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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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61話 水神王アニバルの話18

 男はジロリとアニバルを見下ろしたよ。


 アニバルは不躾な視線を見返して、相手が話すのを待っていたんだ。男の後ろにいたバルがこっそりとゲレルですと耳打ちしていたよ。


「川を凍らせたのはお前か?」


「ああ、そうだ。狩人のアニバルだ。あんたが、ゲレルの王か?」


 男は目を一瞬細めたんだ。


「ゲレルは神の名であり、我らの国の名はヴァリエンテという。俺はその国の王、ゾリグという。王になる者はゾリグと名乗る習わしである」


 アニバルは目を見開いたよ。


「ゾリグ?初代ゲレル国王グチュルクではなく?

 ゾリグは跡取りじゃなかったはずだが」


 ヴァリエンテ王ゾリグは馬から降りて、アニバルの前に立つよ。


「ゲレルを殺した者たちが国へ攻めてきた時に王族も戦い、二代目と三代目の王も戦死したと聞く。英雄ゾリグがゲレルの子らを北の地へ送り届けたあと国に戻り、国を建て直し、孫が即位して()へと(いた)る」


「そうなのか。俺は田舎の狩人でね。ヴァリエンテどころか住んでいるデスペハードの歴史すらわからなくてね。

 へぇあの奔放でパスタとチーズが好きなゾリグが英雄ねえ。

 過去のことはさておき、今の話をしなければ。

 まずはあんたたちと交渉にきた学者がいると聞いたが、そいつはいるのか?」


「天幕の中にいる」


 テントが離れたところにいくつかあったよ。


「無事を確認したい」


 了承したようにヴァリエンテ王は歩きだしたよ。馬に乗らないのかと思ったけれどアニバルと学院長の馬はないから、気を使ってくれたみたい。


 王の後ろについていくと必然的にバルと並んで歩くことになったよ。



「怪我人は本陣に帰れたか?」


「ゲレルのお心遣いで無事に戻れました。遠目で見ていましたが、背中の筒の前では我らの守りの効果がないようでした。どういう仕組なので?」


「どういう仕組なのか?」


 学院長に丸投げしたけど、わからないと笑顔で答えたよ。


「国家機密ですので、私は教えてもらえませんでした。魔法陣学に精通している学者でも難しいそうです。魔法陣の原理を理解しないと、よその国の言葉に聞こえるでしょうね」


「フィデルなら寝るな」


「そうですね。殿下にはまだ難しいかと。始祖ならお解かりになるのでは?」


「馬鹿いえ。ルドの時代は魔法陣が、ほとんど開発されていなかったんだ。この時代のガキがあの時代に行ったら、すぐにマエストロになれるぜ。この時代の学校にすら行っていない俺なんかがわかるわけがないだろう。

 千年経ってるんだぞ、千年。デスペハードの連中はさっくり千年引いて話してくれるから困る。絶対魔法陣の知識なら俺よりフィデルの方が上だぜ?」


「そうご謙遜されますな。始祖の時代のものから発展して今があるのです。魔法陣の考え方や基礎は変わりませんよ。始祖の学問や芸術を大事にされる姿勢が、我々に引き継がれているのです」


 ヴァリエンテ王の背を見たよ。こちらの話を聞いているかわからないけれど、反応はないよ。


「魔法陣はゲレルの民が持っていた知識から始まった。俺はなにもしていない。すべての人が学び、生まれというだけで差がついてしまうことをなくしたかっただけだ」


「ええ。そうです。だから我々は皇帝陛下に反対を示したのです」


 テント群にさしかかり、一つのテントにつくと兵と共に五十代くらいの男の人が出てきたよ。


「学院長…!」


 どうやらヴァリエンテ学の学者のようだよ。


「元気そうでよかった」


 学院長は学者が酷いことをされていないようで、安心したよ。アニバルもざっと傷がないか確認してから、ヴァリエンテ王に言ったよ。


「学者の無事を確認した。俺を招いたということは戦いを止めてくれるってことだよな?」


「一時休戦と言っておこう。あなたがゲレルという確証がほしい」


 王様の言葉に学者は目を丸くしてアニバルを見たよ。ゲレルという言葉を学者は知っているから、ゲレルはルドのことだってわかったよ。


「確証?お前は俺の前世と会ったことはないだろう?見た目も違うし、別人に生まれ変わったのだから性格も違う。ルドは農民、俺は狩人。生まれた土地も違ければ考え方も違う」


 何故肯定的なことを言わず、疑いを向けさせるようなことを言うんだろうと学院長はドキドキしていたよ。


 王は強面を崩さなかったけれど、どこか楽しそうだったよ。


「言われてみればそうだな。俺も伝え聞いたことと照らし合わせるしかないわけだ。デスペハード皇帝はゲレルの転生を知っているのか?」


「そうだ。ま、立ち話もなんだから座ろうぜ」


 一際大きなテントに行くと、床には綺麗な絨毯が敷き詰められていたよ。王様の部屋かな?


 王様には椅子が、アニバルたちは絨毯に座ったんだ。懐かしむようにアニバルはあたたかな絨毯に触れたよ。みんな座るとアニバルが口を開いたよ。


「まずは自己紹介しようか?そこの学者さんは始めましてだし、学院やヴァリエンテと無関係な狩人がいることも説明必要だろう?

 俺はエスコンディド村で狩人をしているアニバルだ。昨年の秋に魔鳥の氷の鳥(パハロ・デ・イエロ)を倒したときに瀕死になったことで前世を思い出した。

 お前たちのいう始祖、俺の記憶にあるのはルークススペース帝国の皇帝ルドだ。北の馬の民からはゲレルと呼ばれていた。

 今の姓は知らない。ガキのころ口減らしで親に捨てられたところを、狩人に拾われて育てられた。ぼんやりと生まれた村は覚えているが、どこにでもある農村だった。だから、俺はデスペハード帝国の王族の生まれではない。ここのところでデスペハードの貴族でも俺がルドの生まれ変わりではないと言うやつもいる。

 デスペハード皇帝や将軍の一人が俺をルドの生まれ変わりと信じた理由には、エトーレが転生していたことにある。エトーレと言ってわかるか?」


 王様に聞いたよ。


「知っているが、レナータの貴族で幼いころ拾われてゲレルの護衛をしていたくらいだ。エトーレが皇子に転生したのも知っている。本人から手紙も受け取った」


「なら話が早い。エトーレの転生者が俺を皇帝ルドだと考えた。それが皇帝やらその周りの人間たちも信じてな」


「ふむ。先程からはっきりゲレルだと言わないのはどうしてだ?」


 やっと王様はその疑問を口にしたよ。


「デスペハードには詐称罪というものがあるらしい。俺はイチ狩人だから詳しい法律は知らん。

 ルドの転生者だと嘘をついて皇帝の暮らしをしたいと考える奴も過去いただろう。

 さっき言ったように、俺はルドとは髪や目の色以外は容姿も性格も違う。ルドの死後千年は経っているから知り合いも生きていない。エトーレの転生者以外、その時代を生きた人は現れていないというしな。俺がルドだと主張したところで、大多数が違うと言えば俺は罪に問われるわけだ。

 無実の罪に裁かれたくもないし、俺は皇帝になろうとも思わない。俺のいる村ではちょっといい待遇してもらっているから、狩人の暮らしは嫌ではない。

 ただ一つ言えるのはデスペハードの皇帝が俺をルドだと思っているらしいということだ。その俺が侵攻しようとしている王と向かい合っている」


「…俺を試しているのか?」


 本物のゲレルなのか、それとも偽者なのか。目の前の男を王としてどう扱うか試されてると考えたようだね。


 アニバルは違うと払うように手を振ったよ。皇帝になりたくないから、アニバルはこの場だけ信じてもらえればいいと考えたようだけどうまくいくかな?


「深い意味はない。現世に転生してずっと狩人だった。普通の狩人が国のいざこざに頭を突っ込んで、世話を焼かないだろう?詐称罪はどんな刑が科せられるのか知らないが、わざわざ問われるようなことは避けるしさ。

 俺が提示できるルドである証拠があるとすれば、戦場(ここ)にいて、盟友の子孫と前世の子孫の仲を取り持とうとする意志と行動だけだ。ルドかどうか判断するのはお前たちに任せる。それにルドだと示す証拠をペラペラ話したところで、逆に胡散臭いしな。それに伝え聞いている通りの振る舞いや言動をペテン師だってそれなりにできるだろう?」


 さてヴァリエンテ王ゾリグはどう判断するのかな?



「疑えばきりはないわけだ。意志とやらを聞こうか」


 王様はアニバルの話に合わせているね。

 

「お前たちの予想以上にデスペハードは寒くて雪に覆われていて、過酷な道のりだっただろう。それでもやりとげなければならないことがあった。まずは兵を連れてデスペハードの帝都にいる皇帝を殺そうとする理由を聞きたい」


 ヴァリエンテ王に直接戦争した理由を聞いていなかったからね。王様も話してくれたよ。


「我々はレナータの国々でもデスペハードでも、少しずつ何かが劣っているのは自覚している。しかし、言葉も奪われ、信仰すらも奪われそうになり、今度は定住しろという。

 俺は首都を定めてそこで暮らしているが、多くの民は放牧して生活している。家畜を移動させるのはよい草を求めてだ。それを定住したら、草を家畜が全て食べて痩せた土地になってしまう。

 首都のように定住に慣れた者も多くいるが、遊牧をやめたらその者たちの仕事はどうする?デスペハード皇帝は何も示さなかった。なのにあれこれ口を挟むのだ!王は俺である!」


 王のみならず、側近たちも不満を口にするよ。アニバルは王への視線を向けたまま問うよ。


水晶(クアルソ)を狙って数多の国がヴァリエンテの疲弊を望んでいるのを知ってでもか?」


「ああ。我らは黙って言いなりになると周辺の国は考えている。腰抜けではないと示さねば、どの国が攻め入ろうとしても今までと変わらない」


「なるほどなるほど。でも今でなくてもいいだろう?雪が融けた夏とか」


「それではカランバノスの侵入を許してしまう」


 ヴァリエンテが北へ進軍しやすいならば、逆に北の国々も南下しやすいということだね。


「カランバノスと手を組むつもりはないと?」


「俺らのやり方に干渉しなければ手を組む。カランバノスは甘いことを言って誘惑してくるが、乗ったふりをしているだけだ。連中には夏にデスペハードに進軍すると言ってある。デスペハードもそのつもりだったのだろう?ここの砦に来るまでがら空きだった。砦の増兵もできていないだろう?」


「そうらしいな。お陰で学院の連中もろともオンボロ砦の瓦礫に埋まるところだった。ひとまず俺と会ってくれて助かったが、デスペハードの帝都へ進軍か交渉か。帰るという選択肢はないわけだろう?」


「もちろん。このまま進む。あなたを連れてだ」


「それは侵攻か?俺を連れていくというのは、どういう扱いだ?」


「ゲレルとしてデスペハード皇帝と交渉してくれるのではないのか?」


 願ってもない言葉だったけれど、王様がアニバルを完全に信じたようではなさそうだよ。


「いいぞ。まずはあんたらの要望は、独立した国として認めろだったな。他は?」


「ゲレルは我が国の神だ。デスペハードにはやらん」


「おっと俺をルド…ゲレルとして認めるってことか?」


「ゲレルなんだろう?」


 王様はニヤリと笑うから、アニバルを完全にからかってるよ。


「なんだよ。まどろっこしいこと言ったことへの嫌がらせか?」


「ゲレルは我らの味方だと信じている。だからあなたの仲裁ということはいささか腑に落ちない」


「グチュルクのばあさんが俺のことを盛りに盛って神扱いしてくれたから、今日までお前らにどう伝わっているかわからないけどよ。

 ルドは皇帝だった。お前たちの英雄ゾリグはルークススペースの人質だったのは理解しているか?

 ルドとゲレル国はそういう関係だった。国と国は残念ながらそういう関係でしか信頼を築けない。違うか?ヴァリエンテ王よ」


 学院長と学者は息を潜めて王様とアニバルの会話を聞いていたよ。ヴァリエンテ側は失望の色が見えたけれど、王様は表情を変えなかったよ。


「知っている。ゾリグ伝では英雄ゾリグが人質だったが、ゲレルは弟のように扱ってくれたと書いてある。あなたも我らを盟友と言った。だから味方と思ったのだが?」


「ルドにとってデスペハード皇帝は子孫になる。どちらも可愛いんだ。だからどちらの味方にはなれない。

 お前たちとデスペハードの言い分を聞いて、落とし所を探すだけだ。国同士が対立したなら、双方の望みが叶うということはない。望みが叶うならそもそも対立しないだろう」


「そうだな」


 あっさり引いたよ。アニバルはあれって思ったけど、試されているんだと気づいたよ。ヴァリエンテ王様のゲレル検定だね。


「腑に落ちないと言っていたが、俺がルドだって、どのくらい信じてるわけだ?」


 途中経過を聞いてみたよ。


「半分半分というところだ」


 心臓は平然としているから、王様は嘘をついていないよ。


「あ、そう。言っておくが、魔法で子馬は出せないぞ?」


「だろう。俺もそんな魔法は聞いたことはない。与太話だと思っているから、そんな無理はふっかけるつもりはない」


 信じてもらうならとことん付き合うと、どっしり構えたときに王様が小さな木箱を取り出したよ。


「ゲレルなら、これがわかるはずだ」


 アニバルは受けとると箱を開けたよ。見覚えある透明な石に刻まれた紋様。


「お守りじゃないか。古そうだな。今もこれは使われているのか?」


「今はその紋様を使う人はいない。とても古いお守りだ。見覚えは?」


「あるぞ。ゲレルの民がよくつけていて、これがもとで魔法具の研究が進んだ」


「手にとって見るといい」


 アニバルは言われた通りに守りを箱から出したよ。試しに魔力を込めたけれど、反応しなかったんだ。


「魔石がダメになって使えないんだな。裏に新しい魔法陣を彫ればまた使えるかもし…」


 お守りをひっくり返すとレナータの文字が書かれていたんだ。愛らしい下手くそな文字が目に入った瞬間、視界がボヤけてきたよ。


「…『ゲレルへ』。ゾリグのか。そうだ。これはあの子が成人の儀式で水晶(クアルソ)を自分で取りに行って作ったと聞いている。

 俺がマッテオやキアーラに贈ったのを見て、真似して俺に大事なお守りをくれて。

 ああ。疫病が流行ったとき故郷に仲間を連れて帰るから返した。そうだ。返したんだ。俺にはマルコが作った指輪があるからって。ずっと忘れていた。

 …あの子はもういないんだな」

 

「ゲレル」


 記憶の中のゾリグの溌剌(はつらつ)とした声に呼ばれた気がして、顔をあげたよ。椅子から降りた王様が目の前にいたんだ。


 慌てて目を拭いたよ。


「あっ。悪いな。感傷に浸ってしまった」


「ゲレルなのですよね?」


「そうだ。でも俺はお前たちの神になる資格はない。俺の築いた国は滅んだ。子どもたちも国を追われ、お前たちにも深い傷を負わせたのだろう。

 誰もが平等で幸せになれる国を築けなかった。

 国が中途半端な状態で死んでしまって。千年経って詫びなんて遅いだろうし。いやゾリグに…。感謝さえも言えない。あの子はいないのだから。

 生まれ変わるならどうして千年後なんだ。フェデリーゴやゾリグが生きているときに生まれ変わりたかった」


 小さな箱をアニバルは握りしめたよ。過去に戻る術は、幾度の転生した人生の記憶をかき集めても、ないことを知っていたんだ。


 アニバルはゾリグのお守りに、紋様を彫るときに使われていた呪文を唱えながら紋様を指でなぞってみたよ。そうしたら光ったよ。


「おお、できるもんだな。俺の魔力をこめただけだから、一度しか発動しないだろうが」


 何度も変えたのだろうお守りについている真新しい紐を手に持ち、ヴァリエンテ王の首にかけたよ。レナータの言葉でルドの思いを、もういない人に向かって。


『今さら遅いのは承知だけれども、言わせてくれ。

 子どもたちを守ってくれてありがとう。我が子にて友、ゾリグの子孫の幸福を祈っている』


『英雄ゾリグならこう言うでしょう。弟たちを守るのは当然だと』


 レナータの言葉で返されるとは思ってもみなかったよ。驚いた顔をしたアニバルに王様は吹き出したよ。


「俺がレナータの言葉を知らないと思われたのですか?」


「ああ。うん。そうだね。レナータの国と繋がりがあるって聞いたっけ?わかってもおかしくないか。でも俺の言葉は千年前のものだから聞き取りづらかっただろう」


「発音が違うところがありましたが、なんとなくわかりました」


「あはは。だよね」


 アニバルは頭をかいて照れていたよ。束の間、心がルドになったよ。

 

 王様はそんなアニバルを見つめてから、片膝をついたよ。これはレナータやデスペハードの風習であって、千年前のゲレル国にはなかったよ。ゲレル国の目上を敬うポーズは廃れてしまったらしいね。


「我、ヴァリエンテ王ゾリグは狩人アニバルをゲレルの転生者と認める。今までの非礼をお詫びし、現世に転生されたことを喜び申し上げる。本来なら国をあげてお迎えするところですが、国の安定のため我とともにデスペハード帝国の首都シエロまでご同行お願いしたく」


「そのつもりだ。頭を上げてくれ。俺は…前世のルドはお前たちと平等でありたかった。でも周りがそうは思わなかった。千年経っても変わらぬというのなら、共に変えて行こう。だから頭を下げないでくれ」


 周囲も王様にならって頭を下げていたよ。


 アニバルの予定通りになったけれど、全軍連れては和睦交渉に来たとはいえ、皇帝たちも脅威と思うはずだよ。


 一部待機ということと、学院長は学院に戻り、エクトルはシエロまで一緒にいってもらうことになったよ。


 ヴァリエンテ学の学者さんが、自分もシエロまで連れていってくれというよ。


「ヴァリエンテに理解があるデスペハード人がいた方がいいしな」


「そうですが、始祖の時代のヴァリエンテ人について教えてください!私はずっと始祖の転生を待っていたのです!」


「それ、エクトルでもよくないか?」


 待ち望まれ方が考えていたのと違って、アニバルはこけそうになったよ。


「エクトル様はプラデーラの戦いの辺りはご存知ないので」


「あの子、色々エジリオから聞いて知ってるけど?」


「又聞きだからとおっしゃっていたので!先ほど唱えていたお守りの呪文も教えてください。口伝だったせいで新しい呪文と魔法陣ができると忘れられてしまったのです!」


 グイグイ迫ってくるから、これがおっさんじゃなくて綺麗なお姉さんだったら気前よく話すのにとアニバルは考えていたよ。


「わかった。わかった。あとでな」


 テントを出て、川岸までいくとヴァリエンテ兵が足を止めたよ。


「援軍らしいものが」


 砦の門の前にいくつもの旗を持った兵がいて、ロペス隊長やその部下のものではなさそうだよ。



「あの旗は(スル)(エステ)の将軍のものです。援軍だったらヴァリエンテ王には待機していただいた方が」


 学院長が将軍たちの旗に安心してから、気まずそうにしたよ。


 もし将軍たちがヴァリエンテ殲滅(せんめつ)を掲げていたら、ノコノコ王様が行ったら殺されてしまうかもしれないからね。


「ゲレル。バルから学院の皇帝の対応とゲレルの不信感を伺いました。ゲレルも行かない方がよろしいのでは?」


 王様が心配してくれたけど、アニバルは行くことにしていたよ。


「大丈夫。なんかあったら逃げ出すからよ。エクトルに無事だって顔見せないと、あいつ一人でここまで来そうだからよ。なだめるの大変だったんだぜ」


「噂は聞いてます。エトーレは優秀な従者だったと」


「違う。あいつは従者じゃない。ルドは自分の子どものように思っていたけど、手放してやればよかったんだ。そうしたらグランデフィウーメに殺されずに故郷で生きていけたんだ。現世も俺にとらわれて不幸になってほしくない」


「例え最期が不幸でも生きているときに幸せだったから、現世でもお傍にいるのでは?」


 アニバルは目を見開いて王様を振り返ったよ。そうかもなって思うことにしたんだ。


「あいつ、俺のことパパって呼ぶんだぜ。俺まだ独身なんだけど。前世に引っ張られすぎて困る」


「ほう。ゲレルは独身ですか。俺の娘をぜひ」


「やめてくれ!俺は狩人として生きるって決めたんだ。

 あ、もたもたしてられない。俺行くから!」


 逃げるように川を凍らせて走ったけれど、すっ転んだよ。


「始祖。落ち着いてください」


 学院長たちは滑らないようにへっぴり腰で歩いていくよ。


 ヴァリエンテ兵と王様の笑い声を聞きながら、アニバルは砦に向かったんだ。


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