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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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4話 ぱぱ

 リアムは養父母一家にいじめられても、フーに会うと元気になれたよ。


 呼べば来るし、リアムを見つけると、ピイピイ鳴きながら駆け寄ってくるんだ。それがたまらなく可愛かったみたい。


 フーが食べそうなミミズ、カエルやトカゲを捕まえるのが、リアムの日課になったんだ。


「おじちゃん、羽根は売ったの?」


「いや、まだだ。ここから少し離れた街で売ろうと思っている。リアムがフーのエサやりを必ず出来る日じゃないとな」


「近くの街だとだめなの?」


「もしここの場所がバレたら、伝説の魔鳥を見に来ようとしたり、捕獲しようとする連中が来るかもしれない。この村の人たちは俺の家には近寄らないが、外のやつは事情を知らない。フーが見つかったら大変だろう?」


「そういうことか。わかった。これから冬だし、来られる日多いと思う」


 エドおじさんは近くにある人が多い街に行って、どこで売ればいいか探していたみたい。偽物だと安く羽根を買い叩かれたら困るから、腕のいい鑑定士がいるお店の評判を聞き込みしていたんだ。


 だからすぐに売ろうとしなかったようだよ。


 リアムはおじさんに売るのは任せることにしたよ。


 フーを飼いはじめて二週間すると、生きているカエルを自分で取って食べるようになったんだ。時折飛ぶ練習をするように、羽をバタバタさせていたよ。


「フーっていつ飛ぶんだろう。飛んだら巣立ちってことかな」


 バタバタさせているフーは飛ぶ気配はないよ。飛ばない人間に飼われた鳥は飛ぶのか、エドおじさんも詳しくないみたい。


 羽根を売るお店探しのついでに本屋に寄って調べてくれたけれど、普通の鳥と魔鳥は違うんじゃないかって書いてあるだけで、よくわかっていないらしいよ。


 フーは伝説の魔鳥だからね。飼った人も研究できた人も少いんじゃないかな。


 手探りでやるしかない。


 ということで薄い板をノコギリで羽の形に切って、ひもを通したものを作ったよ。


 リアムがひもに腕を通して、リアム鳥の完成!


「パパ頑張れ」


「パパじゃない!」


 リアムは岩に登ってバタバタさせながら、落ちた…おっほん、飛んで見せたよ。


 やってみろと石に乗せても、フーはリアムを見ているだけだよ。


「おじちゃん、だめなのかな?」


「何度かやるしかないんじゃないか?」


 ということで何度かやっても、フーはリアムを見ているだけだよ。別の日もやってみたけれどだめ。


 溜め息ついていると、近くの鳥が空に向かって羽ばたいたんだ。それをじっとフーは見上げていたよ。


 バサバサ羽根を動かして、宙に浮いたよ。


「フーが飛んだ!」


 喜んでいるとリアムの頭より上へ飛んだんだ。


「フー!」


 手を振るとフーは降りてきて、リアムの頭の上に乗ったんだ。エドおじさんは大笑いしたよ。


「リアムの頭は巣なのか?巻き毛がちょうどよさそうだぞ」


「巻き毛は気にしているから、言わないでよ!フーが飛べてよかった」


 フーを下ろすとまた飛んで、リアムの頭に乗ったよ。エドおじさんは笑いのツボを押してしまったらしく、ずっと笑っていたんだ。リアムはムッとしていたけどね。


「フーは重いんだよ?」


「そうだよな」


 リアムは頭に生暖かいものを感じて、凄く嫌な予感がしたよ。


 触ってみるとべったり糞が手についたんだ。


「こいつ、人の頭に糞した!」


 おじさんはしゃがみこんで、むせるほど笑っていたよ。


 リアムは水魔法で頭を綺麗にしてから、フーに怒ったよ。


「俺の頭に乗って糞したら、丸焼きにするからな!」


「ふぅ~?」


 フーは頭を傾げていたよ。わからないみたい。


 ぎこちないけれど、枝に飛び乗ったり、フーは飛ぶ練習を自分ではじめたよ。


「巣立ちは近いのかな?寂しくなるな、パパ」


「だからパパって呼ばないでよ」


 エドおじさんはリアムをパパって呼んで、からかうんだ。


「フーは俺の弟だから、俺はパパじゃない!」


「兄弟なのかよ。まあいいけど。明日あたりに羽根を売りに行こうと思う。一日で戻れるかわからないから、合鍵を渡すから無くすなよ?」


「うん!」


 エドおじさんが畑仕事しているときはフーを家の中に入れていたんだ。最強の魔鳥とはいえ、ヒナは小さいから、ヘビとか野鳥などの天敵に食べられてしまうよ。


「フー、俺帰るからな!また明日」


 撫でていると、フーはリアムを見つめて羽根をバタバタさせたよ。


「ぱ、ぱ」


「ん?今しゃべった?もう一度言ってみて」


「ぱぱ!」


 リアムとエドおじさんは互いに顔を見合わせたよ。


「魔鳥が話した!」


「ほら、俺が言った通りでしょ!フーのママンも話したんだって」


「オウムとかみたいに言葉を理解してなくて、繰り返しているだけかもしれない!俺のことわかるか?」


「…お、じちゃん!」


 エドおじさんは感動しているようだよ。


「俺のことを認識してるぞ」


 リアムももう一度聞いてみたよ。


「フー、俺は?」


「ぱぱ!」


「俺はパパじゃない!リアムだ、リアム」


「りーむ?」


「リアム!」


「あむ」


「なんでおじちゃんは言えて、リアムは言えないんだよ。おかしいじゃないか」


 何が話せるか色々試したかったけれど、家に帰る時間になったよ。


 エドおじさんはリアムとフーのやりとりが面白かったらしく、リアムが帰ると色々言葉を教えたみたいなんだ。


「りあむ、ぱぱ」


「言えるじゃないか。怒っていたけど、リアムはパパと呼ばれるのが嬉しいんだ。パパと呼んでやれ」


「ピイ!」



 エドおじさんは、フーのお母さんの羽根を全部売らずに一つだけ売ったよ。


 車と家が買えるお金にはなったけれど、リアムにおこづかい程度しか渡さなかったんだ。


「お金は使えばなくなる。お金の使い方を覚えたら渡すから、勉強頑張れ」


 と言って、エドおじさんはお預けしたんだ。リアムはおじさんを信じていたから、持ち逃げするとか一切考えていなかったよ。


 おじさんはボロボロの家を綺麗にして、フーの小屋を建ててあげたんだ。中にはリアムがとっておいた羽根を敷き詰めてあるよ。


「フーのお母さんの羽根だから、フーにも何かやってやらないとな」


「ふぅのす?」


「ああ、おうちだ。気に入ったか?」


 フーはよくわかってなさそうだけれど、嬉しそうだよ。


 出来立ての小屋をリアムに見せたいと思っていたんだけれど、この日は来なかったんだ。


「明日来るだろう」


 その明日も、その次の日も来なかったよ。


 フーが来てから毎日来ていたんだ。


 ちょっと心配になったから、エドおじさんはリアムのいるナトンの家へ向かったよ。


 リアムは畑仕事が終わると、すぐにエドおじさんの家に行ったんだ。掃除をしてほしいスザンヌは、とてもイライラしていたよ。


 遊びに行くなといっても、わかったとしか言わないし、反省している様子はなかったんだ。


「掃除しないと夕飯抜きだからね!」


 リアムは仕方なく、家畜小屋をお掃除したら、夕飯の時間が過ぎてしまったよ。


「時間まで終わらなかったんだ。ごはん抜きだよ!」


 リアムは泣いてごめんなさいをしたけれど、スザンヌはごはんをくれなかったんだ。


 お腹空いたままだから、ろくに寝られなくて、次の朝ごはんもちょっとしか出なかったんだ。


 それにお昼もないからリアムは空腹を通りすぎて、イライラしていたよ。家畜小屋のドアを乱暴に閉めたら、スザンヌに見つかって、また夕飯抜きの刑になったんだ。


 次の日もどこにも行かず、言われずに畑仕事も家畜の世話もしたら、スザンヌは機嫌がよくなったのか、夕飯をくれたよ。


 リアムは床に置かれた陶器の器を見て、惨めになったよ。エドおじさんのところはテーブルに器を置くから、人扱いされていないと感じたんだ。


―――俺は犬じゃない!


 こんな養父母の家を出てエドおじさんと暮らしたかったけれど、エドおじさんは駄目だと言うんだ。


 貧しいからと言い訳されていたけれど、もうフーのお母さんの羽根があるからお金持ちになったはずだよ。


 それなのにまだ駄目だというんだ。


 大人の事情があるようだけれども、子どものリアムは察することができなくて、拒絶されていると落ち込んでしまうときがあったよ。


 近所の子どもたちはリアムに近寄らないから、親しい友だちもいない。


 リアムは一人ぼっちだったんだ。


 ダヴィドには友だちがいて、下校のときに村の雑貨屋さんで、たまにお菓子を買って食べていたよ。


 偶然通りかかってしまったリアムが羨ましそうに見ていると、ダヴィドは気づいたよ。わざとお菓子をチラチラ見せて優越感に浸っているみたい。


「犬にはないからな!」


「犬?」


 ダヴィドがリアムがフォークが使えないから手で食べてるだの、床にこぼしたのを舐めてるだの言い始めたんだ。それを聞いて友だちは笑っていたよ。


 リアムは馬鹿にされて、だんだん腹が立ったよ。スザンヌがフォークを貸してくれないし、床にぶちまけるから、仕方なく食べているのに笑われたんだ。


 リアムはダヴィドが学校に行けて友だちと遊べるのは、ダヴィドが畑仕事をしない代わりに自分がしているんじゃないかと気づきはじめたよ。


 怒りはもっと湧いてきたんだ。


―――ダヴィドがいい思いして、俺はなんで酷いことされているんだ?親がいないってだけなのに。


 芽生えた感情が殺意とは知らず、リアムは腰につけていた草刈り用の(なた)に触れたよ。


「リアム?」


 リアムを探していたエドおじさんが来たよ。


「非国民が来たー!」


 ダヴィドたちは叫んで、笑いながら走って逃げていったよ。


 エドおじさんはいつものことだから、気にしないようにしていたよ。


「リアム?」


 顔を背けて隠した表情と手が置かれた鉈にエドおじさんは気づいて、リアムの殺意を知ったんだ。



「リアム、何があった?」


 エドおじさんの家に行って、事情を聞いたよ。


「…おじちゃんと一緒にいたい。あの家に帰りたくない」


 リアムは拳を握ったまま泣かず、声を震わせていたよ。


 エドおじさんは、自分と一緒に住むとリアムまで非国民と呼ばれていじめられるんじゃないかと考えていたから、リアムとは一緒に住めないと言っていたんだ。


 それに子育てをしたことのないおじさんは、赤ちゃんだったリアムを育てる自信がなかったんだ。


 リアムの母方を頼って、ナトン夫婦に預けたんだけど、エドおじさんが考えていたような、あたたかな家庭ではなかったみたい。


 リアムはダヴィドに殺意を覚えるほど、つらい思いをしていたんだ。


 もしこのままナトンの家で暮らしていたら、リアムは我慢できなくなって悪いことをしてしまうかもしれない。


 非行、殺人、悪いことはしたくてしたい人たちばかりではないんだ。リアムはエドおじさんが気づいてくれたから、罪に手を染めずにすんだんだよ。


「わかった。一緒に暮らそう」


 リアムが十一歳の年、エドおじさんの家に住むことになったんだ。


 でもナトンたちはとても怒ったんだ。育ててやったのに非国民のところに行くのかってね。


 情とかではなく、畑の水道(・・・・)がいなくなるのが困るみたいだよ。


 一ヶ月くらい渋っていて、リアムはまだまだつらい思いをしていたんだ。


 でも毎日、エドおじさんの家に行っていたよ。


 フーは自分でエサを捕ってきて、リアムの前に置くときがあるんだ。猫とかそういう行動をすることがあるけれど、魔鳥もするんだね。


「ぱぱ、ごはん。たべて」


 褒めて褒めてオーラ出すけれど、ネズミや小さい魔物とかだから、リアムとエドおじさんは気持ち悪くて鳥肌が立ったらしいよ。


「俺はいらないから、フー食べなよ」


「いいの?」


 ということもあり、リアムは自分より小さなフーがエサを捕れるのだから、自分も自分でごはんを捕りにいこうと思ったんだ。


 わざわざスザンヌの作ってもらうのを待つんじゃなくてね。


 エドおじさんがくれたお小遣いで、パンや塩・コショウなどの調味料を買ったんだ。お菓子は美味しいけれど、お腹がいっぱいにならないから、少ないお小遣いがすぐなくなっちゃうよ。


 どんな植物が食べられるかわからないから、エドおじさんに頼んで古本屋で野草の図鑑を買ってもらったんだ。


 お小遣いは少ししか渡さなかったけれど、リアムが興味ある本や図鑑は積極的にエドおじさんはお金を出したんだ。


 よくよく注意して食べられない野草を採らないようにしながら集めて、ごはんを作って食べたよ。


 リアムは与えてもらうことから、自分で食料を得ることを覚えたんだ。


 ナトンたちの畑の水まきをすることを条件に、リアムはやっとおじさんと一緒に住めることになったんだ。


 引っ越しはとても簡単で、リアムがこっそり集めた綺麗な石や拾ったオモチャと身一つ。


 エドおじさんはリアムが来たお祝いと言って、牛を一頭潰したんだけれど、おじさんの料理の腕は酷いからリアムが作ったよ。



 リアムの分のフォークやナイフを新調して、テーブルに並べたよ。おじさんにはワイン、リアムにはブドウジュースをグラスに注いで乾杯したよ。


 リアムはごちそうに、ずっとニコニコしていたよ。フォークをわしづかみにしたら、ステーキに刺してあーんと口を開けたよ。


「リアム。ナイフで切れ」


「ナイフ…」


 リアムはおじさんがステーキを切っているのを真似してみたよ。


「ナトンの家でナイフは使わなかったのか?」


「いつもスープだもん。ダヴィドが誕生日のときは余ったお肉くれたけれど、全部そのまま食べられる大きさだし」


 エドおじさんは眉を寄せたよ。ダヴィドやリアムの言動から、リアムの扱いは酷いと思っていたけれど、想像以上だったみたい。


 リアムはごはんを外にぶちまけられて、掃除させられることは他の人には話していなかったんだ。


 ダヴィドへ殺意を抱くまでは、リアムはナトン家の居候だから、酷い待遇は当たり前で我慢すべきことだと思っていたみたい。


 リアムが受けた虐待の数々をここで知って、エドおじさんは亡きリアムの父・シャルルに心の中で謝ったよ。


 リアムに人並みの教育をすると決めて、嫌がってもテーブルマナーや常識を教えたんだ。


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