第五話:『ひと時』
アルテはパルを連れて再び
試験に扱われた場所に戻っていた。
「まさか打ち破られてしまうとは…」
「………………えっと…」
アルテさんは腰に手を当てて感慨深そうに呟いていた
彼女の『魔導城塞』は無敵と言われていたからか
初の敗退となったこの場所は重いものとなるのやもしれなかった。
「おっと、決して責めたり何だったりは無いのですよ
ただ、心の奥底では負けないだろうという慢心があった事を
痛いほどに分かったのです。」
「えっと、アマ荒野決戦での事を考えたら、そう自負してもいいと思います」
「あはは、そう言ってくれると嬉しいですが」
そうは言うもののアルテの顔は未だに何とも言い難いものであった。
「アマ荒野決戦の事はどれだけ?」
「えーっと…『屍軍将』が率いていた地を覆いつくす程の
アンデッド達を一人で受け止めてその上殲滅しきったと聞いています」
「ええ合っています、あの時そのアンデッド達に含まれていた
『屍術士』達、総勢で数千を超す数に
私は集中砲火を受けていたんですよ」
「……はい?」
パルはよくわかっていないようにいたが『屍術士』は強力な魔法をもって
苛烈な攻撃を行う魔物であり、その集中砲火とはつまり……。
「もしパルさんの言ったよう『並行運用』で重ねていたとしても
上位の魔術の猛攻より強力には成り得ない筈なんですよ」
1を幾つ重ねても1000や10000が幾つも放たれる状況に勝ち得る道理は無いのだった。
「……………えっと」
「怒るつもりは無いですよ、魔法使いの手法というのはひけらかすモノでも無いですし
何か別の術式を使っていたとしても『魔導城塞』を打ち破った事実は…」
「いやその、僕は本当に一気に重ねたら、ああやって光っただけで…ハイ」
パルはここ最近でも一番申し訳なさそうに答えていた。
「…そうなると、魔法を重ねることに意味合いが…?
わかりました、パル君のそれは後に回します。」
完全に予想が外れたといった顔のアルテだが
パルの酷く申し訳なさそうな面を見て信じるのだった。
■
アルテがパルを連れている間に、ギルドでは調査が進んでいた
『ガイアバトラーズ』の他でもないパルが作っていたデータベースに
マリ筆頭に複数人のチームで調査されていた。
「…筆跡や魔力痕跡がすべて統一されてる…
本当にこの量すべて、一人で?」
すでに積みあがる本だけでも軽い書店が開けるまである。
「マリさん、このデータ作った人って知り合いなのでしょうか?
一度話を聞いてみたいです」
王都所属のデータバンク達も唸る、少なくともパルの努力は無駄ではない事を
示す言葉にマリは反応したが、それ以上に気がかりなものがあった。
「『ガイアバトラーズ』…A級という評価は改める可能性がありそうです
マスターにも伝えておかないと」
これ程の実力、そうでなくとも一人でギルドを支えたことを証明している人員を
切ってしまう組織は深く考えなくとも実力に疑いが生まれる。
しかしギルドの中で疑いが生まれる中、すでに『ガイアバトラーズ』でも
栄華の中に綻びが生じていた…。
■
「…おい、この延滞通知はなんだ?」
バンドンは送り付けられた大量の書類に驚いていた
内容は単純に『運用記録』や『収益』などの記録の催促である。
「まったく、後任は決めたはずだが…
少し喝を入れてやらんとな」
パルを追い出した部屋へと向かうバンドン
しかし彼は気づいていない、すでに取り返しのつかない
破滅がこのギルドに絡みついているという事を…。
まだざまぁに非ず
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