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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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76話 水神王アニバルの話33

 アニバルは政治には表向き無関心を装いながらも、ウーノたちに情報収集させていたんだ。


 エクトルは皇子という立場があるから、自分で買って出ているみたいだけどね。


 アニバルは国内だけではなく、ヴァリエンテのことやカランバノスを含む隣国の情報も得ていたよ。


 知り得たことは皇帝フェデリコには伝えてないよ。彼も同じかそれ以上の情報を持っているだろうからね。


 特にアニバルはお金持ちのカランバノスの動向に注視していたんだ。交易であらゆる国と地域と接点を持ち仲間にしているよ。


 でも必ず全てが仲がいいとは言えないらしいよ。


 魔力砲の一部の原材料は自国で調達できないから、皇帝フェデリコは交易を広げているけれど、陸路のみだと冬場は雪に閉ざされてしまうのがネックなんだ。


「最果ての地は誰も開拓はしていないか」


 夏でも雪に覆われるエルスター地方の最北端までは、どの国も手を伸ばせずにいたんだ。


 夏の時期は短くてすぐに冬になり、雪で覆われるからなかなか開拓が進まないんだ。


 アニバルはそんな中でも、北の地に眠る資源を狙っていたよ。


 噂の域をでないことも、どんな些細な情報でも集めていたんだ。


 特に地形は念入りに調べさせているんだ。もしかしたら金や鉱物などが眠っている可能性があるからね。


 学院に頻繁にいくのも専門家の意見を聞くためだよ。


 でも発掘調査にはお金も人も必要だね。こそこそするには限界があったよ。


「雪崩対策にも金がかかるし、フェデリコに(たか)ってくるか」


 と集られたフェデリコは困っていたそうだよ。


 急に言われても言うから、アニバルがフェデリコの肩を叩いたよ。


「何事も思いやりが必要だしな。ちょっとでいいんだ。思いやり予算だ。思いやり予算」


「私が言うのはわかりますが、陛下からおっしゃいます?」


 フェデリコは呆れながらも、アニバルがこそこそ企んでいるのは知っていたよ。


「陛下のお勉強は進んでいますか?」


 ちょっと鎌をかけてみたいだね。


「まあな。将軍らから魔力砲の訓練を頼まれているんだ。帝都ではあまりいい場所ないから、よそでやろうと思っているんだが」


「将軍たちも喜ぶでしょう。どこに行くのですか?」


「雪の訓練するから北の方かな」


 急いで練習しなくても、二ヶ月もすれば帝都も雪が降るよ。


 フェデリコはあえて深く聞かずに、お気をつけて行ってらっしゃいませとアニバルを見送ったよ。



 国境が定かではない北の地に踏み入れたのは、アニバルも東の将軍ロドルフォも初めてだったよ。


 平面な地図を見ても現地はどういう地形になっているかわからない。この辺りに住む狩人や木こりに案内を頼んだんだ。


「昔からここは水晶(クアルソ)が採れると聞いて色んな人が来たというが、険しい崖で何人も命を落として去っていった」


 お金に困ったらこの狩人は採りに行くそうだけれども、危険だから頻繁には行かないそうだよ。


 アニバルは採掘現場を遠目から確かめて、地図を取り出したよ。


 狩人の言った場所以外も採れるかもしれず、もしかしたら安全な場所が見つかるかもしれない。


 そもそもどうしてこの場所に目をつけたかというと、ヴァリエンテ国の水晶の鉱脈を内陸へ一直線上にすると、この場所にぶつかったんだ。そして、噂で水晶が出ると聞いて、アニバルは来たというわけなんだ。


 地学の学者によると、昔はここは一続きの山脈だったのが、長い年月で川によって山が削れて山脈が分断したんじゃないかというんだ。

 その証拠にデスペハードの北側から、海に向かって川が流れているよ。


 後で分かることだけれども、川は川でもハイドランジア大陸にも氷河期があって、デスペハード一帯は氷河に覆われていたんだ。


 氷河期の終わりにゆっくりと氷河は融けて、その時に大地を削ったんだよ。


 そんなことはアニバルにはどうでもよく、兵士に訓練だとかいいながら、学者が目星をつけた場所を探索したよ。


 簡単には見つかるわけはなく、一週間が過ぎ、魔力砲で狩りをさせながら兵士たちは確実に腕を磨き、メンタルも強くなったよ。


「これ、そうですかね?」


 岩の壁をガリガリやっていた兵士の一人が、拳ほどの岩を持ってきたよ。


 岩石の中に透明な水晶が混ざっているものを持ってきたんだ。


 魔力を込めると薄く光ったよ。


「でかした!この付近を捜索する。落石には気をつけろよ」


「はい!」


 サクスム時代を思い出して、アニバルも手伝おうとすると兵士たちに止められたよ。作業を眺めているのは暇だから、ロドルフォと一緒に周辺を歩いてみたんだ。


「もし見つかればお手柄ですが」


「問題は警備だな。山賊や他の国に漏れれば、盗掘するだろうしな。全部掘りたいがそうはいかないし」


 魔法で掘ったら、身体は楽だけど疲れるらしいよ。身体も魔法も鍛えろとアニバルの無茶振りに、兵士たちは頑張ってついていたよ。


 三人の兵が走ってきたよ。


「陛下!将軍!やりました!」


 何をと聞く人はいないだろうね。


 三人は目を輝かしてとても興奮していたから、掘り当てたのだろうと考えながらアニバルは三人の後をついていったよ。


 兵士たちが群がって騒いでいる中、アニバルが行くときちんと整列したよ。


「狭いので頭上に気をつけてください」


 と言われたけれど、アニバルはそれを見た瞬間、屈んでいた背が伸びて頭を強打したよ。


「だ、大丈夫ですか?」


「痛…。お陰で冷静になれた。灯りを」


 頭を抑えて痛みに内心もだえていたよ。涙目になったのは、暗くて他の人に見られてないよ。よかったね。


 魔法具の灯りをいくつもつけると、キラキラとたくさんの光りが反射したよ。


 壁一面に水晶が埋まっていたんだ。


 どうやらとても大きそうなのもありそうだよ。


「増援か、ここはやめておくか」


 朝には霜も降りて冷え込みは厳しくなってきたんだ。デスペハード帝国に本格的に雪が降るまでに帰るには、増援が来て掘る時間はないよ。


 アニバルは今回見当がつけばいいやと駄目元で来たから、嬉しい悩みだよ。


「よし!春になったらここに来るぞ。それまで誰にもバレないように隠しておこう」


 アニバルは入り口から少し入ったところに魔法具を設置したよ。


魔法(合言葉)を言えば開く仕組みだ。ま、ここを破壊されたら意味はないが」


 魔物避けの魔法具を応用して、ここを誰かが通ろうとしたら発動するから、魔石の魔力を温存できるよ。


「合言葉で扉が開く。夢だろう!」


 と開発室では盛り上がっていたようだよ。


「流石です!陛下!」


 何やってるんだろう、開発室と兵士たちの脳裏に過ったけれども、水晶を掘り当ててテンション上がっていたから忘れてしまったよ。


 土魔法で出入口を塞いだんだ。


 隠しておいて、次来たときに見つからないと意味ないからね。狩人の罠を近くいくつか仕掛けたよ。本格的に仕掛けたから、仕掛けが目印だと思わないだろうと狙ったんだ。


「お前ら、引っ掛かるなよ」


 撤収しようとして痛って声が聞こえたよ。誰か引っ掛かったようだね。


「お前らドジだな」


 注意喚起してもらったのに、頭をぶつけたのは誰だっただろうね。


 ホクホク顔で兵士たちが採った水晶を持ち帰ったよ。


 皇帝も宰相もまさか鉱脈を見つけてくるとは思わず、やはり始祖は神なのかと感動していたよ。


「俺の手柄だからお前らにやらないぞ!あ、ロドルフォのところは手伝ってもらったら、わけてやる」


 という発言に感動半減したそうだよ。


「では、思いやり予算はいりませんね?」


「はあ?いるに決まってるだろう。ケチだな、お前」


 どっちがだね。フェデリコはいつものニコニコ顔が消えて呆れているよ。


「運営も人手もいるからな~。手伝ってくれるなら考えようかな」


 素直に手を貸してといえばいいのにね。


「すぐに議会で図りましょう」


 極秘事項だから、帝国の上層部だけの会議が行われたよ。


 北の地域担当ということで、北の将軍がしゃしゃり出てきたけど、アニバルが各将軍の所属の兵士をそれぞれ出すように言ったよ。


 そのまま北の将軍に任せたら、手柄を横取りされたみたいで、一緒に来てくれたロドルフォとその部下たちがかわいそうだもんね。


「魔力砲の訓練したいんだろう?人はいないから撃ち放題だぜ。原料は揃ったんだから、増産を視野に入れて、多くの兵士の訓練が必要だ」


 さらりと将軍たちをなだめたから、フェデリコの中でアニバルの評価は少し戻ったよ。

 

「お帰りなさい。そして、水晶(クアルソ)の発見おめでとうございます」


 エクトルはニッコリと機嫌が良さそうだったから、アニバルは安心したよ。出発前についていくと言われて、授業があるからダメと言ったら、凄く不機嫌になってしまったんだ。


「できれば喜びをその場で共にしたかったのですが」


 やっぱり根に持っているみたいだね。


「まだ怒ってるのか?」


 鞄からホイホイと、水晶やデスペハード帝国北部で有名なお菓子とかを渡したけれども、笑顔を浮かべたままだよ。


「怒ってませんよ?」


「その笑顔が恐いんだが」


「春になったら行くんですよね?」


「…わかった。連れていく」


 ニコニコっとしてから、お菓子ありがとうございますと言ってからムシャムシャ食べ始めたよ。


 エクトルいや、エトーレとしてアニバルが危険な場所へ行くときは、自分の目の届くところにいてほしかったんだ。


 アニバルに勝手に死んでほしくないからね。


「マエストロ、俺には?」


 フィデルがお菓子を欲しそうに見ていたよ。


「あるぞ」


 ほいっと渡したお土産が水晶だったから、フィデルは落胆したよ。


「お菓子がいい!」


「あるから待ってろ。それは俺が自分で採ってきた水晶(クアルソ)だぞ?まだ鑑定には出していないが、結構いいものだぜ?」


「魔法具にしてからちょうだいよ」


「何の魔法具がほしいんだ?」


 ほしいと言えば何でも与えられる皇子様は、何の魔法具がほしいんだろうね。


「試験のときに答えが出てくる魔法具」


 まさかのカンニング魔法具の要求に、アニバルとエクトルは同時にガクッとなったよ。


「ダメに決まってるだろうが!他は?」


「他は…」


 お菓子が出てくる魔法具とか、オモチャが収納できて持ち運びできる魔法具とか、なんとも子どもらしい発想にアニバルはやっと和むことができたよ。


「エクトルは?」


「俺は魔力砲も通さない、鉄壁の防御の魔法具かな」


 エクトルは自分用ではなくアニバル用らしいよ。


「そういうのは軍と共同で開発しているところだ」


「もうあるじゃない、そういうの」


 フィデルが言うとエクトルが、ああそうだと何かを思い出したよ。


「陛下が外出中にクリーニングとサイズのお直しが出来ていたんだった。宝物庫にあるからいきましょう!」


 エクトルが行こう行こうと腕を引っ張るよ。


 なんだろうと思っているとフェデリコの部屋に行ったんだ。


「父上!水神王陛下に例のものをお見せしたいのですが」


 フェデリコも読みかけの資料を置いて一緒に来たよ。


 宝飾品や絵画など盗まれたらいけないものは、宝物庫にしまっているようだよ。


「フィデルはここで待っていなさい」


 皇帝の言葉にフィデルも文句は言えないみたいだね。おとなしくお付きの人たちと廊下で待つことになったよ。


 開発室が開発した魔法具を解錠する呪文をフェデリコが唱えてから、部屋に入ったよ。皇帝や一部の人しか解錠の呪文を知らないようだね。


 棚や箱が置かれていたけれど、どれも鍵の魔法具がついていたんだ。


 一つの棚の前でフェデリコが解錠すると、引き出しを開けたよ。


 小さな箱を出して近くのテーブルに置いたんだ。


「お開けください」


 アニバルは言われた通りに開けたよ。魔法具の灯りに反射して、キラリとつややかな質感とその形に見覚えがあったよ。


「これは…。マルコが作った魔法具の指輪か?」


「そうです。王の指輪とも皇帝の指輪とも言われています。当時の魔法具の最高傑作で、至宝です。現代でも易々とは作れません」


「本物なのか?」


「はい。かつてルークススペース帝国が広大であったため、光帝陛下亡きあと、皇帝に名乗りをあげた者たちが競って、皇帝の証であるこの指輪を探したと言われています。

 初代の手に渡り、この地に、この国で大切に保管しておりました」


「よく、残ったね」


 千年の歳月を考えれば、こんな小さなものがなくなってもおかしくないから、思わずルドの口調になってしまったよ。


 アニバルが眺めるだけで指輪を手に取ろうとしないよ。


「お手にとっては?」


「皇帝の指輪ならば、お前がつけるべきだろう?」


 フェデリコは嬉しそうに微笑みを浮かべたよ。


「陛下におっしゃっていただけるとは、とても嬉しいです。確かに歴代皇帝は即位式にこの指輪をはめますが、それは一度だけ。すぐにこの場に保管されます。

 これは陛下のものですから」


 代々借りていただけだという体裁だよ。アニバルは指輪の存在をすっかり忘れていたから、歴代皇帝の指輪の扱いとは熱量が違うよね。


 サイズも直したというから、アニバルはとりあえずつけてみたよ。


 ルドの指とは太さも長さも違う。でもとてもしっくり馴染んで、ずっとつけていたような不思議な感覚になったんだ。


「一つおたずねしてよろしいでしょうか」


 アニバルがしげしげと指輪を見つめていると、フェデリコが改まった様子で聞いてきたよ。


「ん?なんだ?」


「この指輪はジュストが持っていたそうですが、どうしてでしょうか?これがあればグランデフィウーメの攻撃を防げたのではないのでしょうか?」


 エトーレには敬称をつけて、ジュストにはつけていなかったから、裏切り者というイメージをフェデリコが持っているようだね。


「そうだな。どうだったけな」


「覚えてはいらっしゃらない?」


 エクトルもずっと気になっていたんだ。


「覚えている。確かにあの日、あの子の様子がおかしかった。賊に襲われたときに見に行くと言ったあの子が少し不安で、お守りを渡した。その中に入っていたんだろう」


 あっけらかんと言うから、フェデリコは腑に落ちないという顔をしていたよ。


 アニバルは指輪を外してから、入れ物に入れたよ。


「今は健康だから、どうして弱気になっていたんだろうとは思う。病は心も蝕むんだな。寝ても覚めても身体が痛くて、いつの間にか闘うより終わらせる方法を考えていた。

 エクトルやウーノにも話したが、疲れたんだ。干ばつが終れば、戦争が。それが終れば疫病が。いつこの国は、世界は安定するのだろうと途方もない気分にもなった」


 グランデフィウーメ領主のルイージとその兵士たちが牙を向けてきた憤りはあったけれど、これで終わるとも少し思ったのは秘密だよ。エクトルが怒りそうだからね。


「ジュストに指輪を渡したのは俺が死ぬ前ではない。その前の襲撃を受けたときだ。

 この国では、さもジュストが俺から盗んだみたいな話があるが、それは間違いだ」


「ジュストが奪ったのをフェデリーゴが取り戻したという話になっていましたね。あの袋にマッテオおじさんが作ったお守りが入っていたから、それを渡したのだと俺は思っていました」


 エクトルも前世の記憶を思い出してきたみたいだよ。


「ああ。すりかえたんだ。俺が持っていれば確実に指輪は奪われていただろう。指輪があれば、俺がルイージに皇帝を譲ったと嘘も言えるからな。

 まさかルイージも手駒にした男が持っているとは思わなかっただろうし」


 愉快そうにしてから、箱の蓋を閉じたよ。


「指輪に関してはそんな感じかな。フェデリコはもう少しジュストに優しくしてくれると嬉しいが」


 いない相手にどう優しくしろというのかな。エトーレが転生したなら、ジュストとセレーナの血筋からジュストの転生者が現れるかもしれない。


 彼が転生したときに、少しはいい雰囲気になってほしいとアニバルは願っていたよ。


「色々ありそうだが、他には何があるんだ?」


 アニバルは指輪が保管してあった引き出しを覗き見ていたよ。


 ルドの手記もここにあったんだ。ルド専用の棚のようだね。


「こんなのもあるよ」


 エクトルが上の段の観音開きの扉をあけて、抱えられるくらいの箱を出したよ。


「なんだ?」


 ちょっとワクワクしていたけれど、ルドの黒歴史的なものが出てきたら恐いとは思っていたよ。

 

 箱の中にさらにらガラスケースがあって、薄汚れた茶色いものが見えたんだ。


「え…どうしてこれが?」


 ルドが生まれたときに、実母が作ってくれたクマのぬいぐるみだったんだ。


 アニバルが戸惑っていると、エクトルがガラスケースの鍵を外したよ。


「キアーラ母様たちが遺品として持ち出したんです。光帝陛下の手記とこのぬいぐるみを亡くなるまで、キアーラ母様は胸に抱いていたそうです」


 アニバルは恐る恐るぬいぐるみを持ったよ。


 千年経っているから毛も変色しているし、ゴワゴワになっていたよ。でも大切に保管されてあったお陰で原型が残っていたよ。


 胸に抱くと埃っぽい臭いがしたよ。


「でも少しキアーラの匂いがする気がする」


 一瞬掠めた気がしたけれども、何度嗅いでも埃っぽい臭いしかしなかったんだ。

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