~さようなら日常、こんにちは終末~
~ぷろろーぐ~
ーー眠いーー。冷たいコンクリの床にうつぶせになって寝ていると外はすっかり明るくなっていた。日曜の朝ーー特にやることもなさそうな中年のホームレスが鼻賃を垂らしながら寒さに身を震わせていた。自分も思わず身震いする、、、。師走の早朝は尋常じゃなく寒い特にこの埼玉県A市に位置するこの亜麻一町商店街は体感温度で言えば零下を下回るんじゃないかとさえ思わされる。----今日もまた何もない日が始まるーーーー。
壱
亜麻一町商店街の道の中途にあるこの公園は僕みたいな宿なしにはもったいないほどの住処だった。特にここら辺では公園はここしかないので僕みたいなのはこぞってここへ住み着く。けれど、この公園に住み着いているのは僕と向かいのベンチに寝ている。因みに僕は公衆トイレの空きスペースを利用して生活している。以外にもこの公園はできたばかりなのであの強烈なアンモニア臭もなく実に住みよいものだ。今日は相も変わらず曇り一点だった。まったく冗談じゃない、寒くて仕方がないっていうのに曇り空じゃ尚更だ。今日もマットに包んで一日雲の形を眺める日になりそうだ。隣の中年男も今日は黄ばんだ歯をがちがち言わせながら、段ボールを毛布代わりに一日中寝ているつもりだろう。こちらの門不に這入ろうとするそぶりはまるで見せない、どう見たってあんな段ボール一枚でこの寒さを凌げるわけないというのに、まあ入れさせる気はないけど。にしてもはあ、腹減った。近くのコンビニにある廃棄される賞味期限切れのご飯を頂戴しに行こうと思った。“頂戴しに行く”と言ったが勿論直接話に行ったところで貰えるわけがないが、実はコンビニの裏手にこの公園はあるので、少々危険だが塀を越えれば丁度廃棄場所にヘ行ける風になっている。ぬくい蒲団の中から逃げ出し、付近に人気が無いことを確認したら(まだ辺りはほの暗いので朝六時前といったっところでほとんどだれも歩いちゃいなかった)、周辺の遊具みたいなレンガ塀を超えて(コンビニの雰囲気?を考えてこのレンガ塀にしたそうだがプラスチック素材で外部を覆ているだけのこの安作りではむしろチープな印象を与えてしまいかねないと思ったが、コンビニだしこれでいいのか)、滑らかにゴミ箱の中に入れられたビニール袋に入った廃棄処分された賞味期限切れとなったコンビニ弁当や、おにぎりなどの諸々の食材をサンタクロースのごとく担いで急いで塒へ帰る。道中で物欲しげに、ちろちろと充血した目で睨めつけるーーそんな目で見たところでやるわけないだろう...。ぼくは慈善家じゃないんだぜ?--フザケタやつだ、しかし、アイツがここへきて三日は経ったが何か食っているところを見たことはなかった。だからどうしたというのだ?僕は元来他人に興味はなかったそれは今も変わらない。本当に欲しいというのならせいぜい何か対価を要求するが、見たところ着の身着のままでここへは来たようだし何も持ってはいないのだろう奈良場厚相すらできやしない。俺は言った。「悪いが何もあげることはできないな。君も同じ立ち場なんだからわかると思うけど、施しができるような身の上じゃないんでね。何か食べたいんならお前も取りに行くといい、場所はわかるだろ?でも、絶対にばれるなよ。お前のせいで食えなくなったら...。わかるよな?」と凄み返し、塒へ帰ろうとすると中年男は肩を引っ張て来て言った。「こ、これと交換でどうだ?」と奴は蒼い透き通った石を差し出してくる。「なんだよこれ?」としかめて問い返すと「トルコ石だよ。」「そんな小さかったら何の足しにもならねーよ!」ふざけるな。そんなもの欲しくもない。「これは妻の遺品で家のものはすべて抵当入れちまったがこれだけは残しておいたんだ!これだけは手放したくはなかったが.....。」「ふーん。」大して価値はなさそうに見えたが、マジに半泣きした中年男を見ていると、意地の悪い感情がにじみ出てきた。男の手からその石をひったくると、袋の中から適当に一つおにぎりを放ってやった。「あと2つほどもらえませんか?」「あげただけでも感謝してほしいナ。」それにしても、これは本当にトルコ石か?今はさっきから言っているように12月だ。乾燥している....。トルコ石には、鉄分を失う、若しくは、水分がなくなると青から緑色に変わる性質がある。しかし、この石は見たことがないほどに真っ青に青ざめていて、やや半透明だった。「コレ、トルコ石っていう余暇、青みを帯びた水晶って具合だが?」中年男に尋ねると、心外だというほかないというように顔を顰めた。「難癖付けるんですかい?」「ま、別にいいよ」トルコ石だろうが何だろうが意味はない。大きめのドングリほどしかない大きさでは売っても何の足しにもならない。それでもないよりはましだろう。昔、食玩なんかで入っているやつを無性に集めてしまうときがあったが今も変わらず、楽しみもないのでこうゆうものは集めているところだった。公衆トイレは仄かにアルコールの香りを漂わせながら、窓からは朝日が差し、僕を迎えてくれた。石を見つめていると、内側に月のような光がともしていることに気づく、久しぶりに面白いものを手に入れたな、飯と蒲団以外のモノを収め少しウキウキしながらようやく塒へ変えあった俺はそのまま蒲団に深く身をうずめると、何故か猛烈な睡魔に襲われ、折角とってきた飯も食べずに夢の中へ吸い込まれてしまった。