63話 水神王アニバルの話20
食事を済ませたけれども、馬車の中は休憩という雰囲気はなかったよ。
「エジリオ様が転生について口にしたのは気になるな。聖神使をやめたといっても教えを否定することを言うはずはない。何があったんだ?」
「当時の人たちの手記を読めたのは、ミア姉様とカミッラさんとかのだったんだ。その中に陛下の葬儀の後に民の悼む声が大きかったから、エジリオ様が特別礼拝をしたらしい。フェデリーゴたちも参列したって書いてあったから、場所は第一首都だと思う。そこでグランデフィウーメ派が礼拝をしていた教会を襲って戦闘になったんだ。民も戦って、怒りや絶望が生まれたって誰かの手記にあったと思う。
エジリオ様は民を逃がすために戦って亡くなったんだ。絶望する民に向かって『光帝陛下はマグナス王の生まれ変わりだ。再び我々のもとに現れる。だから希望を捨てず生きて待て』って叫んだらしい。
俺もその辺りを真剣に読んでいたわけではないから、記憶違いをしているかもしれないけど」
アニバルは真顔を崩さずに目をエクトルからそらしたよ。
「再び我々のもとに現れる、か。それってこの国の?」
「うん。信仰の一番の基礎。だから待っているの。みんな」
「…何もかも遅いだろう。俺を待っていた人たちはもういないんだから、俺が皇帝になる必要はない」
「陛下?どうしたの?ウーノたちから聞いたけど、自信なさそうだし」
「理由を知っているなら聞くな」
黙っちゃったよ。兵士がエクトルを迎えに来たけど、行きたくないって言うんだ。
「エクトル。わがまま言うな。皇子なんだぞ」
「でも…」
「ヴァリエンテ王に会ったか?例のものを見せてもらえよ」
エクトルは迷う素振りを見せるから、アニバルは背を押したよ。
「あいつらもゾリグの話を聞きたいだろうから」
エクトルは後ろ髪を引かれる思いで、馬車を降りたよ。
馬車は再び進み始めたよ。アニバルはじっと魔法具の灯りを見つめていたんだ。
「皇帝になる必要はないとはどういう意味ですか?」
東の将軍・ロドルフォが聞いたよ。始祖確定だと高揚した気持ちはなく、アニバルが後ろ向きなことに気になってしまったんだ。
「話すつもりはないし、黙れといったのはお前たちの方だが?」
「…」
ロドルフォは気まずそうに、隣にいる南の将軍をチラリと見たよ。
南の将軍はふっと息を吐いてから、アニバルに聞いたよ。
「エクトル皇子と仲がいいんだな。フィデル皇子がふてくされるわけだ」
話題を変えてくれてアニバルは将軍に感謝したよ。ルドが死んだ後の話を聴いて、ざわついていた気持ちが少し落ち着いてきたんだ。
「フィデルはお兄ちゃん離れした方がいいだろう。エクトルも俺にベッタリだから困るぜ」
エトーレのように、ルドのために尽くすような人にはなってほしくなかったんだ。
「皇子としてはあるまじき態度で我々も困っている」
「だろう?なんで親父は叱らない?」
「教育係がいるのだが、昔からエクトル皇子とフィデル皇子は言うことを聞かないと有名だった。陛下は直接教育はされん」
「ああ、なるほど。ルドはそういう貴族的なやり方が苦手だったからな」
ルドは子どもは親が育てるものだと思っていたから、教育係がついて王族らしい振る舞いをしつけられていくことが疑問だったんだ。養子だった三人と保護したエトーレは好きにさせてあげられたけど、フェデリーゴとセリーナは王族専用の教育係がつけられてしまったんだ。
だからフェデリーゴが遠く感じたのかもしれない。
『あの子はどうしてこんな父親を神にしたのだろうか』
レナータの言葉で呟いてから、眠気が襲ってきたよ。寝るといって寝てしまったから、将軍二人はアニバルから話を聞けなくなってしまったよ。
帝都についたころはすでに真っ暗だったよ。王宮と呼ばれる場所は灯りがたくさんともされていたけれど、現代日本のようにとても明るい照明はなかったから、王宮の全貌を照らすことはできなかったよ。
アニバルは将軍に連れられて一室に通されたよ。そこで待てと言われると将軍たちは出ていってしまったんだ。
四つの椅子とその真ん中にあるテーブルを見てから、椅子を引いて座ったよ。飾り気のない殺風景な部屋にこの帝国は質素なのか、お金がないのかと考えてみたけど答えてくれる人はいなかったよ。
この部屋には時計がなかったよ。アニバルは時計のない暮らしをしていたけれど、どのくらい経ったか気になり始めた頃に、二人の兵士がやってきて、審査の注意点を話したんだ。
聞かれたことに答えること、聞かれていないことは話さないということや、魔法を使わないこととか細々言われたよ。
二人の兵を先頭にアニバルはついていくと、大きな扉の前で立ち止まり、そこに入ったよ。
真四角の部屋には椅子が壁に沿っていくつも並んでいて、真ん中には一つ小さなテーブルがあったよ。テーブルの正面に皇帝や将軍、貴族風の男の人が二人。左右には関係者席なのかエクトルやヘラルド、カルロスがいたよ。彼らの正面には仏頂面のヴァリエンテ王が座っていたから、皇帝の無視は続いてるのかな?
アニバルはヴァリエンテ王の方を見ると、王様はふっと頬を緩めたよ。王様の隣にはバルがいたんだ。
アニバルは真ん中に立たされると、正面の貴族風の一人が立ち上がったよ。
「始祖と名乗った狩人のアニバルに聞く。エスコンディド村でヴァリエンテ王国のソロンゴ氏族長バル殿に魔法で地面に足を埋めたのは本当か?」
前置きなく質問してきたよ。アニバルがこの部屋に入る前に聞き取りが行われたようだね。
静まった部屋に緊張が漂い、アニバルはそうかと思ったよ。
ここは裁判をする場所なんだ。さっきいた部屋は被告人が待機する部屋だから、飾り気がなかったんだね。
アニバルは始祖らしいということで連れてきたけれど、場合には詐称した罪人になる。グレー状態でいい待遇はさせられないってことだね。
「そうだ」
「その魔法はどこで習った」
「習った?さあ?どこで覚えたかは忘れたが、現世ではないことは間違いない」
「現世というが、前世の記憶はあるのか?」
「ある」
「前世があるとわかったのは生まれてからすぐか?」
五分で終わらないぞ?とエクトルを見たかったけれど、余計なおしゃべりはしてはいけないって言われていたからね。素直に答えたよ。
「去年の秋に村に氷の鳥が来て、戦ったときに瀕死になった。そのときに、前世で魔鳥と戦ったのを思い出した」
「その魔鳥の名前は?」
「黒い刃」
あっここはエルスターの言葉がよかったのかなって思ったけれど、周りからほうっと感嘆の声が上がったよ。みんな何に感心したのか聞きたいけれど、質問されちゃったよ。
「前世のときはその魔鳥をどのように倒した?」
貴族風の審査する一人が手元の紙のようなものをめくっているよ。
ルドのことでも書いてあるのかな?
「たくさんいたからな。水の礫を放ったり、雷落としたり。
リクに…。リクって言ってわかるのか?」
「続けて」
何分かかるんだよとアニバルは、リクに魔鳥も鳥と同じ位置に心臓があるのかを聞いて、魔法で潰したことを思いだした。だから自分も氷の鳥でやったら倒せたと話したんだ。
「前世の名前を教えてほしい」
アニバルは少し首を傾げたよ。
「全部か?」
「全部とは?」
「前世の前に前世があって、その前にもあるぞ」
前前前世まで言うのかな?
「では、最初は誰だったのか聞かせてほしい」
「最初は…」
身体に軽くなにかが纏わりつくような感覚がしたから、魔法をかけられたと思って防御しようと思ったよ。
「嘘をついていないか魔法をかけている。防御魔法を使用すれば嘘をついているとみなす」
アニバルは舌打ちしたよ。防御魔法を発動したくなるのを我慢したんだ。
「これが最初の生なのかはわからないが、今からおそらく二千年前の中央の人間だった。
記憶が朧気でルドのときのようにはっきりはしないが、統一王マニュスではないかと考えられる」
「考えられる?」
その場がざわついて審査の人が静粛にと呼び掛けたよ。アニバルは魔法をかけられてしまってるし、嘘を言ってもばれるから覚えていることを素直に話したよ。
「あの時代はマニュスという名前はありふれた名前だった。中央を統一したから、統一王と呼ばれたのは死後だ。当時は呼ばれていなかった。
俺の前世が記憶するマニュスはアルクス家の人間だった。千年前にルドが中央のアルクス家の者と会い、統一王と呼ばれた男だと確信した。ただ、俺の前世は最初の名前はマニュスではなく、別の名前だったと思う。マニュスの死後、彼の遺志を継ぎ、マニュスと名乗った。そのことから聖神使エジリオとステファノ宰相は、統一王の霊がルドに憑いたとした」
またざわざわしているから、この話は伝わっていないらしいね。チラリとエクトルを見ると彼も動揺していたよ。マニュスと名乗ったというエピソードは知らないみたいだよ。
「俺がルドであるか判断するのにあんたらが知らない情報や伏せられた情報を話したところで、どうやって照らし合わせるつもりなんだ?
あんたらが信じたい始祖像と俺が違った場合、俺は詐称罪に問われるのか?」
アニバルは堂々と質問をぶつけたよ。悪いことをしてないもんね。
「それは留意している。あなたは何も危惧する必要はない。審査を続けなさい」
皇帝がはっきりと言ってから、審査の人に進めるように促したよ。
「では次の生で転生は初めてだったと?」
マニュスのところを突っ込まなかったから、きっと情報が少なかったんだろうね。
「ああ。次は死ぬ間際に転生したことを知った。いや、当時は転生という考えはなかったから他人の記憶があることに驚いた」
「死ぬ間際?」
「ああ。おそらくステファノとエジリオが伏せたから、子どもらにも伝わっていないと思う。エトーレはどんな手を使ったのか知らないが、エジリオから聞いているらしい。サクスムという奴隷だ」
戸惑いと沈黙から、この時代にも伝わってなかったと知ったよ。エクトルが挙手したよ。
「発言を許す」
皇帝が言ったよ。エクトルは立ってエジリオから聞いた話しをしたよ。政治的な意図もあったと言うと、アニバルもその後を続いたよ。
「サクスムの次の生。ルド・コロンボ、のちのルド・ルークススペースは農民であったことで、ステファノとエジリオは反対派の貴族の攻撃材料にさせないために、奴隷サクスムのことは伏せた。
だが、もう一人霊がついているということで周りに話したことはある」
「当時の奴隷たちの間で奴隷が王になったという昔話が伝わっており、サクスムは奴隷王ロッチャのモデルではないかと考えられていた」
エクトルが補足したよ。
「参考にさせていただきます」
当事者の発言だけれども記録に残っていないから、エクトルの発言を鵜呑みにしなかったんだ。
ということは、エクトルも完全にエトーレの転生者だと信じられていないのかもしれない。とアニバルは考えたんだ。
二人まとめて審査しているのではないかってね。
「奴隷のサクスムは男か?何歳のときに思い出した?」
アニバルはエクトル審査中説は頭の隅に置いたよ。
「男だ。奴隷の歳を数えることはしなかったからな。二十かそこそこで隣の村?の長が襲ってきて村に火をつけて焼き殺された。ああ、当時は村という言葉がなかったから、集落とかそんな言い方してたかな」
「場所は?」
「それこそわからない。作物も育たない不毛な大地が広がってて、高い山脈が連なって、反対側にずっと先に海があると聞いていたが行ったことはない。
死ぬ直前に育ての親が、祖先が戦いに敗れて中央から逃げてきて奴隷にさせられたといっていて。おそらくギムペルの山脈を越えたどこかだと思う。
集落も隣の集落もマニュスと同じ言葉を話していた。おそらくマニュスの時代から、そんなに経っていないだろう」
「サクスムは奴隷として生涯を終えたということか?」
審査の人は淡々と聞くよ。
「いや。長ってやつは元々そこにいた集落の長を殺して、奪ったやつらだった。殺した長の妻を奴隷にして、いたぶるのが趣味なやつで、飽きたか煩わしかったのか理由は知らないけど、元長の妻を殺せと命じられた。
女の子…元長の妻の娘がいる前で殺せと言われて、長を殺すことを選んだんだ。奴隷が逆らえば死かそれに近い体罰があったし、主人に逆らうなと叩き込まれてきたから、殺したときは罪の意識で震え上がっていたな。
長を殺して、元長の妻と話をつけて、奴隷たちを解放した。だが隣の集落の長に襲撃されてほんの束の間、枷のない暮らしをしていただけだ。ルドの時代に語られた奴隷王ロッチャであるはずもない」
微妙な空気になってアニバルは、言うべきじゃなかったなって思うよ。
「そこで魔法を覚えたと?」
「いや。マニュス時代に覚えた。今の時代の連中に知らない魔法とか旧派とか言われているから、そうなんだと思う」
聞かれたことにだけ答えようとしたよ。色々思い出してきたけど、話すのはやめたんだ。
「では次の転生について話を聞きたい。名前と生まれた場所は?」
「ルド・コロンボ。レナータのグランデフィウーメ領の村で生まれ育った」
「家族はいたのか?」
また淡々と審査の人が聞くから、確認作業だよなって思ったよ。
育ての親であるマッテオとジーナはルドと血縁がないことや、奴隷だったことを話したよ。
ロレンツォの死と育ての親との離別。促されるようにざっとルークススペース国を作った経緯を話したよ。
そこまで話すと審査の人が三冊の本を出したよ。どれも古そうだけれども大切に扱われているのか、汚れや破れているところはあまりなさそうだよ。
「妻の名前はなんという?」
「キアーラだ」
「キアーラ妃が残した手記がここにある」
「日記を書いているのは知っていたが…。それがここに?」
「残念ながらレナータにいたころのものは、この地に移り住む前のものは紛失してない」
「この地にキアーラもフェデリーゴと一緒に来たってこ…と?」
アニバルは話していてあることに気づいたよ。晩年は病で一緒にいることが多くなったけれど、長らく放置プレイしたからね。
愚痴のいくつかは書かれているんじゃないかな。美女妻が胸の内に秘めていた鬱憤が書き付けられた日記の内容を転生後に知る。あまり面白い展開ではないね。しかもここには子孫とエトーレの転生者もいる。
「アニバル殿?」
審査の人が怪訝そうにカチコチになったアニバルを見ているよ。
「な、何するんだ?それで?」
「ここに書いてあることと貴殿の発言を照合する。この手記は公開されていないから、一般人は知らないことがたくさん書かれている」
傍聴席にいる人たちに説明しているけど、アニバルはツバをごくんと飲んだよ。
「わ、わかった。なるべくいい話にしてくれよ。死後に妻の愚痴を聞かされたくはないからな!
ルドと結婚しなければよかったとか、農民男めとか色々書いてあるんだろう?そうだろう!か、覚悟はで、できている。いや俺は今はアニバル。ルドではない。キアーラはルドの妻であって俺の妻ではない」
魔法が使えないからAT…アニバルフィールド全開にしたんだ。
へっぴり腰になるからみんな白けてるよ。ただバルは妻を持つ夫として思い当たる節があるから、陰ながら応援していたよ。
「キアーラ母様は優しい方です。怖がる必要はないですよ?」
エクトルがいうけど、アニバルいやルドは自信がなかったよ。
「我慢五分のキアーラがこんな寒い場所で、当時はど田舎どころではない北の地に来て、頑張って息子の手伝いするか?絶対こんな寒いなら国に残った方がよかったわっていったはずだ!」
もう一人の審査の人がペラペラと紙をめくるよ。
「『こんなに寒いなら南に逃げれはよかった』と記載あります。始祖を農民男と表現している記述も見つかりました」
降りた沈黙とは反対にアニバルは、ひぃっと息を吸ったよ。フィールドは効果なさそうだね。
そんなアニバルをよそに審査の人は続けたよ。
「三冊の手記のうち、どれがキアーラ妃のものか筆跡を見てあてていただきたい」
あらら夫検定に変わったよ。これがわからなかったら、ルド検定どころではなくなるよ。
「き…聞くが、ここにキアーラの転生者はいないよな?」
「審査と関係のない質問には答えられない」
アニバルの心の準備をさせてくれる時間はなく、テーブルに三冊の手記が置かれたよ。
右端の茶色い革の表紙の手記に目が行ったよ。
ロウソクとインクの臭いが掠めたような気がして、一瞬ルークススペース帝国の執務室にいるんじゃないかって錯覚しそうになったよ。
「手にとって開いても構わない」
審査の人の声でアニバルは現実に引き戻されたよ。
「俺…ルドの手記も残っていたんだな」
「その手記はどれか示してほしい」
アニバルは右端の手記を手にとって見せたよ。
「内容は知っているか?」
「この革の色のものは何冊かあって、家族とか自分のことを書いたものだと思う。ただ中を見ていないから、いつ頃のものかわからないが」
そういって開いたよ。ぱっと開いたページの真ん中辺りに病の進行状況や、家族の面会のときに何を話したか書いてあったんだ。
「…最後の一冊だな」
ペラペラとめくると所々インクの文字が滲んでいたよ。表紙は革製だけど、中は紙だったんだ。水で濡れて乾いたような跡に、千年の間で汚れたんだろうなと考えていたよ。
「それは始祖の唯一現存する自筆の手記になる。キアーラ妃が王都から持ち出したと伝えられており、中身は始祖の闘病のことが書かれている。アニバル殿の言った通り、始祖が亡くなる前日まで書かれている」
やはり始祖かと周りが騒いでいるけれど、アニバルの耳には入っていなかったよ。
滲んだ文字に触れたんだ。
「アニバル殿。続きをしたいのだが」
「…質問はできるのか?」
「審査に関係があるなら」
「キアーラはこれを読んでいたのか?」
審査の人はもう一人と何か相談していたよ。
「何度も読み返し、亡くなるその時まで胸に抱えていたと伝えられている」
「キアーラの最期は?」
「老衰だとされている」
審査の人ではなく、皇帝が答えたよ。
アニバルが浮かべたのは微笑みで、皇帝はどうしてだろうと思ったよ。
『君の言っていたことはしなかったんだね。よかった』
レナータの言葉で呟いてから、真ん中の手記の一番最初を開いたよ。他の人の手記なら勝手に読むのは気が引けたよ。
これも見たことのある字だったよ。普通なら日記とか、書いたきっかけを最初のページに記すけれど、アニバルは一番最初の文字に目を細めたよ。
『ルドへ』
書き出しからして、前世の自分が愛した人が前世の自分に当てた手紙のようだよ。
『デスペハード国が落ち着いたので、今までのことを書いておきたいと思います。
エジリオ様が亡くなる前にあなたが統一王の霊憑きではなく、生まれ変わりだと仰っていました。生まれ変わって逢えるとみな信じています。だから生まれ変わったあなたに伝えるため、私は建国までの経緯を記したいと思います。
最初に謝らせて。あなたが死んだら私も後を追うと決めていたの。でも新しいところに落ち着くまで、フェデリーゴが国を築くまで、孫が即位するまで。そうやって先延ばしにしていたら、こんな歳になってしまいました。
もう転生してしまったのかしら?天の扉の先であなたに逢えると思っていたけれど…』
アニバルは手記を閉じたよ。今は審査中ということを忘れて読んでしまいそうだったからね。
審査の人に誰のかわかったか聞かれたけれど、無視して次のを見たよ。これも見たことのある筆跡で、出だしからして日記のようだったよ。
アニバルはにやりと笑い、エクトルの方へ振り向いたよ。レナータの言葉で言ったんだ。
『エトーレ。君のもあるけど、どうする?』
エクトルは愕然としてから、バッと立ち上がったよ。
『ななな。誰が持ち出したのですか?』
『さあ?お前の妻か子どもだろうな。なになに、今日の食事の内容は…。まったく内容に味気ないな。メニューは美味しそうだけど』
混乱しているのかエクトルは、デスペハードの言葉で叫んだよ。
「ひ、ひぃ!!お止めください。読まないでぇ」
「は?これから俺は妻の愚痴やらなにやらを、ここにいる全員に聞かされるんだ。夫婦の話を審査のネタに使われるのは心外極まりなく、不愉快だからお前も道ずれだ。エトーレ」
エクトルはヘナヘナと座り込んだよ。
「ん?読まれては問題なのか?」
「恥ずかしいではありませんか」
「不倫してたのか?道理であまり家に帰らないと思った」
「してません!!神殿に寝泊まりしていたのに、何をどう不倫できるのですか!」
ペラペラページをめくるよ。
「…今日、食事した店の店員の女性は綺麗な人だったって?また行きたい?
ふーん、お前がちゃんと女に興味かあって安心したよ。ルドにばかりくっついていたからな。千年後に安心しているのが意味がわからないが。
残念ながら、ねえちゃんたちがいるような店じゃなく、普通の飲み屋だったみたいだな」
「……」
テーブルに撃沈している十一歳のエクトルを、皇帝は複雑な気分で見ていたそうだよ。
「それでキアーラ妃のは?」
審査の人は咳払いして聞いたよ。
「真ん中のだ。これはルドにあてたもので、ここにいる人間の耳に入れることはしたくない」
「…俺はいいのですか」
死にそうな声でエクトルが言うから、アニバルは俺のもあるんだぞ!耐えろと、巻き込んでおきながら酷いこと言っているよ。
三冊の手記は回収されると、審査の人は軽く相談してから言ったよ。
「始祖でしかわからないことや、手記の内容を読めたことなどを踏まえて、狩人アニバルを始祖と認める」
合格がでてアニバルいや、ルドは公開処刑されずにすんだよ。




