62話 水神王アニバルの話19
砦の中に入ろうとすると門の前で止められたよ。しばらく待っているとカルロスの父親と五、六十歳くらいの男の人が出て来て、エクトルの姿もあったよ。南の将軍さんらしい男の人が聞いてきたよ。
「狩人アニバルか?」
「そうだが。あんたら砦の援軍か?」
「違う」
「違う?」
南の将軍さんはすぅっと息を吸うとよく響く声で言うよ。
「エスコンディド村の狩人アニバルが始祖の名を語った。真偽を確かめるために帝都へ連行する」
「…は?いやいや。今そんなことより、ヴァリエンテとの戦争だろうが。将軍二人ってことは、片方は残るんだろう?」
カルロスの父親、ロドルフォに聞いたよ。ロドルフォは前に会ったときのような砕けた雰囲気はなく、キリリとした表情をしていたよ。
「皇帝陛下より、我らは狩人アニバルを連れてくるように命令されている」
「帝都に行くつもりだからいいけどよ。ヴァリエンテはどうするんだよ?一応和睦の道を探るってことで、ヴァリエンテ王と話をつけたんだが」
ヴァリエンテ王も連れていっていいのかと不安になってきたんだ。エクトルが和睦と聞いて胸を撫で下ろしてから、将軍に言ったよ。
「ヴァリエンテ王も連れていこう。
マエストロ。審査はすぐに終わるよ。俺もやったけど五分くらいで終わった」
「そんなに簡単なのか?詐称罪かなにかで捕まるのかと思ったぜ」
「ヴァリエンテ王との交渉に始祖を語ったのか?」
ロドルフォが聞いてきたよ。
「ルドの転生者だから語るもなにも」
「ヴァリエンテ王が信じ、もしお前が偽者で王が訴えたなら詐称罪にもなろう。それを忘れるな。連れていけ」
兵士がアニバルを囲むよ。一部の兵士がヴァリエンテ王を迎えに行くために馬で駆けていくよ。
「お待ちください。私も連れていってください。アニバル殿を始祖とヴァリエンテ王が認めた経緯を、その場にいたので証言できます。アニバル殿は始祖です。乱暴な扱いは許されません」
学院長が堂々言ったよ。ロドルフォは少し笑みを浮かべたよ。
「乱暴に扱うつもりはない。始祖の名を語る者が出てきたときの取り決めなのだ」
「将軍二人もいらなくない?」
アニバルが仰々しい取り決めだなと思うよ。
「脱走しないようにだ」
「護衛とかお出迎えかと思ったのに、逃走防止かよ!この期に及んで逃げないぜ?お前らが俺に拷問するっていうなら逃げるけどよ」
「素直に答えれば拷問はしない。始祖は逃げるのが得意だと聞いてね。一応だ」
「…あんた、名前をロドルフォと言ったな。確認だけどルドの護衛の一人で酒飲み友だちだったロドルフォ・ビアンキの子孫か?ああ、デスペハードの言い方では、ビアンキはブランコになるか」
ロドルフォは目を見開いてから、微笑んだよ。
「そうだけど?」
「似てねぇな。千年間であれの血が、どこでこんなイケメンになったんだか。
脱走の手引きは後半はあいつがやったことだから、俺のせいじゃねえよ。
そうた!五六○オーロ、返せ。ええっとデスペハードの通貨でいくらだ?あいつが俺にたかった上に酔いつぶれて泊まらせた宿代も含まれているからな。あいつが飲み屋にキャバ嬢連れてきたときはいくらだっけな。それは引いといてやる。
王だから見栄もあって払えとは言えなかったけどよ。今は王じゃないからな。
審査ってこういう話もするのか?」
「…答えかねる。祖先の貸しはもう時効かと思うけど?」
「しょうがないな。あいつが転生したら返してもらおう。
ちなみにお前は名前が同じだけで、ロドルフォの転生者じゃないよな?」
「違う」
「今は忘れいるだけかもしれないぞ?そうだ、何とか何とか詐欺。ロドルフォが言い出したんだ。エドモンドにいつも呑もう呑もうといって呑まないからってよ。あいつら呑めたか知ってるか?エドモンドはさすがに知らないか」
「知っている。始祖のご友人だ。先祖のロドルフォが呑んだかは知らない。クマクマ詐欺ってそこからかい?」
「誰が言ってたんだっけって、思い出せなかったんだけど、前世の奴だったのかよって感じだな。
きっと死ぬ前に話したから覚えてんだろうな」
「死ぬ前…?」
ロドルフォは将軍として、ここに来た役目を忘れそうになったよ。祖先の話に興味があるからみたいだよ。
「そう。ロドルフォと最後に交わした話が酒の話って残念だな。でもあいつかっこいいこと言ってたぜ。身を挺して守るとか。そのあと俺が死んじまったから、気にしてなければいいけど。
あいつ転生してたらいいな。くくく。現世でたかってやる。
で、帝都まで何で行くって?」
ルンルン気分でアニバルは言われた馬車に乗ったよ。南の将軍が気の毒そうに見てきたけれど、ロドルフォは自分は悪くないと思っていたそうだよ。
帝都への馬車の旅を悠々と、ではなく、かなり飛ばしているからガタガタ揺れたんだ。
「随分と焦ってるじゃないか」
エクトルとヴァリエンテ王とは別の馬車に乗せられて、二人の将軍といたよ。
「静かに」
南の将軍が言ったよ。
「半日も黙りかよ。まあ、俺は疲れているから寝るからいいけどよ。その前に教えろ。国境にも砦あるよな?ヴァリエンテたちはすんなり通れたと言ったぜ?ちょっと警備がお粗末じゃないか、南将軍?」
将軍は黙っているけど、アニバルは構わず話し続けたよ。
「皇帝から通せとお達しか?ヴァリエンテなんて片手間で十分ってか?俺を連行するのに軍を出すのによ。一国の王であるヴァリエンテ王はついでか?
どれだけ偉いんだ、皇帝は」
「アニバル殿。口を慎みなさい。これ以上、陛下を批難する発言をすれば不敬罪に問われる」
ロドルフォは親切心で言ってあげたけれど、アニバルはいらついていたよ。
「そりゃどうも。問えばいいさ。異なる意見を握りつぶしてよ。
飢えたヴァリエンテが村を襲って民が死んだんだ。通した理由はどうであれ、被害は出たんだ。ちゃんと補償はするんだろうな?」
これまただんまりだよ。
「何も答えるなと皇帝から言われてんのか?
じゃあ俺も何も答えないぜ」
「それではアニバル殿が不利になるよ?」
「…」
ふいっと横を向いたよ。窓も閉められてしまって、景色を見られなかったんだ。アニバルは寝たふりをして、将軍たちが何か話さないか待っていたよ。
でもずっと話さないから、規律に従順な軍人は面倒だなと思っていたよ。
寝たふりが本当に寝てしまったよ。とてもお腹がすいて眼を覚ましたんだ。
「腹減った」
グルルとお腹がなると、さすがの将軍たちも笑ったよ。
「アニバル殿は野生的だと思ったけど」
「仕方ないだろう。そこの将軍さんが食いもん寄越さないからよ」
「それはすまなかった。もう少しで街に着くから、そこで食事と休憩の予定だ」
南の将軍はどこの街とは教えてくれないよ。
昼がとっくに過ぎてアニバルはお腹が空きすぎて、ぐったりしているよ。
「魔力もすっからかんなんだ。早く飯くいてえ、飯!」
「アニバル殿。騒ぐと余計に疲れるよ?本当に始祖か疑いたくなる」
「現世も前世も、その前の前世も生まれが悪いからな!嫌ならルドの転生に備えて国民全員に作法を学ばせろ。宗教関係なくな!」
ロドルフォは苦笑していると馬車が止まったよ。ドアが開くとエクトルが盆を持って立っていたんだ。しかめっ面だったのが、アニバルを見ると、パアッと目を輝かせたよ。
「ごはん持ってきたよ!一緒に食べよう!」
お盆持っているし、エクトルが給食を食べようと友だちを誘う小学生みたいだね。
「お、ありがとよ。腹減って死にそうなんだ。ここの馬車で食うのか?」
アニバルの胃袋年齢は男子高校生だろうね。
「うん。お外寒いもん。冷めないように魔法かけておいた。熱々だよ」
配膳や料理を温めるって、皇子様がすることじゃないよね。ロドルフォと南の将軍も思っていたけれど、口には出さなかったよ。
将軍たちにも運ばれて一緒に食べることになったよ。将軍二人はだんまりだったけど。
メニューはミートボールと、バターで焼いて塩やハーブで味付けしたジャガイモ、川魚のミルクスープだったよ。将軍がいるとはいえ、馬車の中で高級食材を使ったフルコースとはいかなかったよ。
アニバルはうまい、うまいと言っていたんだ。きっとお腹がすいているから、何でも美味しかったに違いないよ。
「ヴァリエンテ王とはどうやって交渉したの?」
エクトルは聞きたくてウズウズしていたよ。
アニバルは将軍たちをチラって見たよ。
「こいつらの前で話したくない。で、お前は何か聞かされているのか?ヴァリエンテの戦いをそっちのけで、始祖の転生者らしい男のお出迎えについてよ」
「何も聞いてないよ。俺もこの対応はよくないと思う。砦にいた人たちもヴァリエンテ側も皇帝への感情は最悪。いくら始祖を待ちわびたといってもね」
狩人のアニバルや歴代前世の常識と、エクトルの言葉と照らし合わせてみたよ。この国のこの時代の貴族の考え方は知らないからね。
遠征にきたヴァリエンテの感情は元々デスペハードに対して悪いのに、無視したわけだからね。砦にいた学院関係者や兵士たちにも、両将軍は皇帝から労いの言葉すら言うようにと言われてなかったらしいよ。
アニバルと関係がある人たちは、皇帝に不満を持っているというわけだね。
「お前は親父をどう思っているんだ?」
エクトルは答えないでむすっとしているよ。将軍たちのいる前で話したくないみたいだけど。
「パパは光帝陛下だもん」
「それはないな。千年前に死んだ人間だからよ」
「ちょっと意地悪じゃない?マエストロがパパになってくれてもいいんだよ?」
「俺は独身だし、子どもより妻を先にほしいんだが。ヴァリエンテ王に独身って言ったら、娘をぜひと言われたよ。なんだかステファノ思い出しちまった」
エクトルはスープを吹き出しそうになったよ。
「逃げた挙げ句に、政敵のグランデフィウーメ領主の娘であるキアーラ母様を選んだから、ステファノ様は不機嫌だったって聞いたよ。
そうだ、さっきロドルフォさんの話をしていたよね?俺を拾ったときに、一緒にロドルフォさんいたよね!」
「いたいた。カスカータから脱走したときについてきちゃって。あいつ、馬番していたジョルジョに会いに来たとかいって間が悪いんだよな。初めて会ったときも俺が神殿の外壁を降りようとしたときに、仕事終わって戻ってきちゃって。
不幸にも俺と一緒にステファノに怒られちまったけど、お前がちょうどよく泣いてくれたから、ステファノが怒っていいのか変な顔になって。ぶっふふ。面白かったな、あれは」
「ここにステファノ様が転生してなくてよかったね。また怒られるよ」
「そうしたらお前が泣けばいい。パパ~って」
「言わない!」
「俺にしがみついてたじゃないか」
「小さすぎて覚えてないよ!」
アニバルは笑いがおさまると、スープを飲み干したよ。話しに花が咲いて前に将軍がいるのを忘れていたから、ロドルフォをいじっちゃって悪かったなって思ったよ。
エクトルは空っぽになった器を盆に置きながら、エトーレの小さいころを思い出していたよ。ルドと会う前の暗くてつらい記憶がふっと過ぎたんだ。
「エクトル?どうした?黙って」
「え?あ、うん。エトーレが陛下と出会う前のことを思い出した」
アニバルは眉を寄せて、エクトルの肩を撫でたよ。
「その記憶は前世のものだ。今はエクトルだ。現世のお前の親は生きている。記憶に飲まれそうになったら、現世の名前を口で言うんだ。と言っても俺も迷惑かけたばっかだけどよ」
顔がちょっと青くなっていたエクトルは、ふふっと笑ったよ。
「うん、そうするよ。マニュスさんはたち悪いからならないでね?」
「はっきり言うなよ。一応俺の前世なんだから、ちょっと傷つくぜ?顔色が戻ってよかった。あの頃みたく生気のない目になったらどうしようかと。
そうだ現世の話だが、お前どうやってエトーレだって証明したわけ?」
話題を変えようとアニバルは明るく言ったよ。
「なぜか皇帝が信じた。まあ、悪ガキが急に大人しくなったから、おかしいって周りが思ったみたい。エトーレだって言う気なかったから、伏せていたんだけど皇帝に色々聞かれて。この話はいいや。
それで俺もエクトルの知識があったから千年経っているのは知っていたけれど、国がどうなったか知りたくてずっと歴史書ばかり読んでた。文字は習っているけど難しい言葉は知らなかったから、辞書片手に大変だったけど」
「もしかしてあの辞書か?」
「あれは俺が使いやすかったから。初期の歴史書は当時のレナータの言葉だったから読みやすかったけど。
フェデリーゴの手記とかあるんだけど、それは限られた人しか触れることができないんだ。だからあの子がどういう気持ちで、この寒い場所で国を興したか知らない。光帝陛下は知りたい?」
「…手記よりも、会って話がしたい」
エクトルは泣きそうな顔をしてうつむいたよ。
「俺も、会いたいよ」
アニバルは二人だけで話したかったけれど、外には出ることは許されなさそうだよ。
レナータの言葉はもしかしたら将軍たちも知っているかもしれない。だから、もうあまり使われなくなったゲレルたちの言葉を使ったよ。ルドもあまり詳しくないから、堪能だったエトーレに伝わるかわからないけれど。
『ゲレル王はゾリグのお守りを持っていた。下手くそな文字を見たとき、あの子はもういないのだと涙が出てきた。
フェデリーゴたちを守ってくれたゾリグに礼を言いたかったけど、いないから王にありがとうと言った。そうしたら、ゾリグなら当然だろうと言うと言ってくれた』
エクトルも涙を浮かべていたよ。
『ゾリグのお守りが?俺も見たいな』
『きっと見せてくれるはずだ。俺をルドだと信じてくれたから、エトーレだって信じてくれるだろう』
エクトルを撫でるとふふって笑ったよ。
「フェデリーゴが転生したって聞いたが、他にはいるのか?」
「俺らの知らない人もいるみたいだけど、転生者だって証明ができなかったみたい。
フェデリーゴのあとに王属部隊も何人か転生したという記録があるよ」
「ミアとか?」
「うん。ミア姉様は将軍になったみたいだよ」
「うおっ。前世より出世してんな。人を使うのうまかったし、俺の世話係なんてやめて、そういう道に進ませてあげればよかったな」
「陛下はちゃんと示されてたよ。でもミア姉様がお側にいることを決めたんだから。
あとはね、死ぬ間際に思い出した人は証明できなかったり」
「ああ。俺もあった。死ぬ間際にマニュスのことを思い出して」
「え?マニュス王のあとにロッチャさんで、陛下でしょう?他に?」
エクトルは指を折って数えていたよ。
「そのロッチャさんだ。サクスムって言った方がしっくりくるんだが。本当にエジリオはお前に話してるのな。
サクスムは間抜けな男だったけど、火にまかれて死ぬ間際にそうだったってよ」
「火にまかれたの、ロッチャさん」
「焼死に、槍で突き刺され。俺はろくな死に方しないらしいな」
乾いた笑みを浮かべるとエクトルは、必死に現世は長生きするからってフォローしたよ。
「お前もな。エトーレ」
「うん!勝手にどっかに行って死なないでよ」
「それはどうかな。お前の親父次第じゃないか?詐称罪ってどんな刑なのか?」
「重いのは公開処刑だよ。あれ…。その…」
「水の使い手が首の血を操って吹っ飛ばすやつ、なんていうなよ?」
「うん、それ。陛下がお気に入りだったから」
「気に入ってねーよ!廃止命令出したのに、エジリオやアリエーテたちが無視してたんじゃねえか。アニバル的感覚でいえば、ヤバイことしてんなって思ってるところだぜ。すぐさま廃止しろ、廃止!」
拳握って叫んだところで廃止されないよ。
「そうだよね。俺もあれって思ってて」
「あれっじゃない。俺はそんなに残忍な人間だったか!」
「ビゴンさんに、マルコさんでしょう」
「…あれはマニュス降臨したからよ。あれ?違ったか?記憶が…。とにかく訂正した方がいいよな」
「訂正するなら皇帝になるべきだよ!刑の廃止も皇帝権限でできるし」
「そういう流れにするな!不敬罪になるって、この目の前の連中に言われたばっかりなんだぜ。お前もさらって親父のこと差し置いて皇帝になれとかいうな!」
「法律に書いてあるからなれるよ?」
「その前に審査だかなんだかだろう?」
「マエストロは怖いの?」
「詐称罪の処刑方法聞いてよ。前世で考案した方法で現世で処刑される。
ありえそうで…」
アニバルは身震いしていたよ。
「ないから!絶対に!」
たくさん話していたから喉が渇いたけれど、スープも全部飲んじゃっていたよ。
「審査か。俺は現在を全く知らないから、調べたかったんだけどよ」
「なに知りたいの?陛下の家族のその後とか、ルークススペース内のこととか、俺調べたから知っているよ」
アニバルは首を振ったよ。
「国は滅んで、フェデリーゴたちは追われてこの地に国を作った、だろう?
俺が知りたいのは転生という考えが、この国で一般的になっているのか。転生はフェデリーゴもエトーレも知らなかったはずだ」
「知らなかったっけ?」
「エクトルとの知識が混ざってしまっているんだろう。当時の教えを覚えていないか?マニュスは何だとされていた?」
「…マニュス。マグナス王。あっ霊とされていたね。陛下にはマグナス王の霊が憑いていて、祓ったら水魔法が使えなくなるかもしれないって」
「ああ。転生という考えは一般的ではなかったはずだ。どうしてこの時代の人間は知ってるんだって思ってな」
「うーん。確かエジリオ様が言ったとされているよ」
「あの人が?ありえない」
アニバルが否定したことに、エクトルも驚いているよ。
「ありえないって何で?エジリオ様は聖神使様だったから教えに詳しいんでしょう?」
「教えにはない。転生という考え方は異教の考えだったんだ。当時中央の聖神使たちや領主が覇権争いで、異教徒たちは殲滅されていたという。子どもから年寄りまで殺し、宗教的なモノも教典も手当たり次第破壊され燃やされたと、実行した神使兵だったリクから直接的聞いたからな。
俺を霊憑きでは説明しきれなかったエジリオ様がリクに聞いて、転生という言葉を知ったんだ。でもそれを触れ回ることは許されなかった。教会が滅した異教の教えだから」
エクトルだけではなく、将軍二人も真剣な顔をして耳を傾けていたよ。
「エジリオ様は聖神使として、ルドがマニュスの転生者だと口が裂けても言えなかったんだ。
ルドも転生者だと言えば、異端審問にかけられたから、霊憑きで通したんだ。水の神の使いとされた男が異教の教えを口にすることはあってはならないからな。
そういうこともあって、転生という考えを知っていたのは、レナータでは限られた人物しかいなかったはずだ。ゾリグの曾祖母の親戚だか忘れたが、転生の話を聞いたというくらいだ。もしかしてゲレルの民から広がったのかと思ったが、違ったんだな。
エジリオ様が公に発言したのは気になる。あの人の手記は残っているのか?」
「今のところ見つかっていないよ」
そうかとアニバルは本当に残念そうにしているよ。エクトルはエトーレよりエジリオが転生した方がよかったのかなって、少し悲しくなったよ。
「確認だが、転生というものは誰ができると考えられている?どんな人間が転生する?」
「始祖の血が流れている人。エトーレ自身は光帝陛下と血の繋がりはないけど、エトーレの子孫が陛下の子孫と婚姻を結んでいる。
エクトルの血筋を辿ると陛下とエトーレに辿り着くんだ。だからデスペハードの貴族は先祖が陛下の血をわけてもらって、血筋を守り、祖先と陛下の転生を待っている。目の前にいる将軍二人も元は王属部隊の人が祖先で、陛下の子孫と婚姻しているよ」
アニバルは顔をしかめて手で額を抑えているよ。
「…俺が知っている転生の条件とは違ってやや混乱している。ルドの血筋が転生者を出すと?そうなると王族ではないアニバルの転生はどう説明する?」
「その髪と瞳の色。多分光帝陛下の血を引いていると思う。千年の間にすべての血筋を管理できているわけではないから。それかマニュス王の血筋とか?
陛下が聞いている転生って?」
「リクも詳しくは覚えていなかったから、俺もあまり知らないんだ。異教の教えというくらいだからとても宗教的だ。
前世で罪を犯したものが転生し、現世で罰を受けるというものだ。具体的な内容はわからないが、人殺しは転生の対象であり罪人が転生する。マニュスもサクスムも…、ルドも自分の手だろうと人の手であろうと、人を殺した。だから俺はまた転生したんだって思ったんだ」
この話にはエクトルも将軍たちも動揺したよ。
「光帝陛下が罪人のはずがない!その教えは間違いだ」
「落ち着け。現世の死に方は前世の罪の罰だ。サクスムもルドも酷い死に方をした。
信じた神々は何も答えてはくれず、異教の神はいたということなのだろう。なのに教えを知っている者たちは抹殺された。どうすれば俺は救われるのか知りたいが、もう知る術はない。
転生がお前たちのいう俺の血筋というものだったらいいな」
「陛下…」
エクトルはどう慰めたらいいんだろうと考えを巡らせていると、アニバルが話を戻すけどと話し始めたよ。




