 出兵!? まさか、親父から受け継いた領地に攻め入るつもりなのか……!?


「や、やめ……」


 俺は力なく呻く。が、その言葉は届かない。

 頭がガンガンする。ああ、ダメだ。このままでは、民に申し訳が――

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