第二話:『炎玉』
結論から言えば、日雇いは埋まり切ってた
王都内での救済措置に近しい仕事は既にそれで暮らしてる
グループがあるのだ。
「となると……」
パルの目の前には王都だけにある冒険者ギルド本部があった
あまりいい思い出がある訳ではなかった
というか、追放されたばかりなのもあって無いのだ。
「でも、もうそうするしかないもんな」
暖簾をくぐり進む、懐かしい思いが沸き上がる
(昔バンドンと一緒に登録したなぁ……
でも、もうこれからは一人だ)
「すいません」
「どうも、どういった御用でしょうか?」
「冒険者として登録を…」
そう言いながら『ギルド事務員』として登録されたカードを出す
所属は既に無所属になっていた、当たり前だが。
「こちらを上書きになりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ではお待ちください」
これで切り替えるつもりだ、もう戻れない過去と。
「では、技能検査を行いたいのですがよろしいでしょうか?」
「技能検査、ですか?」
聞きなれない話だった、事務員登録ではなかったが…。
「冒険者としての技能を先に確認しておく為です
昔はありませんでしたが、最近は基準も設立しやすかったので」
「成程…」
といっても、そっち方面の技能はあって無いようなものだ
パルに出来るのは多少の魔法の並行運用である
ブラック業務で鍛えられてはいるが、どこまで通用するのか。
「ではこちらに」
■
連れられた先は闘技場のように開けた場所だった
的や貸し出し用の武器、檻なんかもあるようだ。
「先ずは純粋な力量という事で…よっと
こちらの的に全力の攻撃をお願いします」
「全力…かぁ」
長年『データバンク』として事務作業しかしてなかったパルには
独学で覚えた基礎の魔法くらいしかなかった。
「………………そうだ」
並行運用で同時発動すれば基礎でも多少マシになるかもしれない
実際過去に管理用の魔法を同時発動して効能を上げた事があるのだ。
「やってみます……!」
憂さ晴らしみたいなものだ、ここまで頑張ってきた事が並行魔法を立ち上げる事に
思い出されて今更ながらイライラしていたのだ。
「………(基礎魔法を組み立ててるかと思ったけど、何か違う……?)」
ギルド職員は目の前の吹けば飛ぶような事務員上がり、らしい男を見直す
どう見ても情けない姿のはずだが…形容できない違和感があったのだ。
「(並行運用スロット、全部基礎の…炎玉に変換して…
射出を1.5秒後に統一、あとは手を構えて…。)」
炎玉とは基礎の基礎たる魔法、炎の玉を打ち出すだけの魔力消費の軽さ以外利点らしい利点の無い入門用の魔法だったが…。
「…っ!」
幾つもの束ねられていく炎の玉は手を構えてすぐに、太陽にも劣らぬ彩光へと変わっていく。
「パルさん、こちらの魔法は…?」
「え、えっと…炎玉です…」
そう言いながら、彼はその光を打ち放った
そして的に光が触れた瞬間
――――爆ぜた。
キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィンッ
「きゃあああああああああっ!!!」
「え、あ、うわああああああああああああああっ!」
試験場は激しい光に包まれていき、その衝撃は王都を揺らした。
■
夢を見ていた
ただの試験、いつもの通り有望か平凡か見るだけ
そして目の前のひょろい男はただの平凡でしかないいつも通り…
そのはずだった。
「ただの『炎玉』です」
凄まじい光に何もかも消し飛ばされる、的も自身も
つまらない試験も…。
「………………はっ!?」
「大丈夫ですか!?」
目の前にあの男が居た
心なしか生気があるように見える。
「…どうなりました…?」
「あ、その、試験場が…爆発事故、になるのでしょうか」
「………………?」
周りを見回すと、試験場は既に何もかも消え去っていた
万が一の為の防護壁も、無惨に割れていたのだった………………。
二話更新でした
皆さんの評価感想は励みになります故どしどしお待ちしております。