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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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86話 水神王アニバルの話43

 さてカランバノスについてだけど、聖神使がデスペハードと対立しなかったこと、感染症が国内で広がりを見せたことで外国への侵略行為は下火になってきたんだ。


 シエルボについても、アニバルの睨んだ通り、水晶が採れたんだ。


 すぐにシエルボと一緒に鉱山や魔法具の開発することになったよ。


 シエルボ国王と公爵のレイナルドが、お礼にデスペハードにわざわざ来たよ。


 まっさきに皇帝のフェデリコではなく、アニバルのところに行って挨拶をしたんだ。


「水神王陛下のご助言により、我が国は富を得ただけではなく、カランバノスからの攻撃や疫病を防ぐことができました。

 私とレイナルドは水神王陛下をここに信じることを誓います。どうか、今後ともご加護とご神託いただけますようお願い申し上げます」


 アニバルは、は?って顔していたよ。ご加護というのはどういうことだろうってフェデリコを見ると、どや顔で頷いていたよ。


「我が国の始祖であるアニバル水神王陛下の素晴らしさをシエルボ王も理解したようだ。神官に伝えよ。至急儀式の準備を」


 シエルボ国王たちはシエロ教に改宗してしまったようだね。


 アニバルだけが、え?え?ってテンパっていたよ。


 王宮内のシエロ教の教会にいって、儀式が行われたよ。


 アニバルは着飾って、ただ祭壇の椅子に座って、儀式を見ているだけだけどね。


 信者は祭壇の前に立って、聖職者に信仰の宣言をした後に、聖水を飲むんだ。この聖水は聖職者が魔法で出すんだけど、神であるアニバルがいるから聖水を出すことになっているよ。


 これは中央(ケントルム)教にはない儀式だったし、転生して初めて見たよ。


 何で聖水なのか。


 事の発端はルドの孫が皇帝の時に、当時貴族くらいしか信仰していなかったシエロ教を農民が入りたいと聞いて、それを喜んだ皇帝が教会でお酒を振る舞ったことからしいよ。


 飢饉などでお酒が手に入りにくい時代があったときに聖職者が魔法で聖水を出したことから、今の儀式になったそうだよ。


「これで血が繋がらなくとも我が子である。汝らに幸福を」


 何かしら一言アニバルは言わなくてはならないから、隣国の王様に上から目線もなと思ってお祈りの言葉にしたよ。


 小国ながらシエルボ国王の改宗は、中央(ケントルム)教世界に衝撃を与えたんだ。


 当時は大陸のほとんどが中央(ケントルム)で、ついでシエロ教、その他は土着の信仰があちこちであったくらいなんだ。


 デスペハード帝国以外に、シエロ教を信じますという皇帝や国王はいなかったよ。


 それなのにシエルボ国王が改宗したのは、信仰心もあったことはあったけれど、アニバルの先見の明を信じたのとデスペハードの国としての勢いだったんだ。


 アニバルは裏でエルスター地方の東側諸国の紛争の調停とかをして、平和に貢献していたんだ。さらっとデスペハード帝国の影響力を拡大していて、シエルボはそれに乗っかろうとしたようだよ。


 東側の諸国の中にも、デスペハードの動きに警戒していたところもあったけれど、アニバルはまずは信用を得ることから始めたよ。強国ならではの圧力はかけず、なるべく平等になるように心がけたことで、信用を得ていったんだ。


 デスペハードが出資した東の海へ続く陸路が完成すると、多くの国が交易を始め、雪に閉ざされるエルスター地方でも活気が満ちたよ。


 それぞれの地域の元々あった道を繋げながら、何年もかけて道は完成したんだ。


 次第にカランバノスもデスペハードと交易したほうが有利と考えて、交渉をして戦争は終わったんだ。


 ルドもアニバルも、どちらかというと武力よりも外交を得意としたよ。


 だから軍部からはあまり人気はなかったらしいよ。


 アニバルは大きな戦争をしない代わりに魔法や武術の大会を頻繁にして、兵士たちのガス抜きをしたんだ。


 後の学校の運動会の元になったんだけど、駆けっこみたいなゆるっとした競技ではなく、怪我や骨折もする本気の闘いだったらしいよ。


 一般人も見学できて、毎回大盛況だったよ。たまにアニバルも参加したから、そのときは会場に入りきらないほどの観客が来たという記録があるよ。


 カランバノスとの関係が改善しつつある中で、兵士だったイメルダが家族を連れてデスペハードに移住してきたんだ。


 フアンもアニバルが個人的に雇っている兵として、エスコンディド村の警備をしていたよ。


 フアンもイメルダも中央(ケントルム)教徒だから、エスコンディド村に住むのがいいだろうと移住をアニバルがすすめたんだ。


 村にはまだ医者がいなかったから、イメルダの母親を診ろとアニバルが命令して医者を常駐させたよ。


 これで医者なしの村ではなくなったよ。


 イメルダには魔力砲を渡して、村に危害を与えそうな魔物を狩るようにお願いしていたよ。


 あとは女性でも扱える魔力砲の開発に協力してもらったんだ。色んな機能をつけすぎて、重くなっていたから軽量化したものがどのくらい狩りで使えるか実践で確認したかったんだよ。


 村には魔物避けの柵を作ったけれど、周囲に魔物が出没するから、柵の外に出ると危険だったんだ。


 アニバルがいるときはイメルダも狩りについていって、この森のことを教えたんだ。イメルダは呑み込みが早くていい弟子になったようだよ。


 それをエクトルは妬いてたらしいけどね。


「陛下~」


 ある日、静かな村にお化粧バッチリできらびやかな服を着た女の人たちが、馬車から降りてきたよ。


 ロドルフォ厳選の女性たちは、アニバルを王宮に連れ戻すように指令がフェデリコから下っていたんだ。


「みんな、こんなところに来てどうした?」


 狩りのときの表情とは一変して、デレデレしたよ。


 イメルダはじとっりとその様子を見ていたんだ。


「捕虜になったときに慰みにしないって言ったから、紳士的な人かと思ったのに!!」


 怒ってヘッサニアに愚痴を言ったよ。


「室長も男だからね。同じ人とはないらしいし、結婚もしないって言ってるから」


「結婚も?前世の奥さんのことが忘れられないとか?」


「…忘れなかったら、女の人を取っ替え引っ替えしないでしょう」


 アニバルが結婚しないことに王宮も世間も憶測が飛び交って、話がつきないらしいよ。


 一生独身かと噂されていたヘッサニアが貴族の人と結婚すると、陛下もっていう話になってアニバルはうんざりしていたようだよ。

 

 月の何回かは王宮に帰って遊んだり贅沢をして、お仕事全然しないんだ。

 一部の人たちは悪口を言っていたけれど、フェデリコやロドルフォがとてもあたたかな目で見るから、アニバルは隠れて舌打ちをしたよ。


「なんだ、あいつら。人を仕方ない人だというように見て」


「実際に陛下のだらけっぷりに目が余りますが、影で動かれているのが知られているからでしょう」


 ホセは構わずズケズケいうけど、アニバルの意図をわかっているからガミガミ言わないよ。


 ダメ男を演じて脱神様ポジションを計画していてるんだけど、フェデリコに漏れているようだね。


 王宮にいるときはだらけるか、開発室にいたよ。


「室長。男性たちを叱ってください!無駄な研究ばかりしているのです」


 ヘッサニアが怒りながら言うから何事かと思ったよ。


 男性陣は目を輝かせながら、室長、室長とやってきたよ。


 みんな四十路を過ぎたオッサンだけどね。


「あれの試作品ができました!」


「何!!フィデルを呼んでこい!」


 アニバルはニヤリと笑ってついていったから、ヘッサニアたち女性陣はため息をついたよ。


 知らせを聞いたフィデルは開発室の別棟に急いだよ。


「マエストロ!完成したとは本当ですか?」


 フィデルはアニバルを陛下ではなく、マエストロと呼んでいたよ。


「完成はしていない。試作品が出来たそうだ」


「見たい、見たい、見たい!」


 大興奮の弟にエクトルは苦笑していたけれど、実はとても楽しみにしていたよ。


「呪文は…」


「室長。まずはここの壁を触って」


「おお、そうだった」


 何の変哲もない建物の壁に触れたよ。


「『扉よ、姿を現せ』」


 と唱えると壁が消えて扉が現れたんだ。


 アニバルとフィデルの歓声は、見回りをしていた兵士たちが駆けつけるほど大きかったらしいよ。


 まだ秘密だったから、兵士たちに大丈夫といって帰ってもらって、扉を消したり出したりしてみたよ。


 フェデリコにも見せたけど、テンション上がってないみたい。ヘッサニアが皇帝にこれは経費の無駄ですと訴え始めちゃったよ。


 今度はアニバルがヘッサニアを侮蔑したように見ていたよ。


「お前には夢がないのか!下らない、意味のない研究もいつかは役に立つ日がくることもある!さっそく俺の部屋に取り付けるぞ」


 隠し扉はもうあるのにどこにつけるんだろうね。


「どういう原理なのです?」


 ヘラルドも来ていて、隠し扉のことよりも原理に興味があったみたい。


 アニバルは壁に触れながらいったよ。


「ここに魔法具が埋めてあって、特定の呪文を言うと壁が消えたり、現れたりするわけだ。あとは脱出ルートを考えて…」


「陛下?」


 ホセがにっこり笑うから、アニバルは慌てて口を覆ったよ。


「な、何かあったときのために秘密の通路があった方がいいだろう?ほら、ガルシアの領主の屋敷を建て替えするって聞いたし、どうだ?」


 領主のルシオにも聞いてみたよ。


「とてもいいのでは?」


 にっこりと笑って大人対応されてしまったよ。


「なんだよ。いらないのかよ。防衛装置やら脱出時の仕掛けとか色々考えたのに」


「どうして逃げることばかり考えるのです?我が国は強国を退ける力があります」


「敵は外からとは限らないし?お前らがいいなら、いいけど」


 ルドが裏切られているからね。屋敷内で襲われたときや、火災などの退避ルートが必要だと考えていたよ。


 ルシオがこれまた陛下のお好きに屋敷を作ってくださいと社交辞令風に言うから、ちょっとやる気がなくなったよ。


 エクトルは開発室の男性陣に小声で聞いていたよ。


「あれの開発は進んでる?」


「あ、ええ。大元のは完成しましたが、本当に作ってよいので?」


「うん、水神王陛下をお守りするためだから」


 エクトルはエクトルでコソコソしてるみたいだね。


 アニバルと開発室の男性陣の夢をこめた、ガルシア領主の屋敷建設計画が進んだらしいよ。


 フィデルもノリノリで案を出したそうだよ。


「地下トンネルはマエストロのお部屋に繋げる?」


「それもいいな。でも馬が通れないと歩いたら凄い距離だぞ」


「地下トンネル?」


 傍観者ルシオはここで興味を持ってしまった!


 フィデルの構想を聞く羽目になったよ。小さな押しボタンを出してきたよ。


「俺らがお屋敷にいるときに何かあったら、マエストロが駆けつけてくれるんです!この魔法具のボタンを押すと、マエストロのお部屋にあるランプが点滅して俺が危ないって知らせるんです!」


「フィデルは襲われる前提だよな。少しは戦え」


 エクトルが呆れていたよ。アニバルはまあまあといいながら設計図を出したよ。


「何かあったときの連絡として伝令より早い方法を考えてみたんだ。まあ、これよりも脱出ルートを考えて…」


 この時代は電話がないから、緊急を知らせるのは伝令かタカなどの鳥を使った方法しかなかったよ。


「隠し扉に逃げ込んで中の魔法具に呪文を唱えると壁が現れて扉が消える。魔法具の魔力がなくなったときのために、扉を隠す装置を考えてるんだが…」


「扉に近づくと落とし穴が出るの。針山が落ちてきたり」


 フィデルはお兄ちゃんのおうちをダンジョンにしたいみたいだね。


「そんなことしたら、ここに大切なものがあるって言ってるもんだろう?瓦礫とかでふさいでっていう案もあるが」


「壊す前提なんですか…?」


 ルシオも呆れたようだよ。


「建物の中にあるモノが略奪されるか壊すか。それは領主サマにお任せするぜ?」


 戦争のどさくさに紛れて、魔力砲をカランバノスに奪われた経緯があったからね。


 屋敷が襲撃されたときに、お金や宝、魔法具も奪われるかもしれない。


「屋敷には貴重な魔法具がたくさんありますし、略奪されれば国の損失にもなりますね。ないことを祈りますが、もしものときは貴重なモノがある部屋を破壊して、略奪されたら困るモノ自体も破壊しましょう。それよりも、破られない頑丈な金庫を作ってくださるといいですけど」


「それも考えてるって」


 開発室の男の人たちとニヘへと笑っていて、気持ち悪いよ。


 アニバルが遊び呆け…熱心に研究している間に、フェデリコが病に倒れたんだ。


「陛下が王宮にいてくださって、皇帝になってくださったら私も病にならなかったのに」


「思ったより元気そうじゃないか。仮病じゃないのか?」


 お見舞いに行ったら、ベッドに寝ているフェデリコに小言を言われたよ。でも顔色が悪かったんだ。


 アニバルも治療を手伝ったけれども、なかなか快復しなかったよ。


「陛下。ルシオを頼みました。それとも皇帝になっていただけますか?」


「えー。ならないし。ルシオが皇帝だし、俺のやることは変わらないし」


 安心させてあげればいいのに。ちょっと意地悪だね。


 寝たきりのフェデリコの頭をくしゃくしゃに撫でたよ。


「何が頼むだ。お前は元気になるんだ」


 フェデリコは恥ずかしそうな、嬉しそうな顔をしていたよ。


 アニバルはフェデリコの快復を祈っていたけれど、もしものことを考えていたよ。


 ルシオは若いし、器用だけれどもぱっとしないと貴族から言われていたよ。


 アニバルはルシオを呼んだよ。その他に皇子と皇女、各領主の子息に会って一つ質問をしたんだ。


「お前はこの国をどうしていきたい?」


 ルドは後継者を育てきれなかったから、国が崩壊してしまった。デスペハード帝国は世襲制だけれど、ルシオがいるから安泰とは思えなかったよ。


 ルシオ一人が優秀でも国は維持ができない。


 十代から二十代前半の有力者の子息に、為政者になるための意識を確認したんだ。


 ルシオはエクトルと一緒に確認したよ。


「私は始祖が思い描いた国にしたいです」


「馬鹿か。千年前の理想を描いてどうする?」


 ルシオの優等生回答をアニバルは即刻却下したよ。


 エクトルにもアニバルはキツいことを言ったんだ。


「エトーレのとき、お前はどうしてジュストに勝てないと思った?」


「それは…」


 エクトルは目をそらしていたよ。馬鹿かと言われるの間違いなしって思ったようだね。


 アニバルもわかっていてズバズバ言ったよ。


「お前は俺の言うことをこなすことがいいと思っていた。ジュストは違う。あの子は自分の理想の世界があった。それを実現するために考えて俺とは時に意見をぶつけあった。

 お前たちは俺やフェデリコに自分の考えを胸を張って言えるか?」


「陛下は私が領主や皇帝になるような人間ではないと考えておられるのですか?」


 エクトルが怒られていて、ルシオは不安になっているみたいだね。


「そういう意味ではない。お前がどうしようもない人間だったら、王宮から追い出しているし、無駄ならここで意思を聞いていない。答えがでないのなら、今出さなくていい。出たら話してくれ」


 ルシオとエクトルを下がらせたよ。


「陛下は期待しているから、ルシオ兄上にお考えを聞いたのです」


 フォロー役エクトルの言葉に、ルシオは自信無さそうに笑っていたよ。


「そうでしょうか。始祖はエトーレ様にも厳しいことをおっしゃったのですか?」


「いえ。何も。光帝陛下は臣下に思うようにやらせていました。もちろん逸脱(いつだつ)した者は厳しく咎めていましたが。

 ジュスト兄様には期待されているようでした。俺は陛下の理想を実現するのが、自分の理想を叶えるものだと思っていました。皇帝ならば臣下に己の理想を実現するように命令するものです。

 でも光帝陛下もアニバル様も、必ずやご自分が正しいと思っていません。様々な考えや意見を聞いて、いいものを採用されていました。

 千年前とは今では違うことはたくさんありますが、陛下の思いは、人の願いでありそれは不変的なものだと思います。それが説明できれば、ルシオ兄上の『始祖が思い描いた国』という回答もあっているのかもしれません」


「人の願いとは?不変的なものとは何でしょうか?」


 エクトルは答えないで、にっこりと笑ったよ。


「それをご自分で見つけなくては。俺は手伝えません」


 ルシオが考えているのを眺めながら、エクトルも自分の考えというものを探していたよ。


 フェデリコはベッドから起き上がれる時間も短くなり、政務をしなくなると、アニバルは頻繁に顔を見に行ったよ。


 ルドの話を聞きたがるから、お話してあげたんだ。


「私は幸せな皇帝ですね。歴代の皇帝は始祖に会いたくても叶わなかった」


「思ったのと違ってがっかりしただろう?」


「そんなことはありませんよ。とても楽しめましたし」


「ならよかった。悪かったな、釣りさせられなくてよ」


 フェデリコがきょとんとしたよ。アニバルはあれって思ったんだ。


「引退して釣りを楽しむんじゃなかったのか?」


「ああ、そんなこといいましたね。思いつきです。これと言った趣味はないもので」


 フェデリコはぽつぽつと幼少期の思い出を話したよ。


「そういえば誰かに触れたことはあまりなく、親しい人とも距離を取ることから教えられました」


「ふーん。エクトルが俺に甘えていたのが、羨ましかったわけか」


「…違います」


 アニバルはフェデリコの手を取ったよ。オッサン同士で手を取るって何だか恥ずかしかったけれど、フェデリコの手が痩せほそっていてつらくなったよ。


 ポンポンと優しく手を叩いたよ。


「他におねだりはないのか?」


「いいのですか?」


「ルドからすればお前も子どもみたいなものだし?たまには甘やかしたいとは思うぜ?」


 ではとアニバルの手を軽く握ってから聞いてきたよ。


「あなたは神ではないのですか?」


 アニバルは茶化そうかと思ったけれども、フェデリコの目が真剣だったんだ。


「お前はどう思う?」


「…わかりません。あなたは中央(ケントルム)教を信じている。始祖は教えに沿って国を作ろうとされていたことも、この国が始祖を神と崇めた理由も知っています。なのにわからなくなってしまった」


「お前の思う神はどのようなものだ?」


「…迷ったりつらいときに寄り添ってくれ、救ってくださる方です」


「俺は違うのか?」


 フェデリコはアニバルを見つめて、強く手を握ったよ。


「いいえ。カランバノスのことも東側の諸国のことも、私は悩まされていましたが、陛下に助けられました。今もこうやって私の苦しみを和らげようとしてくださっている。疑うようなことを言い、申し訳ありません」


「そんなので怒らねえよ。病でも何でも、お前の窮地はお前しか抜け出せない。それはお前の人生だからだ。

 もう皇帝だからと考えなくていい。人としてどう生きたいか?そのために俺は出来る限り手伝おう」


「病でろくに動けないのに、どう生きろというのです?」


 アニバルは身を乗り出して言ったよ。


「動けないからなんだ?お前は生きて話すことができる。キアーラが患った病みたいに、身体がまったく動かなくなるわけではない。

 もしかしたら、一ヶ月後になんであんなに動けなくなったのだろうと思うくらい、元気になるかもしれない。

 諦めるな。まだできることはたくさんあるんだ」


「はい」


「今日はたくさん話したから疲れただろう?また明日来る」


 席を立とうとしたのに、フェデリコが手を離さなかったよ。


「…私は生まれ変われますか?」


 そんなこと聞かれてもアニバルはわからないし、逆に転生できる理由を知りたいよ。


「当たり前だ。お前はルド()の血を引いている。また来世で逢おう」


 アニバルは手を離してから、フェデリコを撫でたよ。


『おやすみ。我が子よ』


 フェデリコはレナータの言葉がわかったのか、微笑みを浮かべておやすみなさいと言ったよ。


 一ヶ月後、元気になることはなく、フェデリコは亡くなってしまったんだ。


 国葬が行われ、代々皇帝が眠る地にフェデリコも埋葬されたよ。


「フェデリコ父上は陛下を神だとおっしゃっていました。そう振る舞われるおつもりですか?」


 エクトルがフェデリコのお墓の前に立っているアニバルに聞いたよ。しばらくここにいたいと言って人払いしたから、少し離れたところに護衛がいたんだ。


「死に逝く者に少しでも悔いや不安を残さないために言ったことだ。俺は神ではないぜ?」


「わかりました」


 アニバルはくるりとエクトルを振り向いたよ。


「俺のことをどう思ってんだ?」


「あれ?前にも話しませんでしたっけ?光りのような存在だと。

 神にはならないでくださいね。それだとみんなの陛下にならないといけませんし、神官たちが出しゃばるし、俺がお側にいられません」


「お前はもう少し俺から自立しろ」


「酷い。自立してますよ?」


 アニバルは歩きだして、遠くの山を眺めたよ。


「みんなの陛下、か」

 

 皇帝に即位したルシオを見守りながら、アニバルは村と王宮を行き来していたよ。


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