88話 水神王アニバルの話45
冬が訪れるころ、アニバルは王宮にいたよ。ルシオはアニバルが村に行く気配がなく、この冬は王宮にいてくれそうだと安堵したそうだよ。
ルシオは慣例に従って、皇帝の仕事をしていたけれど、いつしか保守派と言われるようになったんだ。
別に彼は保守派とは自分では思っていなかったけれど、確かに新しいことをするときは即決せずに、時間をかけて判断したよ。
とてもいい心構えだけれども、有事のときは悠長に人々は思ってしまうんだ。
戦争はしばらくなくて、災害や飢饉は度々発生するから、それの対応をするんだけれども、ルシオが決めたころにはアニバルが救援の指揮をとった後ということもあったんだ。
アニバルはいつも王宮でお酒を呑んで美女にデレデレしているくせに、人命がかかっているときの動きはとても早いから、いつもルシオは後手に回っていたよ。
ルシオはちょっと自信をなくしてしまったみたい。
アニバルは察していたけれど、経験を積むしかないと思っていたんだ。でも災害のあった地域出身者や一部の若い貴族は、アニバルが皇帝になるべきだと考えていたよ。
そういう声にますますルシオは皇帝でいいのかと悩んでしまっていたんだ。
アニバルが心配していた通り、アニバル派とルシオ派で派閥が出来はじめてしまったよ。
それでもアニバルはルシオを支えつつ、やりたいことはやろうと決めていたんだ。
冬を迎える前にディオスパハロに行ったんだ。二週間程度の滞在だったけれど、労働者たちの表情が明るくて、アニバルはあることを確信したんだ。
極寒の地でも暖かな家を、僻地でも快適な暮らしをということでアニバルの理想をこのディオスパハロに詰め込んだんだ。
その結果、最先端の技術を使った一大領地が完成したんだ。
「見よ!俺の想像した通り、魔法具や道具は人々を幸せにする。さらに発展させれば、生活のあらゆるところに使われ、我が国の技術が視界に常に入るようになるだろう。城の建設から下着のヒモまで技術開発を進め、我が国を豊かにするのだ」
アニバルはこう、補佐官や技術者たちに高らかに言ったとされるよ。
魔石はキミたちの世界でいう石炭のようなものだけれど、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーだったよ。
魔石を大量に採掘する技術をアニバルは確立し、安価に使えるようにしたんだ。そこから爆発的に技術革命が起こったんだ。
時代の過渡期にいるアニバルは、凄いことをしているなんて思っていなかったよ。
思ったら即行動で、帝都に帰るとすぐに商人や各産業の元締めをしている人たちを集めたんだ。
工場というものは各地にあるわけではなく、各家や町工場的な小規模な集まりだったんだ。ギルドはあったけれど、生産は個々で行われていたよ。
それをアニバルは一つの建物の中に人を集めて、一括でモノを作るというのを国家プロジェクトとして立ち上げたんだ。
あ、これを何ていうのかわかった人いるみたいだね。
そうキミたちの世界でいう、産業革命だよ。
小規模な生産単位であった家内制手工業から、工場制手工業へ変わったんだ。
魔力砲のときに大量生産という言葉が出ていたけれど、この時は家内制手工業だったんだ。試作品をあちこちの工房に持っていって、つくってもらうのが効率悪いと考えたアニバルが、職人を一ヶ所にまとめたのが、大規模工場建設の始まりだよ。
まだまだ魔法具を使った機械は出来ていないから、人の手で作られていることが多かったよ。
アニバルの晩年期に多くの機械が生まれ、産業がここでも大きく変わったよ。
キミたちの世界の産業革命と少し違うところは、植民地の人たちの強制労働や、労働環境の悪さなどが早い段階で改善されたことかな。
アニバルは奴隷制を否定して、国民の安全と清潔な暮らしを目指していたんだ。
工場で働く労働者たちから、アニバルは強く支持されていたよ。
まあ、他の国はそうもいかなかったらしいけどね。
民間に一部の工場の経営権利を渡したことで、大儲けした経営者たちが権力を得たこともあったよ。
貴族からしたら、成金野郎って思っていたけどね。
アニバルが改革していくのを見て、ルシオはとてもプレッシャーになったようだよ。
「私は皇帝であるべきですか?」
エクトルに悩みを言うことがあったよ。
「陛下が国を支えてくださっているから、水神王陛下は思ったように行動できるのですよ」
凹みルシオを元気づけるために、アニバルはとある提案をしたんだ。
「ルシオを支える若者を育てよう。ただ王宮で育ててもだめだ。王宮の外をよく学ばせ、競わせるんだ」
国内を東西南北に分けて将軍を配置したように、皇帝の手の者が地域ごとに管理するんだ。
領主は自分の立場や領内のことを優先してしまうことが多く、国などの全体のことを考えるわけではないよ。領主は建前上は皇帝が選ぶことになっているけど、世襲制になっていてこれを変えるのは暴動が起きる大問題になるよ。
全体を考えるのは皇帝などの国の中枢組織だけれども、現地の感覚からずれていることも多々あったんだ。
皇帝自ら管理者を選び派遣し、皇帝を支える。
選定侯制度が作られたよ。
あ、選定侯はキミたちの世界では皇帝や王になる権利を持っている人たちのことをいうけれど、デスペハードで初期に考案されたのは、皇帝に選ばれた貴族の人ってことだよ。
競わせて優秀ならば皇帝にするというアニバルの意図もあって、後にその通りになったから、キミたちの世界の選定侯の意味に近いということで、この言葉を使わせてもらうね。
貴族の中には血筋が云々という人がいたけれど、アニバルはこう言ったよ。
「俺から見ればみな可愛い子らだ。皇帝の子とそれ以外だからと差はつけられない。平等に機会を与えたいんだ」
冬の間、選定侯制度について議論が行われたよ。
さていつからやるか、皇帝の座を巡って戦争にならないか、危険性や具体的な話になったときは夏が過ぎて秋になっていたよ。
「水神王陛下。エスコンディド村から女が来ています。お会いしたいと申しているのですが、いかがしますか?」
議論の休憩中に兵士が報告しに来たよ。
「エスコンディド村から?女?」
女の人と会う予定もなく、エスコンディド村から来るなら村長の神使かと思っていたよ。
ホセが先に誰だか確認しにいったら、トニアだというよ。
「え?イバンもいるのか?」
「いえ、一人で来たそうです。理由を聞いたら、陛下がなかなか村に来ないから何かあったのかと思って来たのだと」
アニバルは目を丸くしてから、首を傾げたよ。
「今年に入って村に行っていないが、心配されることか?」
「陛下。トニアの行動力を忘れましたか?自宅が雪で壊れたとき、一人で魔物が出る森を夜道というのに陛下の元へ行ったと聞いています。陛下に逢いたくて来たのでは?」
エクトルがおニブアニバルに教えてあげたんだ。アニバルは額に手を置いたよ。
「会いに来たって、緊急事態ではないだろう?」
「早く会ってあげてください。オッサンだとかいって逃げないであげてくださいね」
アニバルはエクトルをじっとりみたよ。
「人前でそういうこと…!」
「俺はトニアはいい子だと思ってますよ?」
「何勧めてんだよ。俺がジュストとセレーナの結婚を反対したの忘れたのか?」
「娘とご自分は違うと思いますし、何歳差でもこの際いいのでは?」
「この際とかいうな、この際って!」
トニアにとりあえず会うことにしたよ。
大勢の男の兵に囲まれてトニアは身を縮めていたよ。
「トニア!一人で来たっていうから、どうした?何かあったのか?」
アニバルはさっきのエクトルの言葉をひとまず置いておいて、いつも通りの感じで聞いてみたよ。
「水神様…」
トニアが顔を赤くしてマフラーに顔を埋めていたよ。
「顔赤いぞ?風邪か?」
「ち、違うの。私、自分がとても恥ずかしいの」
「あ?どういう…?」
エクトルが咳払いして兵士たちに命令したよ。
「トニアが怖がっているから、兵たちは下がって。陛下、別室を用意しますので、そこで話を聞いてみたらいかがです?」
王宮の門の近くにある兵士の詰め所にいたから、王宮内に行ったよ。
護衛としてホセが部屋の中にいて、エクトルも同席したよ。
「寒いか?」
ずっとトニアがマフラーをしているから聞いてみたよ。
「だ、大丈夫、です」
「兵士に囲まれて緊張したよな。で、どうして一人で来たんだ?」
「…水神様に逢いたくて。水神様は本当に王様なんだね。綺麗な服着て…。ごめんなさい。押し掛けてしまって。私、帰ります」
「俺に用事があったからここまで来たんだろう?話せよ」
モジモジしながら、チラチラホセたちを見たよ。
「ホセ、我々も下がろう」
エクトルが気を利かせてくれたよ。
二人がいなくなってもトニアは黙ってしまっていたよ。
「どうした?」
「逢いたかったの…。顔見たくて。そう思ったら、馬車に乗ってた。でも来てみたら私、場違いだって思った。ごめんなさい。迷惑かけて」
蚊のなくようなか細い声で話ながら、ポロポロと涙をこぼしたよ。
アニバルはトニアが本気だったと思い知ったよ。
「トニア。泣くな。俺の嫁になりたかったら場違いとか思わずに、その格好のまま胸張って王宮を歩け。
王宮は弱さを見せれば食い物にされる。負けない覚悟があるなら、お前を嫁に迎えよう」
トニアは素直に喜べなかったよ。押し掛け女房みたいになっちゃったからね。
「水神様は私のことを妹とかそういう風に思ってる?それなら、私は無理にあなたと結婚しない」
アニバルはトニアの前に膝をついて、頬を両手で覆ったよ。思い詰めているのが申し訳ないけど、逢いたい一心でここまで来てくれた彼女がとても可愛かったんだ。
「お前と再会したとき、美人になっていてずっと見惚れてたんだ。だから離れて、忘れようとした。俺は王で、お前は平民だから。歳も離れているし、村の若い男の方がいいだろうと思った。
お前がここまで来てくれたことが、凄く嬉しい」
「水神様」
トニアは頬を紅くしてアニバルを見つめているよ。目を閉じてと言われたから、トニアは目を閉じたよ。
唇に柔らかいものが触れて、トニアはアニバルの首に腕を回したよ。
アニバルはちょっと驚いたけれど、トニアは結婚したことあるし、もう大人の女の人。まだ子どもだと思っている自分に苦笑したよ。
トニアの耳元に囁いたよ。
「俺たちの関係はまだ公表しない。トニアに本当の王宮というものと俺の役目を知ってほしい」
「わかった。水神様、お願いがあって」
「俺もお願いがある。水神様っていうのをやめてくれ。アニバルって呼んでくれ」
「ア…アニバルさん」
ぎこちないけど、名前を呼んでもらうのがとても新鮮だったよ。
「トニアのお願いってなんだ?」
「水…アニバルさんが私のことをどう思っているか教えて」
「うーん。ここではさすがにまずいな」
といいながら、耳にキスしたよ。大人の冗談だったのに、トニアは顔を真っ赤にしたよ。
「ま、待って。そこまで心の準備が…」
「貴族の結婚ではあるまいし、付き合ったり、結婚して初日にそういうことしねーよ。
トニア、愛してる」
「はい。ありがとうございます」
なんだ、その返しと笑いながらアニバルはトニアを抱きしめたよ。オッサンに若い娘をやらんと猛反対したジュストにごめんねって思いながらね。
アニバルに逢いに来た女の話は瞬く間に王宮に広まったよ。アニバルはすぐにトニアを帰さず、一日王宮に泊めて、特別に平民でも入れるところを案内したよ。
「同じ人の肖像画がたくさんあるね」
トニアに感想を聞いたら、そう言うからアニバルはあれって思ったよ。
「ルドの顔をみたことなかったのか?」
「ルドって水神様の前世?」
水神様に呼び方が戻っているとアニバルは思ったけれど、人前だし、急にトニアの呼び方が変わったら変だから言わなかったよ。
「そう。俺のも飾ろうとするからやめさせてよ。恥ずかしいからルドのもやめてほしいんだが」
「えー!!ちゃんと見なかった!」
トニアが見たい見たいと言うから仕方なく、もう一度肖像画が飾ってある場所に行ったよ。
「優しそうな人だね!エクトル様は水神様の前世を知っているんですよね?」
「ああ。とてもお優しい方だ。水神王陛下みたいにひねくれているところもなく」
「エクトル…!」
最近エクトルが小言のホセ化しているみたいだね。
「トニアに一つ見せておきたいものがある。この国で、王宮で、俺がどういう扱いなのかを」
トニアは言われるがまま、貴族の令嬢の服を着せられ、王宮内のシエロ教会に連れていかれたよ。
祭壇から一番遠く、椅子がない場所に立っていると、貴族たちがたくさんやってきたよ。
椅子には身分が高い人たちが座れるから、下級貴族は座れなかったんだ。
「間近で水神王陛下を見られるのね」
トニアより少し若いご令嬢が興奮した様子だったよ。間近と言っても、入り口付近だったから祭壇からとても離れていたよ。
トニアは何も聞かされていなかったけれど、場所が教会だから礼拝が始まると思ったよ。
氷の鳥の羽根がついた帽子を被って、着飾ったアニバルが祭壇に現れると、全員起立したんだ。
いよいよ始まるんだってトニアは目を凝らしていたよ。
アニバルは何も話さなず、聖職者がお話したりしていたよ。
途中でアニバルに向かって全員お祈りを始めたよ。
トニアは自分もすべきなのかと思ってオドオドしていたけれど、毅然と前を向いていたアニバルがこちらを見てニヤリと笑ったんだ。
この場で頭を上げていたのはアニバルとトニアだけ。祭壇からでもトニアは目についたようだよ。
礼拝が終わると立席にいた貴族たちが、感激した様子で教会を後にしたんだ。
トニアはこの人たちにとってアニバルは神様なんだって、肌で感じたよ。
なのに、神々しい衣装を着崩して、お部屋でお酒を呑んでダラダラしている姿を見たら、神聖さ八割減だったよ。
「…その方が水神様っぽいけど」
「どうだったか?他の宗教の礼拝って新鮮だろう?」
神様がそれ言うのってトニアがハラハラしていると、ホセたちは無反応だったよ。いつも通りのようだね。
「緊張したけど…。貴族の人が近くで水神様を見られるって感動していたよ」
「ああ。トニアがいたところは、王宮勤めではない貴族だ。前の方でふんぞりかえっていた奴らが王宮の中で偉い奴らだ。年に何回か王宮の外からも参列できるようにしてて…今日のはなんだっけか?」
「…陛下に収穫の感謝をする秋の礼拝です」
ホセは言うのも疲れているようだよ。
「おお!だから祭壇に食い物がたくさんあったんだな!今年はたくさん採れたって聞いたからいい年だな」
「神官たちの前で言わないでくださいね?祈りが届かなかったとまたやる羽目になりますよ?」
エクトルはあえて、アニバルが嫌になることを言って注意するっていうことを覚えたよ。
「うぐ…。疲れんだよ。この服。重いし。そんなことはどうでもいいや。トニアはすっかり貴族のご令嬢だな」
いい、いい、似合っていると何度も言うからトニアは恥ずかしくなって顔を真っ赤にしていたよ。
トニアを一人で帰すわけもいかず、アニバルも村に行ったよ。
馬車の中でアニバルはトニアに結婚式をしたいかと聞いたんだ。
「二回目だし、いいわよ」
「王宮でドレス着れるぞ?女の子の夢じゃないのか?」
「ゆ、夢だけど、現実には無理よ!!もう私、大人だし!」
王宮のきらびやかな雰囲気に場違いと思っちゃったトニアは、無理だと思っても仕方ないかもね。
「そうだな。お前を正妻にすると貴族の教育を受けていないから、大変になると思うし。
決してお前を下げるつもりはないが、勘違いしないで聞いてほしい。王宮では側室ということにしたい。それなら公的な場所に出ることも少ない。
もちろん、俺は他に嫁を迎えるつもりはない。そこは覚えておいてくれ」
「…わかった」
トニアとしては正妻ではないって嫌だけど、大勢の貴族の前で着飾って王妃として振る舞う自信はなかったよ。
「でも結婚したって何かしておいたほうが、お前のお袋も安心するだろうし。考えておく。あ、家族にも言うなよ?どこでどう漏れるかわかんないから」
村につくと先にアニバルが馬車から降りて、トニアに手を出したよ。
エスコートされてトニアはドキドキだったらしいよ。
「水神様、珍しく貴族っぽい服着てる」
イバンに言われた通り、王様というより貴族の格好をしていたよ。
「仕事を抜け出してきたから、俺はすぐ戻る」
「え?そうなの?」
トニアはしばらく村にいてくれると思っていたよ。
「重要な案件があってさ。また来るから」
態度はいつも通りで馬車に乗っていったよ。
トニアは見えなくなるまで、ずっと見送っていたんだ。
「トニア、水神様に迷惑かけないの」
帰ってきて早々、母親に怒られたよ。
「それで告白出来たわけ?」
イバンはトニアの気持ちに気づいていたよ。
アニバルに秘密だって言われたから、ちょっびり嘘をついたよ。
「王妃になる覚悟があるならって言われたけど」
「トニアは無理だよ。腹芸できないじゃん」
「そうよ。あなたが貴族になれるわけないじゃないの」
母親はどこどこさんの息子はどうだって、村の男の人とお見合いさせようとしていたよ。
トニアは乗り気じゃないと誤魔化したよ。
アニバルが次の日もその次の日もアニバルが来ないかなって、窓の外を眺めていたよ。日課になってしまって、母親に諦めろって怒られたんだ。
冬になる前、アニバルは村にやっと来たよ。
トニアはアニバルに駆け寄って抱きつきたいのを頑張って我慢したよ。
アニバルが大きな荷物をトニアの家に運ぶと、トニアの母親とイバンを呼んだんだ。
「トニアを俺の側室に迎えたいと思っている。許可して欲しい」
母親もイバンも目を真ん丸にして驚いて、トニアは頬を紅くしていたよ。
「正室も他の側室もとるつもりはない。かといって正室にしてしまうと貴族の教育を受けていないトニアは大変だと思うんだ。
側室でも風当たりは強いだろう。だから、王宮ではなくトニアは村に住んでもらおうと思ってるから、貴族があれこれ言ってくることはないと思うが…。急な話で悪い」
トニアの母親はにっこりと笑って娘に言ったよ。
「よかったわね。トニアも水神様もずっと一人なのかと心配していたから、これで安心したわ」
「…俺も心配されていたのか?」
「ふふ。ちょっと癖があるけどいい人だから、もったいないと思っていたの。
娘をよろしくお願いします」
親の許可をもらって、アニバルはさっそく荷物を広げたよ。
純白のドレスにトニアたちは、えっと声をあげたよ。
床につくけれど、貴族の花嫁が着るにはスカートが長くなくて、アニバルが持ってきた黒いローブを着たらドレスがすっかり隠れてしまうよ。
「村の教会で堂々式をあげたかったが、俺はシエロ教の神だから、よその神に誓いを立てるのはシエロ教の奴が混乱してしまう。かといって、シエロ教の神だから自分に誓うってなんか違うし…。側室はそもそも式を挙げないからな。
グダグダ考えた結果、トニアは中央教だから村の教会でやりたいだろうと思ってよ。村の奴や王宮にも秘密で式を挙げる。参列者はお袋さんとイバンだけ。すまないが、そうしてほしい」
「いいわよ。この子の結婚式は一度見てるからね。こんなに素敵なドレス着れるなんてよかったわね」
「…」
トニアはバツイチというのがちょっと気になってたようだけど、ドレスを試着したら忘れちゃったみたいだよ。
素敵、素敵とうっとりしているから、アニバルはドレスを作ってよかったと思っていたんだ。
村の神使にも話を通して、村人が寝静まっている早朝に式を挙げることにしたんだ。神使もアニバルの複雑な立場を知っていたから、秘密にすると誓ってくれたよ。
秘密の結婚式の当日、ドレスを着たトニアは黒いローブを着て家の外に出たよ。ちゃんと隠れているか心配しながら歩いていたよ。
教会につくとアニバルが待っていて、正装していたよ。
トニアはローブをとって、アニバルの前に立ったよ。
神使が神々にお祈りをしてから、教典の中に書いてある結婚についての教えを言ってから、二人の前に差し出したよ。
アニバルとトニアは教典の上に互いの手を重ねて、夫婦であると誓ったんだ。
祭壇の上にあった小箱を神使が開けると、トニアは驚いたよ。
「指輪…」
「ああ」
アニバルは指輪をトニアの薬指にはめたよ。
トニアは指輪を嬉しそうに見惚れているから、神使があなたもとこそっと教えてあげたよ。
「そ、そうだった」
アニバルの指にはめてあげたよ。
結婚式が終わるとその日の夜はアニバルの小屋にトニアはお泊まりしたよ。
ホセたちは護衛として小屋の外にいたけど、中にいるとは無粋なことはしなかったよ。
「トニア、指輪の内側を見たか?」
「見てないよ?」
指輪を外して内側を見ると、違う宝石が二つ並んでいたよ。二人の瞳の色みたいだったんだ。
「ゴテゴテ宝石つけてる奴はこの村にいないし、かといって何もないのも味気ないからな。
やっぱりでっかいのがよかったか?」
「これがいい!ありがとう!」
トニアはアニバルに抱きついたよ。
この夜二人は何をしたかは、キミのご想像に任せるよ。
こうして二人は公ではないけど、結婚したんだ。




