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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第一章 三王の話
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58話 水神王アニバルの話15

 ヘラルドとカルロスも生徒たちと食堂へ行こうとしたら、アニバルは呼び止めたよ。


「カルロス、ヘラルド。お前らに話がある」


 他の生徒たちは始祖と話せていいなと視線を送ってきたけれど、ヘラルドとカルロスは拳骨級のことをされるのではと、ちょっと身を堅くしていたよ。アニバルの声が怒ってるぽかったからね。


 二人に話す前にエクトルに確認したよ。


「持久戦はないとは思うが食糧はどのくらいある?」


「…残り一日分です」


 アニバルはポカンと口を開けたよ。


「は?意味がわからない。ここに籠ってどのくらいだ?どんな計算をしたんだ?」


「先に砦にいた者はもっと前ですが、俺らは一週間ほど前です。食糧が(スル)の将軍から送られてきたのですが、それが一週間分でした。麦はもうつきまして」


「麦がなければイモを食べればいいじゃないか」


 フィデール・アントワネットは言いました。


 フィデルの言動が先ほどからややずれていることに、アニバルは額を押さえたよ。


「フィデルが皇子なんて世も末だな」


「ヴァリエンテが攻めてくるのに、今言うことじゃないよ!」


 エクトルは怒るフィデルを羽交い締めにして黙らせたよ。


「申し訳ございません。ちゃんと勉強させますので」


 一つだけ年上のエクトルが謝ったよ。


「そうしてくれ。将来が大いに不安だ。

 食糧の話だが、将軍って奴の悪意しか感じないぜ?それでイモもないんだろう?」


(スル)将軍は皇帝の命令に従っただけでしょう。俺も皇帝の悪意しか感じません。

 魚を釣ろうにも対岸にヴァリエンテもいますし、狩りをするにも開戦間近ということで兵を出すわけにも、生徒や教師にさせるわけにもいかず」


「そうか。すまないが、お前らと合流することばかり考えていたから食料を持ってきていないんだ。この辺りに詳しい奴はいるか?俺が狩りをして…」


「アニバル様はお休みいただくのが先です。大規模魔法を使い、負傷もされました。普段より魔力も体力も落ちております」


 ウーノは普通なら口を挟まないけれど、アニバルは狩りに行ってしまいそうだから止めたかったよ。


 エクトルはウーノたちの失態だと問いただしたかったけれど、アニバルが自分のせいだと言い張りそうだからやめたよ。


「食べる量を減らすしかないな」


「すでにまとまった食事は一度にしています」


「…まずいな。体力も士気も下がる」


「始祖がお越しいただいて本当に助かりました。従者だったエトーレよりは全く兵士の士気が違いますし」


 アニバルはエクトルの頭をポンポンと叩くよ。


「思い詰めるな。お前は頑張っているよ。見ていなくてもわかる。あまり寝ていないだろう?俺も休みたいから休むことにする。

 寝る前にカルロスに聞きたい。お前はどうしてここにいる?親父が困ってるんじゃないのか?」


 カルロスは肩を落としたよ。


「とても困っているでしょう。何度も戻るよう催促がありましたが、ヴァリエンテには非はないと思うから、陛下への抗議の意味でここにいます」


「ヘラルドもか?」


 ヘラルドは姿勢を正してから理由を話したよ。


「俺も同じですが、できればエクトルとフィデルに王宮へ戻ってほしかったのです。戻らないとなれば微力ながら手伝いたいと」


 エクトルがヘラルドの話を補足したよ。


「俺がエトーレの転生者だから、『王の守護者』…騎士の家系の生徒たちを筆頭に砦にきてしまったんです。帰したかったのですが」


「俺はエクトルの前世が、エトーレ様だからって理由じゃないのだけど」


 ヘラルドは珍しく口ごもったよ。ちょっと照れているみたい。カルロスもふふと笑ったよ。


「俺もそうなんだけどね」


 アニバルはエクトルの肩を叩いたよ。


「エトーレは俺のそばばかりいて、あまり友だちを作ろうとしなかったな。現世はちゃんとできてよかった」


 エクトルは目を丸くしてから、ヘラルドとカルロスを見たよ。


「え、その。俺…」


「なんだ、俺らのこと友だちとは思っていなかったのかい」


「酷いやつだな」


 ヘラルドも容赦しなかったよ。


「ご、ごめん」


 エクトルはすまなそうにしているよ。誰かから友だちって言われたことなかったから、嬉しかったみたいだよ。


「エクトルにも友だちできたが、ここで全員死んだら話しにならない。カルロスの親父は将軍だと知っているが、ヘラルドの家は?」


「身分を伏せて申し訳ございませんでした。俺いや私はガルシア姓を持っており、父はガルシア領の宰相をしています。私は次男ですので跡取りではございません」


 おっと、ヘラルドも超お偉いさんの子どもだったよ。


「おいおい。生徒はそんなやつばかりとかいうなよ?」


「他領の領主の親戚の子どもなどおりますが」


 アニバルは額に手をおいたよ。


「それなのに食糧を一週間分。こんなボロい砦に。お前らの迎えはきていたんじゃないのか?」


「手紙は来ましたが、陛下が国のために戦う戦士を称賛するとおっしゃったことで迎えにくる者はおりませんでした」


「称賛?俺は皇帝の政策を反対した学院の厄介払いだと思っていたが?」


 今度はエクトルが話したよ。


「その認識であっております。始祖ならば、そのような行いはされませんでしょうが。カルロスと同じく抗議の意味で俺は来たのですが、皇帝の考えは変わりませんでした」


「お前ら、自分の選択肢はどんなに重要かわかってんだろうな?」


 ヘラルドやカルロスは互いに顔を見合わせたよ。ヘラルドは少し考えてから説明したよ。


「貴族の立場として陛下に逆らうことはしてはなりません。しかし、ヴァリエンテと戦争すればヴァリエンテ側の損失は大きく、隣国のカランバノスの干渉も大きくなる。それは絶対に止めるべきです」


「違う。そういうことを聞いているんじゃない。お前たちの命は政策によって、どうこう使われていいものなのか?

 俺はエトーレが敬われていると聞いた。エトーレの転生者であるエクトルがもし死んで、領主や将軍に近い子どもも死ねばその親も民もなんと皇帝を思う?それともお前らの親は全員皇帝の考えが正しいと思っているのか?」


 ヘラルドの父親とカルロスの父親はカランバノス国を警戒していて、皇帝にヴァリエンテとの戦いを避けるように助言していたようだよ。


 友だちのエクトルを助けたいことと、親の考えがヘラルドとカルロスに影響しているみたいだね。


「お前たちが命を張って主張する勇気は称賛するが、そのあとを考えてみろ。

 子を失った親は仕方ないと諦めようにもずっと心のどこかで悔やんだり、自分を責める。もしかしたら皇帝を恨むかもしれない。

 カランバノスどころではない。国に亀裂を入れることになりかねないんだ。わかるか?」


 十か十一歳の子どもには親の気持ちを想像するのが、まだ難しいみたいだね。困った顔をしているヘラルドとカルロスだけど、エクトルはああともらすよ。


「カルロスの父上は情の厚い方です。カルロスを心配して挙兵してしまうかもしれません。俺が死ねば失策と皇帝を責める者もおりますでしょう」


「そうだ。エクトル、生徒たちを連れて逃げろ。この地にお前らが来ても皇帝もヴァリエンテも止められなかったが、死ぬのと死んでいないのでは結果が変わる。

 国の守る方法は剣と魔法で戦うだけではない。分断をなくすことも戦いだ」


 でもアニバルの言い分は政治的な考えもあって、カルロスたちの主張もあって当然なんだ。むしろこの子たちはヴァリエンテと交流がない。それなのに命をかけてこの砦に来たんだ。


「カルロスがヴァリエンテに非はないと言った。貴族のお偉いさんであるお前たちが弱い立場の人間を守ろうとしてくれているのは嬉しい。

 ヴァリエンテの氏族長は子どもが戦うと聞いて怒っていた。降参すれば子どもなら逃がしてくれるかもしれない。

 他の生徒たちにも伝えてくれ。戦うなと」


「始祖はどうされるのですか?」


 ヘラルドが聞いたよ。


「俺は大人だからな。お前ら全員逃げるのを見届ける。安心しろ。退路はちゃんと作るから」


 案の上、エクトルが猛反発したよ。


「駄目に決まっているではありませんか。陛下を残して俺が先に逃げるわけにはいきません」


「エクトル。お前はエトーレの転生者だと公になっているんだろう?俺は違う。ただの狩人だ」


「まだおっしゃるのですか!この砦の者はみなしかと記憶しました。語り継げと仰ったのは陛下ですよ!」


 アニバルはレナータの言葉で話すよ。


『エトーレ。最後まで話を聞きなさい。俺やお前が残ったらみな逃げないだろう。ちゃんと逃げるけど、ゲレルたちが攻撃してくるかもしれない。そのときは一緒に子どもたちを守ってくれないか?

 砦の中に俺ら以外で転生者はいるのか知らないけれど、俺らは一度は人生を経験している。若くして死なせたくない。みなルド()の血をひいているのだろう?子孫が死ぬのはつらい。だから一緒に戦ってというお誘い。嫌か?』


 エクトル以外はレナータの言葉が知らないみたいだよ。

 だから急にエクトルが黙ってから、困った顔になったのがわからないんだ。


「…その言い方ずるいです。断れないではないですか」


「返事は?」


「…承知しました」


 アニバルはエクトルをなだめられたと安心したら、お腹をさすったよ。


「よし。話は大体まとまった。で、食糧がないと聞いていながら悪いんだが、腹減ったんだ」


「わかりました。食事の準備をします」


 エクトルが誰か呼びに行こうとするのをアニバルは止めたよ。


「お前も飯食って寝ようぜ。あと少しで日は暮れるし、今日中の開戦はなさそうだ」


「俺はこのあと各要所の確認を…」


 やつれた顔のエクトルをどうやって休ませようと思ったよ。ルドのようにすれば素直に聞いてくれるから、その作戦でいくよ。


 伸びた前髪を掻き分けて、口元に手を置いたよ。目と肌の色が同じだからルドっぽくできないかって考えたみたいだね。声音は優しく、優しく。


「エトーレ。酷い顔をしているよ?休んでいないよね?一緒に休もうか?それとも子守唄必要かな?」


 エクトルは目を見開いてふるふる震えていたよ。他の人がアニバルらしくないから、驚いた顔していたのは無視したよ。


「も、う、大きいので子守唄は結構です」


「そうなの?十歳くらいでも俺の部屋に忍び込んで一緒に寝ていたじゃない。もう一人で平気なの?お風呂も成人する直前まで…」


「あーあー!寝ますから、ちゃんと一人で寝ますから、昔のことは忘れてください!」


 顔を真っ赤にして、行きましょうとアニバルの背中を押したよ。


 残った人たちはエクトルが頑固モードになったら、アニバルに頼もうと思ったそうだよ。


 アニバルはエクトルの部屋に行ったよ。


 皇子様だから砦で一番偉い人が寝る部屋だけど薄暗いし、飾り気もなかったよ。


「この砦は使われていないようだな」


 ベッドには座らず、部屋をくるりと一周したよ。


「三十年ほど前まで使われていたそうですが、新しい砦が東に築かれたため、放置されてきました。ヴァリエンテの動きが怪しいとなり、冬の間に整備されましたが、雪が酷くてあまり進まなかったことと、ヴァリエンテが想像より早く来たので間に合わなかったようです」


 陽も傾いて、一段と冷えてきたんだ。エクトルは慣れた手付きで暖炉に魔法で火をつけたよ。


「この部屋はどの部屋よりも暖かいです。お休みください。ああ、湯浴みですが、この砦には浴槽がないので」


「湯浴み?ああ、ルドはよくしていたな。俺は習慣ないから平気だぜ。お前も寝たらどうだ?」


 アニバルはベッドに座ってポンポンと叩くよ。エクトルは隣に座って、じっとアニバルを見つめたんだ。


「エトーレは成人していたのに、どうしてか子どもの頃を思い出すんです。エクトルが子どもだからでしょうか?」


「そうかもな。子守唄必要か?」


 アニバルがニヤニヤして言うから、エクトルはムスッとしたよ。


「いらないです!」


「わかった、わかった。怒るなって。はあ、本当に疲れたぜ」


 アニバルは上着を脱いでコロンと寝転んだよ。血で汚れた部分は水魔法で洗い流したけれど、服は破れたままだったよ。


「村で何があったんですか?」


「村人が何人か死んだ。ヴァリエンテの連中を止めようとして魔法で足を止めたら、村人たちがヴァリエンテを殺してな。

 俺が村に住んでいたら、死ぬ人が少なかったんじゃないか、どうしてこうなったって考えても仕方ないのにな。

 なあ、フェデリコとはうまくやってるのか?」


「俺?第五皇子だから元々気にかけてはもらってなかったし、エトーレの記憶が戻ってから話すようになったかな。どうして?」


 エクトルもアニバルの隣に寝転んだよ。ルドがしたように、アニバルはエクトルの頭を撫でたよ。エクトルは目を細めて嬉しそうにしているんだ。


「皇帝はヴァリエンテをどうするつもりだ?」


 エクトルは真面目な話になったから、身を起こしたよ。


「国と認めず、帝国に吸収するつもりです。定住政策も税金を取り立てやすくするためです。あちこち移動されては管理しづらいという理由で。

 俺は暮らしや文化の強要は反発を招くと皇帝に言いましたが、やはり子どものせいか聞いてもらえませんでした」


「ふーん。お前は皇帝に近い権限を与えられていると思ったのだが」


「そんなことありません。陛…マエストロについて任されているだけで。まさか皇帝専属の諜報部隊長の派遣権限を譲渡されるとは驚きましたが」


『エトーレとして皇帝をどう思う?』


 ヒソヒソとレナータの言葉でいうよ。エクトルはアニバルの隣に腹這いになって、顔を近づけたよ。


『読めない人だなと思います。いつも穏やかに微笑みを浮かべてますし』


『バルという氏族長が腹黒だと言っていたが?』


『…政治には関わらせてもらっていないのでわかりません。ヴァリエンテの政策は断行に近いし、早急すぎるという意見が出ています。

 ヴァリエンテの政策といえば…。エクトルは子どもですし、ガルシアにいるので帝都の話しは疎かったですが、ヴァリエンテの政策は昨年の秋口から噂になっていた気がします。調べてみますか?』


 そうだなと言いかけて、アニバルは苦笑したよ。アニバルはルドではないし、エクトルはエトーレではないのに二人だけで話していると前世の関係に戻ってしまうよ。


『それはあとだな。今は少しでも長く休んで、戦いに備えることだ。子どもなんだから無理しないで寝ろ』


『無理なんて、して、ない…』


 エクトルは急に眠くなって、目を閉じてしまったよ。ウーノに教えてもらった睡眠魔法がよく効いたようだね。


 アニバルも寝ようとして、狭い部屋にドアくらいの本棚があってちょっと違和感を覚えたよ。


「ウーノ。いるのか?」


 数拍置いて、本棚が動いたんだ。埃被ったウーノとホセが出てきたよ。ここも使われていないせいで、掃除が行き届いていなかったみたいだね。


「よくお気づきで」


「本棚が妙に気になってよ。よく視たら(・・・)誰かいるっぽかったから」


 目の下をトントンと叩くと、ウーノは苦笑したよ。


「アニバル様には敵いませんね。おたずねしたいことがありましたので、お声かけていただいてちょうどよかったです。

 ルド帝もご自分に治癒魔法をかけられないと聞いていましたが、アニバル様もですか?」


「ああ。そうだ。何か方法はあるのか?」


 目をキラッとさせるから、いつものアニバルなんだとウーノは微笑ましく思ったよ。


「治癒魔法も初級から学べばできるでしょう。

 まずはルド帝がどうして出来なかったかと、仮説がありまして」


「…研究されてんな、俺」


「みな興味があるということですよ。

 治癒魔法はまず二種類に大きくわかれます。自分の魔力を使って魔法をかける方法。もうひとつは病人や怪我人の魔力を使って治す方法です。

 相手の魔力を使う方法ですが、怪我人や病人を治療するのにそもそも魔力が少なかったり、魔力が元々ない人もいます。どうしてその方法があるかといいますと、その方が治りが早く、大勢治療する際は使い手の魔力の温存となります」


「相手の魔力を使う方法は知らなかったな。俺は自分の魔力を使う方法だろうな」


「いえ、両方使われていました。旧派は自分以外の魔力を使って魔法を操ることが得意です。アニバル様の魔法の使い方を見させていただきましたが、相手の魔力に応じて魔法を使い分けていました」


 言われてみれば魔法を使う前に患者の状態を確認して、魔法を変えていたよ。その魔法が患者か自分かのどちらの魔力を使っているのかは知らなかったんだ。


 どちらの方法でも魔法であるのには変わらないから、自分の魔力は減って疲れるよ。アニバルや前世たちは疲れ方が魔法によって違うなと思う程度だったんだ。


 その辺りもこの時代は研究されて、判明していたようだね。


「それで俺自身の魔法がかからないのは?」


「アニバル様は魔力の少ない者は、ご自分の魔力を移していました。その究極の魔法は体内で魔力を集めて、他者に移すというものです。あまりにも危険なため現代では、禁止されています」


 あ、ハイドランジアの歴史ではアニバルの時代は近代だよ。この人たちにとって、自分たちが生きている時代が現代なんだ。だから現代とウーノは言ったんだよ。


「魔力を集める?魔力って操作出来るのか?」


「魔力の操作によって魔法が生み出されるのですよ?

 私が説明した禁止魔法は、アニバル様がトニアの父親に施そうとした魔法です」


「魔法を練っているだけだが?」


「魔法を練っているわけではありません。魔力を操る魔法を使い、魔力を集めて、魔力が欠けた相手に移しているんです。また治癒魔法も入れているから相手の快復が極端に早いのですが、使い手の身体への負担は大きくなります」


 アニバルはウーノの言葉を反芻して、目を見開いたよ。


「てことは、魔力そのものを集めて、治癒魔法を使って。あの魔法はかなり複雑ってことか?」


 無自覚にウーノとホセは乾いた笑いを浮かべていたよ。


「そうです。普通はかなり鍛練を積まないとできません。最上級の治癒魔法ともされています」


「とても凄いことを俺はできるということがわかった。だが、自分自身に治癒魔法がかけられないのは?」


「アニバル様は旧派よりさらに古い時代の魔法を使っているようで、我々も知らない魔法が多いです。おそらくアニバル様は魔力補填(ほてん)の魔法ということを知らずに使われて、ご自分にかけてしまってかからないということです」


「んんん?…ああ。魔力が減っているのに自分で魔力を移す魔法を使うから、魔力が足りなくて自分に治癒魔法をかけられないということか?」


「そういうことです」


「それ、おかしいぞ?メチャクチャ元気なのに、切り傷を治せなかったぜ?」


 それにはウーノはわからないよ。ホセを見ると俺にわかるわけないだろうという顔をしていたんだ。


 それじゃ実践とナイフで腕を切ろうとしたから、ウーノとホセは慌てて止めたよ。


「自分で切らなきゃ治せるかわかんないだろうが」


「軽くですよ。軽く。切り傷の魔法はですね」


 ウーノに教えてもらってから、アニバルは左腕に切り傷をつけたよ。教えてもらった魔法をかけてみたら、すぅっと傷が消えたんだ。


「治った!千年、いや二千年の快挙だ!」


 ばんざーいと両手を挙げて、喜んだよ。結構うるさいけれど、エクトルは起きなかったんだ。


「他の魔法は!」


「教えますからお静かに。エクトル様が起きてしまいますよ」


「お前らに教わった睡眠の魔法かけたから、しばらく起きないぜ」


 打撲や骨折の治癒魔法を教えてもらったけれど、さすがに実践は止められてしまったよ。


「いつか使ってみたいが」


「使わぬ日を願っています」


 ウーノとホセはちょっと呆れてるよ。ウーノが治癒魔法を教えたのは万が一、アニバルが負傷して近くに治せる人がいなかったときのためにっていうことらしいよ。


 ドアをノックする音にウーノたちが隠し扉へ戻ろうとしたから、そこにいろと言ったよ。


「どうせ顔出したんだから、ここにいてもおかしくないだろう?」


 アニバルが立ち上がろうとすると、すっとホセがドアの前に立ったよ。


 兵士が食事を持ってきてくれたんだ。エクトルの分もあったから、起こすことにしたよ。


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