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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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64話 水神王アニバルの話21

 審査終了に傍聴していた人たちは立ち上がって拍手したり、喜びを表していたよ。


「静粛に」


 審査の人が言うとピタッと静かになったよ。


「フェデリコ陛下。何かご質問ありますか?」


 聞かれた皇帝はアニバルに微笑みかけてから言ったよ。


「私から一つ試したいことがある」


 すると四人の男が部屋に入ってきて、アニバルを囲ったよ。


「何やるんだ?」


 物々しい雰囲気に警戒したよ。


「あなたが始祖であるなら、この魔法にかかるはずです」


「なに…?」


 四人の男が詠唱しだすよ。聞いたことのない呪文にアニバルは何だろうと耳を傾けているよ。


 審査の人が慌てた様子で皇帝に話しているけど、アニバルには聞こえなかったよ。


 身体が急に重くなり、肌や内臓が痛み出したよ。氷の鳥を倒したときの状態に似ていて、とっさに手を見たよ。


 青い痣が出来ていて、瞬きすると元の健康的な肌に戻っていたよ。


「何なんだ?」


 眩暈がして立っていられなくなり、膝をついたよ。


 この部屋にあるはずのない草の感触と臭い。視線を上げるといなかったはずの兵士の群れ。


『ここは…』


 いつか見た光景が広がっているよ。


『何が起こっている?』


 鎧や剣などの金属が擦れる音にアニバルは腰に手をやったけど、あるはずの剣がなかったよ。


『おかしい。いつも持っているはずなのに』


 誰かが叫ぶ声と火の魔法に焦ったよ。


『エトーレ?』


 違う。ここはあの場所ではない。


 また記憶が混乱しているから、あの子を困らせてしまう。


 自分の名前を言うんだ。


『俺の名前は…』


 様々な言葉が浮かんできて、名前が出てこないんだ。痛みが強くなりお腹を押さえるよ。


『陛下!』


 聞き覚えのある声だけど、聞いたことのない奇妙な感覚になったよ。


『名前…。ルド。俺はルドだ』



 男たちが魔法をかけるとアニバルが呻いて頭を押さ始めたよ。


 エクトルやヴァリエンテ王たちは身を乗り出して、止めるように叫んだんだ。


 皇帝は微笑みを浮かべたまま、微動だにしないよ。


「みな、落ち着きなさい。もうすぐ始祖に逢えるから」


「逢える?」


 エクトルはもうここにいるとアニバルを見ると、座り込んでお腹を押さえているんだ。


「逢えるとは何ですか?やめてください!」


『…エトーレ?』


 エクトルの声に反応するように、アニバルが逃げろと呻いたよ。


 皇帝はルドに逢えると言った。始祖と敬うのはルドであり、アニバルではない。転生後のアニバルの人格はいらないんだ。


 エクトルはテーブルの上に飛び乗って、魔法を使っている男たちに炎を放ったけれど、透明な膜のようなものが現れて弾かれてしまったよ。


「貴様ら光帝陛下の死の再現をしているのか!」


 皇帝は兵にエクトルを摘まみ出せと指示したよ。エクトルは叫んで暴れたんだ。


 アニバルがエトーレと呼ぶから、ヘラルドも皇帝の意図に気づいたよ。


「アニバル殿!しっかりしろ。始祖は死んだんだ。その苦痛はアニバル殿のものじゃない!」


 カルロスも気づいてエクトルの腕を掴むよ。


「落ち着いて。アニバル殿はお前がエトーレ様だと思っている。どういう状況だったんだ?始祖の死ぬときを思い出せ!」


「あ…」


 エトーレを守るためにルドは暴れたんだ。エクトルが暴れればアニバルも暴れるかもしれない。


 大人しくなったのに、兵士がエクトルを部屋の外へ連れていこうとするよ。


「もういいだろう!狩人アニバルは光帝陛下だったんだ」


「黙らせなさい」


 皇帝は微笑みのまま命令をしたよ。その様子がヴァリエンテ王には異様に思えたんだ。


 皇帝がアニバルに何をするかわからないから、エクトルは必死に抵抗するとカルロスとヘラルドも兵士に掴みかかったんだ。


 兵士が剣を抜くとヘラルドはひるんだ隙に押さえられてしまったんだ。


「エトーレ…逃げろ」


 アニバルの目を押さえる仕草にエクトルは抵抗をするのを忘れて、忌々しい記憶に歯を噛み締めて怒りで震えていたよ。


「許さない。二度も死の苦痛を与えるなど!」


 兵士の力は強く、びくともしないんだ。自分の非力さに悔しくて涙が出てきたよ。


「刺激魔法を強くしろ」


 エクトルの言葉が聞こえないというように、皇帝は命令したんだ。


 痛みにアニバルは倒れてゼエゼエと息をしているよ。苦しみ悶える姿に将軍たちも、やめるように皇帝に進言していたよ。


「返せ…」


 皇帝は少し驚いた顔をしたよ。グランデフィウーメを呪う言葉や遺言のようなものを言うと考えていたからね。


「返せとは何をです?」


「と、ぼけ、るな。あの子を返せ」


「あの子とは?」


 震える足で立ち上がり、叫んだよ。


「俺の、弟…息子から離れろ!毒蛇め!」


 アニバルは記憶の中と目の前の魔法の使い手を敵と見て、魔法を放ったんだ。


 水の礫を放つけれど、男たちの周りに膜が現れたよ。防御壁と同じみたいだね。


 荒い呼吸で、神にすがるように唱えたよ。


水の神(アックルーア)よ。この者たちをあなたにお返しする。永久(とわ)の眠りへ(いざな)え…」


 アニバルは昼間に魔力を消費しているから、魔法の連用は危険だったよ。


 エクトルは飛び出してやめさせたかったけれど、兵士ががっちり肩を掴んでいてアニバルのもとへ行けないんだ。


「陛…。マエストロ。だめだ。魔法を使っては。俺は無事だから。もう全部終わったから、戦わなくていいよ…」


 一瞬アニバルは詠唱を止めたけれど、両手を真横にあげたよ。


「『洪水』」


 濁流が使い手に押し寄せたけれど膜、結界が破れそうになるからアニバルにかけていた魔法を緩めて防御に回したんだ。


 痛みが引いていき、アニバルはさらに魔法を強めたけど疲労が押し寄せてきたよ。


「力が、魔力が足りない」



 薄目を開いて視界に入った使い手を見たよ。


「魔法は魔力。魔力を操れば魔法を操れる」


 ルドにはその知識はなかったのに、どうして浮かんだのかわからない。


 でも(ひらめ)きに近い衝動を躊躇(ちゅうちょ)することなく、相手の結界を視覚化魔法を使って視たんだ。水が結界に当たるのとは別の淡い光のようなものが視えたよ。


「それか。こじあけろ!」


 水が結界を削っていくよ。男が恐怖に顔を歪めた刹那、吹っ飛んだよ。


「結界を破った…」


 水が止むと、もうアニバルにかけていた魔法をやめていたよ。

 

 アニバルは両手を不思議そうに眺めていたよ。少し冷える部屋なのに大粒の汗をびっしりかいていたよ。


「眼が見える…?」


「光帝、ルド陛下。ここは千年後の世界です。お目覚めおめでとうございます」


 皇帝はゆっくりと頭を下げたよ。


「千年後…?」


「そうです。私はあなたの子孫でございます。よりよく思い出していただけるよう少し魔法を使わせていただきました。まったく記憶のない者にかけても効果がないものです」


「精神系魔法?」


「そうです。痛みを与えたことに深くお詫び申し上げます」


「詫び…?」


 身体が冷えていくと頭も冴えてきたよ。


 右手を軽く挙げると、アニバルに吹っ飛ばされた人以外の三人が、操り人形のようにカクカク足を動かして、恐怖で顔を歪めながら歩くよ。アニバルの周りにくると崩れるように倒れたんだ。


「なら貴様が平伏(ひれふ)せよ。私はとても不機嫌なのだ」


 ずっと下を向いていたアニバルが、カッと目を開いたんだ。


「!」


 驚いた顔をしている皇帝に口元に笑みをたたえていたけれど、強い眼光を放っていたよ。


「あの痛み、裏切り!カスカータもグランデフィウーメも誰のお陰で、あの熱波を乗り越えた?

 そしてお前たちはルドの子孫だというのに、私にあの死の苦痛を思い出させた。許せん!

 私を崇めれば少しは手加減してやろうと思ったが、もう我慢ならん!

 私はルドやアニバルのようなお人好しではないぞ」


「あなたはまさか…」


 皇帝が動揺するのが楽しくなったのか、クツクツ笑っているよ。


「そう、二千年前の王よ。マニュスと名乗った、ね。お前はルドに逢いたいんだって?

 だが、もう逢っているぞ?私はサクスムでルドでアニバルである。喜べ。だがルドのように優しい言葉なんぞ、かけてやらんぞ?

 ああ、お前のした暴挙は忘れん、二度とな!私の可愛い使い手たちがいれば、この小国など捻り潰したというのに。今は身一つなのが、とても残念だ」


 皇帝は急いでアニバルの前で膝をついて、謝ったよ。


「アニバル様は言い伝えられている始祖の性格が違い、確かめたくなってしまったのです。始祖と逢いたい一心でこのような魔法をかけてしまいました。マニュス陛下を恨んでのことでは決してありません。どうかお怒りをとき、皇帝の椅子にお座りください」


 アニバルは虚を突かれたように目を瞬いたよ。


「ここは私の国ではない。滅んだ。ルドの国も滅んだ。国を持たぬただの人間だ」


「滅んでいません。名前は違えど(いしずえ)を築いたのはあなたです。この国があなたの国です。ずっとお待ちしておりました。始祖」


 アニバルは跪く皇帝をじっと見つめたよ。


「こんなに寒くない、こんなに冬は雪が降らない。こがね色の麦畑もなければ、信じた神々の教会もない」


「故郷が恋しいのですか?では取り戻しましょう」


 名案だというばかりに皇帝は瞳を輝かすよ。アニバルは無表情だったんだ。


「取り戻せない。愛した人たちはあの場所にいはい。抱いていた怒りも熱意も消えた。

 今の故郷はあの魔物がいる森、マエストロと暮らしたあの小屋だ。ヴァリエンテとの話し合いが済んだら帰る」


「お待ちください。どうして皇帝になることを拒否されるのです?」


 皇帝にはならないの一点張りに皇帝は困惑していたよ。だからアニバルは説明してあげたんだ。


「この国はフェデリーゴの国だ。ルドの国ではない。

 負けた男に何をすがっているんだ?

 ルドはたかだか三十年、フェデリーゴは千年の国を築いた。待ち望むのはフェデリーゴの間違いではないのか?

 ルドは生まれというだけで奴隷にさせられるのもいやだった。それがこの国には奴隷はいないという。ルドの望みは叶った」


「あのような最期を迎えられて、悔しくはないのですか?始祖の描いた国の続きを共にしましょう」


 この皇帝は懇願しているけれど、いやに心臓とか雰囲気が落ち着いて違和感があったよ。


「悔しいか。そうだな。ルドならフェデリーゴにこんなに長く国を築いて凄いって褒めるだろう。

 でも俺はアニバルでよ。息子に負けて悔しいんだ。だから息子の国にしがみつくほど惨めなことはしない」


「では何故ヴァリエンテや私と交渉しようとされたのです?皇帝になるためではないのですか?」


「ルドの記憶がうるさいから来たんだ。あんたがヴァリエンテ王の話を聞いて、互いにいい関係を築ける努力をしてくれたならいい。

 そもそもお前は皇帝の位を投げるほど、その椅子はどうでもいいのか?」


「どうでもよくはありませんが、始祖がお戻りならばお返しなければなりません。初代がこの国の憂いや悲しみを晴らすのは始祖しかいないとおっしゃり、歴代皇帝はお返しする(椅子)を守っているだけ。

 私は始祖にお返しできる大役を担うことができて、光栄と思っております。明日にもご即位の準備を始めます」


「俺よりはヴァリエンテが優先だろう」


「この国の一番の優先順位は始祖いえアニバル様のご即位です。交渉は後日でいいでしょう。ヴァリエンテ王もあなた方の神も再び現れたのだ。宴を開き共に喜びを分かち合おうではないか」


 ヴァリエンテ王は喜んでいいのか、後回し扱いに怒るべきなのか、乾いた笑みを浮かべていたよ。自分たちは皇帝に脅威すら思われていないからね。


「ゲレルの復活は嬉しいが、俺は国をあけているんだがな」


 カランバノスの動きも気になるから、宴という気分ではないようだよ。アニバルもとても楽しくないから皇帝を睨んだよ。


「宴は交渉が終わってからでいいだろう」


 皇帝は困った顔をしてから、アニバルに頭を下げたよ。


「承知致しました」


「あんたが皇帝だろう?ただの狩人に頭を下げるな」


「始祖であり偉大な王であられるのだから、ご謙遜される必要はありません」


「偉大な王とはマニュスのことか?今さら持ち上げられても不愉快だ。俺はとても機嫌が悪い。疲れたし、魔力もないし、しかもルドの最期を思い出させてくれたからな。

 早く寝たいんだが」


「…わかりました。今日はお休みください。お話は明日の朝させていただきたく」


「交渉のな。それ以外は話すつもりはない」


「ご即位の日取りを決めなければ」


 アニバルは舌打ちをしたよ。


「しつこいな。俺は皇帝になりたくないんだ。

 だから、あんたの政策には色々思うところがあるが、口を出さないでおく」


「私のどこがよくなかったのですか?」


 焦る素振りがとてもわざとらしく見えたんだ。ヴァリエンテの扱いもエスコンディド村のこともここで怒鳴りたいけれど、皇帝の不自然さが気になったんだ。


 ヴァリエンテの動きを察知しながら、手を打たなかったからね。もしかしたら帝都近くでは兵士がたくさんいたかもしれないけれど。

 

「始祖のお言葉とお考えの通りに政治を行って来ました。何が違うのでしょうか?教えてください」

 

「…俺の言葉と考えとはなんだ?」


「すべての者は平等であり、幸せになる権利です。教えの通りに身分関係なく誰もが学ぶ機会があります。我が国は始祖の教えのお陰で魔力砲など高い魔法水準を誇っています」


 この場に学院長たちもいて、なんともいえぬという顔をしていたよ。学院は排除されそうになったからね。


 アニバルは悪気がなさそうに微笑む皇帝にいらついてたよ。バルが腹黒だと教えてくれたせいで、素直に皇帝の言葉が受け入れられなかったんだ。


「理想と現実は違うものだな」


 くるりと背を向けてヴァリエンテ王に声をかけたよ。


「とんだものを見せちまったな」


「お身体は大丈夫なのですか?」


 大丈夫と笑顔で返すと皇帝が呼び止めたよ。


「始祖、お話が終わっていません」


「今日はもうやめようぜ。マジで疲れたんだよ。お前が援軍送らないから、俺が戦う羽目になったんだ」


「戦われたのですか?詳しいことを聞かせていただきたいのですが」


 お話したいとねだるエクトルにそっくりだったよ。


 不自然な正体が掴みかけていると、皇帝がアニバルの腕を掴もうとしたよ。


 小さな影がアニバルと皇帝の間に割って入ったんだ。


「この方に触れないでいただけますか?また術をかけるかもしれない」


 エクトルがキッと皇帝を睨むよ。一瞬皇帝は寂しそうな顔をしてから、いつものように微笑んだよ。


「もう二度とそのようなことはしません」


「やり方というものがあるだろう。光帝陛下は度重なる裏切りと悲惨な最期を迎えられて、それを思い出させるとは、断じて許されることはない。非道な行いだ!」


 批難の目は皇帝へ注がれたよ。その皇帝は怒る素振りも見せず、心臓も雰囲気も穏やかなもので、アニバルはまさかと思ったよ。


 皇帝の申し開きもアニバルは聞いていなくて、責め立てようとするエクトルをワシャワシャと撫でたよ。


「ピイピイ騒ぐな。疲れた頭に響く。夜にケンカなんかすんなよ。寝られないじゃないか」


「あなたは何をされたかわかっているのですか!さぞかし痛かったでしょう…。俺はまたお助けできなかった」


 エクトルが涙ぐむよ。


「泣くなよ。終わったことだし、あの状況下で俺が助かる見込みもなかったんだ。お前も苦しかっただろう」


「首に衝撃が加わったあと覚えていないので、そこで死んだのだと思います。歴史書にはエトーレの最期は首をはねられ、遺体は野にしばらく捨てられていたとありましたので。そんなことより、この者たちへの処罰を」


 アニバルに魔法をかけた四人の男はビクリと肩を震わすよ。アニバルは男たちの様子が見えていなくて、目を見開いていたよ。


「首をはねられ、野に捨てられた…?」


 ガシッとエクトルの頭を掴んだよ。


「そんなことで済ますな、アホ!前世の最期だぞ!」


「い、痛いです。やめてください。前世は死んだときは痛くなかったので」


「首だぞ。痛いだろうが」


「無数の槍に刺されている陛下のお姿を見ている方が、苦しかったです」


 アニバルはエクトルを見つめてから、手を離したよ。


「…悪かったよ」


「いえ。過去はさておき、罰は必要です」


 アニバルはちらりと四人の男を見たよ。


「お前ら俺を苦しめようとして魔法をかけたのか?」


 わざとではないと四人とも言うよ。エクトルは呆れたように目を細めてアニバルを見上げたよ。


「非はないと言うに決まっているではありませんか」


「こういう場合は責任を取るやつは、こいつらではないことが多いが?それでも罰するか?」


 指示を出したのは皇帝だから、この魔法の使い手たちは逆らえなかったと考えられるよ。


 エクトルはため息をついて、承知しましたと答えたよ。


「それで責任者にはどのような罰を?」


「どのようなって?法に則るに決まっているだろう」


「どんな罰でも受けます」


 皇帝はとても素直だね。


「あんたには腹立ったけど、でも感謝するよ。精神魔法はかかると自力で逃げ出すのは難しいな。ジュストの苦痛がよくわかった。だからこの魔法は禁止しろ」


 わかりましたと皇帝が返事をすると、使い手の一人がそんなと呟いたよ。


 周りから黙殺されそうになった男は、よく見ると成人したてなのかに若かったよ。


「何か問題なのか?」


 アニバルが聞くと青年は戸惑う素振りを見せたよ。隣にいた年配の使い手が代わりに言ったんだ。


「苦痛を与えておきながら、この魔法の必要性をお話してもよろしいでしょうか?」


「構わない」


「この魔法は対象者の記憶を刺激する魔法ですが、我々が完全に再現しているわけではありません。視覚、嗅覚、聴覚などの対象者が体験したであろう状況を作り、対象者の記憶を呼び戻すというものです」


「草の色やにおい、音を感じたのはその状況に俺がいたことがあったから、記憶が呼び起こされたというとか?草は土魔法で…音はエクトルの声がエトーレの声とは違うけど、エトーレのように叫んだから俺はエトーレと認識した?」


「そういうことです。エクトル皇子様がエトーレ様であるとご存知なので、頭の中でエクトル皇子様とエトーレ様の声を置き換えたのでしょう。

 もし別の人間に同じ魔法をかけても、対象者の別の記憶が呼び覚まされる、または記憶になければかからないということになります」


「ということは、俺が前世たちの記憶を取り戻していなかったら、かからなかったかもしれないってことか?」


 年配の魔法の使い手はうかがうように皇帝を見てから、アニバルに言ったよ。


「転生者の実験の事例がありませんので、わかりません。この魔法は転生者の発見や確認の目的で開発されていますが、記憶喪失の人の記憶を取り戻したり、つらい記憶をいい記憶に置き換える研究にも使われています。もし禁止されてしまえば、苦しんでいる人たちを救う手段がなくなります」


「記憶喪失。話は聞いたことがあるが、実際にいるなら必要な魔法だな。つらい記憶を消せることは可能なのか?」


「完全に消せませんが、苦痛が和らいだという事例はあります。やりすぎると精神異常になるため」


「逆に嫌なことばかり思い出すとか?」


 アニバルは頭をトントンと指で叩くよ。


「記憶の捏造(ねつぞう)になりますので、間違えれば実際になかったことが、その人の中で過去として記憶されてしまいます」


「なるほど。やりすぎるとまずいか。確かにさっきのが続けばおかしくなりそうだ」


「はい。だから我々は…」


 皇帝のいる前でやりたくなかったと言えば、皇帝批判になるからグッと言葉を飲んだよ。


 アニバルは、はあとため息をついたよ。


「お前たちの本意ではなかったことはよくわかった。お前らを俺は罰するつもりはないし、訴えない。まあ、俺も身体を操る魔法を使って怖がらせてしまったから、おあいこでいいか?

 ルドの前の前世で炎にまかれて死んで、よくそれが夢に出るんだ。嫌な記憶を消す魔法の研究を進めてほしい」


「承知致しました」


 人の身体を操る魔法は禁止されているんだ。この国の法律を知らなかったとはいえ、使っちゃったから罰を受けるはずたけれど、フェデリコは皇帝権力で揉み消しちゃったらしいよ。


「俺が指示したみたいになっちまったが…」


「アニバル様は神であり、この国そのものであられますので、我々も従います」


 はい、来ました。朕は国家なり。


 アニバルはどうするのかな?


 疲れて果てていたから、休んでから考えることにしたよ。

 次回の更新は通常日曜日になりますが、一日いただいて七月五日の月曜の予定です。


 ちょっと言い訳を…。


 先月から連日のように残業して、ドライアイと肩こりがピークになりまして。しまいには頭の中でアンパンマンマーチが流れて、心に刺さる刺さる。


 なんのためにうまれて、なにをしていきるのか~♪


 この曲を聞いて大人になってから違う涙が出るようになりました(病


 ではおやすみなさい…。

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