第七話:「出会い」
パルの一言で凍てついた空気に包まれたのは主に彼の
データバンクである事が原因だった。
というのも、魔力の成長は使うことによって引きおこるモノであり
そもそものデータバンクの立場ではそこまで使用されないのだ
しかし、それだけなら嘘だと流せるが此度は
『魔道障壁を打ち破った』こともあり
噓を暴く魔術が走っていたのだ、故に。
(この男の経歴は…データバンク?)
ということが証明されてしまった故に
空気は凍り付いているのである。
「パル君、あんまり困った顔しなくていいんですよ?」コソリ
「いや、あの、えっと、失言しちゃった感じなんですけど…」ボソボソ
「まぁまぁ、今は胸を張って、パル君は今事実上世界最強の矛ですよ?」コソリ
世界最硬の立場を持つアルテからサラッと言われる言葉にドキッとする
何せパルも疲れ切っていたとしても男だ、世界最強の称号は心躍る。
「とりあえず、今は胸を張っていてください、喋り慣れて無いのはわかってますからね
困った状況にはしませんよ、私が責任取ります。」コソリ
アルテは頼もしい表情で話すからか、パルの顔は久々に緩む
実際数年以上裏方し続けていたので人前に出るどころか
そもそもここまで多く話し合う事自体あまりない生活だったのだ。
「さて、今更注意するのも面倒なので流していましたが
勝手に覗き見た真実に動揺して黙り込むのは勘弁してくださいね
今言ったように彼の経歴は偽りなく、クビにされたデータバンクです
しかしこの様に、恐ろしいまでの魔術の才を持ちます」
アルテはすべてわかっている様に話を進めていた。
「この件は私、ヴェクライト・アルテにギルドマスターより一任されており
彼の才を調べ守る為ならば武力行使の許可も降りています
故に今回のように勝手に探る事は好ましくありません、わかりますね?」
魔術士達はざわついたものの、直ぐに事態を飲み込み静けさを戻した
その中で声を上げるものが居た。
「つまりは才能の独占にならんかね、いくらアルテ殿の言葉だとしても
彼の実演を見せた後ではそれを通すのは難しい物がある」
「勝手な手出しは許されないという事です、彼は彼自身の才覚を把握しきっていない
だからこそ、不必要な干渉による事故は看破できません
必要に応じて貴方達の力を借りる事はあります
それ以上を求むなら私ではなく、ギルドマスターに掛け合い下さい」
ギルドマスターは相当な札だったか、不平不満の声は止み
アルテの要求は通される流れが生まれた。
「えっと…つまり僕はアルテさんの元に所属する感じですか…?」ボソボソ
「一応そうなりますが、ギルドへの所属はまた別になると思います
私とパル君で最強の矛と盾もいいですが、パル君には普通の冒険者の経験も
大切なものになると思いますからね」コソリ
「では、説明も済みましたので席を外させてもらいます
この中から誰一人として欠けるようなことは無いと祈っていますよ。」
そういってアルテに手を引かれてパルもその場を後にしたのだった。
■
「えっと、僕って結局どういう扱いになるのですか?」
「貴方という人間の所属はこちらになるのですが
ギルドマスターの権限で、もう一つ戸籍を用意して
そちらで一般的な冒険者として生活する事になる予定です」
パルは少し首を傾げたが、その意味合いに気づいた。
「僕自身はアルテさんのギルドに居ることになるけど
それはそれとして、僕は偽名で冒険者をやる感じですね」
「そうなりますね、研究や現状確認の為に
こちらに顔出しすることも多くなると思いますが」
話の中、パルの表情が暗い事にアルテは気が付いた。
「パル君?どうしました?流石に色々急ぎ過ぎてたでしょうか…?」
「いえ、その…えっと…あの
僕の事なんかで色々手間かけてるのが申し訳なくて…」
パルの声は暗かった。
「…気に病む必要なんてないですよ、貴方の事はとても興味深くて
寧ろこの状況が私は楽しくて、ワクワクしています」
「僕は!…その、えっと、面白い事なんて、出てきませんよ
ただの首切りされた男で、昔から情けないなんて言われてて…」
「昔から、ですか?」
「そりゃあ…数年というか、数十年くらい働いてて、このざまですし」
「センス無いのは捨てたほうですよ
昔もほら、いやこの事はまだ…」
「…?えっと、だとしても、迷惑かけてしまうだけですよ…
アレに書いてたように、僕には並行運用くらいしか出来る事が…」
「いいんです、ですがその、何もしないのもアレかもしれませんね
パル君、気が変わりました もうちょっと呼ぶ機会増やす予定にします、決定です!」
そう言ってアルテは有無も言わず手を引いて進むのだった。
「これから私のギルド『シーカーズ』に行きます
しっかり挨拶してくださいね」
「…はい、わかりました」
パル顔は険しいが、アルテは気に介さず進んでいった。
「みんな歓迎しますよ」
アルテは扉を開けた、パルの人生において知りうる最高峰のギルドは『ガイアバトラーズ』だったが
今日それが更新されるだろう。
王都ギルド本部直属 S級ギルド『シーカーズ』、彼にとって初めての
熟練のギルドとの出会いになる。
本物との出会いの始まり
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