91話 水神王アニバルの話48
部屋の真ん中には、魔法具らしい大きな物がドーンと置いてあったんだ。
人の頭くらいのとても大きな魔石が、美しい細工を施した金属の器に入れられていたよ。細工はよく見ると魔法陣だったんだ。
びっしりと魔法陣が彫り込まれ、とてつもない情報量にアニバルは呆気にとられていたよ。おそらく国中の魔法具の中で、一番高性能なものだと考えられるよ。
魔法陣は発動したい魔法をたくさん入れれば入れるほど、陣は複雑になり大きくなるんだ。
「えらいものを作ったな。随分時間がかかっただろう?これはなんの魔法具だ?」
「特定の魔法陣を埋め込んだ魔法具の操作を停止するものです」
エクトルが当たり前のように言うから、うっかりそうなんだと軽く聞き流しそうになったよ。
「魔法具の操作を停止?例えば魔力砲に特定の魔法陣を書き込んで、そのでかい魔法具が停止の魔法を発動すると、魔力砲は使えなくなるということか?」
「そうです。デスペハードで作られたもの、いやこの世界で使われる全ての魔法具に対応する魔法陣を刻む予定です。すでにその手筈は整っています」
例えばキミのスマートフォンにあらかじめ電源を勝手に落とせるアプリが入っていて、ボクが落とせとアプリで指示を出すと電源が落ちてしまうってことだよ。
なんとなくわかってくれたかな?
アニバルはそんなことができるのか凄いと感心してから、ん?と思ったよ。
「なんで、そんなことするんだ?戦争で敵に魔法具を使わせないためか?これを発動したらすべてが停止してしまうのか?味方のも停止する?
使いようには、とてつもない武器にはなるが、逆にこれが奪われたら大変なことになるぞ?」
「現在の技術では特定の魔法陣が一種類しかないため、敵味方関係なく停止してしまいます。
陛下の危惧されていることはもっともなので、使用者を限定するため、合言葉と特定の魔法を同時にしないと使えない仕組みにしました。それを陛下に決めてほしいのです」
「別にいいが…。条件とかはあるのか?」
「言葉の数は制限はありませんが、魔法は水属性にしてください。合言葉が他者に漏れたときのことを想定して、合言葉と魔法は同時に行うことにしました。
例えば『壊れろ』を合言葉にした場合、『魔法具よ、壊れろ』と『壊れろ』のときに魔法を発動すれば前後にどんな言葉がこようとも、この魔法具は停止魔法を発動します。
我々は部屋を一度出ますので、この魔石に触れながら鍵を設定してください。
ああ、一ついい忘れました。対応する魔法具にも同様に鍵を使えば、このメイン魔法具を通して、他の魔法具を止めることができます」
魔石が収められている砂時計の半分みたいな形をしたガラスケースを開いたよ。魔石にも魔法陣が彫られていたけれど、真ん中の模様はお花のような形に見えたよ。
アニバルはケースが開いたのも気づかないくらい驚いていたよ。
「はあ?なんだそれ。ここに来なくても魔法具が使えなくなるようにできるってことか?鍵は俺の他に誰に教えるんだ」
「陛下しか使えません」
「俺しかって…。俺が悪いことを考えたらどうするんだ?」
エクトルは微笑んでアニバルの前に立ったよ。
「いたずらはしても、悪いことはしないでしょう?あなたが鍵を使うときは、あなた自身か大切な人の身が危険なときだけ。
陛下もルシオ兄上も魔法具はもっと普及するとお考えです。いつかは氷の鳥さえも一度で殺す道具も出てくるでしょう。
陛下をお守りするにはこの魔法具が必要だと考え、開発室の者に極秘で作らせていました」
魔法具の性能は日に日に向上し、アニバルの脅威にもなりえると考えてエクトルはコソコソしていたんだね。
「過保護だな」
「今度こそお守りするためです」
アニバルはエクトルいや、エトーレの思いをよくわかっていたよ。
敵国や逆臣がアニバルの作った武器で、アニバルを殺されないようにってエクトルは考えていたんだ。
一人部屋に残ったアニバルは鍵をどうするか考えていたよ。
「俺だけがわかる言葉で、忘れない言葉だよな…」
誰も知らない言葉になるわけだから、アニバルはそうだと合言葉と魔法を決めて、魔石に触れたよ。
今度はちゃんと作動するか、開発者たちと確認したんだ。
「小声でも、お手持ちの魔法具の魔石が反応すれば発動します。俺らは耳を塞いでいますから」
アニバルがメインの魔法具の前で鍵を使うと、実験用で置いた灯りが消えたんだ。一度停止させたのを解除し、今度はその灯りの魔法陣に鍵を使ったよ。
するとメインの魔法具が光って、また別の魔法具の灯りが消えたよ。
「この魔法具の名前は決まっているのか?」
「いえ、メイン魔法具と呼んでいるだけです」
「俺はマエストロがいいと思います!」
アニバルは開発者たちと話していたのに、フィデルが出てきたよ。
「単純じゃないか?」
「では、水神…」
「陛下がつけてください」
エクトルは即刻却下したよ。アニバルも却下されそうな名前が浮かんで言うのをやめたよ。
「エクトルは考えていないのか?」
「どこでもお守りするということしか…。あとは中央語がいいなと。マニュス様も話されていて、憧れや神秘的に感じます」
依頼人の意向が強いようで、研究者たちはどうぞどうぞと命名権を譲ったよ。
アニバルは魔法具を眺めながら、考えたよ。
「どこでも、か。宗教的な言葉でもいいか?」
「何です?」
アニバルは芸術品ではない道具のはずなのに、目の前にある魔法具はとても美しく神々しくも感じられたよ。きっと色々な人の思いも詰まっているからだね。
「『ユビキタス』。神は遍在するという意味だ」
「神は遍在する…?」
遍在つまり、どこにでも神様がいるってことだよ。
みんな無反応だから、中央人の思想はこの国に合わないかとアニバルは考えたよ。
「やっぱりやめておくか」
「いいですね!陛下をお守りできる上、我々は魔法具を使いながら、陛下の存在を感じられるわけですね!」
開発室の人たちは気に入っちゃったみたいだよ。
「陛下が来世で転生したときも、必ず鍵を思い出してくださいね。これなら俺がいなくてもお守りできますし」
エクトルはアニバルの来世を固く信じていたよ。同じ時代に生まれることができるのかさえわからないし、もう二度と転生できないかもしれない。
そのために、アニバルの来世を守る魔法具の開発はもちろん、根本的に守る方法はないのかと考えたんだ。
もちろん、デスペハード帝国がアニバルの来世まで存続していると仮定しての話だよ。
ユビキタス本体と目的を守る人々が必要だからね。
「帝国は陛下を未来永劫お守りします」
ヘッセニアたちの言葉にアニバルは、ああと答えただけだよ。
デスペハード帝国が永遠に続いていることを心から祈っていたから。
せっかく四侯が集まったからとアニバルは五人で食事をしたよ。
四人が成人してから、このメンバーだけで会うというのはとても久しぶりだったんだ。
お酒も入り、束の間役目を忘れて、みんな出会った頃のようにおしゃべりしていたよ。
「選定侯は定期的に代わった方がいいのでしょうか?」
お酒の席なのに真面目ヘラルドがお仕事の話をしてきたよ。
アニバルと会うときは多くの人が周りにいて本当に聞きたいことも、アニバルも言いたいことがあっても言えないことがあるんだ。
「代わった方がいいが、民のためによりよい政策を行えるのならば、代わらない方がいいだろう。皇帝だって同じだ。
ルドの時にも成せなかったことがあって、今も出来ていないことがある」
四人がすっと四侯の顔になったよ。
「身分制の撤廃と平民の政治参加だ。貴族がずっと政治をしていれば、貴族だけの世界になる。立場の弱い者はずっと弱いまま理不尽に耐えなければならない。
それを変えたかったが、ルドはできず、俺が生きているときには叶わないだろう。
俺がやろうとすればみなやってくれる。俺はこの国では神だからな。それでは意味がない。貴族も平民も自ら変わる意思がなければ上手くいかない。一度に変えようとすれば、グランデフィウーメのような連中がでてくる。
選定侯は実験なんだ。俺がいなくなったときのために、国を一つに出来る人間が血筋関係なく皇帝になれることを。
お前たちは皇帝に近い血筋だが、部下には様々な身分や立場の人間を使っている。それは素晴らしいことだ。ただ次の選定侯がそうなるとは限らない。お前たちもどうしたらこの国をよくしていけるか考えてほしい」
四人はアニバルの意志を理解して、継ぐと誓ったんだ。
でも永遠というものは国も人の命もない。
アニバルは政治的なことも個人的なことも色々抱えながらも、晩年は王宮で穏やかに暮らしていたんだ。
ハイドランジア暦二〇七〇年。
それは唐突に起きたよ。
アニバルは七十歳を過ぎ、いつものように一人で晩酌用のワインを開けてグラスに注いでいたよ。
レナータ地方で作られた、とてもいいワインだったから楽しみだったんだ。
窓の外で雪が舞っていたのが見えたから、冬が来たかとベランダに出て、曇天を見上げたよ。
「寒っ」
湯上がりだったから、身体があっという間に冷えちゃったんだ。
部屋に戻ろうとして心臓がキューっと締めつけられる感覚がして、敵に攻撃されているのかと周囲を見る間もなく、痛くて床に膝をついたよ。
手から落ちたグラスが割れ、赤いワインが血のように床に広がるのを見て、アニバルは悟ったよ。
息ができない。
どうやら現世も苦しんで死ぬのか。
「…これも前世の罰なのか?何度も転生したが、死ぬのはい、やだ、な…」
アニバルがベランダに行ったのを陰から見ていたホセは、冷えるだろうと上着をクローゼットから出して、ベランダへ向かったよ。
「陛下。冷えますから…」
窓を開けてベランダに出ると、アニバルが倒れて冷たくなっているのを発見したんだ。
神の死に、デスペハード帝国やシエルボ国をはじめ改宗した国の人々は深く悲しんだというよ。
どうして神は現れて、消えてしまうのか。
長らくシエロ教のテーマだったそうだよ。
現代のハイドランジアでは、アニバルの死は心不全ではないかと言われているけれど、アニバルはそうは考えなかったようだね。
亡くなった年齢は正確な生まれた年がわからないから、おそらく七十代前半とされているよ。
亡くなった年は、帝都シエロにある石碑にも刻まれているから、はっきり判っているんだ。
あまりお話していなかったけれど、アニバルとトニアには娘一人しかいなかったよ。
エスコンディド村と王宮を行き来しけれど、王宮に長い間暮らしていて、家族のように一緒にいたルシオの息子と結婚したんだ。
政略結婚ではなく、アニバルの娘が惚れちゃったらしいよ。恋に真っ直ぐなのは母親譲りだから仕方ないとアニバルは許したそうだよ。
アニバルの子どもと皇帝の子どもを結婚させるという、フェデリコの思惑通りになったってことだね。
さてアニバルが死んでしまったから、水神王アニバルのお話はここでおしまい。
今回のお話はどうだったかな?
長かった?ごめんね。ハイドランジアの近代は現代に続く要素がたくさんあって、省くと一から説明しなくてはいけないからさ。
次はハイドランジアの現代、賢王リアムのお話だよ。
現代だから彼についての記録や情報がたくさんあるから、お話長くなるからね。
アニバルから千年後の世界は、どんな世界になっているでしょうか!
よかったら、また聞きに来てね!
テラ「三王の話はここでおしまい。どうだったかな?」
卯月「このサイトではリアムの話は二章として括らせていただきます。そういえばテラさん。ケントルム語はラテン語系ベースにしてるけど、ユビキタスは近年作られたインターネット関連を表したラテン語ベースの英語だよ?」
テラ「そうだったの!で、でもハイドランジアのプリンシパルを表すのに適切だったと思うし!伝わればいいんだ、伝われば!」
卯月「開き直った。どちらかというとIOTの方が聞きなれてるけど」
テラ「ユビキタスの方がかっこいいじゃん!ボクからキミにクレーム入れさせてもらうよ。一話一話タイトルつけなよ!どんな話かわかんないじゃないか」
卯月「え、めんど…。タイトルつけたら展開読めるパターンあるじゃない。最終話のタイトル見て、結末そうなるのねと思うときあるし」
テラ「それはセンスの問題で、タイトルつけるのとは別でしょう!」
卯月「リアムの話って何話構想?テラさんつけてよ」
テラ「分かった。『第二章 賢王リアムの話 一話 天涯孤独な少年リアム、養父母の息子ダヴィドちゃんにいじめられて物置小屋で一人寂しく生きる』!」
卯月「長いよ!ハリポタ感出してるけど、多分ハリポタと気づく人いないよ!
私がつけます。なので、二章からタイトルありでいきます。次回はアニバルの人物紹介とその次の更新は挿話になります」
テラ「挿話は人が集まる前に話していたんだけど、卯月さんいるとお話始めちゃうから話すの忘れちゃったんだよね」
卯月「流れ的にルドの後がよかったんですけど…」
テラ「挿話だからね!別にあってもなくてもいいやつ!」
卯月「だそうです。10/2(土)登場人物まとめ投稿、挿話『歌う人』を3日か4日の予定、第二章は10/9(土)予定です」




