65話 水神王アニバルの話22
傍聴者たちが部屋から出ていくと、アニバルは皇帝にささっと近づいて耳打ちしたよ。
「明日、ヴァリエンテ王との会談のあと二人だけで話しようぜ」
口調からいい話ではなさそうだと察した皇帝は、口許を引き締めて承諾したよ。
王宮のお風呂はとても大きくて、サウナやプールもあったよ。この地方はサウナのそばに池があって、サウナに入ったあとに飛び込んだりして暑くなった身体を冷やしていたよ。
アニバルはサウナは入らず、湯船にゆっくりつかったよ。身体を流す人がついてきたけど、自分でやるって断ったんだ。
色々あった一日が終わろうとしている。アニバルはうまく皇帝の座から逃げられるかなって思っていたよ。
お風呂から上がると待ってましたとばかりに、たくさんの使用人がタオルで身体を拭いてくれたり、服を着せてくれたよ。
アニバルは着せられた服を見て顔をしかめたよ。
撫でるとさらりと上質な布地が手をくすぐり、どことなく、色や形がルドがよく着ていたものに似ていたんだ。
「俺が着ていたものは?」
「洗濯しております」
数日に一回しか洗濯しないからね。王宮勤めの人たちから見れば、汚ならしい格好だと思われていただろうね。
アニバルは慣れない服を我慢して着たよ。裸では歩けないからね。
食事は皇帝が来ると思ったけれど、アニバル一人だったよ。
気を遣ってくれたのか、レナータの料理もあったのが逆に変に思えたよ。
「エクトルはパスタ食べれたのか?」
ショートパスタをフォークで指して食べたけれども、記憶にある味付けと違って残念に思えたよ。だけどアニバルの口には合っていて、とても美味しかったから満足したんだ。
「皇帝と料理長に伝えてくれ。とても美味しかったと」
給仕が軽く頭を下げてから、空のお皿を運んでいったよ。
あとになって狩人は食事の提供者に礼を言う風習なんてないよなと思って、一人苦笑したんだ。
アニバルとして生きてきた人生にルドなどの前世の思考が入ってきて、まだ戸惑うんだ。
エクトルも随分とエトーレになっていたからね。皇子として生きてほしいけれど、アニバルが皇帝にならないと言ったら、本気で身分を捨てて狩人になるかしれないからね。
「どうすっかな」
はあとため息をついてから、席を立ったよ。
翌朝、朝食が終わるとデスペハード皇帝とヴァリエンテ王との話し合いの席が設けられたんだ。
両者は向かい合い、アニバルはいわゆるパーティー席に座っていたよ。
ヴァリエンテ王は終始冷静だったよ。怒ることはなく主張したけれど、それに皇帝はいいとは言わないよ。定住政策のメリットを挙げるけれど、ヴァリエンテ側はあまりピンと来ていないよ。
皇帝は遊牧生活は後進的、つまり遅れている生活スタイルだと考えていたんだ。
ヴァリエンテ学の学者も同席していて、双方のフォローをしていたよ。
「あちらこちらに家畜を動かすことで土地が痩せることはなく、常に家畜も餌を得られるわけです。遊牧は利にかなったやり方なのです」
「そうは思わない。栄養価の高い餌をやればいいだろう?」
そういわれてしまえばそうだけど。学者は皇帝に押されぎみだったから、アニバルは今もそうなのかわからないがと前置きして話したよ。
「ヴァリエンテ国にある水晶に目が行きがちだが、良質な毛織物もあるだろう?あれは家畜をあちらこちらに移動させた方が、よい毛が取れるとわかっていた」
ルドの時代にヴァリエンテ国の前のゲレル国の産業を作るために色々探して試していたんだ。その中に高品質な毛織物があるとわかって、生産の仕組みを作って軌道に乗せようというところで、ルドは死んでしまったんだ。
どうやら、その種はちゃんと実を結んだそうだよ。ヴァリエンテ王が力強く言ったんだ。
「そうです。ゲレルのお考えは正しかったのです。今も水晶に次いで、我が国の重要な産業なのです」
キミたちの世界でいうと、カシミアかな。暖かくて肌触りのいい毛を持つ動物がいたよ。
寒い地域では重宝されているから、デスペハードなどのエルスター地方の国だけではなく、レナータ地方とかでも人気だったんだ。
アニバルはなるべく口を出さないようにして、二つの国が仲良くなれるように促したよ。
皇帝は不満そうだったけれど、アニバルの説得に応じて、ヴァリエンテ国への干渉をやめたよ。
デスペハード帝国側のヴァリエンテ人への差別は根強くて、アニバルはガッカリしていたよ。ルドの時代から千年も経っているのに改善されていないんだ。
少しずつやっていくしかないなと思っていると会談が終わったよ。
デスペハードとヴァリエンテ双方から、今回の件で賠償金の話はなかったよ。アニバルは被害のあった村には補償はなさそうだと思ったから、ヴァリエンテ王が部屋からいなくなると皇帝に相談したよ。
各将軍も同席していて、南の将軍は砦に向かわす兵の待機をしていたけど、皇帝から出動命令がなかったから動けなかったみたい。
「ヴァリエンテは砦まで来ないと思ったのです。私の落ち度でしょう。被害のあった場所を調査し、相応の補償をしましょう」
アニバルは皇帝の言質をとれて、やっと肩の力を抜いたよ。
「他にはございますでしょうか?」
皇帝が聞くからアニバルはないと答えたよ。するとニコニコした顔になったんだ。
「戴冠式はいつになさいましょうか?」
「…昨日も言ったが?」
「何をです?」
「皇帝にならないって」
将軍たちも審査を聞いていたから、アニバルの心は変わっていないのかと思っていたよ。皇帝が精神系魔法を使ったせいだと考える人もいたようだよ。
「まだ仰るのですか?」
「俺が皇帝になったら、あんたはどうするんだよ」
「私ですか?しばらくは始祖の補佐を致しますが、役目を終えましたら引退しようかと」
「まだ若いのに引退とかいうなよ。引退して何すんだよ」
「趣味の釣りを心置きなくしようかと」
冗談なのか本気なのかまったく表情からでは読めないよ。
「さすが親子だな。フィデルも釣りとか狩りしたいとか騒ぐし」
「そうなのですね。フィデルを釣り誘ってみましょう」
息子の行動や趣味も把握していないようだよ。アニバルは市井の常識では考えてはいけないと自分に言い聞かせたよ。
「そうしてやれ。でもあんたの引退はないからな」
アニバルの頑固さに皇帝はため息をついたよ。
「昨日も話しましたが、始祖の国は滅んでいません。
私の名前を言ってませんでしたね。フェデリコ・ルシオ・ルークススペース・デスペハードです。初代が建国したころは、レナータにはルークススペース帝国はあり、グランデフィウーメ派の追手から逃げるために国の名前を変えざるおえませんでした。
名前は違えど、あなたの意志と血筋はこの国にあるのです」
アニバルは立ち上がって、部屋から出ていこうとするよ。
「それはルドの意志だ。俺の意志ではない。転生とは別の人間に生まれ変わることだ。王ではない人生を送ってみたいんだよ。だから悪いな」
「始祖!」
皇帝が穏やかな笑みが崩れて焦りの色を見せるから、ちょっとかわいそうだなと思いながらも、ちゃんと気持ちを言ったよ。
「俺は始祖という名前ではない。ルドもな。最初会ったときに言ったよな?勝手に期待して勝手に幻滅するなって。
言わせてもらえば、ルドの国なら幻滅しているところだ。
この国は異なる考えを持つ者につめたい」
「多種多様な意見を聞くのは素晴らしいですが、そのせいで始祖…光帝陛下は政敵に殺されたのではないのですか?最初からグランデフィウーメ家を潰すなり、人質をとればよかったのです」
「グランデフィウーメとは長らく対話を重ねた。その結果は残念だった。俺は国政に向いてなかったってことだ」
アニバルは話は終わりとばかりに手を振ったよ。でも皇帝は終わりにしてくれないんだ。
「それは後が続かなかったのです。初代がもしレナータを追われていなかったら、きっとルークススペース帝国は続いていたでしょう。あなたが王だったとき、中央もレナータも平和だった。違いますか?」
「束の間のな。俺がしたことで混乱を招いて、乱世になったのは事実だ。
俺は転生してから堅苦しい会議とか無縁だったから疲れてるんだ。休ませてもらうぜ」
「まだ話は終わってませんよ」
声を荒げる皇帝を珍しそうに宰相は見たけれども、それを言う雰囲気ではないよ。アニバルは、はぁと息を吐いて、少し苛立っていたよ。
「俺は引くっていってんだ。千年前の人間がノコノコ出てきて国政できるかよ。国のためでもあるんだぞ?お前とまったく考えが違うのをここにいる連中もわかっただろう?」
「これから学ばれればよいのです」
ウーノと同じことを言うよ。
「学ぶって?お前の考えをか?信仰からしてまず違うし、ルドを神と崇めているんだろう?お前は前世の俺を神と崇めろって言うのか?よくわからんぞ、それ」
「あの多神教を信じているのですか?神々はあなたを救わなかったではありませんか」
「神々の考えを俺に聞くな」
部屋を出ようとすると兵士が扉の前で立ちふさがるよ。
「どけよ」
アニバルはギロリと睨むけど、退いてくれないんだ。
皇帝はアニバルの後ろに立って話が終わってないって訴えたよ。
アニバルは振り返って皇帝を睨んだんだ。
「俺は理不尽に虐げられるエスコンディド村のような人たちを助けたかったんだ。少数派を消そうとするお前のやり方が嫌いだ。
この帝国は俺の理想とする国ではない。俺が皇帝になればこの国を滅ぼすぞ?」
その場にいた将軍から兵士まで衝撃を受けて、思い思いに口にしたけれど、皇帝が静まれと叫んだよ。
「アニバル様。もう一度申し上げます。この国をあなたにお返しすると。そのあとは滅ぼすなり、なんなりしてください」
皇帝の心臓の動きも口調も平静そのままだったよ。
「狩人として生きることを決めたんだ」
皇帝もげんなりした顔をしたよ。
「平行線ですね」
「そうだな」
「ご即位はともあれ、夕方より宴を用意しておりますので、そちらは出席してくださいね?エクトルも楽しみにしていましたから」
アニバルは宴とやらを出席しないと後々面倒だなと思って、出ると言ったよ。
やっとアニバルは寝室に戻れて中に入ろうとすると、エクトルがこちらに向かっているのが見えたよ。
「皇帝に呼ばれまして。ヴァリエンテの交渉はどうしでしたか?」
「定住政策はなくなったし、干渉しないようにすると書面にサインさせたぜ。やたら俺に皇帝になるように言われた」
「俺が呼ばれたのは、そのことでしょうか?」
「さあ?夕方から宴があるようだが、お前も楽しみにしているのか?」
「光帝陛下が正式に転生されたのを祝うものですから」
エクトルはエトーレモードでニコッと笑ったよ。
「俺は早く村に戻って、壊れた建物を直すのを手伝いたいんだけどな」
「皇帝にはなりたくないということですか?」
エクトルは周囲をうかがいながら小声で言ったよ。
「ああ」
「わかりました。俺は行ってきますね」
部屋に入ってから、アニバルは隠し扉の方に呼び掛けたよ。
「いるか?」
しばらくしてから隠し扉からホセが出てきたよ。
「お呼びですか?」
「ウーノは?」
「皇帝陛下からお呼びがかかっておりまして」
「俺のことだろうな」
ホセはアニバルの真横に立って小声で言ったよ。
「俺の一族がアニバル様についたことで、皇帝陛下は別の部隊を動かしています。今はおりませんが、我々がお呼びだしに応じない場合は別の者がいるとお思いください」
「わかった。俺は見張られているってことか?」
「皇帝陛下がアニバル様を逃がすとは思いませんので」
「だろうな。フェデリコは俺を皇帝にしたがっているからな。俺やエクトルを排除しないのはわかった」
アニバルは窓の外を眺めたよ。雪は融けて新芽が芽吹き、光り輝いている庭が見えたよ。
「宴とやらはいつからなんだ?」
「十六時からの予定です」
「フェデリコにいつ会うかな」
「執務をされているので、断られるかもしれませんが」
「急に宴やるんだもんな。人は来るのか?」
ホセが掴んでいる情報だと、王宮にいる貴族はみな参加するというよ。遠方の人は来れないからね。
「戴冠式は全領主が参加するので、日取り的には来月以降になるでしょうね」
「戴冠するつもりないんだけどな。お前らは俺が皇帝にならなかったら、フェデリコのもとに戻るんだろう?」
「一族は始祖に従うと決めておりますので」
「まさか、村に移住するってことないだろうな?」
「全員ではないですよ。王宮に残る者もいるでしょうし」
完全に引き払ってしまえば、王宮の情報が手に入らなくなってしまうからね。
ノックの音がして、ホセは隠し扉に入ったよ。
アニバルが扉を開けるとエクトルとウーノがいたんだ。まだ午前中なのに疲れた顔をしていたよ。
「どうしたら光帝陛下のお心が変えられるのかと聞かれました。
変わらないだろうと言ったら、エトーレとしてそれでいいのかと半ば詰問されて」
エクトルはグッタリしているから、席をすすめて座らせたよ。
「悪かったな。ウーノもか?」
「そうです。アニバル様は前世のことで深く傷ついているご様子でしたので、そのことを説明致しました」
「俺があの魔法もいけないといったら機嫌が悪くなって、下がらされました」
「不機嫌か。なおさらあいつに今話を聞けないな。宴の後で話できるかな…」
「伝えましょうか?」
ウーノが聞いたよ。
「後でいいぞ。フェデリコに公務優先なって言っておいてくれ」
「承知しました」
二人が部屋から出ていくと一人になったから、休もうかと思っていると宴の衣装の確認だとかなんとかで人がひっきりなしにくるから休めなかったよ。
宴の前に少し時間ができたから、ヴァリエンテ王に会いに行ったよ。いつ国に帰るのか確認したかったからね。
「明日には出発するつもりです」
「そうか。俺も村に帰りたいんだけど、そうもいかなさそうでよ」
「共に来ていただけたら嬉しいのですが」
王様はヴァリエンテ国にアニバルが移住したら、それこそ皇帝が戦争しそうだなと思っていたよ。
「あっ。いいなそれ。お前らの服貸してくれないか?村まで連れていってくれ。あんたは知らなかったことにしておいて、フェデリコが怒ったら全部俺のせいでいいからよ」
名案だよなとバルは肩を叩かれたけど、愛想笑いを浮かべていたよ。
出発の時間を聞いてから、部屋に戻ったよ。使用人たちが待っていて、アニバルに有無も言わせず服を着替えさせたんだ。
ぞんざいに束ねられていた長髪に生まれてはじめて櫛を通して、何度も梳かして、傷んだ毛先は了承もなく切られたよ。
宴前から疲れきったアニバルは使用人がいなくなると、重たいマントを取って、襟元のボタンを外し、ふはーと息を吐いたよ。
指やら腕につけられた装飾品も机にバンバン置いたよ。
「怒られますよ?」
様子を見にきたホセに言われたけれど、まったく気にしないよ。
「ルドのことをなんて聞いているんだよ。質素でできた男だぜ。その生まれ変わりの俺がゴテゴテしいものをつけたがるかよ!」
「確かに絵に描かれている始祖は、とても質素な服を着ていましたね」
「ふーん。絵なんてあるんだ。今の俺と似てないだろう?」
ホセはじっと見てから、うなったよ。
「目と髪の色が同じですし、なんとなくですかね」
「フェデリコの方がルドに似てるだろう?」
似てる似てないなんて話していたら時間になったよ。着崩していたら、使用人たちは眼を剥いて慌てて直そうとしたんだ。
アニバルは肩がこるマントはごめんだと逃げたよ。
そのままトンズラしようとしたけど、たくさんの部屋があって、造りも似ていたから迷子になっちゃったよ。
「ホセ…いないか」
とりあえず一階に行って窓から逃げようと階段を降りていると、フェデリコに似た若い男が何人か連れて上って来たよ。
顔を背けて道を譲って通りすぎるのを待っていたよ。若者はピタリと足を止めたよ。
「…客人か?ここは王族しか入れぬ場所だぞ?」
アニバルの服装がとてもいいから若者も無視できなかったみたい。
「あ、はい。迷って」
はははと笑ってごまかそうとしたよ。
上の階が騒がしいから、アニバルは失礼します!と言って階段を駆けおりたよ。
「マエストロ!何で逃げてるの!始まっちゃうよ!」
エクトル登場にアニバルは渋々振り返ったよ。
「マント重い、宝石重い、服暑い」
「何を子どもみたいなこと言ってるの!」
エクトルは階段の中腹にいる人物に一礼してから通りすぎたら、アニバルがあっという間に下の階に行ってしまったよ。
「マエストロ~。そっち行っても出口ないよ?その服で村まで帰るつもり?盗賊に狙われるよ?」
エクトルが魔法を放つとアニバルは防御したよ。水の盾がジュッと音を立てたんだ。
「今本気の魔法だったろう!転生してお前、性格悪くなったよな?絶対なったよな!愛嬌というものもエトーレの中に置いていっただろう」
「紳士は廊下で騒いでは行けませんよ?」
「俺、狩人だもん。貴族じゃないもん。美女がいるなら行ってやってもいい」
「光帝陛下に謙虚をというものを置いていかれたのですか~?」
「ルドは謙虚であれば神々に会えるとか天の国に行けるとか本気で思っていたからな。
天の国に行くどころか転生しちまったからもう敬虔だの謙虚など捨てて、自分の好きなように生きることにしたんだ」
アニバルは堂々仁王立ちになって、ニカッと笑ったよ。
「狩人でも王宮に入れば謙虚になると思いますよ?」
後ろから声がして、肩をガッシリ掴まれたよ。
「放せよ、ウーノ!」
「大人しく会場に行っていただけたら放します」
ウーノから振りきれる自信はないようで、大人しくしたよ。ウーノも階段にいる若い男に頭を下げたよ。
「第一皇子のルシオ兄上です」
エクトルが言うとアニバルは若い男を見上げたよ。
「あなたが始祖ですか?」
ルシオは階段から降りてきたよ。
「始祖らしいぞ」
「…この期に及んで逃げるおつもりですか?」
背後にいるウーノが呆れているよ。
「建国したのはフェデリーゴなら始祖はフェデリーゴだろうが。俺はルドじゃないし?」
「マニュス王がサクスムであって、ルドであってアニバルであると仰ってましたが?」
エクトルがアニバルの墓穴を掘ってくれたよ。
アニバルは天井を見上げて嘆いたよ。
「ああ、あの可愛らしかったエトーレはどこに?」
「ここにいるよ?エクトルはエトーレだよ?パパ?」
「わざとらしいんだよな…」
ウーノが本当に時間ありませんと言いながら、アニバルは肩を掴まれて階段を登るよ。当然のようにエクトルがついていくよ。
「大人しくしててくださいね?逃げたら皇子権限で捕縛しますから」
「怖…」
「言わせてもらえば、マエストロは戴冠していないのだから、ただの狩人ですからね?」
「恐喝だ。俺は今、ガキに恐喝されている」
「アニバル様が逃げなければエクトル皇子も脅しませんよ?」
ウーノも味方になってくれないよ。
階段を登りきってアニバルは足を止めたよ。
「どうしたのです?」
エクトルはじっと見られて頭を傾げたよ。
「前世で可愛がっていた子に現世は処刑される。ありえる気が…」
「しない!ないから!何を言い出すの?」
「俺はどんな死に方するのかって、想像して予行練習している。まずは今日の宴というやつで、審査の続きがあってキアーラの日記を読み上げられて、愚痴を聞かされる」
「そんなことないから!」
「審査のときに書かれていることと照らし合わせるとかいって、やらなかったからよ」
「ない。ないから!」
姿が見えなくなっても廊下に響くエクトルの声をルシオは聞いていたよ。
次回の更新は土曜になります。今週も残業濃厚ですが、頑張ります…。
日曜更新なかったら、暗い部屋の隅でアンパンマーチ脳内再生してたんだなって思ってください。
そうだ わすれないで はたらく よろこび
ころなのせいだでぎょうせきわるいとかいって ざんぎょうだいぶん ぼーなすからさっぴかれても♪




