3話 火の鳥~オワゾ・デ・フウ~
リアムはエドおじさんから座学や武術など色々教わったよ。まだまだ剣は握らせてもらえず、木の棒をひたすら素振りさせられていたんだ。
ヘトヘトに疲れたけれど、強くなれると聞いてリアムは頑張ったよ。
「今日は歴史をやるぞ」
「えー。歴史より剣がいい!武術!歴史なんてやっても俺に関係ないじゃん」
「将来何がお前に関係するかわかんないぞ?傭兵をやるなら、雇い主やその国とどこが仲がいいとか悪いとか知らないとダメだぞ?
前の雇い主と次の雇い主が仲が悪くて、次の雇い主に密偵だと勘違いされて酷いことされたってこともあるんだ」
「そんなの知らないよ。剣!」
「わがまま言う奴は素振り百回だ!」
「やだ!」
「行ってこい!!」
リアムはじっと座っていられなくて、お勉強は苦手みたいだったよ。
リアムはしぶしぶ素振りをしているふりをして、エドおじさんが耕した畑のもっと奥へ走ったよ。
ナトンたちの畑仕事が終わると部屋の掃除や家畜の世話をやらされて、なかなか遊べないんだ。
この時はコーヒー豆の収穫が一段落して、遊ぶ時間がもらえたんだ。
隙があれば村の行ったことのないところへ探検したよ。
エドおじさんの畑から先は獣や魔物がいて危ないから、行くなと言われていたんだ。ダメと言われたら行きたくなっちゃうよね。
リアムはワクワクしながら、武器の木の棒を持って森へ入っていくよ。
木陰で涼しくなるはずが、段々暑くなって煙たくなってきたよ。
帰ろうかなと思ったら、火の手が見えたんだ。
獣が咆哮したあとに、バサバサと羽ばたく音がして、とても大きな鳥が空へ舞い上がったんだ。
「あ、あれは…」
あっという間に森の奥へ飛んでいってしまったよ。
何かの鳴き声がして、リアムは恐る恐るその方へ行ったよ。
木々が燃えていて、リアムは水で消したんだ。
とても大きな鳥が横たわっていたのが見えたよ。
いや、この鳥は―――
「魔鳥…。火の鳥!!」
リアムの声に火の鳥が顔をあげたよ。
氷の鳥のように火の鳥は伝説であり、災害級の魔鳥だよ。
アナベル地方の一部の地域にしかいないとされて、ポ○モンのフ○イヤー的ポジションだけれど、ゲットするぜって喜ばず、見つけたら即刻逃げた方がいいよ。
この時代も投げたら捕縛してくれる便利なボールもないし、一緒に戦ってくれそうなモンスターは、あっという間に丸焦げにされてしまうよ。
見た目はどちらかというとホ○オウの方が近いかな。全身が火で覆われているわけでもないけど、燃えているような赤い色をしていたよ。
その伝説の魔鳥が目の前で倒れていたんだ。さっきの火の鳥にやられたのか片翼は焼けていて、近くにはハトくらいの大きさのヒナがいたよ。
リアムは親子なんだと思ったんだ。
持っていた木の棒を放り出して、親鳥に駆け寄って治癒魔法をかけたんだ。
「ダメだよ、子どもを残して死んじゃ!残された子はつらい思いをするんだ!」
火の鳥は動かずじっとリアムを見つめていたよ。
「お前は幼いのに大した使い手だな」
声がしてリアムはキョロキョロ周りをみたよ。
「誰かいるの?」
「目の前にいるだろうが」
火の鳥はすっと目を細めたんだ。
「しゃ、しゃべった!!」
「言葉を操るのは人間だけかと思ったか?」
「いや、鳥も仲間同士でピイピイ言ってるから話してるんだと思ってたけど…。人間の言葉を話せるの?」
「お前よりはるかにわたしは長く生きているからな。そのわたしも死ぬ。
頼みがある。その子を大人になるまで育ててくれないか?わたしたちはよそのヒナを育てることはしない。この子は他の魔物に食われてしまうだろう。
わたしの羽根を人間たちは欲しがるから、売ればエサがたくさん食べられると聞いた」
「む、無理だよ。俺、生き物育てたことないし」
「エサをやれば育つ。頼んだ」
パタンと頭が地面について、動かなくなってしまったよ。
「どうしよう…」
リアムが途方に暮れているとヒナが親鳥を突っついて、ピイピイ鳴いていたよ。
このまま放置すれば、この子まで死んでしまう。エサってなにを食べるのかわからないから、大人に聞こうということでエドおじさんのところへ走ったよ。
「おじちゃん!」
「リアム!さぼってどこに行っていた!」
「それは謝るから早く来て!」
リアムは早く早くと駆けていくよ。
「なんだよ、どうしたんだよ」
エドおじさんはピッタリとリアムの後ろをついてきたよ。おじさんは四、五十代だと思うけど、子どものリアムについてくるおじさんって凄いと思うよ。
エドおじさんもきな臭い森に異変を感じていたよ。
「リアム、危険だ。進んだら…」
エドおじさんも巨大な鳥の姿に息を飲んだよ。
「火の鳥!!」
「親鳥が死んじゃったの。子どもを頼むって言われたんだ。どうしたらいい?」
ヒナはずっと親鳥をツンツン突っついて、ピイピイ鳴いていたよ。
「頼まれたって。人語を魔鳥が話すかよ」
「話したの!羽根を売れば人間はエサを食べられるって言ってた」
「エサ…言い方は別として、妙に知識もあるな。確かに羽根はかなりの高値で売れる」
生唾ごっくん。
羽根はむしりとり放題、これだけあれば一生遊んで暮らせる。しかも生きているヒナもいるじゃないか。高額で売れるぞ。
ふふと悪魔が囁いたけれども、少年リアムの瞳はエドおじさんに向けられていたよ。
「助けられなかった…。この子、俺と同じで親なしなんだ。助けたいんだ」
「わ、わかった。言われた通り羽根を取ろう。親の羽根をむしってるところを見せるのはな…。リアムはヒナをつれて俺の家にいろ」
悪魔の囁きに勝ったのか負けたのか。
羽根をむしるのは決まりみたいだよ。
「行くよ」
ヒナを両手で掴んだけれど、するりと抜けて親鳥の方へ行ってしまうんだ。
「ママンを助けられなくてごめんね」
リアムは撫でながらヒナを抱えて、離れたよ。茂みに入って親鳥が見えないようにしたんだ。
ヒナはずっと震えていていたよ。
「お前、親が死んだってわかるのか?」
「ふぅ、ふぅ」
ピイピイ言わないよ。リアムは撫でてあげたんだ。
「リアム、まだいるか?」
「なに?」
リアムはヒナを抱えたまま立ち上がったよ。
「羽根を入れる箱とハサミ持ってくる。抜くよりも切った方がいいだろう。ここで待っていろ。もし他の魔物が出たら逃げるんだぞ」
「わかった」
エドおじさんは走って取りに行ったよ。
戻って来たときにはリアムは同じ場所にいたよ。
恐々エドおじさんは火の鳥を登ったんだ。
「おじちゃん大丈夫?」
「ああ」
リアムは羽根を取っているところをヒナに見せないように目を手で隠していたんだ。
売れそうな綺麗な羽根を木の箱に入れて、おじさんは降りてきたよ。
「こいつ、どうしようか。火の鳥を食べると不老不死になると聞いたことがあるが」
「話せる魔物を食べるのは気が引けるけど…」
壮大にリアムのお腹の音が鳴ったよ。
「言ってることと違わないか?」
「さっき火を消すのに魔法使って、お腹が空いたんだもん!仕方ないよ。余った箱もらっていい?」
「何に使うんだ?」
たくさん入れようとエドおじさんは箱を三つ持ってきてたんだ。一つ余っていたよ。
リアムはヒナを地面に下ろして、ハサミを借りたよ。売れない逆立ったりちょっと汚れている羽根を切り始めたんだ。
ガッツリヒナはそれを見ているよ。
「ぅおい!俺の配慮の意味なし!数分前のお前の優しさはどこにいった!」
「え?フーの寝床作ってやろうと思って。親の羽根があった方がいいでしょう?」
「そうだけどさ。フーってヒナの名前か?火の鳥の火からって、ちょっと安直だぞ?」
「違うよ。こいつ、ふーふーずっと言ってるから」
エドおじさんはヒナに顔を近づけたよ。
「…確かにふーふー言ってるな。それも安直だ」
「安直、安直ってうるさいな。おじちゃんは何がいいと思うの?」
「…雛鳥」
「おじちゃんも人のこと言えないじゃない。ほら、フー。寝床だよ」
リアムは地面に羽毛が入った箱を置いたよ。フーは箱を突っついたり、覗き込んだりしてから入ろうとしたけど、高くて跨げなかったみたい。
入れてやると安心したのか、目を細めて胸の毛に顔を埋めたよ。
「さて、鶏肉の解体するか」
「おじちゃん、配慮なしだね。俺、入れ物を持ってくるよ」
リアムはフーの入った箱を持ったまま走ったよ。
おじさんの家にあったお肉を入れられそうな器をいくつか袋に入れて、解体用の刃物も持ったよ。
テーブルに置いたフーが心配だったけれど、さすがに親鳥をバラバラにしているのを見せたくないから、おじさんの家に置いておくことにしたよ。
エドおじさんのところに戻ると、余分な羽根を取っているところだったんだ。
「俺らでは食べきれないし…。味見して埋めよう。他の魔物が来るかもしれないからな」
「売らないの?」
「高く売れるだろうが、信頼できる買い手を俺は知らない。
羽根もそうだが俺らが売ったら村の連中はどうすると思う?急に金持ちになった俺らを羨ましがるだろう。
もちろんお前にも金を渡す。だが、ナトンたちはお前から養育費などと言って金を奪うだろう。
フーも売ろうと考えるだろうし」
「嫌だ、フーは売りたくない!でも俺は飼えないよ」
「魔物だが、今の大きさならまだ俺でも飼えるだろう。大きくなって、人を襲うようことがあれば処分する。リアム、それは守れるか?」
「わかった。絶対にフーに人を襲わさせない」
埋めるよりは燃やそうということになったよ。リアムはその方が魔物が来なくなるって言ったら、エドおじさんは驚いていたよ。
「よく知ってるな。魔物は火を怖がるし、強い魔物が死んだら、他に強い魔物がいるかもしれないと思って、しばらくその辺りは近寄らない。火の鳥は魔物の中で最強とされているんだ」
親鳥に火をつけて燃やし、リアムはフーをちゃんと育てるからと誓ったんだ。
もう日が暮れていて、リアムはスザンヌに怒られるのが決定だよ。
ごはん抜きの刑になるのも決定だから、エドおじさんと火の鳥の味見をすることにしたんだ。
おじさんの家に着くと、フーがテーブルの隅で床を見下ろしていたよ。リアムを見つけるとピイピイ鳴き始めたよ。
「おい、パパ。ご飯だって」
「パパって俺のこと?」
「リアムは男だからママンではないだろうよ。育てるんだからパパな」
「リアムでいいじゃん!魔物って何食べるの?」
「肉じゃないか?」
二人の視線が自然と親鳥の肉に注がれるよ。
「いや、それはさすがに、モラルにもとる」
「魔物にモラルって言って通じるの?」
「お前、モラルってわかるのかよ」
それはさておき、料理方法はシンプルに焼くことにしたよ。テーブルで一口サイズに切っていると、フーがトコトコと来たんだ。
口を開けてピイピイ鳴いているよ。
「あとで用意するからこれはダメ!」
ボウルに入れた一口サイズの肉を、フーはパクリと食べてしまったんだ。
とても暑いアナベルの温度が、その場だけ少し下がったよ。
「食べてしまった」
「フーだめ、それはだめだ。親を食べるなんて!」
ヒナの前で調理して食べようとしているのにね。
もっともっととフーは口を大きく開けたよ。
「…なあ、リアム。クモって子どもが親を食べるの知ってるか?」
「…ねえ、おじちゃん。カマキリってメスがオスを食べるの知ってる?虫がするなら、魔鳥だから共食いするよね」
「お前、カマキリの話はどこで知ったんだよ」
リアムが料理している間に、エドおじさんがフーのエサを取りに行ったんだ。
カエルや昆虫を手当たり次第捕まえて、蓋つきのかごに入れたよ。
フーに見せたけれど食べようとしないんだ。ごはんを作ってるリアムは嫌な顔しているよ。
「食欲失せるものばっかり」
「仕方ないだろう!何を食べるかわからないんだから」
動いているカエルや昆虫をフーは見ているだけだよ。
「殺さないと食べないんじゃないの?」
「生きたまま丸飲みするのかと思ったが…」
殺すということは潰すってことかと、一気にエドおじさんはやる気がなくなったよ。
「エサやりはリアム担当な」
「えー!おじちゃんがあげてくれないと困るよ。毎日来られるかわかんないし。俺が殺すからおじちゃんお皿によそって」
リアムは生きているカエルの内臓を魔法で潰して、動かなくなったのを手のひらに乗せてから、フーの前に見せたよ。
フーはパクリと食べたんだ。
「やっぱり死んでないとだめみたい」
「潰さずどうやって殺したんだよ」
「魔法で内臓を潰した」
「ないぞ…。リアムって怖いな。魔法でそんなことまで、できるようになったのか?」
「使い手ならできるでしょう?可視化魔法で」
エドおじさんはお皿に料理を移している手を止めたよ。
「なんで魔法を習っていないのに、上級魔法の可視化魔法使えるんだよ」
「魔法の使い手なら使えるのは当たり前でしょう?」
「当たり前じゃない。訓練をしないと使えないし、使えたら師匠になれるぞ?本当にリアムは不思議だな」
「やっぱり凄い人だったんだよ、俺の前世!」
記憶のない前世自慢が始まったから、エドおじさんはやってしまったと思ったよ。リアムが転生者とは決まってわけではないし、期待させて違ったときに酷だろうと考えたようなんだ。
「偉い人なら勉強もできるな?」
「フー。虫は食べないのかな?」
明らかに話をそらしたよ。フーはカエルは食べて昆虫は食べなかったんだ。ちなみに草もあげてみたけど見向きもしなかったよ。
「好き嫌いはあるようだが、主食は肉か。家畜はやらないぞ?」
「とりあえずカエル食べさせておけばいいんじゃない。俺らもごはん食べようよ」
生まれて初めて二人は伝説の魔鳥のお肉を食べたよ。
「……」
「……」
「くさい。リアムがハーブ入れてくれなかったら、食べられたもんじゃない」
「想像したよりも美味しくない」
お口合わなかったみたい。リアムは身体がぽかぽかしてきたよ。
「ん?魔力回復してるかも」
「そうなのか?肉としてよりは回復薬として扱った方がよさそうだな。余ったのは干してみて効能も調べてみよう」
後日エドおじさんは魔法を使ったあとに、火の鳥の干し肉を食べたら魔力が回復したんだ。
もっととっておけばよかったと思ったけれど、羽根があるからお金には困らないと思い直したようだよ。
そうそう、噂にあった不老不死の力は、残念ながらなかったそうだよ。
次回は土曜になります。投稿は週二回の通常ペースへ戻ります。




