第六話:『お披露目』
A級ギルド『ガイアバトラーズ』
過去に凶悪な魔物の討伐した事や、新しい理論の発見などが評価され
開拓権限与えられた『街持ち』と呼ばれるギルドである
「おい、何してるんだお前ら、延滞の通知が来てるぞ」
バンドンが扉を開けると、そこは正に惨状だった
本は散乱して最早作業できる状況ではないのだ。
「バンドンさん!それが…一人用の設備しか無くて
全然作業の足並みが揃わないんです!」
「は?アイツは一人で場をもたせていただろう」
「我々は魔法使いです、流石にそれ専門とは勝手が違いますので…」
「ふむ…まぁそれもそうか、少々浅慮だったな
職人に増築を申請しておくから少しでも進めろ」
そう言って溜まった延滞通知を置いていくものの
何とも言えない不安が生じていた。
(施設が揃ってないにしても…少々進捗が遅い気がするが…
ここのメンバーは論文なども良く作っているはずだが…)
当たり前のことだが、正確な記録を効率的に書き上げる事と
論文を書き上げる事は大きく違う、このままただ物を増やしても意味は無いのだ。
「とりあえず、私は私の仕事があるからな、あんな戦い一つできない男が
一人抜けた程度で手を煩わせるな、いいな」
そう言って帰るバンドンだった…。
■
一方パルはいまアルテに連れられて魔術研究の大御所や魔術士の上位たちの前に
立たされていた。
「彼が私の『魔導城塞』を打ち破ったアロン・パル君です
事実上この中でも最大火力という事になりますね」
彼女の一言で場が凍り付いた、勿論パルもだ。
「…アルテ、よくわからないがその困った顔している彼が本当にそんな事をできたと?」
「そうですよ、ですよね?パル君?」
その場の全員の視線が集まる
「えーっと…一応ハイ、勝ったと思います、ハイ…」
その言葉で空気は更に変わった。
(まさかあの壁を打ち破る程の実力を?)
真偽を疑う者。
(流石に無いだろう、少なくとももう少し胸を張って言って見せる筈だ)
噓だと断じる者。
(アルテがそういうのならば…何かこの男には秘密が…?)
アルテを信じて思考を巡らせる者。
しかし各々の考えは違えど、答えは一つだった。
「そういうのなら、彼の魔法を見せて欲しい」
であった。
「是非とも見せてあげましょう?ね パル君」
「え、あ…ハイ」
反射的に答える癖は無くしたい、そう思うパルであった
■
大勢の、パルは知ってはいないもののこの王都にて有名著名な
魔術に携わる者たちに囲まれながらパルは立っていた。
「そういえば、パル君って『炎玉』以外は使えるんですか?」
「えーっと…氷と雷の基礎も一応…」
「いいじゃないですか、私も気になりますし、やって見せてくれません?」
「基礎魔術だと…?」コソコソ
「アルテ殿もあの男に誑かされてるんじゃなかろうな」コソコソ
周りではパルの事をよく言わぬ言葉が巡っていたが
パルは気にしていなかった、陰口は前の職場でもよく聞いていた故に
今はそれ以上にアルテが恥かかないかが心配といった顔だ。
「では…『氷棘』やってみます」
そう言って構えると、初めこそ鋭い氷が現れるだけで、周りの熱量もどんどん下がっていったが
すぐにその魔法の雰囲気がおかしい事が露わになっていた。
「あの『氷棘』おかしくないか?」
「…鋭すぎるというか、ここまで冷えている…?」
棘を構築する冷気は束ねられ極限まで鋭さを増し、その低温は周りの大気すらも染める
完成した一つの凍てついた刃は芸術的なまでに煌めいてた。
「『氷棘』…!」
「『魔導城塞・壁』」
アルテが唱えると周りから歓声が上がる
無敵の魔術、無敗の魔術、数多の軍勢を弾く無双の城壁と称える
しかし――
ガギィイイイイインッ…
一発、何かが貫かれる音が響き、誰かが息を吞んだ
「…やはり、負けてしまいました」
アルテの背後には正面から大きく風穴を開けられた壁があった
放たれた刃は容易く突き抜けていたようで、その壁の後ろ
この施設の壁をすべて貫いたことを示すように外の風景が覗かれた。
「…どうでしたか?」
パルが空気に耐え切れず声を漏らすと。
ワァアアアアアアアーッ!
誰も知らなかった未知の領域との邂逅、或いは新たな知見の発見か
魔術士達は歓声を上げてパルに寄って行った。
「いったい何してたんだ君は!」
「どうやって修行してたんだい!?」
「君の魔法、もう一度見せてくれないか!」
パルは完全に困った顔をしつつ応えた。
「いや、その、えっと、ただの…『データバンク』だったんで…
しかもクビになっちゃってますし…」
その一言で魔術士達の空気はもう一度冷え切ったのだった。
パルのターンは終わってないぜ!
皆さんの評価感想は励みになります故どしどしお待ちしております
此度の作品の精進の為にもお願いします。