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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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77話 水神王アニバルの話34

 冬が来てアニバルは雪崩対策の実験に立ち会ったよ。


 意図的に雪崩を起こして、どのくらい効果があるか調べていたんだ。


 そういう実験はしたことがなかったみたいで、国内の研究者も集まったよ。


 慈悲深い始祖が民のために、自ら動いていると噂になったのもあるようだよ。


 アニバルはエスコンディド村のことしか考えていなかったけどね。


 今回の実験は雪崩が起きると魔法具の壁が現れるタイプが多かったんだ。やはりこれだと値段も上がるよ。しかも魔法具だから、その中の魔石を盗むという被害もあったんだ。


 実験の結果はとても素晴らしかったけれど、コストがちらついてアニバルは素直に喜べなかったんだ。


 一人の防災の研究者がアニバルと話したいと言ったよ。彼は四十代くらいで、格好も貴族っぽくなかったよ。


 アニバルを目の前にすると、即刻雪の地面に膝をついたよ。


「立っていいぞ」


「あ、ありがとうございます」


 緊張しているのか、声が上ずって身体も震えているよ。


「あんた、平民か?」


「は、はい。ガルシア領の学院を卒業して、故郷の村で魔法を教える教師をしています」


「教師なのな。それで話って?」


 アニバルを取り巻いている研究者たちをチラリと見てから、話はじめたよ。


「村には魔法が使える人は少なく、魔石を買うお金もないため雪崩の柵を設置するくらいしかありません。それも効果があるのかわかりません。安全に雪崩を起こす魔法の使い手の派遣をお願いしたいのです」


 使い手たちが人のいないところに雪崩を誘導しているのを見て、お願いに来たみたい。わざわざアニバルのところに来なくてもいいと思ったけれど、この教師を見る研究者たちの目が冷ややかだったんだ。


 魔法具ありきの研究してきたから、それを否定されるのは研究者たちも嬉しくないからね。この教師は理解した上で話していたんだ。


 でも研究者の偉い人に言っても無駄そうだから、王様のアニバルに直談判しに来たようだね。


「なんだ、てっきり魔石を買う金をくれと言いに来たのかと思ったぜ」


「お願いしたいのは山々なのですが、一度盗まれてしまったので魔石のない方法を考えています。というより、雪崩以外にも落雪の危険がある場所はたくさんありまして、お金はいくらあっても足りないんです」


「わかるわかる。村に設置した柵っていうのはどういうのだ?」


 アニバルの話し方に教師は困惑していたよ。王様だって聞いていたのに、村人みたいな雰囲気だからね。


「山肌に何個も柵を作り、段状に設置して雪が落ちないようにしたり」


「山肌に段状…?」


 雪崩が起きたら魔法具から柵が出る仕組みばかり考えていたんだ。


 キミたちの世界では魔法がないから、普通に取られている対策なんだけれど、アニバルには衝撃的だったようだよ。


「崩れる斜面の大きさが小さくなれば小規模な雪崩で済む、という理論でして」


「ここから遠いのか?」


「馬車でしたら半日ほどで」


「わかった。明日行こう」


 と決めたら即行動だよ。アニバルは教師を食事に誘ってあれこれ話をしたら、仲良くなってしまったよ。


「孤児で頑張って学院に入ってから、村に恩返ししたいから教師してるって?いい奴だな、お前」


「ありがとうございます!陛下も苦労されているんですね。雪崩で村がなくなったという噂を聞いてましたが、まさか陛下が居た場所だったとは」


「アニバルでいいぜ!あんた、魔力があまりないって学院で苦労しただろう」


「卒業できるか不安で眠れなかった日もありました。学んだのはいいのですが、村人たちのほとんどは魔力がありません。学院では魔法を使う技術ばかりで、村人には使えません」


 わかるわかるとアニバルは、同志をここで見つけてしまったよ。


 教師タデオさんが発明した道具も見せてもらえるということになって、アニバルはとても楽しみになったよ。


 翌朝、馬車に乗って、タデオさんの村へ行ったよ。


 人の背丈よりも高い柵を横並びに作り、それを等間隔で上から下まで山沿いに柵が置かれていたんだ。


 アニバルはわざと雪崩を起こしたり、逆に雪を積もらせてみたよ。


 エスコンディド村のような極端な雪の振り方をしない限り、雪崩が起きなさそうだよ。


「使えそうだな」


 アニバルはガルシア領の学院の学者も連れてきたから、みんなで検討会を開いたよ。


 タデオさんは恐縮そうにしながらも、積極的に意見をしたよ。


 山の地形を何年も研究して、効果がありそうな場所や角度を導き出したんだって。タデオさんはコツコツ型だね。


「魔法を使うのが当然と考えておりましたし、使わない方法も必要ですね」


 何人かの研究者たちも認識を改めたようだよ。


 この後、ガルシア領の学院長に連絡が行って、魔力や魔法を使わない学問設立に動いたよ。


 学院長はアニバルのお出迎えを毎回しているけど、それは暇ではなくてフットワークが軽いようだね。


 王様なんだか研究者なんだかわからない、アニバルが即位して初めての冬はこうやって過ぎていったよ。




 雪が融けが始まるとアニバルは、さっそく水晶を発掘した北の鉱山へ向かったよ。


 今度は鉱夫も連れて大所帯の移動になったんだ。


 約束通り、エクトルもついてきたよ。


 雪はかなり残っていて、目的地に辿り着くまで重労働だったよ。


 アニバルの目印にしていた仕掛は残っていたよ。獲物もかかっていたけれども、日にちが経っていたから、食べられなかったんだ。マエストロの教えに背いてしまって、アニバルは反省したようだよ。


 アニバルは入り口を破壊し、鍵の魔法具が壊されていないか確認してから解錠したよ。ここに誰も入っていなかったみたいだね。


 鉱夫や兵士に掘らせると、アニバルたちの想像以上の水晶が発掘されたんだ。


「でかい…」


 大きくても手のひらサイズが普通なのだけれども、ここで発見されたのは大人の背丈をゆうに越えるものだったんだ。


「問題は魔石かどうかですが」


 水晶といっても魔力を含むまた溜め込むものと、まっくそういう作用のないものがあるんだ。


 だから、魔法具として使える水晶を魔石と言って区別したりするよ。


 発掘したときに削れた一部を調べてみたんだ。


「これはかなり上等です」


 連れてきた魔石の研究者は、思わず驚きのあまり震えていたよ。


 アニバルは喜ぶはずが、巨大な魔石の前でしかめ面をしていたんだ。


「どうされたのです?」


 エクトルはこれだけのものが出てきたなら、この地を巡って争いになると思ったよ。だからアニバルは憂えているのではないかと考えたんだ。


「なにか、巨大な水晶(クアルソ)について妙な使い方があったような」


「前世ですか?」


「ルド時代ではないな。もっと前。王に献上されて…」


 一緒に来たロドルフォも気になって耳を傾けていたよ。


 アニバルはああと呟いたよ。


()の棺に使ったんだ」


「棺?」


 金持ちのお金の使い方はわからないと、鉱夫たちがため息をつきそうだね。


「彼って、本物のマニュス王?」


 エクトルは声を潜めて聞いたよ。アニバルは頷いたんだ。


水晶(クアルソ)に入れた遺体は腐らないとされていたから」


「稀に琥珀など、虫や葉が入っていて原型を留めているものがありますね」


 魔石の研究者が言うよ。琥珀は樹脂が固まるときに虫や葉が入ってしまって化石化するよ。


 モノが腐るのは空気中に漂うカビなどの微生物が付着するからなんだ。真空状態にして空気を抜けば腐りにくい。アニバルいわく、水晶の魔力を利用しているから腐らないらしいよ。


「ま、こんなことはどうでもいい。この辺りの開発は計画通りに進めるとする」


「ものすごいこと聞いたけど、どうでもいいことなの?」


 あの統一王マニュスが水晶の棺に入れられて、二千年の時を越えて原型を留めていたら?


 エクトルはどんな人か見たいと思ったけれど、どこに埋葬されたかまでアニバルは思い出せないようだよ。


 採掘しながら、さっそく森を切り開いて、人が住める場所を作ったよ。


「ここをデスペハード帝国の領地とする!」


 と宣言するまでに時間はかからなかったんだ。


 ただこの辺りにも住んでいる人たちはいるから、周知したよ。


「税とか取られんのか?」


 アニバルたちを案内してくれた狩人が困り顔で聞いてきたよ。


 彼らは税が払えず国を出たり、そもそもずっとここに住んでいたりして国という組織の外にいた人たちだよ。


「税は取らない代わりに、兵士とかの食糧の提供をしてくれ」


 免税や減税を打って、開拓を促進しようとしたんだ。


 ただここは人があまり住もうとしない寒い場所。


 大工など一般人の希望者はなかなか来なかったよ。


 元々住んでいた人たちに逆にお金を払うから、開拓のお手伝いしてと言ったら、結構集まったよ。


 夏になるころは小さな集落が完成したよ。


「この土地の名前はどうしますか?」


 エクトルに聞かれたよ。


 名無しとはいかないから、アニバルは狩人たちに何て呼んでいるか聞いたよ。


(ベスティア)の森と呼んでいます」


「獣。確かにたくさんいるな。魔物は少ないのが不思議だ」


「いるが、険しい谷や崖で巨大な魔物は住みにくいから、獣たちはここに集まるんだ。

 それに、この先に神鳥(ディオスパハロ)の地だから進まない方がいい」


神鳥(ディオスパハロ)?」


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)だ。あの魔鳥のねぐらに一歩でも入れば、殺される」


 別の狩人が畏れるように言ったよ。


「わかった。それはどの辺りだ。踏み入れないようにしよう」


「陛下?」


 ロドルフォたちは魔鳥を殺したガルシアの英雄が、忌避する理由がわからなかったんだ。


 襲われたら倒せばいい。軍人らしく、そう考えていたんだ。


氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)を殺したら、災厄が降り注ぐという言い伝えを聞いたことがあるんだが」


 アニバルはここにも氷の鳥が住むと知って、事実か確認したかったんだ。


「昔話ですが、氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)の雛を殺した狩人がいて、親鳥は雛を探し回り、この地を去ったそうです。そのあと吹雪が一ヶ月続いて、狩人とその家族は雪に埋もれて死んだと。俺らは氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)は森の守り神だと思っています。

 雛を見かけても獲るなと狩人は親父から教えられます」


「わかった。教えてくれてありがとう」


 アニバルはこの地には氷の鳥がいると教えるために、地名をディオスパハロとしたんだ。


 そして土地なし王アニバルは、やっと領地を得たよ。


 人より獣の方がはるかに多い極寒の地だけどね。


 デスペハード帝国が派手に動いたことで、近隣諸国は情報収集していたというよ。


 カランバノス王は水晶を掘り当てたと聞いて、舌打ちをしたと言うよ。そして決断したんだ。


「デスペハードを手に入れる時が来た」


 戦争へ向けて動き始めたんだ。


 デスペハード帝国水神王直轄地のディオスパハロへ間諜を放ったのは、当然とも言えたよ。


 現地民の労力を積極的に受け入れていたから、誰が入り込んでもおかしくない。


 アニバル側も間諜がいる前提だったから、国から派遣した兵士と鉱夫以外は採掘現場に入れさせなかったんだ。


 入れば叩き出されて、二度とディオスパハロに入れなくなるよ。


 カランバノスの間諜に金をちらつかされて、哀れな狩人や木こりは住むところを追われたというよ。


 デスペハードとカランバノスの攻防が本格的に始まったと、アニバルは一度王宮に戻ったときに耳にしたよ。


「陛下。どうか王宮から出ないでくださいませ」


 皇帝フェデリコが直々にお願いに来たよ。


 学院に行こうとしていたアニバルは、嫌そうな顔をしていたよ。


「暗殺なら王宮だってどこでも出来るぜ?」


「…王宮の方が安全ですから。ディオスパハロにも行くのを控えてください」


「行きたくてもこれから冬だから行かねぇよ。そんなに切羽つまってるのか?」


 アニバルは宣戦布告を受けそうだとウーノの一族が掴んでいたのを聞いていたんだ。


「備える時期に来たかと」


「ふーん。わかった。開発室にこもってることにする」


 あっさりアニバルが下がったから、逆にフェデリコは怪しんでいたようだけどね。


 アニバルは開発室で部下の研究報告を聞いてから、自室に向かったよ。


 部屋の隠し扉をノックしたけれど、ウーノたちが出てこなかったんだ。


 前に出てこなかったら他の諜報部隊がいると聞いたから、この部屋のどこかにいるのかもね。


「あれ?いないのか」


 アニバルはわざと口に出して、机に向かったよ。他の諜報部隊がいるとアニバルは知らないふりをしたんだ。


 おそらくフェデリコが送り込んだんだろうね。ちょっとアニバルは不愉快だよ。監視対象ってことだからね。


 アニバルはイラついても仕方ないと、地図を広げたよ。


 カランバノスはアニバルが見つけた水晶の鉱山を狙ってくるだろうから、どうやって防衛するかだね。


 アニバルの直下の軍は今帝都で編成と育成中なんだ。自前の兵士をまだディオスパハロには送れないよ。


 だから各将軍から兵を出してもらってるから、増強には皇帝と各将軍の承認が必要だよ。


 アニバルがすっぽか…参加していない会議で皇帝が増兵ねと決めたのをまだ知らないんだ。その報告をホセが持ってくるはずが、全然来ないんだ。


「あいつどこで油を売ってるんだ!」


 と怒ってから、頭を切り替えようと地図に目を向けるよ。


 デスペハードの西側に位置するカランバノス。両国に隣接するシエルボという小国があるよ。


 この国はデスペハードとカランバノスという大国に挟まれて、いつも外交に苦労しているんだ。


 最近では船の質が向上したから、貿易も盛んになりカランバノスの景気がいいらしく、そちら側についているんだ。


 このシエルボは例の水晶の鉱山のある山脈と接しているんだ。万が一、シエルボがカランバノスに吸収されてしまえば、この国境も鉱山も危うくなる。


 だからシエルボを味方にしたい。


 皇帝フェデリコは脅し作戦をしようとしていたのを、アニバルは止めさせたんだ。


 シエルボはカランバノスに港の整備をするから人を寄越せとか、無茶振りされて困っているそうなんだ。カランバノスと同じように嫌われる路線は避けるべきだとアニバルは考えたよ。


「一緒に鉱山の開拓しようと誘ってみる」


 それではカランバノスに鉱脈を教えるようなものだと反対意見が出たよ。


「もちろんただでは教えない。教えるのは反カランバノス派で、一番力がある。確か王のいとこで公爵だったけな。そいつはどうだ?」


 すでにアニバルはディオスパハロをデスペハード帝都とすると宣言したときに、根回しでシエルボの公爵と手紙のやり取りをしていたんだ。


 もちろん、水晶が見つかったというのは伏せて、王という身になり土地を開拓するためという風に言ったらしいよ。


 遅らせながらでも、と公爵さんは即位のお祝いに装飾品とかを贈ってくれたんだ。


 ここからもう外交が始まっていて、アニバルは公爵さんに非常にいい手応えを感じていたよ。


 フェデリコもアニバルの動きを知っていたから、シエルボとの外交は任せていたんだ。


 アニバルはもう少しシエルボの動きを見てから、鉱山の話は出すと言ったよ。


「わかりました。何か動きがありましたら教えてください」


 アニバルは開発室に引きこもることはできず、対シエルボについて考えなければならなくなったよ。


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