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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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89話 水神王アニバルの話46

 イメルダはトニアがヴァリエンテの男と離婚して傷心だからと村人たちが気を使っているのに、何やら幸せそうだからどうしたんだろうと思ったよ。


「イメルダさん。今日も狩りですか?私も行っていい?」


 イメルダがフアンと一緒に村の周囲を巡回に行こうとしてると、トニアが来たんだ。


「危ないぞ?」


 フアンが心配してくれたけど、トニアがどうしても行きたいって言ったんだ。


「私も魔力砲を上手くなりたいの」


 魔力砲を持たせたら魔物に中ったと聞いて、イメルダはたまにトニアに撃ち方を教えていたんだ。


 トニアとイメルダを慕っていて、よく一緒にいたよ。トニアは魔物に追われたときは必死だったとはいえ、魔力砲は重いと感じていたよ。女のイメルダが魔力砲をずっと持ってつらくないかと聞いたよ。


「私はこうみえて力持ちなの。デスペハードの新人兵士共を腕相撲で勝ったことがあるからね。

 それでも彼らと武術で戦ったら負ける。でも魔力砲は魔力と集中力があれば体力差のある敵を倒せる。もちろん技術もね。

 ああ、今は人を倒したいとは思わないからね。この村の人を守りたい。

 水神王陛下も軽量化を考えて、私みたいなよそ者に意見を聞いてくれる。カランバノスでは考えられなかったわ」


 トニアはアニバルが褒められて自分のことのように嬉しかったよ。


 そのイメルダはまだ結婚していなくて、フアンがたまに俺はどうだアピールしてくるから、鬱陶しかったみたいだよ。


「魔物が最近落ち着いているから大丈夫でしょう」


 三人で回ったけれど、この日は魔物に出会わなかったよ。


「そういえば、トニア。その指輪誰からもらだったんだ?」


 直球でフアンに聞かれたけれど、トニアは嬉しそうに笑っていただけだったよ。


 アニバルの方も王宮の人々は、左手の薬指に釘付けになっていたよ。


「陛下。その指輪はどうされたのです?あまり装飾品は好まれないと聞いてましたが?」


 ルシオが周りの人から聞いてくださいと暗黙プッシュに負けて聞いてみたよ。


「あ?これか?いいだろう?あげないぞ?」


 と話はそれきりになったんだ。


 ルシオが駄目ならエクトルやホセにみんなが聞いたけれど、陛下のお心は陛下にしかわかりませんと口を開かなかったんだ。


 諜報部隊にアニバルは黙っておけよ?と脅したから、ルシオにも報告できなかったみたい。


「陛下。絶世の美女を見つけたのですが、連れてきますか?」


 ここはロドルフォに出撃させたけど、アニバルは研究と選定侯制度に専念するからいいと断ったよ。


 ロドルフォも毎回女の人を紹介できるほど知ってるって?


 イケメンに近づきたいと女の人から来て、その女の人たちに紹介してもらうようだよ。


「やはり王宮に来た村の女では?」


 と隠していたのに目星はすぐについてしまったようだね。


 本格的な冬になる前に頻繁に村に行ってトニアに逢っていたよ。


「アニバルさんの前世の家族の絵を見てみたい!」


 トニアが言い出したから、アニバルは見せることにしたよ。


 ただ『家族の邂逅(かいこう)』の絵がある部屋は限られた人しか見られなかったんだ。


 アニバルが許可したならいいだろうとはなったけれど、トニアとの関係は問われたよ。


 王宮を歩くということで、村娘の格好はできず、トニアは貴族の女性が普段着るようなドレスを着ていたよ。


 慣れないヒールと長い裾のドレスにトニアの歩き方はぎこちなくて、アニバルは笑ってしまったよ。


「仕方ないじゃない…」


 むくれる顔が可愛くて、ついついからかってしまって怒られてしまったよ。


 ルシオや宰相たちが来て、トニアはカチコチになってしまったよ。


「トニア、挨拶の練習したんだろう?」


 棒立ちになってしまったトニアに言ったら、ロボットのようにカクカクしながらドレスの裾を持ち、頭を下げたよ。


「こ、こんにちは」


 アニバルは抑えきれずに吹き出したんだ。トニアは顔を真っ赤にして、アニバルを睨んだよ。


「笑わないでって言ってるじゃない…!」


「悪い、悪い。やっぱり練習あるのみだな」


「うぅ…」


 しょんぼりしてしまったトニアにアニバルはできるようになるってって励ましたよ。


「陛下とこの方はどのようなご関係で?」


 ここぞとばかりルシオが聞いてきたから、アニバルはこう言ったよ。


「ん?俺が自分自身に生涯共に生きると誓った人だ」


 結婚したとは言わないよ。周りの人たちはざわついてしまったんだ。


「お互いに、ということですか?」


 アニバルが一方的に好意を寄せているとも受け取れないわけでもないから、ルシオはトニアにも聞いたよ。


 トニアは慣れてきたのか、にっこりと笑ったよ。


「この人を生涯、愛すると私が自分自身に誓いました」


「自分自身?誓いは立てたのか?」


「はい、私自身に!」


 アニバルとトニアは互いにチラリと見て、ニヤッとしていたよ。


 嫁ではなく、アニバルの共犯者が来たとルシオは思ったそうだよ。


 恋人とも側室とも公言せず、誓いは神ではなく自分だという。


 アニバルだけが自分にと言えばシエロ教からすれば、結婚になってしまうけれど、中央(ケントルム)教のトニアが自分自身というから、アニバルの言った意味が変わってしまうよ。


 トニアとは打ち合わせしていないけれども、彼女の機転でアニバルの意図通りになりそうだよ。


 ルシオたちは後程、アニバルが結婚したと判断すべきか大議論をするけれど、そんなのお構い無しにアニバルは『家族の邂逅』の絵がある部屋にトニアを連れていったよ。


 大きな部屋に大きな絵。トニアは教会の宗教画でしか絵を観たことがなくて、圧倒されていたよ。


「凄い、ここに人がいるみたい」


「だろう?この絵を描いた画家は元は神使で…」


 軽くベッティーノについて話してから、描かれてる人の名前とルドとの関係を説明したよ。


 キアーラの絵の前で、トニアはずっと立っていたよ。


「綺麗な人だね」


「老いた彼女の顔はこの絵で知った。見る前に死んだからな」


「逢いたい?」


「この絵の中にいる奴は全員逢いたいぜ。でも逢えるかどうかは運命にしかわからない」


 神と言おうとしたけれども、転生の思想を生み出した異教徒たちもその神もアニバルは知らない。だから神という言葉にしなかったんだ。


「あ、後ろの絵はルドさんね!あとは…」


「エトーレだ。エクトルの前世」


 アニバルは、チラリとドアの近くにいたエクトルを見たよ。


「エトーレさんは、こういうお顔していたのね。何で二人だけ反対側にいるの?」


「逆臣に一緒に殺されたからだ」


 トニアは目を丸くしてから、絵を眺めたよ。


「話しに聞いていたけれど…。ルドさんもエトーレさんも大変だったのね。でも二人が一緒の時代に転生できてよかった」


「そうだな。だからといって、皇子のくせにエトーレみたく、俺の従者の真似をしなくてもいいんだけどな。また言われんぞ」


 トニアは何がとエクトルを見たよ。


「ああ、『光帝の番犬』ですか?言われるのはとても光栄です」


 ルドに取り次いでもらえない貴族の妬みや揶揄だったんだけど、エトーレには効いてなかったみたいだね。


 トニアは何を思ったか、アニバルとエクトルを肖像画の前に並ばせたよ。


「前世と現世!いいね。ルドさんとエトーレさんは、今の二人より年上そうだからこの絵と同じ歳になったら、並んで描いてもらいなよ。

 それでここに飾るの。素敵だと思う」


 アニバルは一切興味なさそうだったけれど、エクトルはそれはいいと乗ってしまったよ。


「俺が三十くらいみたいだから、あと七年後に描いてもらいましょう!」


「ええ~。じっと待つの嫌なんだけど」


 トニアはニコニコしながら二人のやりとりを聞いていたよ。


 トニアは二日ほど王宮に泊まってから、エスコンディド村へ帰ったよ。


 一緒に王宮で過ごせばいいと思うだろうけど、貴族ではないトニアは長期滞在は許させていなかったんだ。


 ルシオたちは平民のトニアを側室ではなく、愛妾つまり恋人として扱うことにしたようだよ。


 身分というものはこの時代もはっきりしていたよ。


 冬の間にアニバルはまた研究したり、政策を考えたりいつも通り過ごしてしたんだ。


 トニアの方は変化があったよ。


 アニバルと離れて暮らす年の暮れ。トニアは最近身体が疲れやすいなって思っていたよ。


 風邪かなって思って、雪かきとか力仕事はイバンに任せて、部屋の中で休むようにしたよ。


「トニア、最近月のモノ来た?」


 母親に言われてトニアもそういえばと思ったよ。


「あなた妊娠してるんじゃない?」


「え?」


 トニアは衝撃を受けたような顔したから、母親は心配したよ。


「どうしたの?そんなに驚いて」


「あ、当たり前じゃない。だって、前の人とできなかったんだよ?私はできない身体なんだって。もしかしたら、お腹の病気なのかも!」


 村の医者のところに行こうとしたけれど、運悪く吹雪いてきて断念したよ。


 暖かな日が増えて春の訪れを感じる頃、トニアのお腹は大きくなり始めていたよ。でも妊娠じゃないって言い張るから、母親もイバンも困ったよ。


「医者に見せたほうがいいよ」


「太っただけよ。妊娠してたら前の人もしてたわ!」


「トニア。何で頑ななの?前の人とは子ども子どもって言ってたじゃない」


 前の旦那さんとの態度の違いに母親もトニアのことがわかなくなっていたよ。


 アニバルはトニアに逢いたくて、雪が溶ける前に馬車を走らせたよ。


「変わりないか?」


 村人がアニバルを出迎えたけれど、トニアたちの姿は見当たらないんだ。


「トニアは最近家にこもりっぱなしみたいです」


 神使が礼拝にも来なくなって心配していたんだ。


「具合でも悪いのか?」


 亡くなったパウロのように、会わない間に病気になったのではと、不安でいっぱいになったよ。

 

 トニアの家に行くと母親が実はと話し始めたよ。


「お腹が大きくなってきて、妊娠したんじゃないかって私が言ったら、違うって言い張るの。前の人とは月のモノが遅れる度に妊娠したかもって喜んでたのに」


「トニアが妊娠?本人が喜んでない?」


 聡いときは聡いアニバルだけれども、たまに酷くおニブだから、トニアがちょっとかわいそうだなってボクは思うよ。


 トニアの部屋に行くと、やつれた顔のトニアが無理矢理笑顔を作っていたよ。


「久しぶり!もっと逢えるの先かと思ってた」


「ああ。急いできた。トニア。教会に来ないからって神使や村の連中が心配してたぞ?具合悪いのか?」


「ううん。大丈夫」


 服で隠していたけれど、こんもりお腹が出ていたよ。


 体調についてあれこれ質問してアニバルも確信したよ。


「多分妊娠しているぞ。よかったな。子ども欲しかったんだろう?」


 トニアは死刑宣告されたように真っ青になったよ。トニアは子どもできなくてつらい思いをしてきて、子どもできて喜ぶと思ったから、アニバルもどうしたんだろう思ったよ。


「欲しかったけど…。産んでいいの?」


「あ?もちろんだ。なんでだめだって思ったんだ?」


「だって…。子どもができない私だから結婚したんだよね?あなたに子どもができたら、皇帝陛下や陛下の子どもと争いになるかもしれないんでしょう?」


 トニアはしっかりとアニバルが結婚しない理由を覚えていたんだ。妊娠できないトニアは結婚相手としてちょうどよかった、だから自分は結婚してもらえたんだって彼女は考えていたんだ。


 アニバルはトニアが妊娠してると聞いて嬉しくて、過去の自分の発言をすっかり忘れていたんだ。嬉しくてニヤニヤしないように頑張っていたのが、トニアからしたら素っ気ないと映ったようだね。


 アニバルはトニアを抱きしめてたくさん謝ったよ。


「すまない。心配させて。俺に捨てられるとでも思ったのか?そんなことするわけないだろう。

 トニア、俺の子どもを産んでくれないか?」


「は…い」


 安心したせいか、トニアは大泣きしたよ。


 ボクはこのお話を聞いて妊娠という一つの事でも、時によっては捉え方が同じ人でも大きく変わってしまうんだなって思ったよ。


「何、泣かせてるんですか?」


 顛末(てんまつ)を聞いたエクトルは呆れた顔をしていたよ。


 アニバルは猛反省して、子どもが産まれるまで村にいることにしたよ。


 これにはルシオを筆頭に貴族たちが反対したよ。


「妊娠中の長期の移動は無理でしょうから、せめてガルシア領主の屋敷にいてください」


 アニバルも妊娠中のトニアを守るには、領主の館など警備がしっかりしたほうがいいと思ったよ。


 ガルシア領主の館に行くまでの間、フアンとイメルダがトニアの警護をしたよ。


「まさか、水神王の旦那と結婚していたとはな」


「ん?違うよ、フアン。私はあの人を愛すると自分に誓ったの」


「互いに誓ったなら結婚ではないの?」


 イメルダも少し混乱していたよ。


 フアンはその関係にちょっと心配したんだ。


「結婚は契約だ。互いに破らないようにという意味もあるが、周りにも知ってもらうという意味もある。

 トニアの腹の子を旦那の子だと認めない奴も出てくるだろう」


「それはアニバルさんにも言われた。でも私がこの子がアニバルさんの子どもだって一番知ってる。村で暮らすか、王様になりたいかはこの子が決めることだもん。フアンが珍しく真面目なことをいってるわね」


「俺は結構真面目な人間だぜ?」


 ふんとふんぞり返っていると、イメルダがどこがという目で見ていたよ。


 アニバルとトニアがその気がなくても、周りが王や皇帝に担ぎあげることもある。


 イングランドの九日間の女王と呼ばれるジェーン・グレイのように、権力争いに巻き込まれて処刑されたという事例は、ハイドランジアの歴史上なくはなかったからね。


 デスペハード帝国はルシオが健在だし、政権は安定しているよ。


 ただアニバルの選定侯制度がどうでるかは、アニバルは想定はできるけれど実際はわからなかったよ。


 ガルシア領主の館に移ったトニアは、世話役の侍女がついて貴族のような扱いに戸惑ったというよ。


 アニバルは日中仕事をしていたから、知り合いもいないし寂しいだろうということでトニアの母親とイメルダを呼び寄せたよ。


 だからとても心強かったみたい。


 トニアは秋になるころ、女の子を出産したよ。


 アニバルは嬉しかったのと同時に権力争いの不安がなくなったと安心したんだ。


 当時の女の人には王位継承権がなかったんだ。


 だから皇帝や王の直系の女の人は結婚して、相手が王になったんだ。


 あ、ここでお話を聞いている女性の方々。怒らないでね?この時代はフェミニズムのフェの字もない時代だし、そういう歴史だったということでお話を聞いてね。


 アニバルは平等だとか女性にも学ぶ機会が必要だとか言っているけれども、王様や何かの代表になる人は男だと考えていたんだ。


 貴族の中で平民のトニアを追い出そうとして、アニバルの子どもではないと疑う人がいたけれど、産まれた子どもがアニバルに顔立ちがそっくりだったから、そういう意見はなくなったよ。


「トニアのように美人になるといいが…」


 みんなに散々アニバルに似ていると言われて、アニバルはよく呟いていたそうだよ。

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