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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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67話 水神王アニバルの話24

 夏草が茂った野を踏みながら、聞いてた話よりは悪くないなとフェデリーゴは、ゲレル国の配下のトナカイの民の案内で、落ち着いて住める場所をいくつか見て回っていた。


 悪くないと思っていたのは短い夏の間だけで、秋はすぐに去り、厳しい冬に直面してフェデリーゴはレナータを離れた最初の一年目は後悔したという。


 トナカイの民もゲレルの民も寒かろうと温かな毛皮をくれたけれども、寒さに耐えきれなかった幼い子どもや年寄りは亡くなってしまった。


「陛下。民に光りを」


 ゲレルの民やトナカイの民の力を借り、エルスターの有力な一族を仲間にし、または滅ぼしたりして、勢力を伸ばす中、長きに渡り護衛をしてきたロドルフォ・ビアンキが戦争の怪我がもとで死んだ。


「ああ。必ず取り戻す。お前の武勇は語り継ぐ。来世でまた会おう」


 目上の護衛たちを何人も見送り、空を見上げればいつも曇り空だった。


 親しい人々は年を重ねるごとにいなくなり、フェデリーゴは自分のやっていることは正しいのかと思うようになっていった。


 母はいつしか気力も衰え、父が生まれたときに祖母が作ったという、ぬいぐるみと父の手記を膝に置いて過ごすようになった。


 フェデリーゴにはぬいぐるみに思い入れはなかったが、国を離れるときに母が一番下の娘が抱いていた父のぬいぐるみを貸してほしいと言ったのを鮮明に覚えていた。


 ぬいぐるみを抱いた母は弱々しく、幼子のように見えた。


「あの人の匂いがするわ」


 そう言って、うっすら涙を浮かべていた。


 ステファノの死の知らせが届いた一年後、ルークススペース帝国の第一首都は戦場になったという。


 国を追われたり、よき時代のルークススペース帝国を求めて、フェデリーゴのもとには身分関係なく人が集まった。


 だが、厳しい現実は変わらず、かつての皇帝の名前を懐かしそうにみな呟く。


 ここは冬となれば晴れる日は少なく、人々の心も暗く閉ざされている。


 父ならば晴らすことが出来るのだろうか?


「国の名前を晴れの国というのはいかがですか?」


 口にしたつもりはないが、していたらしい。妻に言われてフェデリーゴは決めたという。


「では晴れの(デスペハード)国にしよう。首都は天や空という意味のシエロ」


 国の名前がレナータの言葉ではないのは、配下になったエルスターの人々の方が多くなったからだ。


 父の築いた国よりも、ずっとずっと小さな小さな国。


 ルークススペースの民は亡き父の影を自分に求めて、はるばるレナータから危険な旅をしてここ、デスペハード国に辿り着いた。


「俺は父上の国を守れなかった。ここで父上の意志を継いで、民に希望の光を与えたい」


 母に決意を話すと、そうしなさいと微笑んだ。


「あなたがどこであろうと意志を継いだのならば、光帝陛下は生まれ変わったあとにご覧になって喜んでくれるでしょう」


 フェデリーゴも、その家族もそして民もただ一人の転生を待つ。


 今は会えなくても、いつか会えると信じて。


 今日も曇天を見上げる。





 カツン、カツンと靴の音にアニバルは振り返ると、エクトルの後ろの絵に今度は目が留まったよ。


 ルドとその傍らにいるエトーレの等身大の肖像画。


「キアーラ母様とフェデリーゴが、一族を見守ってほしいと願って、この絵を描かせたそうです」


「…この絵の感じ。ベッティーノか?」


「そうです。ベッティーノは混乱が深まるルークススペース帝国から弟子たちと共にフェデリーゴを頼って、この地に辿り着き、多くの作品を描きました。レナータ時代の作品はキアーラ母様が持っていた数点しか残っておらず、ほとんどが戦禍で燃えたとされています」


 ベッティーノは元神使で、ルドの絵ばかり描いていた変な画家さんだよ。


 アニバルは成長した孫たちを眺めて、フェデリーゴからキアーラに視線を移したよ。


――あなたが死んだら私も後を追うと決めていたの。でも新しいところに落ち着くまで、フェデリーゴが国を築くまで、孫が即位するまで。そうやって先延ばしにしていたら、こんな歳になってしまいました。


『ちゃんと歳を重ねたんだね。いいんだ。君を責めるわけがない。むしろ苦労をさせて悪かった』


 絵が傷むから素手で触れてはいけないのだけれども、アニバルは触れずにはいられなかったよ。


 傍目で見ればぬくもりを感じられそうなのに、決して彼女の肌ではない、デコボコと絵の具の感触が指の腹に残ったんだ。


「陛下、歴史を…過去を聞かれますか?」


 アニバルは絵の中の人々を見上げてから頷いたよ。


「フェデリーゴは今のガルシア領周辺を領地とするデスペハード国を建国しました。その前に度重なる戦いと寒さでレナータから移住した多くの人が亡くなったそうです。

 城も現在の王宮のような建物ではなく、街の教会くらいの大きさだったようです。この絵は建国した祝いで描かれたものですが、作成には長い歳月がかかり、キアーラ母様はご覧になれずに亡くなったと記録があります」


 ここにある多くの絵は千年の間で鮮やかな色彩は埃やカビ、絵の具の変色や退色などで褪せていったけれども、何度も修復されたようだよ。


「そうか。フェデリーゴは建国に何年かかった?」


「建国を決意してから十年と言われています」


 フェデリーゴはレナータに戻るか、エルスターに残るか随分悩んだらしいよ。


「…みんなに苦労させてしまったな。アズーロとローザもいるね。ジュストは?」


 みんな記憶より成長したり年老いていたけれども、すぐに誰だかわかったんだ。だからジュストがいないのが不思議だったよ。


 ジュストならフェデリーゴと共に国を興こしたんだろうって。


「あの人はステファノ様と一緒に、グランデフィウーメを倒してかつての国を取り戻すとかいって国に残ったそうです。結局果たせず途中で死んだらしいけど。

 それで…」


エトーレ(・・・・)。ジュストに冷たいじゃないか。どうした?」


「陛下こそ、あの人を許しているのですか?」


「許すもなにも。お前もヴィペラは危険だと知っていただろう?あの子ははめられたんだ。それを知っていながら、俺は守ってあげられなかった」


「俺は後悔してますよ。ヴィペラの駒になったジュストを殺さなかったことを。あの時おかしいと思いながら、従ってしまった自分に腹が立つ」


 アニバルがジュストの肩を持つから、エクトルは苛立っていたよ。


「エトーレ、そんなこと言うな。お前のせいではないし、ジュストのせいでもない。精神魔法は自力で抜けるのは困難なんだ。

 それにお前にジュストは殺せないよ。そんな考えやめなさい」


「なぜそうもジュストを庇うのです?あいつのせいで殺されたんですよ?」


 アニバルいや、ルドはエトーレの前に立って考え直すように説得しようとしたよ。


「病のせいでおそらく生きられても一年だっただろう。あの時ロドルフォ様から忠告されたのに、俺はグランデフィウーメを頼ってしまった。俺の判断ミスだ」


「あの状況下になる前にどうにかなったはずです。ジュストはあの日以外も何度もおかしかった。

 陛下は自分に忠実であれという意味で、名前をつけてくださった。俺は陛下のお望みを叶えることが自分に忠実だと思っていた。

 陛下はトンマーゾ・ヴィペラからジュストを遠ざけようとしていたけれど、俺はそれに従った。それが間違いだと後悔しています。敵となりうる者は身内だったとしても排除すべきだった」


 ルドはそんなつもりで名前をつけたんじゃないから、とても悲しくなったよ。


「エトーレ、違う。お前自身が幸せになるよう、周りの人が何て言おうが自分の道を決めてほしくてつけたんだ。俺なんかのことを考えなくてよかったんだ。

 それにジュストを恨むのは間違っている。

 あの子は優しい子だ。お前は覚えていないだろうが、親を失って自失していたお前の面倒を見ていたのはジュストだよ」


「それは幼い頃の話です」


 ルドの記憶ではエトーレもヴィペラの歯牙にかかったのではないのかと、ジュストを心配していたから、こんなに否定するのはおかしいと思ったよ。


 エトーレはルドが襲われたときに途中で来たし、ジュストがグランデフィウーメ側にいたのを見たのかもしれない。だから魔法にかけられていたとはいえ、ジュストが敵のもとにいたのが許せないのかもね。


「エトーレ。お前は俺を守ってくれた。ジュストも魔法をかけられながらも抵抗しようとしていた。本人も望んだことではないよ。

 トンマーゾはお前に何度か魔法をかけようとしていた。俺は何度も妨害したし、いつもお前は俺と一緒だったからトンマーゾも諦めたんだろう。もしかしたら、グランデフィウーメの駒にされたのはお前だったかもしれないんだよ?」


「俺は絶対に魔法にかからない!」


「落ち着きなさい。わかったから、よく聞いて。俺が言うのは嫌だけど、俺が殺されてエトーレが悔しかったことをジュストのせいにしてはいけないよ」


 エクトルはカッと顔を赤くしたよ。


「してない!」


 図星だったみたいだね。走って部屋から出ていってしまったよ。


 出入口には人がたくさんいて、フェデリコやルシオ、将軍など要人の姿もあったよ。


「…とんだところを見せたね。俺をここに連れてきて、君の描いたシナリオとは大分違ったんじゃないかな?フェデリコ」


 アニバルではない表情や口調に、皇帝フェデリコはアニバルの前まで来て膝をついて頭を下げたよ。でも他の人たちは部屋の中に入ってこないんだ。


 どうやら許された人しか部屋に入れないようだよ。


「ええ、最初の方は想像通りでしたが、始祖はあのジュストを大切にしていたとは思いませんでした」


「あのとは?彼は後世になんて伝えられているの?」


「裏切り者のジュストと呼ばれています」


 アニバルは皇帝に背を向けて、ジュストを探すように壁に掛けられた大小様々な絵を歩きながら眺めたよ。どこにも描かれていなかったんだ。


「だからここにいないんだね。俺はフェデリーゴとジュストが頑張って、この寒い場所で国を興したんだって思っていた。フェデリーゴのことだからジュストを許さなかったんだろう。ジュストも自分を許さなかったから、国を建て直そうとレナータに残ったんだろう。

 とても簡単に想像できる、痛いぐらいに。ジュストはさぞかしつらかっただろうね」


「始祖…光帝陛下にとってジュストは大切な方だったのですか?」


 アニバルは足を止めてフェデリコの方を見たよ。


「大切だったよ。弟であり息子であり、俺の数少ない本当の同志だったから」


「本当の同志?」


「ジュストを拾ったとき彼と約束したことがあるんだ。この話は知っている?」


「いえ。伝え聞いていません」


 フェデリコは近くにいた宰相たちを見たけれど、全員知らなかったようだよ。


「あの子の親は貴族に殺された。俺がそんな腐った貴族になったら殺せと約束した。ジュストは平民の味方であり正義であり続けて、俺の監視者でもあるし、俺と同じ夢を抱いて多くの時間をともにした同志。

 あの子が自らグランデフィウーメを選んだのなら、俺はルイージに皇帝を譲ってもいいくらいだった。それをグランデフィウーメがあんなやり方で奪った。

 ジュストは(おとし)められ、子孫でさえも(さげす)まれることになってしまった。あの子を助けられなかったのが悔やまれる」


「そうだったのですね。さぞかしトンマーゾ・ヴィペラが憎いでしょう」


 アニバルいや、ルドは頭を傾げたよ。


「うーん。どうかな。トンマーゾは守りたいものが明確だったし、性格も嫌いじゃなかった。魔法の使い手として、為政者として負けたから清々しいくらいだよ。トンマーゾは俺が死んだ後、どうなったの?」


 トンマーゾがグランデフィウーメの領主であるルイージに精神系 魔法をかけていたのは、アニバルは知らないよ。


 フェデリコは思い出すように、アニバルから少し目をそらしていたよ。


「確か兄に殺されたと思います。プラデーラにいた、名前が…」


「マルコさんのこと?あのきょうだいは互いを思いあって仲がよかった。信じられない。

 会って確かめることはもう出来ないんだね」


 ルドの子孫であるデスペハード帝国の貴族からは、トンマーゾは嫌われているから、ルド側の兄に殺された最期について様を見ろっていう感じらしいよ。ルドはそうは考えていないようだけど。


 話疲れて、部屋の中央に綺麗でふかふかしてそうな椅子があったから腰をおろしたよ。フェデリコはアニバルの隣には座らず、床に片膝をついたよ。


「様々な思いがおありでしょう。ここがあなたの国の、夢の続きだとわかっていただけましたか?」


 アニバルは答えずに家族の絵を見たよ。


「この絵、家族の邂逅(かいこう)と言ったね」


「はい」


「待っていてくれたのか?」


「ずっと待っておりました。始祖」


 絵の中の家族に言ったつもりだったけれど、フェデリコはやっと皇帝になってくれるのかと安心するし、周りの人たちは騒がしくなったよ。


 邂逅は再び巡り会うという意味があるけれど、思いがけない、偶然という意味が強いんだ。


 転生しても何年後、いつどこでするか分からない。しかも知り合いの転生者に会えるかも分からない。実際ルドはサクスムや仮マニュス時代の知り合いの転生者に会っていないからね。


 エクトルがエトーレだと知って、アニバルはまさしく邂逅だと思ったんだ。


 転生もしていないベッティーノがタイトルをつけたのならば、洒落たことをするとアニバルは感心していたよ。


 絵ではあるけれど、千年後に死に別れた家族のその後の姿と思わぬ場所で再び逢えたのだから。


 そして家族たちはルドの転生を願っていたということも。その子孫もずっとずっと。


「フェデリコ。いつでもお話してあげるから、あの魔法は使わないでね」


 審査のときにかけた魔法のことだね。


「申し訳ございませんでした」


「謝ってほしいわけじゃないよ。今だけルドになるから。だから少しエトーレ…エクトルを貸して。ちゃんと今度こそ返すから」


「今度こそ?」


 椅子から立って、家族の絵の反対側のルドとエトーレの絵の方にいくよ。


「エトーレをグランデフィウーメにいた彼の伯父に返せなかったから。エクトルはちゃんとお前に返すよ」


「エトーレ様は望まれないでしょう」


「そうだろけど、お前は違うだろう?エクトルが怒って拒絶したとき、寂しそうな顔をしていたじゃない」


「私は寂しそうな顔をしていましたか?」


 フェデリコは自覚がなかったようだよ。

 

「してたよ。さて、エクトルはどこ行ってしまったのかな?エトーレだったらあんな逃げ方しなかったから、あの子はエクトルなんだ」


 扉付近にいたルシオはうつむいているエクトルを見つけたよ。


「エクトル。始祖がお呼びだ」


 視線がいっせいに集まってしまって、恥ずかしくて逃げたくなったよ。


『エトーレ。さっきは意地悪してごめんね。ちゃんと話そう』


 レナータの言葉で呼び掛けると、エクトルは自然に足が部屋の中に向いたよ。


『意地悪ではありません。俺が子どもだったから』


「お前は子どもだよ、エクトル。お前はエクトルなんだ。ジュストに関しての知識は転生してから得たものもあるだろう。フェデリーゴにはジュストが魔法をかけられている可能性を話していなかった。裏切り者として考えてしまったんだろうね。その感情が子孫まで続いたのだろう。

 エトーレの感情、エクトルの感情。分けて考えてどちらが本当の望みか考えなさい」


「エトーレかエクトルか?俺は…」


 考えてしまっているよ。扉付近の人たちにフェデリコとエクトルの三人だけにしてほしいと頼んだよ。


「エクトル。この話はあとでしよう」


 と言いながら、アニバルは部屋の奥にまだ絵が飾ってあったから見に行ったよ。


「ルドの絵ばかりあるな…。性懲りなくルドばかり描いていたのか、ベッティーノは」


 アニバルの顔よりすこし大きい絵を外して手に取ったよ。


「何をしているの?」


「顔にかざせばルドに見えるかと」


 アニバルが絵で顔を隠すと、顔がルドで身体がアニバルになったから、エクトルはクスクスと笑いだしたよ。


「何か変。顔は始祖(・・)で、声はマエストロだ」


「変か。筆談にするか…」


 フェデリコもふふと笑っていたよ。


「そのようなことをしなくても、十分始祖だと見ていますよ」

 

「アニバルなのにルド扱いされるのは困るから。ルドはああだったこうだったと押し付けられるのは不愉快だからよ。おっと頭が切り替わる前に始めようか」


 エトーレと呼んで手招きすると、エクトルは嬉しそうに駆けてアニバルのもとに行ったよ。


「長くなるから座ろうか?」


 向かい合うように座ると、エクトルはアニバルの真横に立っていたよ。


「俺もエトーレも嘘を見破れるから、正直に話してほしい」


「始祖の御前で嘘はつきません」


「そうだと信じている。でもこれだとフェデリコの表情が見えないね」


 アニバルはチラリと横を見ると、エクトルは承知したように視線で返したよ。


 エトーレは視覚化魔法を使って、人が嘘をつくと体温が一瞬上がるのを知って、人の感情を読み取る術を身に付けたよ。感染症が流行ったときは熱のある人を見つけるのにも役に立ったそうだよ。歩くサーモグラフィーだね。


 フェデリコはニコニコと嬉しそうにしているよ。こちらは通常モードだね。


「ではさっそく。南の砦の警備を薄くしたのはわざとだった」


 不意打ちだったのか少し目を見開いたよ。


「どうしてそう思われるのです?」


「将軍やガルシア領の宰相に忠告を受けたときは聞き入れなかったのに、俺が言ったら将軍たちのいる前で、あっけないほどすんなり非を認めたこと。上の身分になるほど、非というのは認めにくくなるからね。

 エトーレがヴァリエンテと深い繋がりがあったことを知っていて、何かしらエクトルは行動することを読んでいたんだろう。それにヴァリエンテへの干渉を強くしたのは、俺が転生したと確証に近い時期。関連性を疑うなというのは無理だね。

 お前はウーノからアニバルが皇帝になるのを拒んでいることを聞いていたから、説得しても効果はないと考えた。だからアニバルが表舞台に立つように仕向けた」


 エクトルは驚いた顔をしていなくて、じっとフェデリコを見ていたよ。アニバルと同じような予想をしていたみたいだね。


「私が仕向けた?何をです?」


「ヴァリエンテに挙兵させた。さらに学院の教師を砦に向かわせれば、エクトルは行動せざるをえない。

 そして、エトーレの転生者であるエクトルが危険な場所にいるのを知って俺が砦に向かうことを。うまく行けばヴァリエンテ王を俺がなだめてくれるというわけだ。

 もう一度聞くけど、ヴァリエンテへの政策の一連のことはわざとだった?」


「はい。そうです」


 気づいてもらえて嬉しいというように笑っているよ。対照的にエクトルはとても不愉快そうな顔をしているけど。


「お前の望みはよくわかったが、そのせいで民が大勢死んだ。お前は皇帝にふさわしくない」


「始祖がそう仰るのならばそうなのでしょう」


「っていうのがお前のシナリオ?」


 今まで穏やかだったフェデリコの体温がきゅっと上がって、鼓動も早くなったよ。


「シナリオとは?」


「やっと動揺したね。魔法が使えないときの対処法なのか訓練の成果なのか、平静さを保つのはいいけれども動揺した方が本当らしく思われるときもあるよ?」


 フェデリコは、ふっと力を抜くように息を吐いたよ。


「私と数回しか会ったことがない上、情勢もご存知ないのに見事なご明察です」


「審査のときも批難されているのに皇帝として怒りを見せなかったのが疑問だったんだ。

 お陰でお前の考えに気づいたよ。もし俺が気づかないで糾弾して、罪に問われる事態になったらどうする気だったの?」


「皇帝を退くつもりでした」


「引くだけならいい。身の危険は考えなかったの?」


 少なくても戦争で人は死んだし、数々の臣下の進言を無視したから恨まれてもおかしくないよ。


「私の役目はこの国を始祖にお返しすることですから。始祖…アニバル様は承諾してくださらないと思ったので」


 アニバルが後に引けない状況を作ろうとしたみたいだよ。


 ルドの肖像画を下ろすと、アニバルの怒った顔が現れたよ。


「そういう捨て身の献身は嫌いなんだ。エジリオみたいなことをしなくていい」


 エジリオはルドと国を守るために、悪役となって聖神使をやめたんだ。アニバルはフェデリコのやり方がエジリオに似ていたから、とても嫌だったみたい。


 しなくていいのに、アニバルはまた顔の前にルドの肖像画をかざしたよ。


「これからどうするつもり?」


 フェデリコの腹はアニバルにばれちゃったからね。


「皇帝になられないのなら、せめて王宮にいてくださいませんか?仇の氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)を倒し、あの森にいる必要はないはずです」


「目的は果たしたが、村人は俺の力を求めている。お前は代わりに守ってくれるなら考える」


 フェデリコの表情は曇ったよ。皇帝として国教を守らない人々の保護ができないんだ。


 アニバルはルドの肖像画を見つめてから、元の位置に戻したよ。


「なら俺はあの村に帰る。そこからお前たちを見守っている。会いたくなったら会えばいい。遠い地ではなく国の中にいるんだからよ」


 フェデリコは策を巡らせるけど、いい案が浮かばなかったようだよ。


「わかりました」


 ひとまずはアニバルの主張を飲むことにしたようだね。


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