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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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73話 水神王アニバルの話30

「ゲレル!」


「え?アルスラン?何でここにいるんだ?」


 アルスランたちは国に帰ったはずだから、ここにいると思わなかったよ。


 ヴァリエンテたちは涙を浮かべて、アニバルの前で膝をついたんだ。


「ご無事でよかった。冬の前にご挨拶にと来たのですが、すでに雪深くて焦って村に行ったところにその村がないではありませんか!

 近隣の村に聞きまわって、雪崩だと知りました。エスコンディドの村人がガルシア領主のいる街に向かっていると聞いてここまで来たんです。明日発つ予定だったので会えてよかった。

 本当に本当に、ゲレルが無事でよかった…!」


「慣れない雪で大変だったろう?何度もひどい吹雪があったはずだ。お前たちも無事だったのか?」


「なんとか。雪に慣れた者たちに同行を願ったので」


 馬に混ざってトナカイもいたよ。トナカイの民さんにアルスランは頼ったようだね。


「お前たちはこれから帰るのか?これからもっと冬は厳しくなる。俺たちはエクトルに頼んで村人を保護してもらおうと思っているんだ」


「これからもっとですか…。では国に帰らない方がいいですね。

 村人がまだいるんじゃないかって隣村の村長に聞いて、捜索しているんです」


 アニバルたちが村を出てからすぐにアルスランたちが来たようだね。ちょっと待っていれば路頭に迷わずに済んだのかもしれないけれど、これも運ということなのかな。


「本当か?ここにいる連中の保護の目処が立ったら俺も行く。でもお前らには雪を防ぐ家もないだろうに」


「天幕を持ってきてますので大丈夫ですよ。暖かな絨毯もありますし。でも結構寒くてみんな驚いています」


 遊牧民だから移動には常にテントを持ち歩いてるみたいだよ。


 アルスランはアニバルと一緒にエスコンディド村に行くことにしたから、村人の保護の目処がつくまで、この街にいることになったよ。


「ところでとても賑やかな街ですね。いつもこんな感じなんですか」


「いや。今日から祭りなんだとよ」


「冬に祭りですか。新年ではないですよね?」


 ヴァリエンテもレナータの風習の影響で、冬のお祭りは年明けの時期にしかないから、珍しいなと思ったよ。


「さっき水の神(アグルア)様の使いが雨を降らしたっていう劇がやってたから、水神(アグルア)様のお祭りだよ」


 イバンはややずれたことを言っているから、勘違いしちゃっているようだね。アルスランはアニバルを見るとあからさまに目をそらされたよ。


 アルスランはイバンに寄って聞いたんだ。


「どんな話だった?」


「うーん。ちょっとしか見なかったけど。見たことのない服の男の人が雨を降らしたとかなんとか。水神様に似てた」


 アルスランは目をキラリと光らせたよ。


「ゲレルのことではないのか!ゲレルの祭りなのか!」


「水神様は皇帝様の先祖の生まれ変わりなんでしょう?水神様の前世の人のお祭りだって」


 トニアが余計なことを話したよ。


「なんと!ゲレルはどうしてこんなところにおられるのです?さっそく馬を飾って通りを練り歩きましょう」


「しないしないしない!この街に来たらそんな祭りしてたんだ!俺は練り歩かないし、俺じゃなくて馬を飾るのかよ」


「もちろん、ゲレルもです。我が一族の誇りにかけて特上の織物や装飾品をつけていただきたいのですが。残念ながら持ち合わせがなく。俺の持っているものでは背丈が合いませんので、馬のならばと」


「だからいらねえよ!」


 アニバルはどっと疲れてしまったよ。アルスランが劇を見たいとか言い始めたから、連れていってあげたよ。


 さっきのとは違う劇団なのか、ルド役は別の男性がやっていたよ。


 劇はゲレル国、今のヴァリエンテ国との戦争のシーンだったよ。しかもルド役がおっさんだったから、アニバルは訂正したいと思ったよ。


 アルスランたちは自分たちの祖先の劇にいたく感動していたよ。劇ではコテンパンにやられていたのにね。


「あの恵の雨のシーンか!」


「ゲレル、ゲレル!」


 アルスランたちが騒がしいから一般のお客さんは白けているよ。


 アニバルは他人のふりしてアルスランたちから離れたよ。


「賑やかですね」


 ホセも引き気味だったよ。


「戦争になると面倒な相手だが、人懐こい奴らだ。ルドのときもあんな感じでずっと騒いでるから、あいつらといると千年前に戻ったんじゃねえかって錯覚しそうになるぜ」


 座って休みたいと空いている飲食店を探したけれど、どこもいっぱいだったんだ。


 道の端にどけられた雪を固めて椅子代わりにして座ったよ。


 トニアとイバンに他はどこ行きたいか聞いていると、街の若者風の男が近づいてきたよ。ホセは気づいてそちらを見たよ。男はさっと目で周囲を確認してから、ホセに耳打ちしたんだ。


 ホセの仲間かとアニバルが見ていると男はかぶったいた帽子を取って、頭をさげたよ。


 ホセがこの男から聞いた話をアニバルにしたよ。


「アニバル様。エクトル様がこの街にいるそうです。この街を治めているナバーロ伯爵が是非夕餉(ゆうげ)を一緒にと」


「エクトルがここに?」


「雪崩が起きたことを報告すると、この街までいらしたそうです。村までいこうとするのを伯爵が止めていたと」


 ウーノの一族はエスコンディド村以外にも潜んでいて、雪崩が起こったときに密かにエクトルに知らせていたよ。アニバルから離れたときにウーノたちは、この人たちと連絡を取り合っていたんだ。


 話は早いとアニバルは腰をあげたよ。


「トニア、イバン。俺行ってくるから、村の奴らに今日は戻らないと言っておいてくれ」


「わかった」


 土地勘のないトニアとイバンだけにはさせられないから、村の大人たちを探すことにしたよ。


 街の中心部へ続く大通りを歩いているとアルスランたちがいたよ。


「ゲレル、どこにいたのですか!」


「あー。疲れたから休んでた。俺はこの街を治めてる伯爵に会いに行くことになったんだ。トニアとイバンを預かってくれないか」


「わかりました!

 ゲレルの雪像があるらしいから、これから見にいくんだ。トニアたちも行くか?」


「水神様の前世の?見たい!」


「別に見ても楽しくないと思うぞ?」


 雪像は中心地近くにあるらしいから、途中まで一緒に行くことにしたよ。


 街の中、貴族の居住エリアの前で検問していたよ。


 話は通してあると聞いたから、検問の列に並んだよ。中で商売をしている人たちもいたから列が出来ていたよ。


 並んでいるとエスコンディド村の人を見つけたよ。


「俺が行きますから待っていてください」


 ホセが声をかけにいったよ。


 アニバルの前の人たちは集団だったようで、人や荷馬車が中に入っていったよ。


 次になってもホセが戻って来なかったんだ。


 順番になったから、とりあえずホセから聞いたことを話したよ。


「俺はエクトル皇子様に狩りを教えている狩人のアニバルだ。皇子様がここにいらっしゃると聞いてやってきた。連れがいるんだが、今少し離れてて」


 始祖ですって話したら大騒ぎになるから、エクトルは狩人アニバルが来たら通すようにと通達していたんだ。


 検問の兵士はじろりとアニバルを見たよ。狩人とはいえ、貴族の住む中心地へいくんだから綺麗な格好をすべきだったよ。


 アニバルもホセも急な話だっから、服屋さんに行けなかったんだ。


「持ち物を改める。それで連れの名前は?」


「ホセだ」


「姓は?」


 アニバルはあっと思ったよ。ホセの本名も知らないし、名字を聞いていなかったよ。


「えっと、ホセはホセだが…」


 ルドのときに初代ウーノにつけた名字があるけど、ホセもその名前を名乗っているかわからなかったんだ。


 背負っていた鞄の中身を見られて、さらに布で巻いていた魔力砲も解かれたんだ。狩人が高価な魔力砲を持っていたから、さらに質問されたよ。


「何故、狩人が魔力砲を持っている」


 アニバルは話が通っているんじゃないのかと疑問に思いながら話したよ。


「エクトルが川に流されて助けたことで皇帝陛下から、褒美でもらったんだ」


「エクトル皇子が?川に流されるわけがないだろう」


 普通の皇子ならね。


 ホセはまだかなと、キョロキョロしてしまったのもいけなかったみたい。


「水神様!」


 トニアとイバンがアニバルを見つけて手を振ったよ。そばにはアルスランもいたんだ。でもホセはいないよ。トニアたちを探して行き違いになっちゃったのかもね。


「水神様?お前、中央(ケントルム)教のやつらか?」


 水の神など多神教がケントルムで起こった宗教だから、ケントルム教とも言われていたよ。人によってはレナータで盛んだから、レナータ教とも言うよ。


 急に兵士が馬鹿にした態度になったから、アニバルは腹が立ったよ。


「だったら何だよ。いけないのか?」


「あんな邪教を信じてる者を皇子に近づけさせるわけにはいかない。帰れ」


「え?何でだよ。話通ってるって聞いたぜ?」


 しっしってされてアニバルはもっと腹が立ったよ。


「なんだよ。帰るよ。荷物返せ!」


「本当に陛下から下賜(かし)されたのか確認する」


「ふざけんなよ。確認とかいって盗むつもりかよ!」


「貴様。誰に向かってモノを言っている。誇り高き始祖の血を引く騎士だぞ。口を慎め下賎め」


 アニバルはその始祖の転生者なんだけどね。


 急にアニバルはこの先に進むのが嫌になったよ。


「誇り高い始祖の血か。そういうの反吐が出る。わかったよ。それやるし、エクトルにこんな国から出ていくと言っておいてくれ」


 この国を出ていく。


 雪も降らなくて雪崩が起きないところ。


 うっすらアニバルは村人が安心して暮らせる場所は、ヴァリエンテ国ではないかと考えていたんだ。だからこの時、言葉に出てしまったんだ。


 その場から離れようとしたら、アニバルは兵士に殴られて、雪の上に転がるとガシガシ踏まれたよ。


「反吐とはなんだ!訂正しろ。それに皇子様のお名前を呼び捨てにするな!」


 兵士の耳にビュンと風が吹いて、後の門に矢が刺さったよ。


「貴様、ゲレルになにしている!」


 アルスランが次の矢を素早くつがえたよ。検問に並んでいた人たちは、悲鳴をあげてその場から逃げたよ。


 騒ぎを聞いてホセは急いで戻ったよ。


 アニバルが暴力を振るわれていて、アルスランが兵士に矢を向けている状況に一瞬理解出来なかったんだ。


「アルスラン。よせ。弓を下げろ。俺は平気たがら」


 アニバルはお腹をおさえて起き上がるよ。これも気にくわなかったのか、兵士はアニバルの頭を蹴ったよ。


 これにアルスランは弓を下げるどころか絞ったんだ。


「貴様。もう許せない。殺してやる」


「それを放ったらどうなると思っているんだ。帝国に矢を向けたと同然だぞ、蛮族」


「なにぃ!」


「アルスラン殿、やめるんだ!アニバル様に(あた)ったらどうするんだ」


 ホセはまず頭に血が上っているアルスランを冷静にさせることにしたよ。


 アニバルに中る可能性に気づいたアルスランは舌打ちして、弓を下げたよ。


 ホセはアニバルの方にゆっくり歩きながら、兵士を目で牽制したんだ。


「門番殿。エクトル殿下からの指示はなかったのですか?」


「あんたがホセか?そいつは中央(ケントルム)教の信者っていうじゃないか。エクトル殿下と会わせたら害にしかならないと判断した」


「害、ですか。始祖もエクトル殿下の前世も、中央(ケントルム)教を信じておられたのですよ」


 は?という顔に、ホセは本当に貴族か?教養のない馬鹿はと罵倒したい気分だったよ。


「…ホセ。街を出る」


 いつの間にかアルスランがアニバルの肩に腕を回して、検問所から離れていたよ。立っていられなかったのか、寝転んでいたんだ。


「街を出るとは?エクトル様がお待ちです」


 ホセはアニバルのところに駆け寄るとトニアとイバンも来たよ。


 ホセはアニバルの傷をあらためて、頬が腫れているところを魔法で治したよ。


「ずっと考えていたんだ。雪も降らなくて雪崩もなくて、暖かなところに行けないかって。アルスラン。俺らが信じる神々を信じている人はお前の国にいるか?」


「は、はい。います。村人たちを俺の国に受け入れればいいんですね?」


「エスコンディドの連中の意思を確認してからだが、それがいいんじゃないかって」


 アニバルは空を見上げたよ。曇天が広がり、今にでも雪が降りそうだったよ。


「ヴァリエンテ国に行って…。もう一度レナータの青空を見たい」


 始祖がデスペハード帝国から去る。神が国を捨てるという一大事だよ。


 ホセは声を大にして反対するところだけれども、微笑んで頷いたよ。


「お決めになったのなら、お供致します。アニバル様」


 アニバルが痛そうにお腹をさするから、治そうと魔法を使おうとしてホセは悪寒がしたんだ。


「ホセ。顔が青いぞ。毎日のように魔法を使っていたから回復していないんだろう。治療はいい」


「申し訳ございません。守ると言いながら、お怪我をさせてしまいました」


「いや、俺が怪しまれてしまったのがいけない。お前の名字知らねえし」


 ホセは目を瞬かせたよ。


「名乗っていませんし、ご存知ないのは当然ですよ。俺がいくつかある初代ウーノの血を引く家系のどれかは、一族と皇帝陛下しかご存知ありません。この話は今はいい。ここを離れましょう」


 アルスランがアニバルを支えて起き上がらせていると、検問所が騒がしくなったよ。




 エクトルはアニバルが街にいると聞いて、滞在していたナバーロ伯爵の屋敷をすぐに出たよ。


 貴族の住む中側の検問所の近くで馬車を停めて待っていたけれど、アニバルがなかなか来ないよ。


 しびれを切らして検問所に行ったよ。一人の兵士が魔力砲を持って嬉しそうに仲間に話していたよ。


「初めて持ったぜ。魔力砲」


「あの蛮族を試し撃ちすればよかったんじゃないのか?」


 魔力砲の筒の横に見覚えある紋章が彫られていたよ。王族の紋章で、それが彫られている魔力砲は数少ないんだ。


「それをどうしてお前が持っている?」


 エクトルは周囲に持ち主がいないから変に思ったんだ。


 振り返った兵は、なんだこのガキって顔をしていたよ。この時代は写真はないし、皇帝の肖像画が出回ることはあるけれど、第五皇子の顔を知っている人は限られた人たちだけだよ。


「それの持ち主はどこにいる?」


「ああ。これ?汚ならしい狩人が持っていたから盗品だと思って取り上げたのさ。坊っちゃんこんなところに何のようだ?」


「俺は第五皇子のエクトルだ。マエストロを迎えにきた。その魔力砲はマエストロのものだ。どうして貴様が持っているのか、素直に答えろ」


 兵士たちは慌てて整列をしたよ。


「こ、これは…。狩人が」


「狩人の名は何と言った?」


「…」


「答えよ!」


「アニバル、です」


 エクトルはどうしてアニバルがいなくて、魔力砲だけがある事態になったのか忙しなく考えていたよ。


「そのアニバルが俺のマエストロだ。通すように伝えたが、彼はどこにいる?」


「門の外に」


 エクトルは魔力砲を渡すように言うと、素直に兵は渡したよ。そして兵士に突きつけたんだ。


「お前は少々問題があるようだな。指示を無視して挙げ句に通行人の荷を奪うとは。通行するのに賄賂を要求される被害があると聞いていたが本当だったとはな。

 詳しいことはあとでしっかりと聞くから逃げるなよ」


「御意」


 子どもと侮っていたら途轍(とてつ)もない覇気と脅しに、兵士は震えながら従ったよ。


 検問所の外側に出ようとしたら、一緒にいたウーノに止められたよ。


「私が探してきます」


「探すまでもない。そこにいらっしゃる」


 エクトルは帽子を深く被り、魔力砲を片手に持って、すたすた歩くよ。


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